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二十五章 アルフォンソ
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試しに幅広の引き出しを引いてみる。
本当に何かあるんじゃねぇかとちょっとだけ期待しちまったが……。
引き出しの中身は驚く程淡白でスッキリしていた。
黒のインク壺が一つと、そいつに浸けて使うんだろう、いかにも上等そうな黒いペンが一本。
ただそれだけだ。
念の為中身を出して引き出しの隅々まで見て 手でも触れて確認したが、特に変わった点はねぇ。
ちょっとだけ物足りねぇもんを感じつつ、仕方なしに俺はその横に縦一列に並ぶ四段の引き出しを一つ一つ確認していく。
一段目にはちょっと高級そうな紙質の白地の洒落た便箋が数枚と、同じく洒落た白い空封筒が三枚。
こいつはどーやら全くの新品みてぇだ。
何か書かれてる、とか んな事も一切ねぇ。
とりあえずさっきと同じ様に中身を取り出し、引き出しの隅から隅まで見て触って確かめてみたが、こいつもこれと言って何にもなかった。
そっからその下の段、さらにその下……と開けてみたが、そこにはインクやペン、紙どころか全く何にも入っちゃいねぇし、もちろんこれと言って怪しい点も全くなかった。
俺はう~んと思わず腕を組んで机に向かって唸る。
そーしてふと思いついて、さっき開けた引き出しを、今度はそのまま机から抜いてみる事にした。
幅広引き出しが一つと、その横の四段の引き出し。
全部を抜き去ってその内側を見てみる。
特に違和感はねぇ。
……っつーか、薄暗がりでちゃんとはよく見えてねぇんだよな。
念の為しゃがみ込んで手を伸ばし、手でも触れて探ってみる。
幅広、隣の一段目、二段目、三段目……と、丁度そこまで来た時に。
「……んん?」
指の先に、ほんの微かな凹凸を感じた。
三段目の引き出しの収まっていた場所の更に奥、机の裏板(っていうのか?)のど真ん中だ。
グッと拳でその部分を奥へ押し込んでみる──……と。
カタンとどこかで何かの音がした。
俺は拳を自分の方へ引き戻して机の下に入れ込んでいた体を元に戻す。
そして──……部屋の中に、驚く様な光景を見た。
机のすぐ近くの石壁の一部が、まるで自動で開く引き戸みてぇに右側にスライドしていく、そんな光景だ。
石壁がスライドしていく音は相当に静かだ。
微かに石と石が擦れる様な音はするが、それくらいのもんだ。
こんだけ近くにいてもちゃんと気にかけて耳を澄まさなけりゃあ聞こえねぇくらいだから、きっと鉄扉の向こう側にゃあ全く音なんかしねぇんじゃねぇか?
うっかりしてたらこの部屋にいたって音に気づかねぇ可能性がある。
それくらい微かな音だった。
石壁のドアが完全にスライドしきって止まると──……そこにはぽっかりと空いた黒い空間が現れた。
俺はゆっくりとそこに近づき、中の様子を見る。
床の高さは、今俺が立っている場所と変わりねぇ。
そっと手を前方に伸ばすと、すぐと正面の壁に手がついた。
ひんやりとした、石の感触だ。
奥行きは、俺の片腕伸ばしてちょっと身を乗り出したくらい。
それこそ人一人立ったらそれだけでわりと一杯になっちまう様な、そんな空間だ。
だが、奥行きはなくてもちょっと左へ顔を向けりゃあそこには、長く細く下へ続いていく階段が見てとれた。
俺の頭の中に、塔の外壁と内壁の間にこの細階段を忍ばせた形がポッと出てくる。
この階段を降りた先がどこになるのかは分からねぇが……。
この部屋唯一の鉄扉がカッチリシッカリ外から鍵かけられちまってるんじゃ、他に道はねぇ。
アルフォンソを連れてくる前に念の為細階段の一段目に片足を乗せ体重をかけた。
特に異常はねぇ。
念には念を押して二段目、三段目まで降りてってみたが、どうやら耐久性に問題はなさそうだ。
まぁ部屋の中みてぇには月明かりも届かねぇし、階段を踏み外したりしねぇ様十分注意して降りる必要はあるが、大丈夫だろう。
そのままアルフォンソの元まで取って返そうとして──俺はちら、とさっき自分が抜き去った机の引き出しの山を見る。
さっきの鉄扉の鍵の時とは違って、俺もアルフォンソもこっから出ちまう訳だし、そのままにしてったって問題はねぇんだが。
この仕掛け、そりゃあ他の奴に気づかれねぇならその方がいいのに違いねぇ。
特にセルジオ相手なら尚更だ。
俺はちょっと肩をすくめて(多少面倒だったが)机の引き出しを元に戻し、それからようやくアルフォンソの元まで行って、その前に膝をつく。
俺の声が届いてるって確証はなかったが、それでもアルフォンソの目をしっかり見て、声をかけた。
「──あの道を通っていこう。
あんたは俺がおぶっていく。
こっから出してやるからな」
無論、アルフォンソからの反応はねぇ。
俺は返事を待たずに背にアルフォンソを背負うと、そのままその場に立ち上がった。
痩せ細っちまってるとはいえ大の男一人背負うのはそれなりに骨が折れるだろうと思ってたが──……。
思いの外、覚悟してたより大分軽くて逆に一瞬よろついた。
が、重みが分っちまえばこっちのモンだ。
