23 / 33
第23話 鞄
しおりを挟む宿のミラさんに夕方頃戻ることを伝え、俺たちは宿屋を後にした。
今の時刻は大体、体感で1時から2時といったところだろうか。
歩いていると、宿に来た時よりも人の密度が減っており、歩行者もまばらになっていた。
これならば次は、大通りに出るのも大分楽になるだろう。
そうした内にふと目をやると、シーラとバッタリ目が合った。
気まずそうな顔をしながら笑い、「そういえば」と彼女は口を開く。
「気になってたんニャけど…ロイさんって、旅の荷物とかは持ってないのニャ? 」
( ああ…まあ確かに、旅をしてるって言ったのに荷物の1つも無いのは不自然か )
少し考え、森で無くしたということにして身振り手振りで伝える。
少々伝わるまでに時間を要したが、何とか伝わってくれたようだ。
「そうだったのかニャ、それならまずは雑貨屋さんに行くのニャ。アタシも買いたいものがあったから丁度良かったニャ」
そんな訳で雑貨屋へと向かう運びとなった。
フォレスタ通りへ戻って北へ進んで行き、その途中にある赤い煉瓦造りの建物に辿り着く。
「ココが雑貨屋さんニャ。足りないものとかの買い足しによく来るのニャ、ごめんくださいニャー」
そのまま雑貨屋へと入って行くシーラ。
後を追って店の中へ入ると、店内の陳列棚には様々な商品が所狭しと並べられていた。
シーラは既に目的の棚へ向かって行き、何やら思案しているようだ。
俺が物珍しさからあちこちに目をやっていると、カウンターの奥から頭に布を巻いた中年の男が現れた。
「おう! いらっしゃい! 今日は何が入用なんだ?」
歯を光らせてにこやかに笑う店主。
その体つきは凄まじく、歴戦の戦士といっても通じそうな雰囲気を纏っていた。
「ランタン用の油を2つと塩を1つ、あと回復薬も下さいニャ」
「あいよ! 合わせて185ゼルだな」
「はいニャ、185ゼル丁度ニャ」
「はい、毎度さん。…それで、後ろのデカイのはお前のツレ…なのか?」
じろりと横目にこちらを見上げる店主。
顔には先程からの笑顔が浮かんでいるものの、その目付きは鋭く、こちらを警戒しているようだった。
「この人はロイさんって言うニャ。命の恩人で今日からアタシの後輩になった見習い冒険者なのニャ!」
紹介を受けたので、頭くらいは下げておく。
「ほお…? 新人の…冒険者ねぇ?」
更に訝しげな視線を向けてくる店主だったが、ニカッと笑顔を向けてくる。
「俺はこの店の店主をやってる、ライズって者だ。この通り、調味料から天幕まで様々な雑貨を扱ってる。何か要り用な物があったらどんどん言ってくれよな!」
そうして一層、歯を輝かせてセールストークをする姿からは先程の疑うような視線は感じられなかった。
「そうだ! シーラ、お前さんこの新人に何か祝いの品でも贈ってやったらどうだ? 」
「それは良い考えニャ! 何が良いかニャ…?」
「この最新の魔力鞄なんて良いんじゃないか?」
「どれどれ…って15000ゼル!? ムリムリ!買えるわけないニャ!」
「オイオイ~そこは先輩として器の大きいとこを見せないといかんだろう? ほれ?ほれ?」
それどころか、高い商品を押し売り気味にシーラをからかい始めた店主。
シーラも段々と押され気味になってきているため、止めに入る。
どうどうと両手で制止を促すと、店主はあっさりと商品を引っ込める。
「ハッハッハ! 流石にお前さんの稼ぎじゃこいつは売れる代物じゃねえわな!」
「分かってるなら勧めないで欲しいニャ…」
笑い飛ばす店主とガックリ肩を落とすシーラ。
なかなか悪戯好きな人のようだ。
「そんじゃあコイツはどうだ? さっきのよりは容量が少し小さめだが値段は1500ゼルと手頃だぜ?」
