鉄巨人、異世界を往く

銀髭

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第16話 ハーレルド

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森を抜け、少女と2人街道を歩く。
まだ辺りは暗いが、森の中と違って遮る物が無い分、月明かりのおかげで大分足元は明るかった。

軽快な足取りで少女が前を歩き、俺は盗賊達を背負ってそれに着いて行く。

前を往く少女がふと振り返り、後ろ歩きをしながらこちらに話し掛けてくる。

「そういえば、騎士さんは旅の人なのかニャ?」

 ( 旅の人…、わからんけど…とりあえず頷いておくか? )

実のところ何者でも無いのだが、そう思われるようならその方が色々と都合が良いかもしれない。

「やっぱりそうなのかニャ? ってことはソマエイルの方から来たんニャね」

「そうしたらハーレルドに来るのは初めてかニャ?」

ここも頷いておく。

「そうなのかニャ!そしたら助けてくれたお礼も兼ねて、街を案内させて欲しいニャ!」

少女は目をキラキラさせてこちらを見上げている。

( うーん…、案内は助かるが…お礼って言われても偶然体当たりしただけだし、そこまでしてもらうのも何か悪い気がするな… )

俺が断わるべきかと頭を悩ませていると、少女がしょんぼりとした顔で「…駄目かニャ?」と申し訳なさそうに聞いてきた。
猫耳がペタンと伏せていて、とても感情が分かりやすい。

 (…うん、折角だしこんな顔させるくらいなら、是非お願いしよう )

そのようにジェスチャーで応えると、少女は一転、ぱあっと笑顔になり、嬉しそうに猫耳をパタパタと動かしている。

「美味しいゴハンのあるお店とかも案内するニャ!」

あ、それは食べられ無いから困る。


そんな会話をしていると、遠くに明かりがポツポツと見えてきた。

「あ! 見えてきたニャ! あれがアタシの街、ハーレルド、ニャ!」

少女がそのまま走っていってしまったので、俺も慌てて追いかける。

街の入り口辺りには門番らしき槍を持った男が2人立っており、こちらに気付いたのかわたわたと動いているのが見える。

「門番さーん! ただいまニャー!」

前を走る少女が声を掛けると、門番の1人が槍を構え、穂先を俺に突きつけてきた。
少女はもう1人の門番の背に庇われている。

「な、何者だ貴様は!」

槍を向けられ、俺は反射的に手を上に上げてしまう。
抱えていた盗賊を落としてしまったが気にしない。

「ちょ、ちょっと待ってニャ! 騎士さんはアタシの恩人ニャ!」

「何!? 恩人!? 魔物モンスターじゃないのか!?」

「違うニャ! 盗賊から助けてくれたのニャ!」

少女が間に入り、捕まえた盗賊を門番に見せる。
それを見て、何とか門番は納得してくれたようだ。

  ( 確かに、こんなデカイ鎧が人を追いかけてたらそりゃあ警戒もされるよな… )

変形魔法で縮めてあるとはいえ、それでも俺の身長は2m半くらいはある。
少女と並べば余計にその差が際立つだろう。

そうこうしてる内に俺に向けられた槍が下げられる。

「悪かったな、騎士様。 魔物モンスター扱いなんかしちまって」

原因は殆ど俺にあると思うので、気にしないでと首を振っておく。

「…しかし、無事で良かった。心配したぜ?」

門番のもう1人がそう言って息を吐く。

「おお、行商のヤードさんも申し訳ないことをしたって、青い顔してたぜ」

「今日はもう遅いし、明日にでも顔を見せてやんな。多分ギルドにいると思うから」

「わかったニャ! あ、盗賊の方はお願いしてもいいかニャ?」

「ああ、引き渡しだろ? 懸賞金は預かっておくから、明日にでも取りに来な」

「ありがとニャ!お願いするニャ!」

街に入っていく少女に続いて、誤解の解けた俺も入ろうとすると門番の男に声を掛けられる。

「あ、あと騎士様。今回はあの嬢ちゃんのツレってことで通すが、次からは身分証が必要だからな。 ギルドに行って作ってくるんだぜ」

そう門番の男に忠告され、頷いて返事をしておく。

( そうか、身分証が要るのか…案内してもらう時に一応聞いてみるか)

そうして少女の後を追って街に入る。

街の奥に見覚えのある白い城のような建物が見えた。



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