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細かな打ち合わせをしたら、組合から出るのは午後になってしまった。
結局、今回のドラゴン討伐に参加するのは魔境調査隊の面々と私達と言うことになった。
多少なりとも顔見知りなのと、ルトゥールで最も練度が高い冒険者がセラさん達だったからだ。
組合の食堂で昼食をすませた私とトラヤは工房に帰ると、店舗部分でこれから作る錬金具の相談をすることにした。
今回の作戦の要はトラヤだ。彼女の魔法を強化する錬金具をできるだけ作らなければ。
「えっと、あたしが欲しいのはね。錬金晶の凄いやつ。あれを魔法を使うときの触媒にするの」
なんともアバウトな指摘に眉を潜める。きっと、本当は魔石といいたいのだろう。魔力を固めた魔石は魔法使いにしか作れない。そして、トラヤにはまだそれができないのだ。
そこで近い能力を持つ錬金晶をということだろう。
「わかった。できるだけいいのを沢山作ってみる。それより問題は水系の素材ね。ルトゥールの周辺は水系の素材が採れるところがないから……」
ドラゴン退治用の錬金具の中でも厄介なのは『氷雪の槍』の素材だった。組合である程度確保してもらえそうだったけれど、いくつか氷の多い魔境でなきゃ採れない珍しいものがある。
「肝心の錬金具が用意できないんじゃ駄目ね。リベッタさん経由でハンナ先生にお願いして、別の場所から運んで来てもらおう」
「ちょっと時間かかりそうだね……」
残念そうなトラヤに私は同意しつつ言う。
「数も用意しなきゃだからね」
ドラゴン討伐の前に錬金具の練習もすることが条件になっている。だから、素材もそれなりの数が必要なのだ。
「ねぇ、トラヤ。おば様、どれくらい保つかわかる?」
「……ごめん。わからない。イルマのポーションでどれくらい良くなってるんだろうね」
どうやら、魔法使いの目でも、生命のポーションの効果までははっきりわからないらしい。
「作っておいてなんだけれど、どのくらい効いたのか見当もつかないのよね」
二人して肩を落として息を吐く。今から氷のある魔境を探して旅立つわけには行かない。
後はハンナ先生を頼りつつ、町の中にある錬金具の店を地道にあたるしかないか。
そう思ったとき、工房の扉が勢いよく開いた。
「なにごと! って……」
「フェニアさん!」
室内に乱入してきたのはフェニアさんだった。
「はぁっ、はぁっ……。イルマ……組合で……はぁっ……聞いた……うっ」
息が荒れた様子でどうにか口を開いたけれど、フェニアさんはその場に崩れ落ちた。
慌ててトラヤが近寄る。
「イルマ! 水持って来てあげて!」
「わ、わかった!」
隣の部屋に行って、コップに錬金具で水を入れてから手渡すと、フェニアさんはぐびぐび飲み始めた。
「ぷはっ……ありがと……。本気で走ったの久しぶりすぎだわ」
そう言ってコップを私に返すと、フェニアさんが睨み付けてきた。
その圧力は凄まじく、思わず私とトラヤは後ずさる。
「冒険者組合で話を聞いたわ。ドラゴン退治をするんですってね」
なるほど。知ってしまいましたか。
「まあ、そんな感じです」
「け、結構安全に退治できるはずだよ?」
これは怒られるな、と私は覚悟を決めた。トラヤも同じだ、そういう目をしている。
しかし、フェニアさんは怒鳴らず怒らず、保っていた鞄から紙の束を取り出した。
「これ、うちの倉庫にある素材のリスト。お父さんの趣味で希少な素材が死蔵されてるから、役立つと思う」
そう言って手渡された紙の束に軽く目を通すと欲しかった素材がいくつか並んでいた。
いや、いくつかどころじゃないぞこれ。フェニアさんのお父さん、相当な物好きだ。
「凄い……これなら……」
「これ、魔法使いから見ても珍しい素材もあるよ」
私達が揃ってフェニアさんの方を見ると、彼女は真っ直ぐにこちらを見ていた。
「多分だけど、私のお母さんを助けるためなんだよね。ここまでするとは思わなかったわ」
私とトラヤはそれに答えない。言うまでもないことだ。
「絶対にちゃんと帰ってきてね。それで、お母さんを助けて」
二人で軽く視線を交わした後、私達は笑みを浮かべて言う。
「平気。あたしがイルマを守るもん」
「全力を尽くします。もちろん、命は大事にしますよ」
それから四日後、全ての準備を整えた私達は『ドラゴンのいる魔境』へと旅立った。
