238 / 254
二十五章 アルフォンソ
10
しおりを挟む
「……俺は、そう、そのダルク・カルトにガキの頃世話になったんだ。
カルトの名は、勝手にもらった。
ダルクはもう十年以上前に死んじまったんだけど、トルスで仲間と飛行船なんてモン作っててさ、結構楽しくやってたよ。
俺からしたらサランディールの城で鍛治職人として働いてたってのが驚きだけど、あんたからしたらトルスで飛行船作ってたって方が驚きなんじゃねぇのかな?」
仲間と飛行船作ってた、の『仲間』はもちろんヘイデンとゴルドーの事だ。
まぁ仲間って表現が正しいのかは微妙なトコだし二人が絶妙に渋い顔しそうなのは目に見えてるが、何も知らねぇアルフォンソに向けての分かりやすさ重視だ。
返答も期待せず軽く問いかける様に話しかけた先で、アルフォンソはやっぱり何も反応しねぇ。
アルフォンソが何か反応するのに何がきっかけになるのか分からねぇから、俺は構わず先を続けた。
「それから──……。
一年前の内乱の時には、ミーシャはジュードに教えてもらった地下通路を使ってトルスへ亡命する事になったんだけど。
その途中で、偶然ダルクの名を拾う事になったらしいんだ。
ダルクの奴、地下通路で死んじまってたんだけどさ。
そこにミーシャがつまづいて、その拍子に飛行船の鍵が付いたダルクの名前の刻まれたタグが落ちてきたんだって。
ミーシャはそのダルクの名を使って、トルスじゃ男装してギルドの冒険者として生活してたんだぜ。
俺はそん時にミーシャと出会って……。
それから、色々騒ぎがあって、ダルクの名がちょっと街で有名になっちまってさ。
『ダルク・カルト』の事を知ってたジュードやレイジスがその名前に引かれる様にミーシャの元を訪れて……。
それで二人とも知り合った。
……何だかヘンな話、だよな。
ダルの奴、もうとっくの昔に死んじまってるクセに、その名前だけで人と人とを結び付けてっちまった」
階段を降りる足を止めず、そんな話をする。
もちろんアルフォンソからの返事はねぇし、あれから結構下に降りてきたはずだが未だに塔の四分の三程度の位置にあるはずの小窓にも行き当たってねぇ。
ただ、ここまで降りてきて小窓に行き当たってねぇってのはどう考えてもおかしいし、もしかしたら俺が初めに上ってきた正規の階段とこの裏道の階段はどこかで段なり何なりが微妙にズレるかなんかして小窓の部分がこっちにかからねぇ様になってんのかもしれねぇ。
俺の感覚じゃ、もうそろそろ一番下に着いてもいい頃だ。
俺は──……もちろん答えが返ってくる事ぁねぇだろうなと思いつつも、これまでアルフォンソに会ったら一番に聞こうと思ってた事をようやっと口にする。
「──……ジュードがさ。
あの内乱の日、あんたが国王夫妻を──あんたやミーシャ、レイジスの、親父さんとおふくろさんを殺す所を見ちまったってんだ。
内乱の首謀者はあんただったんじゃねぇのかと、考えたくねぇが、考えてる。
あんたに会って、ちゃんと真実を確かめてぇとも。
……。
あんたも分かるだろ?
ジュードの奴、一人で思い詰めちまっててさ。
ミーシャにもレイジスにも、他の誰にもこの話はしてねぇんだ。
あんたが内乱の日にした事を二人に言う前に、ちゃんとした真実を知りてぇ……って。
……なぁ、実際どうなんだ?
あんたが国王夫妻を殺したのには、何かの理由があったのか?
あんたが内乱の首謀者だったってんなら、何で今の今まで、こんな塔のてっぺんに幽閉される事になっちまったんだ?
あんたを幽閉してんのは、セルジオだよな?
一体どんな成り行きが……」
問いかけた、ところで。
不意に階段の先に、ゴールが見えてきた。
一番下の段を下りると、そこは踊り場くれぇのちょっとしたスペースになっている。
そして、その奥には一つの扉があった。
素材は最上階の正規の扉と同じ、鉄扉に見えた。
俺は一番最後の段を降りると、そこでふぅと一つ息を吐き、アルフォンソを一度その段の上に降ろした。
一旦休憩を挟みたかったからだ。
だいぶ軽くなっちまってるとは言え、人一人抱えてこの長い階段を降りてくるってのは中々だぜ。
明日は全身筋肉痛になっちまってるかもしれねぇ。
俺はちょっとの間その場に立ったまま休憩しつつ、アルフォンソの顔をもう一度よく見る。
そうして、
「──アルフォンソ、」
再度、声をかけた。
ここを逃したら、たぶん話を聞ける機会はもうねぇかもしれねぇ。
少なくともアルフォンソが見つかったって事で皆大騒ぎになるだろうから、後でこっそり話を聞けたとしても大分先の事だ。
ジュードに任せとけなんて言っちまった手前もあるが、俺自身も知りてぇと心から思っている事柄だった。
「一年前の内乱、あれは本当にあんたが企てた物だったのか?」
問う。
そうしてしばらくアルフォンソの顔を真剣に見ていたが──……残念ながらやっぱり、アルフォンソからは何の反応も得ることが出来なかった。
──ジュードに、何て言ったもんかな。
カリカリと頭を掻きながら、そんな事を思う。
正直な話、今のアルフォンソはこんな状態だし、ジュードと俺がこのまま口を噤むってんなら過去の事が今更世間に露見する事はまずねぇだろう。
アルフォンソは単なる内乱の被害者で、セルジオに塔に軟禁され精神を病んじまった。
それだけで、片がつくはずだ。
ミーシャもレイジスも誰も、国王夫妻が誰に殺されちまったのかなんて今更強く追及したりはしねぇだろう。
アルフォンソが内乱に関わっていたらどうしようかと悩んでたジュードも、それで心置きなくレイジスのサランディール奪還に協力出来るってなもんだ。
だけど、なぁ。
どーにもこーにも、スッキリしねぇのは確かだぜ。
大きなモヤモヤを抱えたまま、それでも仕方なしに息を吐き、アルフォンソに背を向けて腰を降ろし背負おうとする。
カルトの名は、勝手にもらった。
ダルクはもう十年以上前に死んじまったんだけど、トルスで仲間と飛行船なんてモン作っててさ、結構楽しくやってたよ。
俺からしたらサランディールの城で鍛治職人として働いてたってのが驚きだけど、あんたからしたらトルスで飛行船作ってたって方が驚きなんじゃねぇのかな?」
仲間と飛行船作ってた、の『仲間』はもちろんヘイデンとゴルドーの事だ。
まぁ仲間って表現が正しいのかは微妙なトコだし二人が絶妙に渋い顔しそうなのは目に見えてるが、何も知らねぇアルフォンソに向けての分かりやすさ重視だ。
返答も期待せず軽く問いかける様に話しかけた先で、アルフォンソはやっぱり何も反応しねぇ。
アルフォンソが何か反応するのに何がきっかけになるのか分からねぇから、俺は構わず先を続けた。
「それから──……。
一年前の内乱の時には、ミーシャはジュードに教えてもらった地下通路を使ってトルスへ亡命する事になったんだけど。
その途中で、偶然ダルクの名を拾う事になったらしいんだ。
ダルクの奴、地下通路で死んじまってたんだけどさ。
そこにミーシャがつまづいて、その拍子に飛行船の鍵が付いたダルクの名前の刻まれたタグが落ちてきたんだって。
ミーシャはそのダルクの名を使って、トルスじゃ男装してギルドの冒険者として生活してたんだぜ。
俺はそん時にミーシャと出会って……。
それから、色々騒ぎがあって、ダルクの名がちょっと街で有名になっちまってさ。
『ダルク・カルト』の事を知ってたジュードやレイジスがその名前に引かれる様にミーシャの元を訪れて……。
それで二人とも知り合った。
……何だかヘンな話、だよな。
ダルの奴、もうとっくの昔に死んじまってるクセに、その名前だけで人と人とを結び付けてっちまった」
階段を降りる足を止めず、そんな話をする。
もちろんアルフォンソからの返事はねぇし、あれから結構下に降りてきたはずだが未だに塔の四分の三程度の位置にあるはずの小窓にも行き当たってねぇ。
ただ、ここまで降りてきて小窓に行き当たってねぇってのはどう考えてもおかしいし、もしかしたら俺が初めに上ってきた正規の階段とこの裏道の階段はどこかで段なり何なりが微妙にズレるかなんかして小窓の部分がこっちにかからねぇ様になってんのかもしれねぇ。
俺の感覚じゃ、もうそろそろ一番下に着いてもいい頃だ。
俺は──……もちろん答えが返ってくる事ぁねぇだろうなと思いつつも、これまでアルフォンソに会ったら一番に聞こうと思ってた事をようやっと口にする。
「──……ジュードがさ。
あの内乱の日、あんたが国王夫妻を──あんたやミーシャ、レイジスの、親父さんとおふくろさんを殺す所を見ちまったってんだ。
内乱の首謀者はあんただったんじゃねぇのかと、考えたくねぇが、考えてる。
あんたに会って、ちゃんと真実を確かめてぇとも。
……。
あんたも分かるだろ?
