10 / 58
10.
しおりを挟む
森の広場に再び地を揺らす轟音が響く。頭、胴体、腕、足と全身に光槍を突き立てられた魔王のキメラは痛みと怒りで吠え狂う。
「まだ生きてる……」
<<信じ難い>>
俺と銀狼の意見が合致した瞬間だった。
キメラは健在だ。通常なら貫かれて死亡。それでも生きていれば体内から魔力で焼かれて死亡という二段構えのえげつない魔法だというのに。全身から血しぶきを上げながらも、体を再生させながら動いている。
<<危険、ブレスが来る>>
「……!?」
見れば、キメラがこちらに向けて口を開いていた。光槍に頭を貫かれたまま、強引に身体を動かして。紅い瞳はあくまで俺達を獲物と定め、凝視してくる。その執念、その生命力は脅威そのもの。
「……ハイ・プロテクション!」
一瞬その光景に飲み込まれそうになったが、身体が自然と魔法を唱えていた。
俺と銀狼達を守るように半球状の魔法の結界が完成するのと、強引に身体を動かしたキメラが口からブレスを吐いたのは同時だった。
ドラゴンのブレスは一種の魔法だ。魔王の魔力の影響で黒い炎ともいえるそれが勢いよく吐き出され、周囲を焼き尽くす。巨体から繰り出すブレスの範囲は並じゃなく、広場を越えて後ろの森の木々をなぎ倒し、そのまま一気に燃やす。
<<感謝する。イストよ>>
「気にしないでください。相手の戦力を見誤った俺のミスです」
結界を解きながら、キメラを見据える。全身に刺さった光槍は消えていた。恐らく、体内に蓄えた莫大な魔力で無理矢理解除したんだろう。恐ろしいことに、もう傷痕すら残っていない。拘束魔法はまだ保っているが、それも時間の問題だろう。
このキメラを倒す手段は二つ。
魔王の込めた生命力が尽きるまで攻撃を続けるか。
あるいは、回復する余地もないほど一撃で吹き飛ばすかだ。
俺は、後者を選択した。多分、何とかなりそうなので。
「戦神ミストルよ。この日、この地、この場の決戦を、捧げ奉る」
ミスリルの剣を両手に持ち、眼前に構え、静かに言葉を紡ぐ。
俺がかつて神界に赴いた際、特に力を貸してくれた神様が数柱いる。
ミストルはその一つで、強大な敵との決戦があれば、力を貸してくれる存在だ。
「我が剣、我が刃、我が力に、敵を討ち果たす加護を……」
祈りによって神様から授けられる力は非常に強力だ。反面、神様の気分次第で発動しないこともある。
この祈りが届かない場合、この辺り一体の森が壊滅するのを覚悟で、キメラと戦わなければならない。できれば、それは避けたい。
果たして、祈りは通じた。
ミスリルの長剣の内側から黄金色の光が溢れ、刀身を覆う。戦神が与えてくれた、必殺の力。これを受けて無事なのは魔王くらい。
「ちょっとずるっぽいが、これで決めさせてもらう!」
<<我らも行こう>>
思念が聞こえると同時、銀狼達が拘束されているキメラに向かって走り出した。彼らの目的は牽制。目が二つしか無いキメラの視界を遮るように、素速い動きで翻弄に掛かる。
拘束され、視界を奪われたキメラに接近するのは、あまりにも簡単だった。
正面から距離を詰めた俺は、身体強化で飛び上がり、三メートル以上の高さにある胴体の前に到達。
狙いは頭ではなく、身体の中心。
ここが魔王の込めた魔力の源泉だ。
「いけぇ!」
叫びと共に、黄金に輝く刃を突き立てた。
戦神の加護を受けた刃はキメラの身体を易々と貫いた。まるで、豆腐に箸でも突き立てるような感覚だ。
銀の森に、三度大地を震わす轟音が響く。
しかし、違うのはその性質だ。最初と二つ目は怒りの咆吼。三度目は悲鳴。
「……やったか! いや、今の無し。倒してから言う!」
着地と同時に思わず良くない台詞が出てしまった。喜ぶのは撃破を確認してからだ。
素速く距離を取り、魔王のキメラを見上げる。悲鳴とも慟哭ともつかないその声は徐々に細り、拘束魔法の影響で、全身が傷だらけになっていく。
間違いない、胴体に突き立った剣の力で回復力の源を砕かれた影響だ。
<<見事だ。我らが恩人イスト>>
いつのまにか隣に来ていた銀狼のリーダーの言葉が聞こえた。勝利を確信した言い方だった。
回復できなくなった魔王のキメラは見る間に弱っていた。このまま拘束魔法に任せておいても倒しきれるだろう。
「終わらせましょう」
とんでもない化け物とはいえ、じわじわとなぶり殺すのは趣味じゃない。それに、死ぬ間際になにかされると面倒だ。
俺は脳内で魔法を用意。周囲に光り輝く槍が生み出される。
「……裁きの光槍よ、貫け!」
二十本の光槍は、今度こそ魔王のキメラに止めを刺した。
「まだ生きてる……」
<<信じ難い>>
俺と銀狼の意見が合致した瞬間だった。
キメラは健在だ。通常なら貫かれて死亡。それでも生きていれば体内から魔力で焼かれて死亡という二段構えのえげつない魔法だというのに。全身から血しぶきを上げながらも、体を再生させながら動いている。
<<危険、ブレスが来る>>
「……!?」
見れば、キメラがこちらに向けて口を開いていた。光槍に頭を貫かれたまま、強引に身体を動かして。紅い瞳はあくまで俺達を獲物と定め、凝視してくる。その執念、その生命力は脅威そのもの。
「……ハイ・プロテクション!」
一瞬その光景に飲み込まれそうになったが、身体が自然と魔法を唱えていた。
俺と銀狼達を守るように半球状の魔法の結界が完成するのと、強引に身体を動かしたキメラが口からブレスを吐いたのは同時だった。
ドラゴンのブレスは一種の魔法だ。魔王の魔力の影響で黒い炎ともいえるそれが勢いよく吐き出され、周囲を焼き尽くす。巨体から繰り出すブレスの範囲は並じゃなく、広場を越えて後ろの森の木々をなぎ倒し、そのまま一気に燃やす。
<<感謝する。イストよ>>
「気にしないでください。相手の戦力を見誤った俺のミスです」
結界を解きながら、キメラを見据える。全身に刺さった光槍は消えていた。恐らく、体内に蓄えた莫大な魔力で無理矢理解除したんだろう。恐ろしいことに、もう傷痕すら残っていない。拘束魔法はまだ保っているが、それも時間の問題だろう。
このキメラを倒す手段は二つ。
魔王の込めた生命力が尽きるまで攻撃を続けるか。
