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13.曇り山の戦い2

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「ドラゴンの様子は?」
「まだ寝てる。一発かませそうだな」

 準備を終えた俺達はドラゴンの住処の近くまで戻って来た。
 平らな山頂、瓦礫はあるが足場はそれほど悪くない。ドラゴンのサイズは5メートルくらいか? これでスモールかよ。成体じゃなかったことに感謝しておこう。

「手はず通り、俺が前で戦うぜ」
「私がこっそり回り込んで斬りかかり」
「わたくしが魔法で援護ですわね」
「よし、行くぜっ」

 小声で力強く言ってから、俺はドラゴンに向かって駆けだした。
 
 モヒカンマッチョの身体は、鈍重なパワー型に見えてスピードがある。何せ天使だ、破格のステータスだ。ドラゴンよりも早い!

「ぬんっ!」

 雄叫びをあげて突撃したいところだが、せっかく相手が就寝中だ。極力声を抑えて、斧をブーメランモードで投擲。
 景気よく回転した斧は眠っているドラゴンの左目をきっちりと切り裂いた。

「グオオオオオオオオ!」

 辺りの景色が歪むほどの雄叫びが上がった。

「どうやら、目は覚めたみたいだな。片方だけだがな」

 戻ってきた斧を手に、俺はドラゴンに不適な笑みを向ける。
 当たり前だが、ドラゴンは残った目で怒りに満ちた視線を向けてきた。こえぇ。

「オオオォォ!!」

 怒りの咆吼をあげ、俺の方に突っ込んできた。大口開けて食らいつく気か。早いっ!
 だが、俺の方がもっと早い。シーニャの援護魔法で素早さが上乗せされてるからな!

「ここに天敵がいないからって油断しすぎだぜ!」

 地面を蹴って俺はドラゴンの突撃を回避。当然、潰した左目の方向に回り込む。死角から攻撃してやる。

 左側面に回り込み、片足を潰してやろうと思った時だった。
 奴の首に。丸い水晶のようなものがあるのが目に入った。
 天使の視力は、それが水晶では無く、真っ黒な瞳の竜の眼球であることをはっきりと捉えた。

 こいつは、頭以外にも目を持っている。
 それに気づいたのと、ドラゴンの左手がこちらに向かって無造作に振られたのは同時だった。

「うおおおおおお!!」

 斧を投擲して俺だけ離脱? 間に合わない。なら、斧を叩き込むしかねぇ!
 迫る巨大なかぎ爪目掛けて、俺は斧を振り下ろした。
 結果、勝負は互角だった。
 ドラゴンの指は吹き飛び。俺は手の残った部分にはじき飛ばされる。

「ぐへっ……。へっ、生きてやがる。俺がな」

 数メートル吹き飛ばされたが、素早く立ち上がり、怪我を確かめる。生来の頑丈さと防御魔法のおかげで、少し傷ついただけだ。打撃の方は凄く痛かった。

 ドラゴンがゆっくりとこちらを向く。指まで切り飛ばされて、怒りは倍増した模様。
 逆に俺の方は自分の攻撃力と防御力を確認できて大満足だ。これなら相当持ちこたえられる。
 視界を奪えなかったのは誤算だが、十分戦える。
 そう思った時だった。

「ん……?」

 ドラゴンが大きく息を吸った。

「まさか、ブレスってやつか?」

 ――ドラゴンのブレスはただの息ではなく、一種の魔法。ダークドラゴンの場合は黒い光のようなものを吐き出しますわ。

 シーニャから教わった、そんな知識が脳裏をよぎる。
 直後、答え合わせのように、ドラゴンの口から黒い光が放たれた。

「完全にビームじゃねぇかぁあああ!」
 
 俺は慌てて身体をひねって回避に入る。やべぇ、避け切れねぇ!
 
 その時、いきなりドラゴンの頭が爆発した。
 爆発は無理矢理、ドラゴンの頭の角度を変えた。
 ブレスは俺を大きく外れて空に向かって放たれる。

「魔法。シーニャか!」

 返事はなかった。シーニャは物陰から隠れて援護する係だ。ドラゴンに見つかって狙われたらたまらない。
 仲間がいて本当によかった。俺は心底そう思った。

 そして、ブレスに失敗した今がチャンスだ。頭が上を向いてるから首が丸見えだしな。

「ヒャッハアアアア!」

 気合いの雄叫びと共に、俺はドラゴンの首目掛けて斧を投擲した。
 狙い違わず、首を切り裂き、斧は戻ってくる。

「チッ。切り落とせねぇか」

 思ったよりも傷は浅かった。ドラゴンの首の切り口からどす黒い液体が出て地面を汚したが、すぐ止まってしまった。生命力のあるやつだ。
 こうなりゃ、直接頭に斧を叩き込んで、爆炎で始末してやる。

「どうにかして動きを止めてくれ! 直接斧を叩き込む!!」

 そう叫び、俺はドラゴンに向かって走る。シーニャとセインが上手くやってくれることを祈りながら。

「とうっ!」

 俺目掛けて腕が振るわれたのを見て、空高くジャンプ。高性能な身体って素晴らしい。
 調子に乗っていられたのはそれまでだった。

 いきなり上半身を持ち上げたドラゴンが、指の無い手を勢いよく振ったのだ。
 その打撃は、空中で動けない俺をしっかり捉えていた。
 
 俺は瓦礫の山に叩き付けられた。

「ぐ……いってぇ……」

 全身に激痛。血が出てる感覚がある。右手に斧は持ってる。意識もある。
 ……まだ戦えそうだ。そう思って態勢を立て直し、目の前にドラゴンの顔があることに気づいた。

「マジかよ……」

 俺が絶句した時、味方の叫びが聞こえた。

「おおおおお! カーン殿ぉおお!」

 ぼやけた視界の向こうに、全身を魔法の光につつみこんだセインが、ドラゴンの背中目掛けて跳躍したのが見えた。
 その手に持つのは、剣ではなく、光だ。
 セイン・ライクレイの持つ魔法剣は雷の力を秘めていて、持ち主が魔力を込めるほど真の姿に近づいていくという。

「雷を受けるがいいっ!!」

 雷が、ドラゴンの背中に直撃した。

「グオォォォオオオオオオオ!!」
 
 雷の轟音とドラゴンの咆吼で、周囲が震える。
 俺達の攻撃はこれで終わらない。
 痛みに身を歪め、瘴気を振りまくドラゴンの身体を、周囲から生えてきた魔法のロープが取り巻き始めた。
 シーニャの魔法だ。少しずつ動きを阻害し、ついにはドラゴンの頭が地に落ちた。
 つまり、俺の目の前に。

「カーン様! 長くは持ちませんわ! とどめを!」
「……ああ、もちろんだぜ…………」

 痛む身体を無理矢理動かし、魔法で口を閉じられたドラゴンの顔を見据える。
 その目は相変わらず、怒りと憎悪に満ちていた。

「わりぃな。妖精の里の近くに住み着いた自分を恨みな」

 そう言って、閉じた口目掛けて、全力で斧を振り下ろした。
 斧は竜の皮膚と牙を切り裂き、そのまま口の中で止まった。

 今、斧は、ドラゴンの口の中にあるわけだ。
 俺はドラゴンを吹き飛ばすくらいの爆炎をイメージしながら叫んだ。

「汚物は消毒だああぁああああああ!!」

 身体の内側から神具の爆炎を受けたスモール・ダークドラゴンは。全身を爆発四散させて絶命した。
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