上 下
246 / 251
二十六章 決着

2

しおりを挟む
まぁ、とにもかくにも、だ。

そーして表面上は何の変化もなく過ぎた日が一変したのは、俺がアルフォンソを連れ帰ってから数えて四日後の夜遅く。

レイジスがクライン邸に到着してからの事だった。

元々レイジスの家臣軍団や護衛のトルス兵もこっちに向かってるって話だったからよ、俺はてっきり相当な大所帯でパーンとド派手にやって来るんだと思ってたが、実際はその真逆だった。

レイジスと、その護衛が三人っていう、逆にこっちが道中の心配をしちまう様な少人数での、それもかなり静かなお忍びでの登場だ。

しかもどーゆールートをどーゆー風にやって来たのか、着いた時は馬車さえ使わず徒歩でさ。

……まぁ、皆特にこれっていう目立つ格好もしてねぇし、レイジスはちゃんと灰色のフードを目深に被ってたし、道中誰かに怪しまれたりなんて事たぶんなかっただろーけど。

けど……。

「レイジス兄上……!」

「殿下……!
よくぞご無事で……!」

ミーシャやガイアス、それにその他の面々もレイジスの登場に歓喜する中、俺は──……。

思わず一人嫌~な顔でレイジス……じゃあなく、その三人の護衛の内の一人、俺から見て一番右端に立つ男の方を見た。

……いや、目についちまった。

服装はもちろん他の面々と同じ、目立つ所のねぇ旅人スタイル、なんだが、それが更に違和感っつーか。

普段からの態度の悪さ、ガラの悪さが表に滲み出ちまっててよ、他の面々から浮いちまってる。

その顔を見た瞬間、

「~げっ、」

と思わず声を上げると、向こうももちろん俺に気づいたんだろう、すかさず

「てめぇ、会った早々『げっ』たぁなんだ、『げっ』たぁ!
この俺様自ら足を運んでやったってぇのに失礼だろーが!」

いつもどーりの大声で、その男が──ゴルドーが、返してくる。

その大声に思わず俺も

「失礼なのはそっちだろ!
んな時間に人様ん家で んなでけー声あげんなよ!」

言っちまう。

と、クライン家の面々も他の護衛二人も、レイジスやミーシャまでもが目をぱちくりさせて俺とゴルドーの方を見た。

一瞬し~んとした静寂が訪れたが……。

ミーシャが くすっと柔らかく笑い、レイジスも和やかなもんでも見た様な目で俺とゴルドーの方へ優しい視線を送ると、ガイアスが気を利かせて

「さあ、こんな所にいつまでも殿下を立たせておく訳にはいきますまい。
どうぞ中へ」

と屋敷の中へレイジス一行を案内してくれた。

いつもだったらここに犬カバもいて生意気にクヒクヒ笑いこけてる所だが、姿が見えねぇ所を見るとどーやらまたアルフォンソの所にでも入り浸ってんだろう。

あいつ、さりげに知りたがりだからよ、レイジスがやってきたなんて大きなイベント事(?)にゃあ真っ先にやって来そうなもんだが……。

まぁ、別にいいか。

んな事より、だ。

レイジスとその護衛二人が屋敷の中に入って行くのに少し歩を遅らせて……俺はゴルドーの野郎の横について、今度は声量を落として「つーか、」と声をかける。

「なんであんたがここに?
仕事はどーしたんだよ?」

ごくごく当然に、当たり前の事を聞くと、ゴルドーの奴もちっとは周りへの気配りってやつを思い出したらしい。

さりげに声を抑え気味にして、言ってくる。

「ゴルドー商会のこたぁ、ユークに任せてきた。
……言っただろーが。
落とし前は必ずつける。
それにそこの王子サマとも約束したしな。
協力して報酬もキッチリ貰っとかねぇと」

「……って~かそれが本との目的だろ」

思わず半顔になりながら言うと、ゴルドーがいつにも増して極悪の笑みを見せてくる。

……まあ、とはいえ。

俺だってゴルドーの一番の目的が本当にレイジスからの報酬じゃねぇコトくらい、ちゃんと分かってる。

──ダルクの仇を取る。

その約束を果たす為に、忙しい仕事も全部放っぽって、んな所にまで来たんだろう。

俺だって……。

ダルクやアルフォンソをあんな目に遭わせたセルジオをこのままのさばらせてていいとは思ってねぇ。

ゴルドーじゃねぇが、落とし前はキッチリつけさせてもらうぜ。


◆◆◆◆◆


「──兄上……」

アルフォンソとレイジスの対面は側で見てても苦しい程だった。

俺はレイジスとアルフォンソの仲がどんなモンなのか聞いた事もなかったし、考えた事もなかったが……。

このレイジスの反応を見る限り、兄弟仲はたぶんフツーに良かったんだろう。

──レイジスの んなにショック受けた顔見んの、初めてだ。

リアに『無精髭の男は嫌い』って言われた時だって、んな顔はしてなかったぜ。

いや、まぁフツーにショックの種類が違うってだけの話かもしんねぇけど。

レイジスの護衛二人もやっぱりショックは隠しきれねぇみてぇだった。

「──ここへ来てからはずっと、こうして眠ったままなの。
顔色は随分良くなってきたし、お医者様も命に別状はないから大丈夫と仰って下さったのだけど」

ミーシャが静かにそう言うとレイジスも同じく静かな声で「そうか……」と返す。

……このシリアスな雰囲気の中あれなんだけどよ。

俺は目だけでこの頃いつもここに入り浸ってる犬カバの姿を探す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

処理中です...