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第22話 大樹の木洩れ日亭
しおりを挟む「ロイさーん!こっちニャー! 」
手を振ってこちらへ呼びかけるシーラ。
ギルドでの一悶着を終えた後俺は、彼女の案内で街へと繰り出していた。
歩いていると、遠くからガヤガヤとした喧騒が聞こえ、大きな通りに出た。
( おぉ… すげえな… )
道には埋めつくさんばかりの人、人、人。
傍には様々な出店が立ち並び、人々の往来で賑やかな活気に溢れていた。
あちこちの店から通行人への呼びかけが響き、ワイワイと楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
「ココが街の中心、フォレスタ通りニャ! 店に釣られて迷子にならないように気をつけるニャ!」
まるで迷子になったことがあるような口ぶりで得意げに話すシーラ。
「アッチに行くと南門があって、出店の他に美味しいパン屋さんがあるニャ!コッチに行くと武器とか雑貨のお店があって、奥に領主様のお城があるニャ!」
元気に指を指して簡単な説明をしてくれるシーラ。
街の案内に張り切っているのか先程からとても上機嫌だ。
( それにしても…城かぁ… )
話題に上がるだけでも少々気が滅入る。
…取り敢えずは念のため、しばらく城の近くには行かないようにしておいた方が賢明だろう。
その間にもシーラの案内は続く。
「今居る西側にはウチの冒険者ギルドの他に商人さんや鍛治屋さんなんかのギルドがあるニャ!」
「今日はまず約束の、ロイさんの泊まる宿屋さんに行くニャ~♪」
そう言って鼻歌混じりに人波へ消えるシーラ。
俺も慌てて後を追うが、大通りの雑踏に阻まれてなかなか進めない。
仕方なく人混みの中を横向きになって歩く。
( すいませ~ん、ちょっと通りま~す )
その間、人々の視線は横歩きで進む鎧の大男へと注がれていたが、彼女を追うことに必死でロイが視線に気付くことはなかった。
何とか大通りを抜けると、シーラが涼しい顔でこちらを待っていた。
「ニャハハ…ゴメンニャ。大通りはこの時間が一番混むの言い忘れてたニャ」
申し訳なさそうに頬を掻くシーラ。
すぐに気を取直して前へ進む。
少し歩いていくととある建物の前で立ち止まった。
建物を見ると、造りは木造で二階建て、看板には葉や木の紋様が描かれている。
かなりの年季が入っているようだが、どこか暖かい雰囲気も感じられた。
「ココが、ロイさんの泊まる宿屋 大樹の木洩れ日亭 ニャ!」
「昔からある宿でアタシもよくお世話になってるのニャ。ギルドから連絡が入ってる筈だから早速入るニャ」
そうしてシーラに続いて宿に入ると、受付に立つ恰幅の良い女性がこちらに気付く。
「あれま、シーラじゃないか。どうしたんだい?」
「おばさん、こんにちはニャ!」
女性は親しげに言葉を交わしたあと、入り口の方にいる俺へと目を向ける。
「ああ、そちらのデッカい人がギルドから連絡のあった新人さんかい?」
一応軽く頭を下げ、会釈しておく。
「私はこの宿の店主をやってる ミラ ってんだ。何か必要なら従業員か私に声を掛けておくれ」
そう言って女店主はニカッと笑う。
「それにしても、シーラもとうとうこんな立派な後輩を持つようになったかい…。早いもんだねぇ…」
「そうなのニャ!アタシもやっと先輩冒険者の仲間入りなのニャ!」
女店主は苦笑し、シーラは嬉しくてたまらないといったように猫耳をパタパタとはためかせてはしゃいでいる。
( そうか、それでやたら機嫌が良かったんだな )
思えば道中もスキップや鼻歌混じりで、随分と楽しそうだった。
「アンタが先輩ねぇ…? ちゃんと務まるのかねぇ?」
訝しげに呟く女店主 ミラさん。
シーラも自信は無いのか先程とは打って変わって小さくなっている。
「まあ、お互いに助け合って頑張るんだよ。疲れたらいつでもウチにおいで、代金は頂くがね」
「それで、今日はもう2人共部屋で休むのかい?シーラも泊まるならもう一部屋取っておくけど」
「あー…そうしたらお願いしますニャ。あの、ロイさんはこのあと何か用事とかあるニャ?」
( 用事…用事か。 何かあっただろうか? )
門の通行に必要だった身分証は手に入れたため、まだ今のところ次の目標は決めていない。
「特に無ければ…買い物に付き合って欲しいんニャけど…駄目かニャ?」
断る理由は思いつかないので頷きで答えると、シーラの顔にパアッと笑顔が咲く。
( 買い物か…そういえば俺って、お金持ってないな )
宿代はお礼としてギルドに払ってもらっていたが、これまではずっと一文無しだった。
そもそも城で目覚めてから、お金自体をまともに見ていない。
( …そういえばたしか、カリーナさんが依頼を受けたり素材を売るなりして資金を貯めろって言ってたな… )
そんなわけで、当面の目標は お金を稼ぐこと に決定した。
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