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第17話 ギルド
しおりを挟む( …何か見たことあるような城が見えるな…)
街に入っていの一番に見える建物に俺は見覚えがあった。
それは間違い無く、俺が大暴れして地下から脱出した、あの城だった。
( …かなり離れたと思ってたのに戻って来ちゃったのか… )
幸い、今は技能のおかげでサイズを誤魔化している。
すぐにはバレないだろうが、あまり目立たないようにした方が良いだろう。
俺が頭を巡らせていると、不意に少女が声を掛けてくる。
「どうしたニャ?」
(っと、考えこみ過ぎたな )
俺は何でもないというように首を振る。
「? 良いのかニャ? そしたら早速行くニャ!」
少女がれっつごーといった感じで腕を振り上げ、先導をしてくれる。
それに俺はゆっくりと着いていく。
ここに来るまでの道中もそうだが、何せ歩幅にかなりの差があるため、このくらいのスピードが丁度良いのだ。
「まずは、無事だったことをギルドへ報告に行くニャ」
( ギルド…、確かそこで身分証を作らなきゃいけないんだったな )
「うニャ~…、依頼失敗したしギルマスに怒られるかニャ…? いやでも、金品は取り返してきたんニャし…、う~ん…」
少女は頭を抱えている。
「…あ、着いたニャ。 ここがギルドニャ」
どうやら目的地に到着したようだ。
白レンガ造りの壁にギルドと書かれた看板が出ており、窓からは明かりが漏れ、それなりに話し声が聞こえる。
「 食堂や酒場なんかもあるから、何か食べて待っててニャ」
手押しの木の扉を開き、少女が中へ入っていく。
続けて俺も扉を押し開け、後を追う。
ギルドの入り口は高く、俺の図体でも割とすんなり入ることが出来た。
中へ入ると広い大部屋になっており、並んだテーブルでいくつかのグループが食事や酒を楽しんでいるようだ。
奥にはカウンターがいくつか並んでおり、少女はその一つで制服を着た受付の女性と話している。
( さて…、どうしようかな )
何か食べて待ってて、と言われても俺には口も無ければ胃袋も無い。
ついでに言えば腹も空かない。
…仕方ないので隅っこの方で大人しくしていよう。
ギルドの隅でベンチに座り、少女の用事が済むのを待っているとテーブルにいる男達がこちらを見ているのに気付く。
ヒソヒソと何かを話しながら、チラチラと自分を伺っているようだ。
仮に話し掛けられても面倒事にしかならなそうなので、目を合わせないようにして心を無にする。
暫く隅で空気と一体になっていると、少女が戻って来た。
何とも言えない困ったような顔をしている。
「…ごめんニャさい、騎士さん。 ちょっと一緒に奥の部屋に来てもらっても…良いかニャ?」
「…今回の護衛依頼の件でギルマスが、第三者が居たなら合わせて話したいって言ってるニャ」
( …へ? ギルマスさんが俺を? なんで?)
( …う~ん、分からんけどまあ…行くしかないか )
俺は頷き、ベンチから立ち上がる。
立ち上がった時にテーブルの方がざわついた気がしたが、特に気にはしなかった。
少女と歩いていくと、受付の女性にカウンター横の通路へと案内された。
「ギルドマスター、お客様をお連れしました」
突き当たりの扉を女性が開き、室内に招かれる。
部屋の中には巨大な角や頭骨、武器などが壁に飾られ、中央の机に禿頭に口髭を生やした筋骨隆々の男が座っていた。
受付の女性は、そのまま入り口で待機している。
「いらっしゃい、よく来たな。 まあ座ってくれ」
「し、失礼します、ニャ」
カチコチになりながらも少女がソファーに座り、俺も軽く会釈だけして席に着いた。
遅れて男が執務机から立ち上がり、ソファーに腰掛ける。
状況としては、男と少女が横並びで座り、テーブルを挟んだ向かいに俺が座っている状態だ。
少女は落ち着きなく猫耳をワタワタとさせている。
「さて、この部屋に読んだのは、そこの猫娘が受けた依頼の件について話を聞くためだ」
少女の体がビクリと跳ねる。
「今回お前さんが受けた護衛依頼だが、依頼内容はソマエイルからの積荷の護衛だったよなぁ?」
禿頭に血管がビキビキと浮かび上がり、男から怒気が伝わってくる。
それを受けて少女も、滝のように汗を流していた。
「大事な積荷を守るのが護衛のお前さんの役目だよなぁ?」
「そ、…そうですニャ」
「だったら…積荷と一緒に…」
男の怒気が更に高まる。
「…何で護衛のお前まで盗賊に奪われてんだぁっ!?」
「…ご、ごめんなさいニャアー!!」
ビリビリと部屋が揺れるほどの怒号。
恐らく建物の外まで響いているだろう。
男は言い終えると深呼吸し、神妙な顔つきになる。
「ふぅ…全く心配掛けさせやがって…」
そうポソリと呟いたかと思うと、またすぐに険しい顔つきに戻る。
「…今回は依頼の積荷を取り返してきたのと依頼人の厚意で罰金程度に納めてやる。文句は無いな!」
「…無いニャア…」
少女は怒号を受けて、ガックリと項垂れている。
「なら良し! それで、そちらの鎧のアンタへの用件だが…」
( 何だろう? 俺もさっきみたいに怒られるんだろうか…?)
文字通り鉄仮面の俺は顔にこそ出ないものの、内心かなりビクビクしていた。
「そこの猫娘を助けてくれて、その上盗賊まで退治してくれたそうだな。 ギルドを代表して、礼を言わせてもらう」
そう言って頭を下げる男の姿に、俺は面食らってしまっていた。
不意に、沈黙を保っていた受付の女性が口を開く。
「…フフ、ギルマスったら、素直に 娘を助けてくれてありがとう って言えばいいですのに…? 」
「っ、うるせえやい! 外で待機してろ!」
受付の女性は、あらあらと言ったように部屋を出て行く。
男が照れ臭そうに咳払いをし、話を再開する。
「 ……それで、ギルドとしてはアンタに何か礼をしたいと思うんだが、何か希望のものはあるか?」
( そうか、彼女はギルドマスターの娘さんだったのか…)
( というか、お礼かぁ…どうしようか…?)
思いがけない情報に驚きつつ決めあぐねていると、へこんでいた少女が顔をあげる。
「そ、それなら宿とかの費用をウチで持ってあげたらどうかニャ!? 騎士さんはこの街、初めて来たって言ってたニャ!?」
何とか話題をまとめて、早く終わらせたいかのような口ぶりで少女は話す。
「ほう? それは本当か?」
ギルマスの厳つい顔が、訝しげにこちらへ向けられる。
…こう言っては何だが、かなり恐い。
「それなら、良い宿を紹介してやれるぜ。 アンタもそれで良いか?費用は3ヶ月分の宿代をこちらで持とう」
「後は…そうだな…う~ん…」
「…そういえばアンタ、さっきから全然喋らんが…何か話せない事情でもあるのか?」
「ニャ!? そう言えばアタシも、一度も騎士さんの声聞いてないニャ!」
流石にそろそろ不審がられるか…。
(…どうする…? )
実際に声が出せない以上、いつまでも誤魔化しきれるものでも無い。
いつかは何処かでこの身体のこともバレてしまうだろう。
そこで魔物だとか言われてしまえばき俺はきっと討伐されてしまう。
…それならいっそのこと、この場で打ち明けてしまって味方になってくれる人が居た方が良いのかも知れない。
まあ…ここで討伐される可能性もあるんだが…。
俺は目の前の2人に向き直り、意を決して頭に手を掛け、引き抜いた…!
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