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第18話 ギルドマスター
しおりを挟む俺が兜の下を白日の下に晒してから、部屋は静寂に包まれていた。
悲鳴や驚きの声を上げることもなく、2人はポカンとした顔でこちらを見据えて、そのまま固まっている。
余りに反応が無いため、俺の方も兜を上に持ち上げたまま動けずにいた。
それから暫くして、長い長い沈黙ののち、ギルマスが口を開いた。
「…お前さんそれ、一体どういう事情だってんだ…?」
取り敢えず、実際に兜の中身や胴体の中を見てもらい、首を横に振って、自分には分からないという風にジェスチャーを取る。
( 上手く伝わってくれると良いんだが… )
「頭部だけじゃなくて、身体自体が無いのか…」
そう言って、調べていた兜を少女に渡し、顎に手を当てて考え込むギルドマスター。
恐らく急な展開に頭がついていっていないのだろう少女は、隣で俺の兜を抱え、アワアワと困惑している。
尚も考えこむギルドマスター。
今、正に俺にとっての運命の選択がギルマスの中で成されようとしているのだろう。
緊張が高まり、無いはずの心臓が締め付けられるようにすら感じる。
そしておもむろにギルドマスターはソファーから立ち上がり、執務机から数枚の紙とペンを持って俺の前に立つ。
「…リビングアーマーという魔物がいる。 主に迷宮等に生息する、動く鎧の姿をした魔物だ」
…ギルドマスターの言わんとしていることは分かる。
正に俺はその「リビングアーマー」に酷似している。
ギルマスは続ける。
「ギルドマスターとして、お前さんがその魔物だと断定された場合、俺は今この場でお前さんを始末しなくちゃならない。」
始末、という言葉に少女の肩がビクリと反応する。
「き、騎士さんはそんなんじゃ「だが!!」
少女の言葉を遮り、ギルドマスターが持っていた紙とペンをテーブルに叩きつける。
「調べでは、リビングアーマーには知性が無く、生きた相手を見ればすぐさまに襲いかかるとされ、その動きはぎこちない人形のようだと言われている…」
「…よってギルドは、お前さんに魔物の可能性は無しと判断し、特殊な事情を持つ1人の人間として認めるものとする!……以上!」
そう言い終えるや否や、少女がこちらへ飛び込んで来る。
「騎士さん! 良かったニャ…良かったニャ!」
少女は胸元に抱きつき、目に涙を浮かべている。
( 良かった…本当に良かった…)
俺の運命の綱渡りは何とか無事に成功し、心の中は安堵で埋め尽くされていた。
だが、息つく暇も無く事態は進む。
「…しかぁし! ギルドの外でその特殊な事情が白日の下に晒された場合、当ギルドで責任を負いかねる為!」
「お前さんをギルド管理下の冒険者とする!」
急な展開に頭がついていかず、少女と共にポカンと固まる。
「……つまり、ウチで面倒見てやるってこった。娘の命の恩人を無下には出来ねえよ」
そう言って、ニカッと笑うギルドマスター。
少女が一段と大粒の涙を流し始める。
きっと俺も、泣いていたことだろう。
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