オワッテル。

九重智

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第十三話

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 日本の首都ってのに人が馬鹿みたいに集っていることは俺も知っていたが、しかしこれほどとは思わなかったな。渋谷駅に降り立ったとき、俺は思わず身震いしたね、何てったって若い奴が多い。俺は人酔いってのをはじめてしたね、ハチ公前の異常なたむろ、スクランブル交差点は吐き出した人と同量のものを吸い込む、その姿はまるで鯨で、人間がプランクトンのように行き来している。飲み込まれる人、その喉元で人を待つ人、いや彼らも人を待っているんじゃなくて俺みたいに何かを待っているのかもしれない、そういう意味ではあいつらもマイメンじゃないかな。

 それだけじゃない、俺は彼らをマイメンと思いつつ、なぜだろう、全員が全員、何か特別な才能を秘めたやつらに見えた。彼らは俺が以前おどろいたようなお洒落具合で外に出ている。うちの地元じゃまずファッションリーダーだな。そしてそのお洒落がありえないほどの高いビルに映えて、とてつもない自信の表れに見えるんだ。たとえばハチ公後ろの座り心地悪そうな腰掛けをつかう女の子は何かの読者モデルかもしれないし、懸命に弾き語りしている兄ちゃんは未来のポップスターかもしれない、タトゥーをいれてるMAワンを着た青年はラッパーに見える。たぶんこの街は星の数ほどの若者が夢に命を賭け、その同じ数だけ夢が消えていく街なんだろう。そういう意味で、俺はここに来てよかったと思っているよ。

 俺はまず色んな不動産屋を歩いて回った。回ったのは江戸川区、ネットでそこが一番安いって見たんだ。それでも平均は六万もするらしく、うちの地元じゃ破格だ。もちろん簡単に決められない。だから俺は事故物件を探している。人が死んでようが幽霊がでようが関係ないね、金は小説の次に大事だということは俺も知っているんだ。結局俺は家賃三万のところを見つけた。

 バイトはここでもコンビニだ。知らないところで知らない仕事をはじめるより慣れたものをしたほうがいいからな。俺はこう見えても正社員の打診があったんだ、東京のボンボンよりきっとまともにさばけるさ。

 新しい生活、新しい景色、新しい関係、それはいつだって人を奮起させる。俺はまだ自信がない、この社会に行き抜ける自信が。だがそれがないことは何にも言い訳にならないさ。俺は生きるぞ、兄弟。終わってないよ俺は、まだ全然終わってやしないんだ。
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