リッシュ・カルト〜一億ハーツの借金を踏み倒した俺は女装で追手をやり過ごす!って、あれ?俺超絶美人じゃねぇ?〜

羽都みく

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二十五章 アルフォンソ

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どっしりしっかりした見た目通り、中の構造もそれなりに複雑そうだ。

暗闇に目は慣れてるとはいえ手先の感覚だけで(それもこんなヘアピン一つで)開けようってんだ、時間はそれなりにかかりそうだった。

俺はよし、と気合いを入れて軽く腕まくりし、早速錠前の解錠に乗り出した。

そこから数十分後──。

少し時間はかかったが、錠前の鍵と、続けて鉄扉に付けられた鍵を開けて、ようやっと俺は鉄の扉に手をかける。

そうしてグッと力を込めて扉を向こう側へ──部屋の方へ向けて押しやった。

それなりに重たい鉄扉が開く。

その隙間からするりと中に入り込んだ。

鉄扉が、重みでだろう、勝手に後ろ側で閉まっていく。

そーしてしっかり閉まり切ったのを目と音で確認してから──俺は改めて部屋の中に目を向ける。

部屋の中は、かなり暗かった。

まず一番に目に飛び込んだのは、部屋の奥の高い位置にたった一つだけある小さな窓だ。

ほとんど外の世界は見えねぇが、はめ込まれた絵みてぇに部屋の闇より暗い夜空の黒と、雲に隠れた月がうっすらとそこに見えている。

俺がつられる様に窓の方へ向けて一歩足を踏み出す。

それから、部屋の右側には天蓋付きのベッドみてぇなもん、左側にはちょっとしたテーブルや椅子、奥には机も見えた。

そーいやガイアスのおっさんが、ここは牢つっても広くて快適な部屋みたいなもんだったらしいとか言ってたな。

そいつがまさに今もそのまんま置かれてるってな訳だ。

思いつつ、俺は窓の方へ向けて一歩足を踏み出す。

と──……。

部屋の奥──ベッドの向こう側に一つ、一歩踏み出す前には見えてなかった、ある一つの影が見えた。

まるで石壁に背を預けて座る人が、ガックリと頭をうなだれてでもいる様な、そんな影だ……と、そう思いかけて──……。

俺はそこで初めて、そいつが本物の・・・人の影だっていう事に気がついた。

一瞬、ギクリとしてその場で固まる。

が……。

……動か、ねぇ……?

部屋の扉を開けて入って来た俺に気付く気配も、ピクッとでも動く気配も、何もねぇ。

こっから影だけ見る限り、息すらしてねぇ様に見える。

……死んじまってる、のか……?

どく、どく、と鼓動が脈打つ。

俺は──ゆっくりと静かに、そいつ・・・の方へ向けて一歩、二歩と歩を進めた。

ベッド一つ挟んだ所まで来ると、その姿がさっきよりももう少しよく見えた。

そいつは──部屋の石壁に背を持たせかけ座り込む、一人の男、だった。

深くうなだれた頭は、黒髪。

手はだらりと力なく床に落ちている。

ドッ、ドッ、と心臓が早鐘の様に鳴った。

「ダ……ル……?」

思わず、口をついて、声が出た。

石壁に背を持たせかけ、深くうなだれたその姿、背格好は、あの時・・・の姿とそっくり似て見えた。

意図してねぇのに、足が勝手にその男の方へ動く。

俺は、あの時・・・と同じ様にそいつ・・・の前に腰を落とす。

ダルクの訳は、絶対にねぇ。

あいつは間違いなく十数年前に死んじまってる。

ミーシャだって俺が最後に見たのと同じ場所で、白骨化したダルクの姿を見たと言っていた。

じゃあ、目の前のこいつは──?

俺がすぐ目の前に腰を落としても、そいつ・・・からは全く何の反応もねぇ。

やっぱり死んでんのか──?

と思ったが。

暗闇の中、ほんの僅かにそいつが浅く呼吸をしてんのが見てとれた。

──生きてる!

「あんた……一体……」

うなだれている為に見えねぇ顔を、下から窺い見ようとした──その、瞬間。

俺の耳によく聞き知った──聞き知り過ぎた・・・・・・・、嫌な足音が微かに聞こえて来た。

カツ、カツ、カツ、という、あの・・足音だ。

~セルジオ……!?

パッと思わず、部屋の入口、鉄扉の方を見やる。

そういや鍵をかけ直し忘れちまってる!

『宰相セルジオには十分気をつけられよ。
あの男は勘が鋭い。
貴殿が直接接する機会はおそらくなかろうが、ほんの僅かでも疑念を抱かれればここまで殿下がされた全ての事が無駄になる。
細心の注意を払って行動するように』

ダンの言葉が脳裏に蘇る。

やっべぇ……!

このままじゃここに誰かが──他ならぬこの俺、だが──侵入した事がバレちまう!

つーかここまで階段で上がってくるだけの一本道だぜ?

逃げる事だって出来やしねぇ。

どっか、隠れる場所を──……思わずその場に立ち上がり、キョロキョロと辺りを見回す──と……。


◆◆◆◆◆

セルジオ・クロクスナーは、眉を潜めてその場に立ち止まった。

ランタンの灯すオレンジ色の光が、その光景をくっきりと照らし出す。

──塔の最上階、その部屋の鉄扉の前での事だった。

いつもはきちんと掛けられている大きな鉄の錠は外され、無造作に石床に転がっている。

鉄扉に手をかけると、そちらも鍵が掛けられていたはずなのに何の抵抗もなく開いた。

「・・・・・」

セルジオはランタンを上へ掲げ、部屋の中の様子を端から端まで見る。

そうしてから鋭い眼でいつもの場所にいつも通り頭を垂れて座り込む一人の男の方を見やった。

こちらにも、部屋の中にも別段これといった異常は見つけられない。

鉄扉が後ろで勝手に閉まっていくのを耳と気配だけで確認し──そうして男の方へと歩を進める。

男の前までやってくると、その顔のすぐ目の前にランタンの明かりを掲げた。

普通の状態の人間なら、眩しさからたじろいだり明かりを払ったり、何かしらの動作をする所だが、この男に限ってはそれはなかった。

セルジオはチラッと男のすぐ脇に置かれたベッドの下部に目をやる。
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