226 / 254
二十四章 潜入
15
しおりを挟む
アルフォンソの行方を、オレットは全く知らねぇのか。
オレットに話を聞く事が出来れば、多少なりとも何かの糸口を見つける事が出来るかもしれねぇ。
「……そういえばさっき、内乱の時のお話がありましたけど……」
そう、問いかけようとした、まさにその時。
カッカッカッと乱暴に、それでいて妙に威圧的に歩く足音が後ろから響いた。
この足音、どっかで──?
思いかけた、ところで。
「おいおい、何だあ?
オレット、こんな所で女と逢引かぁ?
お前も隅に置けねぇなあ」
ぷわん、と背後から酒の匂いがする。
声の主であり、足音の主でもある男が、俺のすぐ隣に立った。
濃い色の金の短髪に、軽薄そうな灰色の目。
どことなく目の前のオレットと顔つきが似ているが、体格がまるで違う。
どっちかっつぅと細身の『文系』なオレットに対して、男はいかにも『武闘派』だ。
赤色の制服は、士官の物だった。
いや、まさか、と思いつつ男をぽかんとふり仰いだ先で男がオレットに向けて言う。
「宰相閣下がお呼びだぜ。
お前が来るのが遅いからって、俺がこんなカビ臭い所まで来る羽目になっちまった」
「──兄さん、」
オレットが、男に言うのに──……。
俺は思わず嫌~な目で、隣に並んだ男の顔を見た。
……やっぱりな。
こいつが噂のジェノって訳か。
ジェノが、俺の視線に気づいたんだろう、軽薄そうな目をそのまま俺へ向ける。
そーして一、二秒後、
「~おっ?」
といきなり好奇の声を上げた。
……うっわ、ヤベ……。
俺がサッと目線を逸らすのに構わず、ジェノはわざわざ俺の目線の先へ回り込んで俺の顔を見る。
ぷわん、と酒臭さが鼻を突いた。
俺の嫌~な顔にジェノが気付いた様子はねぇ。
に、と笑って話しかけて来る。
「なんだ、かわいーじゃん。
こんなしみったれた場所にオレットと二人でいるからどんな地味女かと思ったけど」
言いながら、ジェノが俺の肩に手を回して自分の方に抱き寄せる。
「~ちょっ、兄さん……!!」
オレットが声を上げてくれるが、そんなモンにはまるで意味がなかった。
ジェノは俺の首筋に顔を寄せて、俺の耳元で囁く。
「~君、リアちゃんだろ?
城中の噂になってるよ。
新しくメイドで入ったガイアス・クラインの姪がめちゃくちゃかわいいって。
あんたに手を出したらクラインのおっさんと内務卿が黙ってないみたいだけど。
お互い相思相愛ってんなら話は別だよな?」
そんな事を、低い声で囁いてくる。
ぞ、わわわわわ……っと、俺の全身に鳥肌が立った。
おいおい待て待て。
お前と俺が相思相愛なんかなぁ、一生涯、何が起こっても絶対ぇに有り得ねぇから!
てーか初対面でいきなり抱き寄せてきて『お互い相思相愛』、とか何言ってんだ、こいつ。
「~兄さん!いい加減にしてくれ!
宰相閣下がお待ちなんだろう!?
すぐに行かないと」
「んだよ、お前だけ先に行ってろ」
「そんな訳にいかない事は兄さんも分かってるだろ。
さあ、ほら!」
言って、オレットが俺から無理矢理にジェノを引き剥がしてくれる。
ジェノはチッと舌打ちなんかしてみせたが、どーやらこれ以上逆らうつもりはないみてぇだった。
ヘラ、と笑って俺に語りかける。
「またな、リアちゃん。
今度は邪魔者のいない所で二人でゆっくり楽しもーぜ」
「~兄さん!」
言って、オレットが図書館の外へ向かって兄貴を背中から押し出していく。
途中、俺の方を振り返り、本当に申し訳ないって表情で一つ会釈したが……。
……何か無駄にダメージ受けたよーな気がするぜ……。
オレットが『ジェノに近づかない方がいい』って言うのも頷ける。
「いつまでも背中押してんじゃねぇよ。
一人で歩ける」
「分かったよ」
そんな会話を交わしながら、クロクスナー兄弟が図書館を出ていく。
その、遠ざかっていく二人の足音を聞くともなしに耳にして──。
俺は不意に心臓が止まるんじゃねぇかと思う程ギクリとした。
カッカッカッと乱暴に、それでいて妙に威圧的に歩く足音と、それとは逆にほとんど音がしねぇ程静かな足音。
この二つの足音に、聞き覚えがあったのを思い出したからだ。
「あ……」
思わず、声が漏れる。
その二つの足音は、昨日あのダルクの仇に数歩遅れて付いて歩いていた二つの足音と、どっちも違わず同じだった。
ふと、俺の頭にその内の一人が話していた『声』が蘇る。
『閣下、この後のご予定ですが──』
その声は、オレットの声じゃなかったか──?
じゃあ、あの先頭を歩くカツカツという冷たい響きを持つ靴の音は、まさか……。
──宰相、セルジオ……?