あるいは、回復する余地もないほど一撃で吹き飛ばすかだ。
俺は、後者を選択した。多分、何とかなりそうなので。
「戦神ミストルよ。この日、この地、この場の決戦を、捧げ奉る」
ミスリルの剣を両手に持ち、眼前に構え、静かに言葉を紡ぐ。
俺がかつて神界に赴いた際、特に力を貸してくれた神様が数柱いる。
ミストルはその一つで、強大な敵との決戦があれば、力を貸してくれる存在だ。
「我が剣、我が刃、我が力に、敵を討ち果たす加護を……」
祈りによって神様から授けられる力は非常に強力だ。反面、神様の気分次第で発動しないこともある。
この祈りが届かない場合、この辺り一体の森が壊滅するのを覚悟で、キメラと戦わなければならない。できれば、それは避けたい。
果たして、祈りは通じた。
ミスリルの長剣の内側から黄金色の光が溢れ、刀身を覆う。戦神が与えてくれた、必殺の力。これを受けて無事なのは魔王くらい。
「ちょっとずるっぽいが、これで決めさせてもらう!」
<<我らも行こう>>
思念が聞こえると同時、銀狼達が拘束されているキメラに向かって走り出した。彼らの目的は牽制。目が二つしか無いキメラの視界を遮るように、素速い動きで翻弄に掛かる。
拘束され、視界を奪われたキメラに接近するのは、あまりにも簡単だった。
正面から距離を詰めた俺は、身体強化で飛び上がり、三メートル以上の高さにある胴体の前に到達。
狙いは頭ではなく、身体の中心。
ここが魔王の込めた魔力の源泉だ。
「いけぇ!」
叫びと共に、黄金に輝く刃を突き立てた。
戦神の加護を受けた刃はキメラの身体を易々と貫いた。まるで、豆腐に箸でも突き立てるような感覚だ。
銀の森に、三度大地を震わす轟音が響く。
しかし、違うのはその性質だ。最初と二つ目は怒りの咆吼。三度目は悲鳴。
「……やったか! いや、今の無し。倒してから言う!」
着地と同時に思わず良くない台詞が出てしまった。喜ぶのは撃破を確認してからだ。
素速く距離を取り、魔王のキメラを見上げる。悲鳴とも慟哭ともつかないその声は徐々に細り、拘束魔法の影響で、全身が傷だらけになっていく。
間違いない、胴体に突き立った剣の力で回復力の源を砕かれた影響だ。
<<見事だ。我らが恩人イスト>>
いつのまにか隣に来ていた銀狼のリーダーの言葉が聞こえた。勝利を確信した言い方だった。
回復できなくなった魔王のキメラは見る間に弱っていた。このまま拘束魔法に任せておいても倒しきれるだろう。
「終わらせましょう」
とんでもない化け物とはいえ、じわじわとなぶり殺すのは趣味じゃない。それに、死ぬ間際になにかされると面倒だ。
俺は脳内で魔法を用意。周囲に光り輝く槍が生み出される。
「……裁きの光槍よ、貫け!」
二十本の光槍は、今度こそ魔王のキメラに止めを刺した。
0
お気に入りに追加
1,093
あなたにおすすめの小説
俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~
平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。
異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。
途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。
しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。
その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう
サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」
万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。
地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。
これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。
彼女なしの独身に平凡な年収。
これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。
2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。
「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」
誕生日を迎えた夜。
突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。
「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」
女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。
しかし、降り立って彼はすぐに気づく。
女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。
これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
触手無双 エッチなスキルとはもう言わせない
イッシー
ファンタジー
前世の記憶をちょっと忘れた形で転生した主人公が気がつけば、樹海の中。魔法を多種多様に使う選民意識の高い家族に捨てられた彼は、有名かつ変態な冒険者に拾われ、生活していくことになる。
そこで彼は魔法ではなく、あるスゴイ才能と特別な力が目覚めた。
その力とはーーーーーーーー触手だった。
これはエロスキル言われた『触手』という能力な平熱系怠惰な主人公が、自覚のないまま最強へと成長していくコメディファンタジーである……。
※更新は基本一週間に一度程度でしたが、仕事の関係で不定期にします
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる