リッシュ・カルト〜一億ハーツの借金を踏み倒した俺は女装で追手をやり過ごす!って、あれ?俺超絶美人じゃねぇ?〜

羽都みく

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二十五章 アルフォンソ

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「~とにかく、ここを出よう。
ガイアスやダンに言えば、きっとなんとかしてくれる」

あの内乱を起こしたのが本当にアルフォンソなのかどうかなんて事は、今に限ってはどうでもいい。

どー考えたって、こいつをこんな状態でここに放っとく訳にゃあいかねぇだろ。

俺は 待ってろ、と声をかけつつアルフォンソ前を離れて入口の鉄扉の方へ向かう。

内側には扉にノブがなかったから、そのままグッと力を込めて押してみた。

……やっぱり、ビクとも動かねぇ。

外側にはあった扉の鍵穴も、内側にはついちゃいねぇ。

そりゃそうだ。

仮にも“牢”だってんだから、中から鍵をかけたり開けたりする必要がねぇんだからな。

仕方なしに俺はぐるりを見渡して部屋の中を見る。

部屋の高い位置にある小窓から脱出する……ってぇのは、全く現実的じゃねぇ。

例え俺一人であそこから脱出っつったって厳しそうなのに、この全く歩けそうにねぇアルフォンソを連れてなんて到底無理だ。

何かねぇのか?

さっきのベッド下の収納庫みてぇな場所があるんだ、この塔を出る為の隠し通路みてぇな何か……。

月明かりしか差さねぇ薄闇の中、石壁からテーブルの下、机の下まで目を凝らし、手探りで探る。

だが──。

それなり長い時間かけて探しても、何も見つけられやしなかった。

──やっぱ、仮にも罪人を入れる『牢』なんだもんな。

外に通じる隠し通路なんてある訳ねぇか……。

俺はカリカリと頭を掻きながら、アルフォンソの方を眺める。

この薄闇で何度見ても、うな垂れてピクとも動かねぇあの姿を見ると、一瞬ヒヤリと心臓が冷える感じがする。

ちゃんとまだ生きてるよな?俺がこーして部屋を探ってる間に息を引き取っちまうなんてこたあねぇよな?って思いももちろんあるが……。

どーにもあの時のダルクの姿を思い出しちまうんだよ。

頭じゃ違うって分かっていても。

俺は はぁっと大きく息を吐き──答えが返ってくる事はねぇと分かっていながらアルフォンソへ向けて声をかける。

「……なあ、こっから抜け出す方法ってねぇのか?
あんたならこの部屋のどころかこの城中全部の隠し通路を知ってるんだろ?」

ついでにダンの執務室辺りまで伸びる隠し通路がありゃあありがたいんだけどな、なんて都合のいい事を言ってみる。

ほとんど独り言みてぇなもんだ。

案の定アルフォンソからは何の反応もねぇ……と、思ったが。

「………き……」

微かにだが、確かにそんな声が聞こえた。

「~えっ?」

思わず声を上げ、アルフォンソの反応を見る。

動きは、ねぇ。

だが確かに掠れた声が聞こえた。

俺はアルフォンソの元に戻って、再びその前に跪く。

「~どうした?
何か言いてぇ事があるのか?」

俺の声が届いてんのかは分からねぇ。

だがアルフォンソは声を漏らす。

「…………し……」

そう聞こえた気がした。

ただし、気がしただけで本当にアルフォンソがそう言葉を発したのかどうかは分からねぇ。

それだけ微かな掠れ声だった。

そしてそれからしばらくしっかり耳を立てて次の言葉を待ったが、どうやらアルフォンソがそれ以上を語る事はなさそうだった。

俺は一旦出口探しを中断して、ふぅと息をついてその場に腰を下ろす。

小窓の外からの月だけが部屋の中をほんのわずかに明るくしている。

セルジオがここを立ち去ってから大分時間が経ってるはずだ。

……アルフォンソを連れてここから出られさえすりゃあ、あとはきっとどうにでもなる。

セルジオの野郎がアルフォンソを監禁してた事が明るみになりゃあ奴ももう宰相とか総帥とか、そんな立場じゃいられねぇだろう。

レイジスだってミーシャだって、安全に城に帰ってくる事が出来る。

「……必ずあんたを、二人に会わせてやるからな」

声が届くかどうかも分からないが、力を込めてそう言ってやる。

「それに、あんたにはちゃんとあの日・・・の事をジュードに説明してもらわねぇと。
あんたなら分かるだろ、あいつほんとに思い詰めちまっててさ。
毎日こーんな顔してあんたの行方を追ってたんだぜ」

ジュードの深刻そうな面持ちを再現しつつ、言ってやる。

俺的には中々似せてるつもりだったが、まぁ、アルフォンソからの反応はねぇ。

犬カバならバカ笑いしてくれる所だし、ミーシャだってちょっと吹き出してくれるくらいの出来だったと思うんだが。

……まぁ、んな事やってる場合じゃねぇよな。

こっからどうやって出るか、本気で考えねぇと……。

と──……

「……ひ…………き…………」

アルフォンソが不意に、もう一度言葉を発した。

だが、それ以降がまた続かない。

アルフォンソは口を閉ざしたまま、変わらず中空をぼんやり見ているだけだ。

けど──……。

ひ、き……?

俺はさっきアルフォンソが言った音を頭の中で繋ぎ合わせて、考える。

ひ、き、し。

アルフォンソが言ったのはその三音だ。

そもそもアルフォンソが声を出し始めたのは、俺の『こっから抜け出す方法ってねぇのか?』っていう独り言みてぇな質問の後からだ。

もしアルフォンソがそいつをちゃんと聞いてくれていて、答えを教えようとしてくれようとしてるんだとしたら?

俺はサッと辺りに目を凝らす。

アルフォンソが伝えようとしてる何か・・があるんじゃねぇか……?

ひ、き、し。

──……ひきだし。

机の引き出しとか?

まったくの的外れかもしれねぇが、とにもかくにも俺は机に向かい、その引き出しに手をかける。

机の引き出しは、全部で五つ。

椅子の真正面にある幅広のが一つと、そいつと隣合わせに下に向かって縦列に並ぶ、幅広よりもう少し狭めの小さな引き出しが四段。
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