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第四章
第六十話
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秋子は病床で姉と再会できた。
「雪ちゃん、生きていたのね」
「こっちの台詞よ。なんであんなことしたの」
「そんな言い方ないんじゃないかしら。自分でも奇跡的な生還だと思うけど」
「貴方はあんまり覚えてないの?」
「覚えてないわ、全然」
「あんまり聞かないほうがいいわ。すこしショックかもしれないもの」
「何絡みのショック?」
「恋人絡みよ」
「……夏ちゃんが?」
「いいえ、死んではないわ」
「ああ、そうなの。よかった」
「……心中しようとした人とは思えない言葉ね」
「別にわたしは死にたかったわけではないわ」
「じゃあどうして」
「わたしが死ねば雪ちゃんは生きるもの」
「……」
「ねえ、そうでしょう? 雪ちゃんはそういう人よ。わたし誰よりも知っているもの。雪ちゃんはわたしが死んだら死ねなくなるわ。真面目ですもんね、人のために犠牲になることはいいのに、自分のために犠牲になるのは嫌なんですもの。わたしが犠牲になったりしたら猶更」
「私は貴方のことが嫌いに見えるようい振る舞ったのに」
「実際、すこし嫌いだったでしょう?」
「……ええ。嫉妬ばかりね。いま考えると。嫉妬ばっかりで、誰かの愛を素直に受け取れない体質なの」
「でもわたしは雪ちゃんのことが好きよ。それだけは信じてくれる? わたしは雪ちゃんが何よりも好き。雪ちゃんもそうでしょう。最近のは、とにかく何でも嫌いになりたい時だったってだけの話。でも演技が下手よ、雪ちゃんは」
「……貴方は、」
「ねえ、やめてその貴方って呼び方」
「……アキは、いつから私を好きなの」
「姉妹よ、変な質問」
「じゃあ姉妹じゃなければ私のことは好きじゃなかった?」
「わからないわ。姉妹じゃなければわたしはわたしでなかったろうし。……ねえ、理由なんてやめにしましょう。くだらないわ。理由が言える愛なんてきっと大したことないのよ」
「……」
「ねえ、仲直りしましょう」
「いまさらできるかしら」
「一緒にピアノを弾いたらすぐよ。……そういえば、ご褒美の連弾もまだだったわ」
「ならまた練習しないと」
「ねえ!」
「雪ちゃん、生きていたのね」
「こっちの台詞よ。なんであんなことしたの」
「そんな言い方ないんじゃないかしら。自分でも奇跡的な生還だと思うけど」
「貴方はあんまり覚えてないの?」
「覚えてないわ、全然」
「あんまり聞かないほうがいいわ。すこしショックかもしれないもの」
「何絡みのショック?」
「恋人絡みよ」
「……夏ちゃんが?」
「いいえ、死んではないわ」
「ああ、そうなの。よかった」
「……心中しようとした人とは思えない言葉ね」
「別にわたしは死にたかったわけではないわ」
「じゃあどうして」
「わたしが死ねば雪ちゃんは生きるもの」
「……」
「ねえ、そうでしょう? 雪ちゃんはそういう人よ。わたし誰よりも知っているもの。雪ちゃんはわたしが死んだら死ねなくなるわ。真面目ですもんね、人のために犠牲になることはいいのに、自分のために犠牲になるのは嫌なんですもの。わたしが犠牲になったりしたら猶更」
「私は貴方のことが嫌いに見えるようい振る舞ったのに」
「実際、すこし嫌いだったでしょう?」
「……ええ。嫉妬ばかりね。いま考えると。嫉妬ばっかりで、誰かの愛を素直に受け取れない体質なの」
「でもわたしは雪ちゃんのことが好きよ。それだけは信じてくれる? わたしは雪ちゃんが何よりも好き。雪ちゃんもそうでしょう。最近のは、とにかく何でも嫌いになりたい時だったってだけの話。でも演技が下手よ、雪ちゃんは」
「……貴方は、」
「ねえ、やめてその貴方って呼び方」
「……アキは、いつから私を好きなの」
「姉妹よ、変な質問」
「じゃあ姉妹じゃなければ私のことは好きじゃなかった?」
「わからないわ。姉妹じゃなければわたしはわたしでなかったろうし。……ねえ、理由なんてやめにしましょう。くだらないわ。理由が言える愛なんてきっと大したことないのよ」
「……」
「ねえ、仲直りしましょう」
「いまさらできるかしら」
「一緒にピアノを弾いたらすぐよ。……そういえば、ご褒美の連弾もまだだったわ」
「ならまた練習しないと」
「ねえ!」
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