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二十四章 潜入

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言う。

まぁ確かに、いい噂は聞いた事がねぇ。

内乱の後、国を乗っ取った宰相って悪名はサランディール国内だけじゃなく隣国トルスにまでしっかり届いちまってるぜ。

それに、実際にセルジオと接した事があっただろうレイジス、ミーシャ、ガイアスやダンにマーシエ、その誰からもいい話は聞かなかった。

とはいえその息子を前にしてそうまではっきり言う必要はねぇからな。

俺は、感じ悪くならねぇ程度に微かに苦笑して「ええ、まぁ」と答えを濁す事にした。

「でも、とても優秀な方というのは間違いないんじゃないでしょうか。
そうでなければ宰相だなんて責任の重いお仕事、とても務まりませんわ」

実際、そいつはそうだろう。

相当頭が切れて卓越した政治手腕があるからこそ、内乱後の混乱も上手く収め、ついでに今は国王さながらに一国を牛耳れている。

『とても優秀』でなけりゃあここまでの事は出来ねぇ。

思い、言うと──オレットが、どこか面食らった様に俺を見る。

そうして「はは、」と笑った。

問いかけると、

「きっかけも何も。
父という人間を知っていればそういう見方しか出来なくなりますよ」

やっぱり苦々しげに、答えてくる。

……“フリ”とかって感じにゃあ見えねぇな。

どうやらこの父と子の間にゃあちょっとした確執がありそうだ。

と、自分が余分な事を話してる事に気がついたらしい、オレットがハッとした様子で「失礼、」と今日何度目かの『失礼』を言った。

「そんな話より。
あなたに声をお掛けしたのは、そんな話をしようと思ったからではなくて──」

お?

やっぱりナンパか──?……と思った俺だったが。

「私の兄の事です」

思いもよらねぇ方向に、話が持ち上がる。

「~へ?」

と思わず地声を出しかけて、こほこほ咳払いで誤魔化した俺に、オレットは全く構わず話を続ける。

「私の兄──ジェノと言うのですが──噂を聞いた事はおありでしょうか?
つまりその……無類の女好きだと」

最後はどこか言いにくそうに、言う。

俺はそいつに、曖昧に笑って見せた。

オレットはそれだけで答えを察したらしい。

そうしてどこか、頭を抱える様な声音で続ける。

「……その兄が、あなたにとても興味を持っているんです。
兄はその……あまり分別のあるタイプの人間ではありません。
出来れば近づかない事をお勧めします。
特に兄が行く様な演習場や鍛冶場等には、出来るだけ近づかないか、もし近くを通らなければならない事があれば、それこそラードレー卿やクライン卿等、安心の置ける方とご一緒の時がいいかと」

そう、忠告してくれる。

まあ、オレットの兄貴──ジェノって言ったか?──が俺にとても・・・興味を持ってる、とかゾワッとするよーな話もあったが……。

きっと言い出しにくかっただろうに、んな身内の恥みてぇな話をわざわざ教えてくれるたぁありがてぇ。

どーやらオレットはクロクスナー一家の中で一人だけまとも……っつぅより、いい人に育ったらしいな。

俺はオレットの言葉に感謝してにこっと笑ってみせる。

そーして「それでは」と言葉を返した。

「オレット様とご一緒の時も大丈夫ですね。
お兄様の事、ご忠告頂いてありがとうございます。
演習場や、鍛冶場……。
心に留めておくようにします」

にこっと笑顔で言った先で、どーやら俺の笑顔にやられたらしいオレットが、顔を少し赤くして「いえ……」と視線を横に逸らす。

何だか騙してるみてぇで(いや、もちろん騙してるんだが)ちょっと申し訳ねぇ気もするが。

まぁ、こいつもすっげぇ大枠で言やぁレイジスやミーシャの為、サランディールの為になる(ハズ)の『騙し』だから大目に見てもらいてぇ。

んな事を勝手ながらに思いつつ──俺はふと、オレットが『兄貴が立ち寄る場所だから近寄らねぇ方がいい』と言った、鍛冶場の事を思った。

もう十数年も前に、ダルクとそのじーさんが昔働いていたらしい場所──……。

今行ったって二人の痕跡なんか何一つありゃあしねぇんだろうな。

二人共反逆罪に問われて、じーさんは処刑、ダルクは城から逃げたってんだから、尚更だ。

二人共、反逆罪って、本当に一体何をしたら んな疑いかけられちまう事になるんだよ?

~っと、そうじゃなくって……。

俺の目的はダルクの事を知る事じゃなくって、アルフォンソの事を知る事だってぇの。

オレットの親父さん──セルジオとアルフォンソは内乱の時、手を組んでいたのか否か。
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