そう言って別の鞄を取り出す店主。
デザインが先程の鞄と同じであることから、同型の小サイズ版であることが伺える。
「ムムッ……………買ったニャ!」
しばしの長考ののち、そう高らかに宣言するシーラ。
代金を支払って鞄を受け取ると、こちらへ向き直る。
「…という訳ニャので、ロイさん。先輩からのギルド加入祝いとして、受け取って欲しいニャ!」
彼女から先程の鞄が差し出される。
それをそっと両手で受け取ると、何だか胸に暖かいものが広がるのを感じた。
深々と感謝を込めて頭を下げる。
「い、いいニャいいニャ、気にしなくて! …それよりも早く着けてみるニャ!」
照れ隠しのように装着を急かされ、どこに装備しようか考える。
シーラの装備に習い、自分も腰回りに装備することにした。
鎧の後ろ腰に丁度良く鞄が収まる。
「良かったな、新人!こいつは俺からの餞別だ、持っていきな!」
ドン、とカウンターに緑色の液体が入った小瓶が3つ置かれる。
「頼りにならない先輩かもしれんが、…そいつを頼むな、新人」
そう言う店主の目は警戒でも冗談でもない、優しい色が浮かんでいた。
俺が大きく頷くと、店主は何かを察知したかのようにそそくさとカウンターの奥へ下がっていく。
「…頼りにならないとは失礼ニャッ!」
顔を真っ赤にして怒りの声を放つシーラ。
彼女の怒号は無人のカウンターへと消えていった。
____________________
「…全く!あの人はいつも一言余計なのニャ!」
そう怒りを滲ませつつシーラと共に店を後にする。
八つ当たりかのように道を踏みしめ、彼女はズンズンと歩く。
そんな彼女をなだめつつ歩いていくと、いつのまにかギルドのある十字路まで来ていた。
ようやく怒りが収まったのか、シーラが歩みを止めて振り返る。
「……ロイさん」
意を決した面持ちで彼女は口を開く。
「アタシ、先輩として頑張るからその、頼りにニャらないかもしれないけど頑張るから…!」
「だからその…なんていうか…」
シーラは言葉に詰まったまま、俯いてしまう。
…恐らく彼女は、先輩として俺に幻滅されてしまわないか不安なのだろう。
先程の店主の言葉が、そんな心配を掻き立てたのだろうか。
少々考え過ぎな気もするが、彼女にも何か思う所があったのかも知れない。
俺は彼女の肩に優しく手を置き、ただゆっくりと頷く。
顔を上げた彼女は一瞬涙ぐむも慌てて眼をこすり、パアッと今日一番の眩しい笑顔を見せた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
騎士になりたい貧乏庶民の少年が、付呪された鎧で成り上がる話
杏たくのしん
ファンタジー
どこかの異世界。妹と貧乏暮らしをしている平凡な少年レクセルは、騎士になりたかった。この世界では騎士には一部の上流階級か余程優秀な人しかなれない。どちらにも当て嵌まらないレクセルは今日もギルドで薬草摘みの仕事をしていた。彼はある日、付呪師の女性アネモネと出会い、彼女の付呪した武具を使って危機を乗り越える。そして、その運命を大きく動かしていく。纏えば全能力が上がるという鎧を借りたことで完全無敵の騎士となったレクセルは無双する。その代償として自我を失ってしまうのだが……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】イマジン 準備号〜仲間が強すぎるので、俺は強くならなくて良いらしい〜
夜須 香夜(やす かや)
ファンタジー
――忘れないでください、星々の瞬きとその罪を
仲間たちが強いから、俺は強くならなくても良いし、強くなる気もない!
普通の男子高校生、田仲伊吹。
下校中の彼を襲ったのは不運な出来事!?