ジュードの奴、一人で思い詰めちまっててさ。
ミーシャにもレイジスにも、他の誰にもこの話はしてねぇんだ。
あんたが内乱の日にした事を二人に言う前に、ちゃんとした真実を知りてぇ……って。
……なぁ、実際どうなんだ?
あんたが国王夫妻を殺したのには、何かの理由があったのか?
あんたが内乱の首謀者だったってんなら、何で今の今まで、こんな塔のてっぺんに幽閉される事になっちまったんだ?
あんたを幽閉してんのは、セルジオだよな?
一体どんな成り行きが……」
問いかけた、ところで。
不意に階段の先に、ゴールが見えてきた。
一番下の段を下りると、そこは踊り場くれぇのちょっとしたスペースになっている。
そして、その奥には一つの扉があった。
素材は最上階の正規の扉と同じ、鉄扉に見えた。
俺は一番最後の段を降りると、そこでふぅと一つ息を吐き、アルフォンソを一度その段の上に降ろした。
一旦休憩を挟みたかったからだ。
だいぶ軽くなっちまってるとは言え、人一人抱えてこの長い階段を降りてくるってのは中々だぜ。
明日は全身筋肉痛になっちまってるかもしれねぇ。
俺はちょっとの間その場に立ったまま休憩しつつ、アルフォンソの顔をもう一度よく見る。
そうして、
「──アルフォンソ、」
再度、声をかけた。
ここを逃したら、たぶん話を聞ける機会はもうねぇかもしれねぇ。
少なくともアルフォンソが見つかったって事で皆大騒ぎになるだろうから、後でこっそり話を聞けたとしても大分先の事だ。
ジュードに任せとけなんて言っちまった手前もあるが、俺自身も知りてぇと心から思っている事柄だった。
「一年前の内乱、あれは本当にあんたが企てた物だったのか?」
問う。
そうしてしばらくアルフォンソの顔を真剣に見ていたが──……残念ながらやっぱり、アルフォンソからは何の反応も得ることが出来なかった。
──ジュードに、何て言ったもんかな。
カリカリと頭を掻きながら、そんな事を思う。
正直な話、今のアルフォンソはこんな状態だし、ジュードと俺がこのまま口を噤むってんなら過去の事が今更世間に露見する事はまずねぇだろう。
アルフォンソは単なる内乱の被害者で、セルジオに塔に軟禁され精神を病んじまった。
それだけで、片がつくはずだ。
ミーシャもレイジスも誰も、国王夫妻が誰に殺されちまったのかなんて今更強く追及したりはしねぇだろう。
アルフォンソが内乱に関わっていたらどうしようかと悩んでたジュードも、それで心置きなくレイジスのサランディール奪還に協力出来るってなもんだ。
だけど、なぁ。
どーにもこーにも、スッキリしねぇのは確かだぜ。
大きなモヤモヤを抱えたまま、それでも仕方なしに息を吐き、アルフォンソに背を向けて腰を降ろし背負おうとする。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが
米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。
その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。
更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。
果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!?
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる