7 / 7
そして動き出した箱の中で
しおりを挟む「……って、え?」
「ホント、にぶいんだから」
香織は笑っていたが、声は震えている。
「『頂上で必ず言う』って、しかもビックリマーク三つで、あの内容?」
「え……とね」
「どこのクライアントでもNGだよ、それじゃ」
「あのそれは実は」
真っ赤になってことばを詰まらせていた和人、はっと我に返る。
あの着ぐるみだ。あれ、煙草の匂いでなぜ気づかなかったんだろう。
シゲノブの野郎め。
それで俺は上着を脱いで、とっさに手を出してきたミナちゃんに預けた。
その時、落とした……いや、だったらシゲノブがわざわざぶつかるか?
ミナちゃんと、シゲノブ……グルだったのか?
「ねえ、」
香織が静かに続ける。
「本当のことばを、聞かせて」
顔を上げた和人は、もう迷っていなかった。
「香織、じゃあ言うけど……
これからもずっとそばにいてくれ」
「別に……いいけど?」
小首を傾げて見上げた香織を、彼はぎゅっと抱きしめた。
しばらく抱き合ってから、香織は「ごめん」と涙を拭いてどこかにメールをしたようだった。
すぐに電源がすべて復旧する低い唸りが響き、ゴンドラがかすかに揺れた。
「今のメール何?」
香織は画面を和人に向けた。相手はミナとシゲノブ、文面は簡単に
『ОK!』
和人は絶句して思わず立ち上がる。
遊園地の面した湖上、いくつもの白い光がゆらめき立ち上がり、暗い夜空にいくつもの光の華を咲かせた。
真ん中に淡いピンクの光がハートマークを浮かび上がらせる。
「な、なんなのあれは」
上ずった和人の声に、香織がふふ、と楽しげに答えた。
「お祝い、じゃない?」
「お、おいわい??」
次々と上がる花火の輝きに照らされ、香織はうるんだ瞳の中にいくつもの星をたたえながら、いたずらっぽくこう答えた。
「うん。ミナちゃんのパパ、ここの総支配人なんだ」
0
お気に入りに追加
6
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
私と彼の恋愛攻防戦
真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。
「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。
でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。
だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。
彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
私の好きなひとは、私の親友と付き合うそうです。失恋ついでにネイルサロンに行ってみたら、生まれ変わったみたいに幸せになりました。
石河 翠
恋愛
長年好きだった片思い相手を、あっさり親友にとられた主人公。
失恋して落ち込んでいた彼女は、偶然の出会いにより、ネイルサロンに足を踏み入れる。
ネイルの力により、前向きになる主人公。さらにイケメン店長とやりとりを重ねるうち、少しずつ自分の気持ちを周囲に伝えていけるようになる。やがて、親友との決別を経て、店長への気持ちを自覚する。
店長との約束を守るためにも、自分の気持ちに正直でありたい。フラれる覚悟で店長に告白をすると、思いがけず甘いキスが返ってきて……。
自分に自信が持てない不器用で真面目なヒロインと、ヒロインに一目惚れしていた、実は執着心の高いヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、エブリスタ及び小説家になろうにも投稿しております。
扉絵はphoto ACさまよりお借りしております。
悪女の騎士
土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
孤児のギルバートは美しい令嬢レティシアに拾われて彼女の騎士になる。
誰もが振り返る美貌の令嬢に類を漏れず懸想したが、彼女は社交界では名高い悪女と名高い令嬢であった。
彼女を最も近くで見ているギルバートはその憂いを帯びた表情や時折みせる少女らしい顔を知っている。
だから地獄から救ってくれた彼女を女神だとは思っても悪女だなんて思えなかった。
だが知ってしまった。
レティシアが騎士を側において育てたのは、ギルバートに自分を殺させるためだった。
「苦しませずに殺してね」
最愛の人をこの手で殺さない未来のためにギルバートは奮闘する。
強制力に縛られたループ令嬢とその忠犬騎士の物語。
たとえこの想いが届かなくても
白雲八鈴
恋愛
恋に落ちるというのはこういう事なのでしょうか。ああ、でもそれは駄目なこと、目の前の人物は隣国の王で、私はこの国の王太子妃。報われぬ恋。たとえこの想いが届かなくても・・・。
王太子は愛妾を愛し、自分はお飾りの王太子妃。しかし、自分の立場ではこの思いを言葉にすることはできないと恋心を己の中に押し込めていく。そんな彼女の生き様とは。
*いつもどおり誤字脱字はほどほどにあります。
*主人公に少々問題があるかもしれません。(これもいつもどおり?)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる