196 / 254
二十二章 グラノス大統領
2
しおりを挟む
◆◆◆◆◆
そうして何の事もねぇ犬カバとののんびりした散歩を終えた、夕刻頃──。
宿に戻って支度を整え丁度一息ついた頃に、マリーが馬車で迎えにきてくれた。
その馬車に乗って、数分の距離を移動してから──。
俺と──そしてもちろん当然の様に俺にくっついてきた犬カバはマリーに促されるまま大統領邸に上がらせてもらったのだった。
俺は若干キンチョーしつつ、マリーの後ろについて犬カバと二人、大統領邸内の廊下を大人しく歩く。
マリーはいつもどーりのほほんとした朗らかな調子で世間話をしながら邸内を簡単に案内してくれているが、俺にはその話の半分も頭に入ってこねぇ。
広い邸内。
重厚な壁や床。
品のいい、いかにもお高そうな調度品や美術品の数々。
高い天井に、きらきらと輝くシャンデリア……。
古い貴族の家柄のヘイデン家や、成金のゴルドーんトコとも全く雰囲気が違う立派すぎる大統領邸は、俺にゃあ場違いな気がしてどーにも居心地が悪い。
俺のすぐ横を大人しく歩く犬カバも、自分の足跡で床を汚しちまったりしねぇかとでも思ってるよーに、たまに後ろを振り返りつつ、気を遣いながら歩いている。
まぁ、俺も気分的には似た様なもんだが。
そーしてマリーが最後に案内してくれたのが、どうやら今日の食事処らしい大きなダイニングルームだった。
マリーが戸を開けるとそこにはもう幾人かの使用人がいて、ほとんどの用意を終えていた。
白いきれいな布をかけられた大きく立派な長方形のテーブルに、そいつに合わせた立派な木の椅子。
テーブルの中央には明るい色のきれいな花が飾られ、ナプキンやフォークやナイフ、スプーンなんかもキチッと並べられ、すっかり夕食の準備も出来上がってる。
案内されるままマリーに続けて部屋に入ると、使用人達が礼儀正しく俺とマリーへ礼をした。
マリーはごく当たり前のようにそいつに小さく頷いてから、俺にほんわかしたいつもの微笑みで口を開く。
「もうじきに父も来ると思います。
どうぞ、おかけになってお寛ぎください。
お茶もご用意いたしますわ」
にこにこっといつもどーりの笑顔でマリーが言うのに、俺は若干気後れしつつも「おっ、おう、」と答える。
マリーが……それに気づいてんのか気づいてねぇのか、にこっと笑ってみせた。
そうして──こっそりと内緒話でもする様に俺に顔を近づけ、他の誰にも聞こえねぇ様な小さな声で言う。
「大丈夫ですわ。
リッシュ様ならきっと何もかもうまくやり遂げられます。
リッシュ様、がんばっ!ですわ」
俺はこいつにも「おっ、おう」と同じく小声で答えた。
マリーが──最後にもう一度にこっと微笑んで俺から少し離れ、今度は普通に口を開く。
「私は今回席を外しますわ。
男同士、ゆっくりとお食事とお話をお楽しみくださいませ。
お帰りの際も、ちゃんと馬車をご用意しておきますのでどうぞご安心くださいね」
マリーが言う。
マリーが席を外すってぇのは、たぶん俺が例の件について話しやすい様にって事だろう。
俺としちゃあ少しでも事情を知ってるマリーにもいてもらった方が心強いし安心感もあるんだが……まぁ、甘えた事は言ってられねぇよな。
俺はマリーの言葉にこっちも笑顔で「ありがとう」と礼を言う。
俺は表面上はゆったりとリラックスした風を装い優雅に茶を戴きつつも、内心では頭をフルに回転させて今日のこれからの事を考えていた。
レイジスのサランディール奪還に、グラノス大統領が協力してくれそうか、どうか。
こいつをそれとなく探るってぇのは、実はかなりの難問だ。
あんまぐずぐずやってっと機会も逃すかもしんねぇし、下手すりゃ大統領の機嫌を損ねるって事にもなりかねねぇ。
『何が言いたいのかはっきり言ってみたまえ』
なぁんてあの大統領の口からど迫力で言われたら、さすがの俺も縮み上がっちまうよ。
だったらヘンな小細工なしに最初から堂々と話を持ち出した方がいいのか……。
迷う所ではあるよな。
つーかまずはどんな風に話題をサランディールに持ってったもんかなぁ……。
気軽に(?)引き受けちまったはいいが、これって結構責任重大だぜ。
んな事を考えながら茶を飲み大統領を待つ事しばらく。
「主人が参りました」
執事が一言、声をかけてくる。
俺と犬カバは二人揃って無意識の内にピンと背筋を伸ばして、ちょっと立ち上がりかけながらそいつに対応する。
と、ものの三秒も経たねぇ内に、お待ちかねのグラノス大統領本人がやってきた。
たぶん、目一杯仕事をしてきた直後のはずだが、その顔にゃあ疲れは微塵も見えねぇ。
むしろ気力に溢れてるってな感じだった。
「いやぁ、リッシュくん、遅れてすまない。
久々だが、元気にしていたかね?」
前に会った時と同じに、人懐っこい、人好きのする笑み。
心底再開を喜んでくれてるらしい大統領に、俺は「あっ、ああ」とちょっと笑顔で返した。
「大統領も元気そうで良かったよ」
言うと、大統領も笑顔で返してくれる。
「まぁ座りなさい。
お腹も空いただろう、食事にしようじゃないか」
◆◆◆◆◆
大統領ん家での食事は、俺が想像してたよりずっとラフで気楽なもんだった。
トマトソース仕立てのごった煮や、コーンスープにサラダ、ステーキに、甘いにんじんとポテトが添えられた一皿。
さっぱりとしたイチゴのシャーベット。
どれも最高級に美味いが気取りすぎず、腹いっぱい食っても胃もたれしなさそうな、そんなメニュー構成だった。
(俺が気にしてねぇだけかもしれねぇが)完璧な食事のマナーが入り用な雰囲気でもねぇし、本当に大統領との食事を和やかに楽しむってな雰囲気だ。
もっとお堅い感じのディナーなんかを想像してたんで内心ホッとしたぜ。
犬カバにもミルクとドッグフードが振る舞われてたが、どーやらこいつも最高級に美味かったらしい。
普段なら味ちゃんと分かってんのか?ってくらいに がっつく様に食う犬カバも、今日は一口一口おいしさを噛み締める様にして食っている。
その犬カバの食い方を見て大統領が「賢そうな犬だと思っていたが、食べ方も上品だなぁ」なぁんて褒めちぎったもんだから、いつにも増して上機嫌だった。
そうして何の事もねぇ犬カバとののんびりした散歩を終えた、夕刻頃──。
宿に戻って支度を整え丁度一息ついた頃に、マリーが馬車で迎えにきてくれた。
その馬車に乗って、数分の距離を移動してから──。
俺と──そしてもちろん当然の様に俺にくっついてきた犬カバはマリーに促されるまま大統領邸に上がらせてもらったのだった。
俺は若干キンチョーしつつ、マリーの後ろについて犬カバと二人、大統領邸内の廊下を大人しく歩く。
マリーはいつもどーりのほほんとした朗らかな調子で世間話をしながら邸内を簡単に案内してくれているが、俺にはその話の半分も頭に入ってこねぇ。
広い邸内。
重厚な壁や床。
品のいい、いかにもお高そうな調度品や美術品の数々。
高い天井に、きらきらと輝くシャンデリア……。
古い貴族の家柄のヘイデン家や、成金のゴルドーんトコとも全く雰囲気が違う立派すぎる大統領邸は、俺にゃあ場違いな気がしてどーにも居心地が悪い。
俺のすぐ横を大人しく歩く犬カバも、自分の足跡で床を汚しちまったりしねぇかとでも思ってるよーに、たまに後ろを振り返りつつ、気を遣いながら歩いている。
まぁ、俺も気分的には似た様なもんだが。
そーしてマリーが最後に案内してくれたのが、どうやら今日の食事処らしい大きなダイニングルームだった。
