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第七章 12月

真相をはっきりさせる時が

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 送付のリミットと定めた十二月上旬、活動日の七日のこと。
 先日送ったカートリッジについても無事、点数ハガキが送られてきていた。
 五箱で総点数は一万二千二百ちょうど。
 しかし、手元に集まったサンマークをすべて出し切っても、合計で
「ようやく、十二万二千点……」
 春日が絞り出すように点数を告げる。

 七千点、足りなかった。

 カートリッジがあと三箱分集まればゆうに達成できる数値だが、これからカートリッジをリサイクルセンターに送って、その結果を待ってからサンマークの集計に加えるのでは、とうてい三月末の『残高』には間に合わなくなる恐れがある。
 一枚二〇〇点になるグリーンスタンプも、二学期から保護者会などを通じて寄付してもらったのだが、それでも点数は伸びなかった。

 不足を承知で、締めを行うか。
 最後のふんばりを見せて、来週まで粘るか。

「来週まで頑張りましょうよ」
 伊藤が頬を染めて強調する。
「一週間あれば、もう少し集まります、家庭に眠っている分をとにかく集めてもらって、あと、公民館にも毎日チェックに行って……」
「なんて名前の酒だっけ、ウチもそれに替えるからさ。チョコも箱買いするわ」
 フジコもそういきまいている。
「とにかくマークついてるモンしか買わねえようにする」
「あらあら」
 ミドリコが笑う。
「駄目ですわ、そんなご無理は。委員長だってお許しになりません」
「オマエんちはどうせ何も買ってないんだろう?」
「それでも、電池だけはサンマーク付きのものにしましてよ。あと、浄水器も購入してみましたわ。フィルターカートリッジにサンマークがついてますの」
「おおお」春日がうめく。
「ほとんど見たことのないマーク番号六六、点数も微妙に高い、高貴なお品……近ごろお見かけするようになったと思えばなんとミドリコさんが」
「セレブだわー」
 そんなどよめきにもいっこうになびくことなく、ミドリコが続ける。
「それでも、一週間で七千点新しく集めるのは、無理があるわ」
 ミドリコは、腕組みをしている。しばし、険しい表情をしていたが、
「まあいいでしょ」
 眉根をゆるめ、皆に微笑んだ。
「とにかく、今日の分でいったん締めましょう。やることは、やったのですから」
 そう言って、不安げな皆の顔をひとりひとり見渡す。
「もし、追加がある程度集まってきたら、その都度こまめに財団に送る……年間何回送るか、何点以上で送るかというのは、特に規定もありませんから、できるだけ、粘ってみましょう。もしかしたら、三月末までに追加の検収結果も届くかも知れません」
 なーるほど副委員長頭いい! 春日は思わず拍手している。
 そこに、伊藤が思い出したように言った。
「そう言えば、今日来た時も」
 得意げに茶封筒を持ち上げる。
「ヤマダ先生から、また近所の方にいただいた、って」
 目がハートになっている。
「この前より少ないけど、良かったら、って。で、何か問題があったら相談に乗りますからね、って」
「あら、そうでしたの」
 ミドリコは、いつものことかという感じで軽く応えている。
「で、伊藤さんは何と?」
 伊藤は茶封筒に頬ずりせんばかりだった。
「これも今日の発送に間に合うように、がんばって集計します、って答えておきましたよ!」
 
 伊藤の努力のかいもあって、新しくヤマダが持ってきた百七十九点も加えられた。

 財団に送るばかりにまとめられた小包を、
「紀美さん、事務室に持って行くのを手伝ってくださる」
 そう、ミドリコが手招きしたので、紀美は仕方なくついて行った。

 いつも発送する荷物は教頭に預けるのだが、教頭不在の時には事務室に預けることになっていた。
 今日は教頭が出張に出ているのだそうだ。
 事務室まで来ると、意外にもミドリコは
「すみません……」
 殊勝な声音で、事務長にこう告げた。
「ちょっと、荷物に不備があったのに今気がついて……こちらで郵送しますので、来週、領収書で精算していただいても、よろしいでしょうか?」
 そのまま、荷物を脇に抱いたまま、事務室を後にした。

「不備、何かありました?」
 昇降口を出た時、紀美がそう訊ねると
「紀美さん……」
 かなり、言い淀んでいたミドリコは急にきっ、と鋭い目線を紀美に向けた。
「今から、対決に行くけど……つきあってみる気は、あります?」
「えっ……」
 ミドリコの目の中に切羽詰まった光を見て、紀美は思わず、うなずいていた。

 その代わり……教えてくれますか?
 おずおずと紀美はそう尋ねる。
「ミドリコさん、何か掴んだんですね」
「たぶん」
 ふり向いたミドリコは、いつもの鷹揚な口調に戻っていた。
「真相をはっきりさせる時が、来たようですわ」
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