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二十四章 潜入

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それより他に気になる物って言やぁ……。

考えつつ、俺は部屋の右手奥に置かれた白亜の獅子像へ目をやる。

……あれ、いかにも怪しいよな。

こーゆーさ、城の中みてぇな立派な場所には絵画だの彫像だのの芸術がそこかしこに飾られてっから、そう違和感あるって訳でもねぇんだけど。

隠し戸か何かがこの部屋のどこかにあるって仮定して部屋ん中を見回してみると、こいつほど怪しいモンはねぇ。

例えばトルスのギルド、救護室のベッド下の戸口みてぇに、獅子像の下とかに何か隠されてても不思議じゃなくねぇか?

とは言え、だ。

俺は獅子像の前に立ち、そいつをまずはじっくり観察する。

……な~んかこの像お高そうだからよ。

確証もなしにベタベタ手で触れたり押したり引いたりすんのはちょっと怖ぇんだよな。

それより先にじっくり観察して、ある程度怪しい箇所を見つけてから触るなりなんなりしてぇ所だ。

マーシエからも、掃除の際にこーゆー美術品を扱う時は十分気をつける様にきつく言われている。

俺はもちろんマーシエの一生分の給料でも弁償なんか出来ねぇくらい値が張るモンばっかりらしいからな。

それでとりあえずは観察から入る事にした訳だが……。

二本の前足を宙に浮かせ、グワッと今にも飛びかかって来そうなポーズの獅子像は結構細工が細かい。

毛並みもそうだし大きく開けた口から見える牙もそうだし、足の先の鋭い爪もそうだし。

まるで本物の獅子がこのポーズを取った時にそのまま型取りしたみてぇな、そんなリアルさがある。

その獅子像の台座部分も結構立派だ。

俺は獅子像を最初は正面から、側面からと見ていって、最後に裏面を見る。

像の裏側と本棚の配置はさっきも言った通り大人の足で一歩進めるくらいの距離しかねぇから、しゃがんで観察しようとすると後ろの本棚が近くてやや邪魔だ。

逆に言うと本棚の下の方の本を取ろうとしゃがみ込もうとすると、今度は獅子像が邪魔になる。

別にぶつかる程狭くもねぇし、獅子像の台座を背もたれに床に座って本を読むにゃあいい位置だが……。

ダルクや俺ならいざ知らず、城に勤めるお上品な連中が んな事する為にここに獅子像を設置したとも思えねぇ。

やっぱりこの像、絶対なんかあるぜ。

思いつつ上から下に、正面から裏側にとじっくり観察していくと、ダンも興味深そうに俺の後ろから獅子像を見つめる。

と──。

俺は台座の裏側にふとある物を見つけた。

光の加減で、上や横からざっと眺めても全く分からねぇが、台座の裏側──中央より少し下くらいの位置に、横長の長方形の切れ目がある。

横の長さは丁度俺の手の平より少し長く、縦の長さは親指の長さと同じか、やや短いくらいだ。

切れ目自体ははかなり細くて分かりづらいが、指先で撫でてみると確かに僅かな凹凸を感じる。

あんまり僅かな切れ目なんで爪先で長方形を引き出すとかは出来なさそうだが、逆に押し込んでみるってのはどうだ?

考え、勇気を出して長方形の真ん中を手で押してみる……が。

変化は何もねぇし、長方形が押し込まれる感覚もねぇ。

「──どうした?」

俺のすぐ斜め後ろくれぇの位置に立つダンから不思議そうに問いかけられる。

やっぱり光の加減で、今の俺がしゃがみ込んでるこの目線からじゃねぇと切れ目が見えねぇ様になってるみてぇだ。

んな細やかな細工をするって事は、こいつには絶対ぇになんかある。

俺は半身を返してダンに向かいながら「ああ……」と返し、身振りでダンにその場に屈む様に指示する。

「──ここ。
よく見ると横長の長方形の切れ目が見えるだろ?
なんかあるんじゃねぇかと思ったんだけど……」

カリッと長方形の枠を掻きながら問うと、ダンが俺の横に屈み、目を細めて枠を見る。

「──ああ、確かに。
しかしこの角度からでなければ見え辛いな。
ただの飾りという訳でもなさそうだが」

「ああ」

言いながら、今度は長方形の左端を押し込んでみる──と。

まるでシーソーの片側に重しを乗っけたみてぇに長方形の左側が素直に奥へ押し込まれる。

と同時に長方形の右側が台座から押し上がって来た。

「……お?」

「ん?」

ダンも俺と同じ反応で押し上がってきた長方形の右側を見る。

俺はその右端を手で掴んで更に引き起こしてみる。

と、長方形の右端は台座と丁度直角になる所まで起き上がって──。

そこで『ガコンッ』と音がして止まった。

いや、止まったってぇより、どっか奥の方で何かにきちんと嵌《は》まったって方が言い方としては正しそうだ。

形としては、立派な獅子像の台座の裏側に長方形の取っ手みてぇなモンが出て来た形になる。

となりゃあもちろん、この取っ手を持って台座を押すとか引くとかするんだろう。

物は試しだ。

俺は窓側に回り込んで取っ手を握り、向こうへ──部屋の入口側に向かって押し込んでみる事にした。

すると、するすると──とは行かねぇが、獅子像がゆっくりと、押された方向へ動き出す。

重さはそこそこあるが、か弱い感じの女の子だって全身の体重をかけて押し出せばちゃんと動く様な重さだ。

やや心配なのは取手代わりに握ってるこの長方形の部分だが、特に外れたり欠けたり割れたりって事もとりあえずはなさそうだ。

……まぁ、念の為力の加減にゃあ注意しておくけど。

そうこうしながらゆっくりと像を押し込んでいく──と。

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