俺はしっかりとアルフォンソの体を背負い直して、机の横の隠し通路、その細階段へ向かったのだった──……。
本当に何かあるんじゃねぇかとちょっとだけ期待しちまったが……。
引き出しの中身は驚く程淡白でスッキリしていた。
黒のインク壺が一つと、そいつに浸けて使うんだろう、いかにも上等そうな黒いペンが一本。
ただそれだけだ。
念の為中身を出して引き出しの隅々まで見て 手でも触れて確認したが、特に変わった点はねぇ。
ちょっとだけ物足りねぇもんを感じつつ、仕方なしに俺はその横に縦一列に並ぶ四段の引き出しを一つ一つ確認していく。
一段目にはちょっと高級そうな紙質の白地の洒落た便箋が数枚と、同じく洒落た白い空封筒が三枚。
こいつはどーやら全くの新品みてぇだ。
何か書かれてる、とか んな事も一切ねぇ。
とりあえずさっきと同じ様に中身を取り出し、引き出しの隅から隅まで見て触って確かめてみたが、こいつもこれと言って何にもなかった。
そっからその下の段、さらにその下……と開けてみたが、そこにはインクやペン、紙どころか全く何にも入っちゃいねぇし、もちろんこれと言って怪しい点も全くなかった。
俺はう~んと思わず腕を組んで机に向かって唸る。
そーしてふと思いついて、さっき開けた引き出しを、今度はそのまま机から抜いてみる事にした。
幅広引き出しが一つと、その横の四段の引き出し。
全部を抜き去ってその内側を見てみる。
特に違和感はねぇ。
……っつーか、薄暗がりでちゃんとはよく見えてねぇんだよな。
念の為しゃがみ込んで手を伸ばし、手でも触れて探ってみる。
幅広、隣の一段目、二段目、三段目……と、丁度そこまで来た時に。
「……んん?」
指の先に、ほんの微かな凹凸を感じた。
三段目の引き出しの収まっていた場所の更に奥、机の裏板(っていうのか?)のど真ん中だ。
グッと拳でその部分を奥へ押し込んでみる──……と。
カタンとどこかで何かの音がした。
俺は拳を自分の方へ引き戻して机の下に入れ込んでいた体を元に戻す。
そして──……部屋の中に、驚く様な光景を見た。
机のすぐ近くの石壁の一部が、まるで自動で開く引き戸みてぇに右側にスライドしていく、そんな光景だ。
石壁がスライドしていく音は相当に静かだ。
微かに石と石が擦れる様な音はするが、それくらいのもんだ。
こんだけ近くにいてもちゃんと気にかけて耳を澄まさなけりゃあ聞こえねぇくらいだから、きっと鉄扉の向こう側にゃあ全く音なんかしねぇんじゃねぇか?
うっかりしてたらこの部屋にいたって音に気づかねぇ可能性がある。
それくらい微かな音だった。
石壁のドアが完全にスライドしきって止まると──……そこにはぽっかりと空いた黒い空間が現れた。
俺はゆっくりとそこに近づき、中の様子を見る。
床の高さは、今俺が立っている場所と変わりねぇ。
そっと手を前方に伸ばすと、すぐと正面の壁に手がついた。
ひんやりとした、石の感触だ。
奥行きは、俺の片腕伸ばしてちょっと身を乗り出したくらい。
それこそ人一人立ったらそれだけでわりと一杯になっちまう様な、そんな空間だ。
だが、奥行きはなくてもちょっと左へ顔を向けりゃあそこには、長く細く下へ続いていく階段が見てとれた。
俺の頭の中に、塔の外壁と内壁の間にこの細階段を忍ばせた形がポッと出てくる。
この階段を降りた先がどこになるのかは分からねぇが……。
この部屋唯一の鉄扉がカッチリシッカリ外から鍵かけられちまってるんじゃ、他に道はねぇ。
アルフォンソを連れてくる前に念の為細階段の一段目に片足を乗せ体重をかけた。
特に異常はねぇ。
念には念を押して二段目、三段目まで降りてってみたが、どうやら耐久性に問題はなさそうだ。
まぁ部屋の中みてぇには月明かりも届かねぇし、階段を踏み外したりしねぇ様十分注意して降りる必要はあるが、大丈夫だろう。
そのままアルフォンソの元まで取って返そうとして──俺はちら、とさっき自分が抜き去った机の引き出しの山を見る。
さっきの鉄扉の鍵の時とは違って、俺もアルフォンソもこっから出ちまう訳だし、そのままにしてったって問題はねぇんだが。
この仕掛け、そりゃあ他の奴に気づかれねぇならその方がいいのに違いねぇ。
特にセルジオ相手なら尚更だ。
俺はちょっと肩をすくめて(多少面倒だったが)机の引き出しを元に戻し、それからようやくアルフォンソの元まで行って、その前に膝をつく。
俺の声が届いてるって確証はなかったが、それでもアルフォンソの目をしっかり見て、声をかけた。
「──あの道を通っていこう。
あんたは俺がおぶっていく。
こっから出してやるからな」
無論、アルフォンソからの反応はねぇ。
俺は返事を待たずに背にアルフォンソを背負うと、そのままその場に立ち上がった。
痩せ細っちまってるとはいえ大の男一人背負うのはそれなりに骨が折れるだろうと思ってたが──……。
思いの外、覚悟してたより大分軽くて逆に一瞬よろついた。
が、重みが分っちまえばこっちのモンだ。
俺はしっかりとアルフォンソの体を背負い直して、机の横の隠し通路、その細階段へ向かったのだった──……。
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