鉄巨人、異世界を往く

銀髭

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第11話 黒の森

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2日前、自身の縮小化に成功してから俺は、泉の近辺を
ガサガサと歩き回っていた。 

以前は歩くだけでズシンズシンと大きな音が鳴り、
バキバキと木々を薙ぎ倒して進むしかなかったので、
周囲の探索は諦めていた。

ここで目立つ動きをすれば、城からの追手に気付かれて
しまう可能性がある。
そのため、まずは場所の把握から始めることにした。

今のサイズなら、何とか木の間をすり抜けて探索することが可能だ。
もし街道でも見つけることが出来れば、現在地の判断材料にすることが出来るだろう。

そう考えた俺は、ひたすらに森の中を進み続けていた。

一応、迷わないよう活動範囲は、泉から大体半径100m
くらいを目印にしている。

  ( また迷子になったら帰って来れないだろうからな… )

そんなこんなで大体、泉の広場を中心に3分の1程度を
回った頃、向かいの茂みから大きな猪が現れた。

猪は既にこちらに気付いていたようで、唸り声を上げて
真っ直ぐに突っ込んで来る。

  ( ぅおわぁ!!? )

慌てて横に身を反らして躱すが、猪はすぐにこちらへ
向き直り、再び突進を仕掛けてくる。

  ( うわぁぁっ! こ、このやろぉっ!! )

木を背にして逃げ場の無い俺はパニックになり、
猪に向かって思わず足が出てしまった。

瞬間、足から身体にかけてズンという衝撃が伝わる。

恐る恐る、閉じてしまった目を開くとそこには、
獣の死体が力無く倒れ伏せていた。
頭部が粘土かのようにひしゃげており、その中心には自身の足がめり込んでいる。

慌てて足を引き抜くと、こびりついた血液や肉片が目に止まる。

、そのことが酷く胸を
ざわつかせ、俺はその場から逃げ出してしまった。

必死で森を掻き分け、泉まで戻って来た。
緊張が解け、ドサリと広場に膝をつく。
足に付いた血は走るうちに擦れ、拭い取られていたが、罪悪感だけが消えないまま俺は、自責の念に駆られていた。

殺そうとしたわけじゃない。
そんな気は無かった。
仕方の無い状況だった。

色々な言い訳を並べるも、頭の中は猪を蹴り潰した感触で一杯だった。

  ( 完全にトラウマだ、これ… )

罪悪感に背中を押されてゆらりと立ち上がり、今一度
森の中へと歩を進める。

辿り着いた先には、先刻と変わらない猪の凄惨な姿だけ
があった。
俺は手を合わせ、心の中で謝罪した後収納インベントリを発動し、猪の死体を異空間に収める。
後には乾いた血溜まりだけが残った。

  ( …猪さん、すみませんでした… )

自己満足にしかならないだろうが、それでも割り切って
目の前の死と向き合っていく。

これは自分自身の覚悟の問題だ。
これから先もこういったことはあるだろう。
俺は覚悟を持って戦い、命というものを背負って相手に
向き合っていかなくてはならない。

広場に戻り、大きく穴を掘りはじめる。
1時間程かけて作業をし、インベントリから先程の猪を出して埋める。

埋葬を終え、もう夜も大分更けてきた。
探索に備えて、休むことにしよう。

俺は、新たな決意を心に秘め、泉の中で眠りについた。


____________________



翌朝、泉の中で目を覚ますと、すぐにステータスを見る。
確認方法が分かってからは、これが日課になっていた。

ざっと全体を眺めていくと、経験値が少し増えている
ことに気付いた。

  ( これ…、もしかして昨日の猪の分か…? )

何となく後味は悪かったが、自身の糧として得られる
のなら少し気が軽くなった。
俺は立ち上がって、引き続き森の探索へ向かう。

  ( 今日はもう少し、範囲を広げてみるか )

森に入り、昨日の辺りから探索を再開しようとすると、
再び猪が現れた。

猪はフゴフゴと鼻を鳴らし、茂みに顔を突っ込んでいる。

  ( …まだ気付かれてはいないみたいだな )

俺は、ゆっくりと来た道を後ろ向きに戻り始める。
一歩、二歩と下がったところで、足元からパキリと枝の小気味いい音が響いた。

ドッと緊張が押し寄せた。
猪はこちらを向き、様子を伺っている。
もう逃げ出そうかと思ったその瞬間、猪が威勢良く
雄叫びを上げた。

しかし、そのまま突進して来るのかと考えるも、猪は
その場から動かなかった。
不思議に思っていると、周囲の茂みからガサガサと音が
鳴り、次々に現れる猪の群れ。

先程の雄叫びは、仲間を呼ぶためのものだったようだ。



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