その事実に──俺は心臓がドクンドクンと重く苦く響くのを感じた──……。
オレットに話を聞く事が出来れば、多少なりとも何かの糸口を見つける事が出来るかもしれねぇ。
「……そういえばさっき、内乱の時のお話がありましたけど……」
そう、問いかけようとした、まさにその時。
カッカッカッと乱暴に、それでいて妙に威圧的に歩く足音が後ろから響いた。
この足音、どっかで──?
思いかけた、ところで。
「おいおい、何だあ?
オレット、こんな所で女と逢引かぁ?
お前も隅に置けねぇなあ」
ぷわん、と背後から酒の匂いがする。
声の主であり、足音の主でもある男が、俺のすぐ隣に立った。
濃い色の金の短髪に、軽薄そうな灰色の目。
どことなく目の前のオレットと顔つきが似ているが、体格がまるで違う。
どっちかっつぅと細身の『文系』なオレットに対して、男はいかにも『武闘派』だ。
赤色の制服は、士官の物だった。
いや、まさか、と思いつつ男をぽかんとふり仰いだ先で男がオレットに向けて言う。
「宰相閣下がお呼びだぜ。
お前が来るのが遅いからって、俺がこんなカビ臭い所まで来る羽目になっちまった」
「──兄さん、」
オレットが、男に言うのに──……。
俺は思わず嫌~な目で、隣に並んだ男の顔を見た。
……やっぱりな。
こいつが噂のジェノって訳か。
ジェノが、俺の視線に気づいたんだろう、軽薄そうな目をそのまま俺へ向ける。
そーして一、二秒後、
「~おっ?」
といきなり好奇の声を上げた。
……うっわ、ヤベ……。
俺がサッと目線を逸らすのに構わず、ジェノはわざわざ俺の目線の先へ回り込んで俺の顔を見る。
ぷわん、と酒臭さが鼻を突いた。
俺の嫌~な顔にジェノが気付いた様子はねぇ。
に、と笑って話しかけて来る。
「なんだ、かわいーじゃん。
こんなしみったれた場所にオレットと二人でいるからどんな地味女かと思ったけど」
言いながら、ジェノが俺の肩に手を回して自分の方に抱き寄せる。
「~ちょっ、兄さん……!!」
オレットが声を上げてくれるが、そんなモンにはまるで意味がなかった。
ジェノは俺の首筋に顔を寄せて、俺の耳元で囁く。
「~君、リアちゃんだろ?
城中の噂になってるよ。
新しくメイドで入ったガイアス・クラインの姪がめちゃくちゃかわいいって。
あんたに手を出したらクラインのおっさんと内務卿が黙ってないみたいだけど。
お互い相思相愛ってんなら話は別だよな?」
そんな事を、低い声で囁いてくる。
ぞ、わわわわわ……っと、俺の全身に鳥肌が立った。
おいおい待て待て。
お前と俺が相思相愛なんかなぁ、一生涯、何が起こっても絶対ぇに有り得ねぇから!
てーか初対面でいきなり抱き寄せてきて『お互い相思相愛』、とか何言ってんだ、こいつ。
「~兄さん!いい加減にしてくれ!
宰相閣下がお待ちなんだろう!?
すぐに行かないと」
「んだよ、お前だけ先に行ってろ」
「そんな訳にいかない事は兄さんも分かってるだろ。
さあ、ほら!」
言って、オレットが俺から無理矢理にジェノを引き剥がしてくれる。
ジェノはチッと舌打ちなんかしてみせたが、どーやらこれ以上逆らうつもりはないみてぇだった。
ヘラ、と笑って俺に語りかける。
「またな、リアちゃん。
今度は邪魔者のいない所で二人でゆっくり楽しもーぜ」
「~兄さん!」
言って、オレットが図書館の外へ向かって兄貴を背中から押し出していく。
途中、俺の方を振り返り、本当に申し訳ないって表情で一つ会釈したが……。
……何か無駄にダメージ受けたよーな気がするぜ……。
オレットが『ジェノに近づかない方がいい』って言うのも頷ける。
「いつまでも背中押してんじゃねぇよ。
一人で歩ける」
「分かったよ」
そんな会話を交わしながら、クロクスナー兄弟が図書館を出ていく。
その、遠ざかっていく二人の足音を聞くともなしに耳にして──。
俺は不意に心臓が止まるんじゃねぇかと思う程ギクリとした。
カッカッカッと乱暴に、それでいて妙に威圧的に歩く足音と、それとは逆にほとんど音がしねぇ程静かな足音。
この二つの足音に、聞き覚えがあったのを思い出したからだ。
「あ……」
思わず、声が漏れる。
その二つの足音は、昨日あのダルクの仇に数歩遅れて付いて歩いていた二つの足音と、どっちも違わず同じだった。
ふと、俺の頭にその内の一人が話していた『声』が蘇る。
『閣下、この後のご予定ですが──』
その声は、オレットの声じゃなかったか──?
じゃあ、あの先頭を歩くカツカツという冷たい響きを持つ靴の音は、まさか……。
──宰相、セルジオ……?
その事実に──俺は心臓がドクンドクンと重く苦く響くのを感じた──……。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが
米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。
その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。
更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。
果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!?
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる