鉄巨人、異世界を往く

銀髭

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第15話 出会い

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暗い森の中で焚き火がパチパチと燃え、辺りを照らしている。

その火を囲むようにして、3人の男達が酒を煽りながら下品な笑い声を上げていた。

「…しっかし、今日は儲かったぜぇ!」

「ああ、まさか行商の馬車にこんなお宝が積んであるとはなぁ?」

「あの行商人の顔見たかよ? 返してくれ~って泣きながらよぉ!」

「ハハッ、情報をくれたあのフードの野郎にも感謝しねえとな!」

「金もたんまりくれたしな!」

男達は下卑た笑いを浮かべながら手に入れた貴金属をジャラジャラとひけらかす。

そんな中1人が心配そうに呟く。

「でもよぉ…これって全部、ここの領主に収める物だったってんだろ? 大丈夫なのかよ?」

「気にすんじゃねえよ、貰っちまえばこっちのもんだ」

「それに、いざとなったらコイツを人質にして逃げ延びてやるよ」

そう言ってリーダー格の男が後ろを指す。
そこには、手足を縛られた少女が力無く横たわっていた。

「いや~まさか冒険者の護衛まで雇ってたとはなぁ」

「流石に冒険者ギルドが相手じゃ領主の野郎も手出しは出来ねえだろうさ」

「後は隣のソマエイルまで逃げ切って換金しちまえばそれでお終いよ」

「何ならそこでコイツも身ぐるみ剥いで奴隷商に売っぱらっちまうか? 」

「そりゃいいな!」「賛成だぜ!」

男達が今後の算段に花を咲かせていると遠くからバキバキと音を立てて何かが近づいて来る音が聞こえる。

「な、なんだ!?」

「ファングボアか?」

「い、いや、もっとデカいぞ!」

「まさか…、も、森のヌシか!?」

「に、逃げ……」

男達が騒ぎ、慌てふためく中、横たわった少女がぼんやりと意識を取り戻す。

「……ぅ…ここ…は…?」

少女はハッと意識を失う前の状況を思い出し、立ち上がろうとするが、拘束されているために思うよう動くことが出来ない。

困惑のまま、うつ伏せで周囲を確認すると男達が騒いでいた。
間違いない、自分達を襲った奴等だ。
だが、その男達が何かに怯えるように焦り、声を上げて1方向を見つめている。
一体何事かと目をやると、その瞬間、茂みから巨大な鈍色の塊が物凄い速さで飛び出し、目の前の男達3人を跳ね飛ばしていった。

少女は何が起きたか分からず、ただ呆然としていた。


____________________



…明かりだ、人だ、そんな思いばかりが自分の身体を支配していた。
正直言って、暗闇の森はかなり怖かった。
先の見えない不安が押し寄せてきて凄く心細かった。

だから、人の気配につい舞い上がり、何の警戒もせずに突っ込んでしまったのだろう。
期待を込めた全力疾走で、俺は明かりの元へたどり着いた。

…だがそこには、誰も居なかった。
期待を裏切られ、落胆する自分にどこからか視線が突き刺さる。

周囲を見渡し、ふと足元に視線を向けると、何やら小さな生き物と目が合った。

相手は目をぱちくりとさせ、驚いたようにこちらを見つめている。

そのまま数秒が過ぎ、相手が縛られた状態だということを理解して、すぐに拘束を解きにかかる。
膝をついて身を屈め、手を伸ばすと、相手がビクリと震え、恐る恐るこちらを見上げる。

( どうしたらいいんだ、これ… )

取り敢えず、安心して欲しいという意味を込めてゆっくりと頷き、拘束を解く、とジェスチャーを試みる。

何とか伝わったようで、拘束された手足をゆっくりとこちらに向けてくれる。
サイズ差のせいで大分苦労したが、何とかチマチマと縄を解くことに成功した。

拘束が解けた相手をよく見ると、どうやら女性のようだ。

栗色の髪にクリっとした猫のような眼、少し焼けた健康的な肌、年の頃は幼いような印象を受ける。
何より目を引いたのが、髪に紛れて猫の耳のようなものがあることだった。

少しして少女が、縛られていた箇所をさすりながら話しかけてきた。

「あ、あの、助けてくれて、ありがとうニャ」

少女は困惑半分といった表情で、こちらへ話掛けてくる。
少々語尾に違和感を感じつつ、こちらも頷きで応える。

色々と聞きたいことや話したいことは沢山あるが、発声が出来ない以上会話もままならないため、相手の出方を待つしかない。

何とか話題に繋げられる物は無いかと周囲を見回すと、少女が「あっ!」と声をあげて焚き火の方へ走っていった。
少女は袋や鞄の中を探り始め、見つけた貴金属を胸に抱えると、安心したようにため息をついた。

少女は振り返ってこちらへ走り寄ってくる。

「騎士さんのおかげでこの通り積荷も無事だったニャ」

いまいち状況が飲み込めず、俺は首を傾げる。

「行商の護衛をしてたんニャけど盗賊に襲われて、不意打ちでやられて、捕まっていたのニャ…」

しゅんとする少女、心なしか頭の猫耳も項垂れている。
 
「…でも、騎士さんが盗賊共をぶっ飛ばしてくれて、積荷も取り戻せたから良かったニャ!」

一瞬で立ち直り、少女はパッと花が咲いたような笑顔を見せる。
猫耳もピコピコと動いていて、きっと裏表無く真っ直ぐに感情が現れるタイプなのだろう。

 ( …あれ? というか俺が盗賊を倒したって言ったか? 全く見に覚えが無いんだが )

 ( せいぜい猪とかしか倒してないぞ? )

またもや俺が首を傾げていると…

「そうニャ! 折角だから逆にあの盗賊達を捕まえて、衛兵に突き出してやるニャ! 騎士さんも手伝ってニャ!」

少女がパタパタと駆けていくので、黙って俺も後を着いていく。
追いかけていくと、木や葉が撒き散らされたその先に、薄汚れた装備に身を包んだ男達3人が伸びていた。

「凄いニャ騎士さん! 盗賊3人を体当たりで一撃ニャ!」

 ( 体当たり…? ……もしかして全力疾走した時に、巻き込んでたのか?)

 ( …だとしたら悪いことしたかな… )

だけど、そうしなければきっと彼女が拐われていたのだ。
なら自分は人助けをしたのだと割り切ろう。

そんなことを考えている間に、少女があれよあれよという手際で男達を縛りあげていった。
それを眺めていると、少女から声がかかる。

「それじゃ騎士さん、コイツらを運んでくれないかニャ? もちろん懸賞金は全部、騎士さんに渡すニャ」

言われるがままに男3人を担ぎ上げ、少女の指示に従って後ろを歩く。
しばらく歩くと林を抜け、街道のような場所に出た。

「この街道を進むと、アタシの住んでるハーレルドって街に着くニャ」

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