鉄巨人、異世界を往く

銀髭

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第23話 鞄

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宿のミラさんに夕方頃戻ることを伝え、俺たちは宿屋を後にした。

今の時刻は大体、体感で1時から2時といったところだろうか。
歩いていると、宿に来た時よりも人の密度が減っており、歩行者もまばらになっていた。
これならば次は、大通りに出るのも大分楽になるだろう。

そうした内にふと目をやると、シーラとバッタリ目が合った。
気まずそうな顔をしながら笑い、「そういえば」と彼女は口を開く。

「気になってたんニャけど…ロイさんって、旅の荷物とかは持ってないのニャ? 」

 ( ああ…まあ確かに、旅をしてるって言ったのに荷物の1つも無いのは不自然か )

少し考え、森で無くしたということにして身振り手振りで伝える。
少々伝わるまでに時間を要したが、何とか伝わってくれたようだ。

「そうだったのかニャ、それならまずは雑貨屋さんに行くのニャ。アタシも買いたいものがあったから丁度良かったニャ」

そんな訳で雑貨屋へと向かう運びとなった。

フォレスタ通りへ戻って北へ進んで行き、その途中にある赤い煉瓦造りの建物に辿り着く。

「ココが雑貨屋さんニャ。足りないものとかの買い足しによく来るのニャ、ごめんくださいニャー」

そのまま雑貨屋へと入って行くシーラ。
後を追って店の中へ入ると、店内の陳列棚には様々な商品が所狭しと並べられていた。

シーラは既に目的の棚へ向かって行き、何やら思案しているようだ。
俺が物珍しさからあちこちに目をやっていると、カウンターの奥から頭に布を巻いた中年の男が現れた。

「おう! いらっしゃい! 今日は何が入用なんだ?」

歯を光らせてにこやかに笑う店主。
その体つきは凄まじく、歴戦の戦士といっても通じそうな雰囲気を纏っていた。

「ランタン用の油を2つと塩を1つ、あと回復薬も下さいニャ」

「あいよ! 合わせて185ゼルだな」

「はいニャ、185ゼル丁度ニャ」

「はい、毎度さん。…それで、後ろのデカイのはお前のツレ…なのか?」

じろりと横目にこちらを見上げる店主。
顔には先程からの笑顔が浮かんでいるものの、その目付きは鋭く、こちらを警戒しているようだった。

「この人はロイさんって言うニャ。命の恩人で今日からアタシの後輩になった見習い冒険者なのニャ!」

紹介を受けたので、頭くらいは下げておく。

「ほお…? 新人の…冒険者ねぇ?」

更に訝しげな視線を向けてくる店主だったが、ニカッと笑顔を向けてくる。

「俺はこの店の店主をやってる、ライズって者だ。この通り、調味料から天幕まで様々な雑貨を扱ってる。何か要り用な物があったらどんどん言ってくれよな!」

そうして一層、歯を輝かせてセールストークをする姿からは先程の疑うような視線は感じられなかった。

「そうだ! シーラ、お前さんこの新人に何か祝いの品でも贈ってやったらどうだ? 」

「それは良い考えニャ!  何が良いかニャ…?」

「この最新の魔力鞄マジックポーチなんて良いんじゃないか?」

「どれどれ…って15000ゼル!? ムリムリ!買えるわけないニャ!」

「オイオイ~そこは先輩として器の大きいとこを見せないといかんだろう? ほれ?ほれ?」

それどころか、高い商品を押し売り気味にシーラをからかい始めた店主。
シーラも段々と押され気味になってきているため、止めに入る。

どうどうと両手で制止を促すと、店主はあっさりと商品を引っ込める。

「ハッハッハ! 流石にお前さんの稼ぎじゃこいつは売れる代物じゃねえわな!」

「分かってるなら勧めないで欲しいニャ…」

笑い飛ばす店主とガックリ肩を落とすシーラ。
なかなか悪戯好きな人のようだ。

「そんじゃあコイツはどうだ? さっきのよりは容量が少し小さめだが値段は1500ゼルと手頃だぜ?」

そう言って別の鞄を取り出す店主。
デザインが先程の鞄と同じであることから、同型の小サイズ版であることが伺える。

「ムムッ……………買ったニャ!」

しばしの長考ののち、そう高らかに宣言するシーラ。

代金を支払って鞄を受け取ると、こちらへ向き直る。

「…という訳ニャので、ロイさん。先輩からのギルド加入祝いとして、受け取って欲しいニャ!」

彼女から先程の鞄が差し出される。

それをそっと両手で受け取ると、何だか胸に暖かいものが広がるのを感じた。

深々と感謝を込めて頭を下げる。

「い、いいニャいいニャ、気にしなくて! …それよりも早く着けてみるニャ!」

照れ隠しのように装着を急かされ、どこに装備しようか考える。
シーラの装備に習い、自分も腰回りに装備することにした。
鎧の後ろ腰に丁度良く鞄が収まる。

「良かったな、新人!こいつは俺からの餞別だ、持っていきな!」

ドン、とカウンターに緑色の液体が入った小瓶が3つ置かれる。

「頼りにならない先輩かもしれんが、…そいつを頼むな、新人」

そう言う店主の目は警戒でも冗談でもない、優しい色が浮かんでいた。
俺が大きく頷くと、店主は何かを察知したかのようにそそくさとカウンターの奥へ下がっていく。

「…頼りにならないとは失礼ニャッ!」

顔を真っ赤にして怒りの声を放つシーラ。

彼女の怒号は無人のカウンターへと消えていった。

____________________


「…全く!あの人はいつも一言余計なのニャ!」

そう怒りを滲ませつつシーラと共に店を後にする。

八つ当たりかのように道を踏みしめ、彼女はズンズンと歩く。
そんな彼女をなだめつつ歩いていくと、いつのまにかギルドのある十字路まで来ていた。

ようやく怒りが収まったのか、シーラが歩みを止めて振り返る。

「……ロイさん」

意を決した面持ちで彼女は口を開く。

「アタシ、先輩として頑張るからその、頼りにニャらないかもしれないけど頑張るから…!」

「だからその…なんていうか…」

シーラは言葉に詰まったまま、俯いてしまう。

…恐らく彼女は、先輩として俺に幻滅されてしまわないか不安なのだろう。

先程の店主の言葉が、そんな心配を掻き立てたのだろうか。
少々考え過ぎな気もするが、彼女にも何か思う所があったのかも知れない。

俺は彼女の肩に優しく手を置き、ただゆっくりと頷く。

顔を上げた彼女は一瞬涙ぐむも慌てて眼をこすり、パアッと今日一番の眩しい笑顔を見せた。
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