結局、今回のドラゴン討伐に参加するのは魔境調査隊の面々と私達と言うことになった。
多少なりとも顔見知りなのと、ルトゥールで最も練度が高い冒険者がセラさん達だったからだ。
組合の食堂で昼食をすませた私とトラヤは工房に帰ると、店舗部分でこれから作る錬金具の相談をすることにした。
今回の作戦の要はトラヤだ。彼女の魔法を強化する錬金具をできるだけ作らなければ。
「えっと、あたしが欲しいのはね。錬金晶の凄いやつ。あれを魔法を使うときの触媒にするの」
なんともアバウトな指摘に眉を潜める。きっと、本当は魔石といいたいのだろう。魔力を固めた魔石は魔法使いにしか作れない。そして、トラヤにはまだそれができないのだ。
そこで近い能力を持つ錬金晶をということだろう。
「わかった。できるだけいいのを沢山作ってみる。それより問題は水系の素材ね。ルトゥールの周辺は水系の素材が採れるところがないから……」
ドラゴン退治用の錬金具の中でも厄介なのは『氷雪の槍』の素材だった。組合である程度確保してもらえそうだったけれど、いくつか氷の多い魔境でなきゃ採れない珍しいものがある。
「肝心の錬金具が用意できないんじゃ駄目ね。リベッタさん経由でハンナ先生にお願いして、別の場所から運んで来てもらおう」
「ちょっと時間かかりそうだね……」
残念そうなトラヤに私は同意しつつ言う。
「数も用意しなきゃだからね」
ドラゴン討伐の前に錬金具の練習もすることが条件になっている。だから、素材もそれなりの数が必要なのだ。
「ねぇ、トラヤ。おば様、どれくらい保つかわかる?」
「……ごめん。わからない。イルマのポーションでどれくらい良くなってるんだろうね」
どうやら、魔法使いの目でも、生命のポーションの効果までははっきりわからないらしい。
「作っておいてなんだけれど、どのくらい効いたのか見当もつかないのよね」
二人して肩を落として息を吐く。今から氷のある魔境を探して旅立つわけには行かない。
後はハンナ先生を頼りつつ、町の中にある錬金具の店を地道にあたるしかないか。
そう思ったとき、工房の扉が勢いよく開いた。
「なにごと! って……」
「フェニアさん!」
室内に乱入してきたのはフェニアさんだった。
「はぁっ、はぁっ……。イルマ……組合で……はぁっ……聞いた……うっ」
息が荒れた様子でどうにか口を開いたけれど、フェニアさんはその場に崩れ落ちた。
慌ててトラヤが近寄る。
「イルマ! 水持って来てあげて!」
「わ、わかった!」
隣の部屋に行って、コップに錬金具で水を入れてから手渡すと、フェニアさんはぐびぐび飲み始めた。
「ぷはっ……ありがと……。本気で走ったの久しぶりすぎだわ」
そう言ってコップを私に返すと、フェニアさんが睨み付けてきた。
その圧力は凄まじく、思わず私とトラヤは後ずさる。
「冒険者組合で話を聞いたわ。ドラゴン退治をするんですってね」
なるほど。知ってしまいましたか。
「まあ、そんな感じです」
「け、結構安全に退治できるはずだよ?」
これは怒られるな、と私は覚悟を決めた。トラヤも同じだ、そういう目をしている。
しかし、フェニアさんは怒鳴らず怒らず、保っていた鞄から紙の束を取り出した。
「これ、うちの倉庫にある素材のリスト。お父さんの趣味で希少な素材が死蔵されてるから、役立つと思う」
そう言って手渡された紙の束に軽く目を通すと欲しかった素材がいくつか並んでいた。
いや、いくつかどころじゃないぞこれ。フェニアさんのお父さん、相当な物好きだ。
「凄い……これなら……」
「これ、魔法使いから見ても珍しい素材もあるよ」
私達が揃ってフェニアさんの方を見ると、彼女は真っ直ぐにこちらを見ていた。
「多分だけど、私のお母さんを助けるためなんだよね。ここまでするとは思わなかったわ」
私とトラヤはそれに答えない。言うまでもないことだ。
「絶対にちゃんと帰ってきてね。それで、お母さんを助けて」
二人で軽く視線を交わした後、私達は笑みを浮かべて言う。
「平気。あたしがイルマを守るもん」
「全力を尽くします。もちろん、命は大事にしますよ」
それから四日後、全ての準備を整えた私達は『ドラゴンのいる魔境』へと旅立った。
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