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第28話 オハヨウ
しおりを挟む練習を始めて数時間、既に日を跨いだ頃だろうか。
新技能 魔力言語 の練習は熾烈を極めていた。
( …いまいち使い方が分からんな? )
練習を始めて数時間経つが、一向に成果が見えない。
魔力の感知は以前の練習で出来るが、その先の方法が見えずにいた。
( てっきり水魔法の時みたいに何となく出来るもんだと思ってたが…考えが甘かったか… )
己の決断の浅さを恥じながら再度、始めて水魔法が成功した時のことを思い出す。
( あの時は確か…ひたすら魔法のイメージに集中して、魔力を泉に流すっていうのを続けてたら、いつの間にか水球が出来てたんだよなぁ…と言っても直ぐに崩れちゃったんだけど…ん?)
思い出を振り返ったその一瞬、何か頭にピンと来るものを感じた。
( あの時は…集中して、魔力を流して…それから、泉の水が浮き上がってきて… )
( …! もしかして…魔法の発動には、元となる種が必要ってことなのか? )
試しに掌の上で水球を発生させようと試みるも、若干手が濡れただけで何度やっても球状にはならなかった。
( もし仮に、そういうことなんだとしたら… )
立ち上がり、目を閉じて落ち着き、発声のイメージに集中する。
声の元は音、音というのは振動だ。
わざと軽く踵を鳴らし、振動を発生させる。
空洞の身体なのが功を奏し、音は鎧の内部で反響していた。
魔力を音に纏わせ、口から発声する様子をより強くイメージする。
「…ァ………ゥ………ォォ……」
微かにだが、声のようなものが聞こえてきた。
( もっと…強くイメージを…!)
会話する自分の姿を強くイメージし、更に魔力を込める。
「……ォォ…ゥ………オォ………ゥオォゥァオ………」
しかし、ようやく呻き声のようなものが出始めたところで、思考が急にボヤけてきた。
抗う間も無く、意識が眠りの沼へと引きずり込まれていく。
もはや何度目かの魔力切れであった。
____________________
ハッと目を開くと眼前には床があり、そのことから昨夜は床に倒れたのだと理解する。
( …そうか、また魔力切れで倒れたのか )
起き上がって腰を下ろし、数時間前のことを思い出す。
( 確か…あともうちょっとのとこまでいったよな…? )
小鳥の鳴き声が聞こえて窓の外を見るとまだ日は出ておらず、時間はまだ早朝のようだ。
ステータスを確認すると、魔力・体力共に充分回復していた。
( …よし、もうひと頑張りだな! )
そうして練習を再開すること数時間。
………………………
………………
………
( …あれ? もう昼くらいか? )
練習に没頭するあまり時間を忘れ、太陽は既に真上まで昇っていた。
( あちゃあ…集中しすぎたな… )
自身の集中力の高さに驚きつつも、その結果には大分満足している。
徹夜した甲斐あって、何とか一言ずつならば発声できるようにまでなった。
今ならば道行く人と挨拶を交わすことくらいなら造作もないだろう。
練習を終えて一息ついていると、部屋の扉がノックされる。
「ロイさーん、起きてるかニャー?入るニャよー?」
どうやら扉の前にいるのはシーラのようだ。
返答を待たずしてそのまま部屋に入ってくる。
「あ、ロイさん起きてたのニャ。もう昼だけどおはようニャ。中々起きてこないから起こしに来たのニャ」
俺はチャンスとここぞばかりに魔力を込め始め、頭の中に話したい言葉を思い浮かべた。
「…オハヨウ」
部屋にくぐもった声が響き、その後長い静寂に包まれる。
「……………………ヘ?」
シーラはポカンと口を開け、何が起きたか分からないというように間の抜けた声を漏らすとその場にへたり込んだ。
こちらを指差し、声にならないのか口をパクパクとさせている。
「な、なん…ロイさ…声…?」
どうやら驚かせ過ぎたようだった。
一旦落ち着かせるために彼女の背中をさする。
「…っはぁ…ビックリしたニャ…」
落ち着いたのか息を吐いて立ち上がる。
「…スマナイ」
「い、良いんニャよ! ちょっと驚いただけニャ!」
( シーラはああ言ってくれてるが…やっぱ思い付きをいきなり試すもんじゃないな… )
「…そ、それより! 何で急に話せるようになったのニャ?」
「…技能取ッテ…練習シタ」
「え!? スキル!? 何て技能ニャ!?」
今度は先程の比で無いくらいに驚かれた。
「…マズカッタ?」
「い、いや、不味くは無いニャ! ただ技能持ってる人って珍しいから…つい」
そんな会話をしていると、不意に声が掛かる。
「…アンタたち、何騒いでんだい、特にシーラ!」
そのままミラさんの拳骨が落とされ、シーラは短く悲鳴をあげ、堪らず頭を押さえてうずくまった。
「~~~ッ、痛いニャァ~」
「全く、廊下で騒ぐからだよ! 鎧のアンタも!夜中にドタバタすんじゃないよ!」
「…スミマセン」
拳骨こそ貰わなかったものの、俺も昨日の練習の件で怒られたため、頭を下げる。
「へぇ? デッカイ図体してる割に案外礼儀がしっかりしてるじゃないか」
「アンタも後輩を見習いなさいよ、というか用事があったんじゃなかったのかい?」
「ハッ! そうだったニャ!」
痛みにうずくまっていたシーラが、ミラさんの言葉で立ち上がる。
「ロイさん! ギルドにパーティ結成の報告をしに行こうと思ってたニャ!」
「…ワカッタ」
「それじゃ行ってきますニャー!」
シーラはそのまま足早に駆けていく。
「…イッテキマス」
「はいよ、行ってらっしゃい」
俺もミラさんに声を掛け、遅れて彼女の背中を追った。
「…あの人、ちゃんと喋れたんだねぇ…」
2人を見送った女将はポツリとそう呟いた。
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