鉄巨人、異世界を往く

銀髭

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第12話 初戦闘

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あれよあれよと言う間に俺を取り囲む、猪の群れ。
その数およそ10頭、奥には一際大きな黒い猪がいる。
恐らくあれが、この群れのボスだろう。

太く迫り出した二本の牙、荒々しいたてがみ、歴戦を
思わせる左眼の傷痕、その全てが「お前を殺す」という
威圧感を放っていた。

ボスが短く一鳴きすると、手前の二頭が地面を掻き、
勢いよくこちらへ向かって来る。

  ( 囲まれてて逃げられない……やるしかないか!? )

なんとか一頭目の牙を掴んで無理矢理地面に押さえ込むが、続く二頭目に弾き飛ばされて体勢を崩す。
何とか転ばずに踏み止まるも、その間に追加で他の
猪が向かって来ていた。

  ( くっ… )

…覚悟は既に決めた、生きるためには仕方のないことだ。
迷っている場合じゃない。


意を決して追加の猪へ向かって走り、跳躍して蹴りを見舞う。
渾身の力を込めた蹴りが突進する猪に触れたその瞬間。

バゴォッ!!

破壊音と共に猪の頭部から半身までもが砕け散り、辺りに血と肉片が飛び散った。

頭を砕かれた猪は突進の勢いのまま地面に倒れ、血を吹き出しながらビクビクと痙攣している。

しんと場が静まり返り、沈黙が流れる。

怯えの色を見せ始める猪達。

1番真近にいた一頭が情け無い声を上げてボス猪の方へ
逃げていき、他の群れもそれに続くようにしてボスの
背後へ隠れていった。

対する俺は、完全に思考が停止して呆然と立ち尽くしていた。
目の前の惨状が余りにも酷過ぎた。

  ( ………え? ………え? っ!? )

呆気に取られていると激しい衝撃を受け、視界がブレた。
宙を舞い、二転三転して木にぶつかり、ようやく止まる。
急な出来事に判断が追いつかない。

  ( ……うう…一体何が…… )

顔を上げて目を向けると、その先に激昂したボスが居た。

自分は突進を受けたのだろう。
それも群れを守る長の、怒りの一撃を。

足が軋みを上げていて、思うように動くことが出来ない。
ボスは前脚で地面を蹴り、突進の予備動作を始める。

  ( 不味い… またあれ突進が来る…っ!)

気は焦るも、立ち上がることさえおぼつかない。
鎧の関節部がギギギと悲鳴を上げている。
そこで、ふとあることを思い出す。

  ( そうだ! 修復リペアっ! )

発動とほぼ同時に猪が突進を始め、横に転がるように
して、間一髪回避が間に合った。

何とか避けられたことに安堵するが、そうもしてばかり
いられない。
群れの仲間が殺され、ボスはたてがみを逆立たせて
怒り狂っている。
こちらを逃す気は無いだろう。

ここで背を向けるのは愚策だ。
すぐに背中から突進の餌食となってしまう。
倒す以外に方法はない、何か策を考えなければ…。

あの蹴りを入れるにも、高さ的に頭には届かない。
そもそもあの突進に蹴りを合わせたら、足がへし折れる
ような気がする。
受け止めるにも同じことだ。
相手はくらいの大きさがある。

そこで、1つの案が閃いた。

俺は、ゆっくりと後方を確認し、なるべくボスを刺激しないように後ずさる。

少しずつ、少しずつ下がっていると、痺れを切らした
ようにボスが突っ込んで来る。
咄嗟に生えている木を盾にして隠れるが、盛大に
へし折られ、ズズンと音を立てて倒れた。

とんでもない威力に背筋がゾッとする。
自分がいつまで突進を捌けるか分からない。

  ( このままじゃ、やられるのが先だ…… よし! )

決心してボスに背中を向け、木々の隙間を縫いながら
必死に駆け抜けて行く。
背後からは、バキバキと木が薙ぎ倒されていく音が響き、
俺をすり潰さんとばかりに迫って来る。

すんでのところで森が途切れ、泉の広場まで戻って来た。
振り返ると、倒れた木を乗り越えてボスの黒猪が、
追い詰めたぞと言うように顔を出す。
そのまま予備動作を始め、狙いをこちらに定めている。

  ( 後は、変形魔法で元の大きさに戻れば… )

だが、ボスは唸り声を上げ、こちらを待たずして直ぐに
襲いかかって来た。
変形魔法の発動には少しだけ時間が掛かってしまう。
元の姿に戻るにはゆっくり過ぎて間に合わない。
間に合わせる為に俺は、咄嗟に思い付きを口走った。

  ( へ、…変形魔法っ、っ!)

その瞬間、ドンッと視界の高さが急激に上がり、
地面が遠ざかっていく。
足元が大きく陥没し、周囲の地面が隆起する。
土埃が辺りに舞い、泉がビリビリと震えていた。

景色が晴れ、巨大な騎士がその姿を露わにする。

黒猪はこちらを見上げ、困惑の色を浮かべていた。





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