助けてくれたらしい少女ノジャと、強すぎる仲間たちと異世界で大冒険!最初から、強くてニューゲームしてる仲間たちの心配はしなくて良いみたい。
「どうやったら、元の世界に帰れるんだよ! 家に返してくれ!」
この作品は、「イマジン〜私たちが共存するための100の方法〜」の準備号です。本編とは違う所もあるので、本編を読む予定がある方は頭がごちゃごちゃする可能性があります。
「イマジン」本編から30人以上のキャラが登場!?キャラがわちゃわちゃしてる小説が好きな方向けです。短期連載。
※イマジン本編の内容とは関係ありません。
※本編とキャラの設定が違う場合があります。
※本編開始までの肩慣らしです。
「イマジン」本編は、田舎者ファンタジーで、異種族恋愛モノです。たまにBL表現があります。
本編はバトル要素、グロ表現がありますが、準備号にグロ表現はありません。たぶん。
〜イマジン本編の予定のあらすじ〜
1 杏奈編
山の近くにある村に住む猫耳族の少女、杏奈。
弟の皐月、父の友人のチィランと暮らしていたが、とある出来事により、皐月と共に村を出ることになる。その時に出会った少年、アキラに着いてこられつつも、生活をするために旅をすることになる。
2 リチャイナ編
火星のとある国のとある村に住むリチャイナ。幼なじみと穏やかな日々を過ごしていたが、ある日、旅に出ていた父親から助けて欲しいという手紙が届き、父親の元へ行くことになる。幼なじみや、途中で出会った仲間たちと、旅をする中で、世界を救うために奮闘する。
3 カルメ編
とある世界のとある村に住むカルメは行方不明になった父親を探すために一人で旅に出る。その途中で出会ったみゆうと、リンと共に、頼れる仲間を集めて、世界を揺るがす敵と対峙することになる。
「イマジン」本編には、他にも主人公はいますが、主要の主人公はこの3人です。
※キャッチコピーは友人に依頼して考えてもらいました。
カクヨム、小説家になろうでも連載中!
異世界起動兵器ゴーレム
ヒカリ
ファンタジー
高校生鬼島良太郎はある日トラックに
撥ねられてしまった。そして良太郎
が目覚めると、そこは異世界だった。
さらに良太郎の肉体は鋼の兵器、
ゴーレムと化していたのだ。良太郎が
目覚めた時、彼の目の前にいたのは
魔術師で2級冒険者のマリーネ。彼女は
未知の世界で右も左も分からない状態
の良太郎と共に冒険者生活を営んで
いく事を決めた。だがこの世界の裏
では凶悪な影が……良太郎の異世界
でのゴーレムライフが始まる……。
ファンタジーバトル作品、開幕!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
モニターに応募したら、系外惑星に来てしまった。~どうせ地球には帰れないし、ロボ娘と猫耳魔法少女を連れて、惑星侵略を企む帝国軍と戦います。
津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
近未来、物体の原子レベルまでの三次元構造を読みとるスキャナーが開発された。
とある企業で、そのスキャナーを使って人間の三次元データを集めるプロジェクトがスタートする。
主人公、北村海斗は、高額の報酬につられてデータを取るモニターに応募した。
スキャナーの中に入れられた海斗は、いつの間にか眠ってしまう。
そして、目が覚めた時、彼は見知らぬ世界にいたのだ。
いったい、寝ている間に何が起きたのか?
彼の前に現れたメイド姿のアンドロイドから、驚愕の事実を聞かされる。
ここは、二百年後の太陽系外の地球類似惑星。
そして、海斗は海斗であって海斗ではない。
二百年前にスキャナーで読み取られたデータを元に、三次元プリンターで作られたコピー人間だったのだ。
この惑星で生きていかざるを得なくなった海斗は、次第にこの惑星での争いに巻き込まれていく。
(この作品は小説家になろうとマグネットにも投稿してます)
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる