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第26話 ギルドストア
しおりを挟むそうこうしている内に街の門へ到着した。
こちらに気付いた門番から、声が掛けられる。
「お!シーラに鎧の旦那じゃねえか!お疲れさん!」
「ただいまニャ!門番さんもご苦労様ニャ!」
声を掛けてきたのは、初めてハーレルドに来たときに誤解で槍を向けてきたあの門番だった。
「依頼の方は片付いたのかい?」
「ちょっとトラブルはあったけど、何とかなったニャ」
「へぇ、魔物か何かか?」
「それが__」
シーラはそのまま、門番の1人と話し込み始める。
その間に、もう1人の門番がこちらへ話し掛けてきた。
「アンタ、冒険者になったんだってな? 調子はどうだ?」
ビッと親指を立てて調子を伝える。
「そうかい、そりゃあ何よりだ。 ん? 何か仕留めて来たのか?」
隠すものでも無いので、背負った狼を門番の男に見せる。
「! こ、こいつは、グレイウルフじゃねえか! 」
男の声によって、話し込んでいた2人もこちらへ寄って来た。
「これがシーラの言ってたグレイウルフか……話じゃ、随分と街道寄りまで来てたらしいな」
「グレイウルフっていやぁ、森の大分奥に出る魔物だろ?大抵のことじゃ近場に出てくることはまず無い筈なんだが…」
「…よし、取り敢えずまだ様子見だ。念のためギルドの方にも報告しておいてくれるか?」
「了解ニャ!」
軽く頭を下げ、その場をあとにした。
____________________
ギルドに向かって歩いていると段々、賑やかな声が聞こえてくる。
時間にして、今は大体6時か7時くらいだろうか。
恐らくどこの家も夕食の時間だろう。
「ニャ~…いい匂いがするニャ…お腹減ったニャァ…」
ギルドの食堂から漂うであろう香りによってシーラは、猛烈な腹の虫を鳴かせていた。
「うう…早く報告を済ませて、ゴハンにするニャ…」
ヨロヨロと扉を開けてギルドへ入ると、中は騒々しいくらいの喧騒に包まれていた。
真っ赤な顔で酒を浴びるように飲む者や、大笑いしながら冒険の話に花を咲かせる者、一心不乱に目の前の料理を口に詰め込む者など、ギルド内は大変な賑わいを見せている。
そんな様子を眺めながら、受付のカウンターへ向かうとカリーナさんが出迎えてくれた。
「おかえりなさい。初めての依頼は如何でした?」
グッと親指を立て、納品分の薬草をカウンターに出す。
「それは何よりです。 では、依頼の品を確認させて頂きます」
そうして素早い手付きで確認作業が目の前で行われていく。
「…はい、指定された薬草20束の納品を確認しました。こちらが報酬金になります」
「余剰分の薬草やその他の素材は、隣のギルドストア店舗へお持ち下されば買い取り致しますので、どうぞご利用下さい」
カウンターに硬貨の入った小袋が2人分置かれ、それぞれを手に取る。
小さな袋ではあったが、自分で初めて稼いだお金ということで何となく嬉しくなった。
「それと…こちらが預かっていたロイ様の盗賊3名を捕縛した報奨金になります」
追加でカウンターにズッシリとした大袋が置かれ、浸る間も無くその重みに喜びは打ち消された。
( マジかよ… )
だがそれはそれとして、お金は大事なのでありがたく頂戴する。
硬貨の袋をポーチに仕舞い、ギルドストアとやらに行くか相談しようと横を見ると、シーラの姿が見えなかった。
「フフフ…彼女ならさっき、一目散に食堂へ走って行きましたよ。よっぽどお腹が空いていたのでしょうね」
食堂の方へ目をやると、物凄い勢いで巨大な肉に齧り付くシーラの姿があった。
周りの酒飲み達がその食べっぷりを見て、歓声を上げている。
「あらあら、あれは満足するまで帰ってきませんね」
仕方ないので、食事中のシーラを尻目に1人でギルドストアへと向かうことにした。
カリーナさんに見送られ、ギルドから出て隣の建物へ向かうと明かりのついた建物が側に立っていた。
中へ入ると、魔物の頭骨や毛皮、青白く発光する花や石など様々な物が飾られ、店内は不気味な雰囲気に包まれていた。
すると暗闇の向こうから、低く掠れた声が聞こえてくる。
「…いらっしゃい。 買い取りかね…?」
暗闇から現れたのは1人の老人だった。
広いカウンターに置かれたカンテラの明かりが老人の顔に影を作り、余計に不気味な雰囲気を醸し出している。
恐る恐る店主らしき老人に近付き、例の狼と余剰分の薬草をカウンターへ置いて、頭を下げる。
「…ふん、近頃の冒険者は口も聞けねえのかい…」
そんなことを呟きながら老店主は素材へ手を伸ばし、片眼鏡を光らせて置かれた物を調べていく。
( …そりゃあやっぱり、怒る人もいるよなぁ… )
なるべく手や体で感情の表現を試みてはいるが、それも事情を知っている人で無ければ伝わり難いだろう。
薄々思ってはいたが、やはり声が出せないというのは生活において大きなデメリットである。
( 一体どうしたもんかな…? )
俺が考えを巡らせていると、カウンターにドスンと硬貨袋が置かれた。
「…しめて、5200ゼルだ。手数料は引いてある。」
鋭く睨みを利かせてそれだけ言うと、老店主はカウンターの奥へ消えていった。
ポツンと不気味な店内へ1人取り残され、お金を受け取って早足で店の外へ出る。
( やっぱ怒らせたかなぁ… )
トボトボと歩いてギルドへ戻ると、丁度夕食を食べ終えたシーラが周りの歓声を浴びていたところだった。
当の本人は幸せそうな顔で満足そうに膨れたお腹を撫でている。
机の上を見ると、あの小さい体の何処にあれだけの量が入っていったのか疑いたくなる程に皿が積み上げられていた。
やがてこちらに気付いた彼女が、あれ程の量を食べたばかりにも関わらず、軽い足取りでこちらへ向かって来る。
「ゴメンニャ、お待たせしたニャ!」
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