ピアノの家のふたりの姉妹

九重智

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第四章

第五十一話

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 ある日の夜、飯島はこんなことを訊いた。

「なんで雪さんはそんなに僕のためにしてくれるんだい」

「そういわれるほど、とくにしてないわ」

「いや、じゅうぶんやってくれているよ。この家賃だって君がほとんど払っている」

「ここの家賃、すごく安いの。東京とは思えないわ」

「だとしても他人のために……」

「いやね、そんな言い方。他人だなんて」

「どうして僕にそこまで?」

「貴方が私を好きと言って、私が貴方を好きだからよ」

「それでもふつうこんなにはしない」

「私のふつうと貴方のふつうは違うわ」

「……」

「貴方、自分に自信がないのね。可愛らしいけど、すこし卑屈よ。私ね、いまとても幸せなの。貴方は秋子より私のほうが素敵と言ったわ。覚えている?」

「……ええ」

「貴方は私にあそこまで話してくれたのだから、私も話すわ。私ね、いままで愛されたことがなかったの。何も努力せずに愛されたことがね」

「秋子さんがいるでしょう」

 飯島は時田の名をあえて出さなかった。

「家族愛、姉妹愛なんてものはどこまでいっても異性愛、性愛には勝てないものよ。あの人たちが私にむける愛は、私の性を忘却することで起きた愛よ。あるいは血の愛。でもそれが本当の愛だと思って? そんな愛に満足できる人間は一握りよ。私は私という一人の女を愛する人に会ったことがなかった。それがどんな屈辱かわかる? 時田だってそうよ。あいつは私ではなく、私の先にあるアキを見ていたの。私と世界とのかかわりは、すべて秋子との血を背景にして、それが当然と思っていたわ。でも貴方と会ってまるきり変わったの。貴方のおかげよ、すべて」

「僕のおかげ」

 飯島は反芻して、舌の痺れを感じた。
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