マリーが戸を開けるとそこにはもう幾人かの使用人がいて、ほとんどの用意を終えていた。
白いきれいな布をかけられた大きく立派な長方形のテーブルに、そいつに合わせた立派な木の椅子。
テーブルの中央には明るい色のきれいな花が飾られ、ナプキンやフォークやナイフ、スプーンなんかもキチッと並べられ、すっかり夕食の準備も出来上がってる。
案内されるままマリーに続けて部屋に入ると、使用人達が礼儀正しく俺とマリーへ礼をした。
マリーはごく当たり前のようにそいつに小さく頷いてから、俺にほんわかしたいつもの微笑みで口を開く。
「もうじきに父も来ると思います。
どうぞ、おかけになってお寛ぎください。
お茶もご用意いたしますわ」
にこにこっといつもどーりの笑顔でマリーが言うのに、俺は若干気後れしつつも「おっ、おう、」と答える。
マリーが……それに気づいてんのか気づいてねぇのか、にこっと笑ってみせた。
そうして──こっそりと内緒話でもする様に俺に顔を近づけ、他の誰にも聞こえねぇ様な小さな声で言う。
「大丈夫ですわ。
リッシュ様ならきっと何もかもうまくやり遂げられます。
リッシュ様、がんばっ!ですわ」
俺はこいつにも「おっ、おう」と同じく小声で答えた。
マリーが──最後にもう一度にこっと微笑んで俺から少し離れ、今度は普通に口を開く。
「私は今回席を外しますわ。
男同士、ゆっくりとお食事とお話をお楽しみくださいませ。
お帰りの際も、ちゃんと馬車をご用意しておきますのでどうぞご安心くださいね」
マリーが言う。
マリーが席を外すってぇのは、たぶん俺が例の件について話しやすい様にって事だろう。
俺としちゃあ少しでも事情を知ってるマリーにもいてもらった方が心強いし安心感もあるんだが……まぁ、甘えた事は言ってられねぇよな。
俺はマリーの言葉にこっちも笑顔で「ありがとう」と礼を言う。
俺は表面上はゆったりとリラックスした風を装い優雅に茶を戴きつつも、内心では頭をフルに回転させて今日のこれからの事を考えていた。
レイジスのサランディール奪還に、グラノス大統領が協力してくれそうか、どうか。
こいつをそれとなく探るってぇのは、実はかなりの難問だ。
あんまぐずぐずやってっと機会も逃すかもしんねぇし、下手すりゃ大統領の機嫌を損ねるって事にもなりかねねぇ。
『何が言いたいのかはっきり言ってみたまえ』
なぁんてあの大統領の口からど迫力で言われたら、さすがの俺も縮み上がっちまうよ。
だったらヘンな小細工なしに最初から堂々と話を持ち出した方がいいのか……。
迷う所ではあるよな。
つーかまずはどんな風に話題をサランディールに持ってったもんかなぁ……。
気軽に(?)引き受けちまったはいいが、これって結構責任重大だぜ。
んな事を考えながら茶を飲み大統領を待つ事しばらく。
「主人が参りました」
執事が一言、声をかけてくる。
俺と犬カバは二人揃って無意識の内にピンと背筋を伸ばして、ちょっと立ち上がりかけながらそいつに対応する。
と、ものの三秒も経たねぇ内に、お待ちかねのグラノス大統領本人がやってきた。
たぶん、目一杯仕事をしてきた直後のはずだが、その顔にゃあ疲れは微塵も見えねぇ。
むしろ気力に溢れてるってな感じだった。
「いやぁ、リッシュくん、遅れてすまない。
久々だが、元気にしていたかね?」
前に会った時と同じに、人懐っこい、人好きのする笑み。
心底再開を喜んでくれてるらしい大統領に、俺は「あっ、ああ」とちょっと笑顔で返した。
「大統領も元気そうで良かったよ」
言うと、大統領も笑顔で返してくれる。
「まぁ座りなさい。
お腹も空いただろう、食事にしようじゃないか」
◆◆◆◆◆
大統領ん家での食事は、俺が想像してたよりずっとラフで気楽なもんだった。
トマトソース仕立てのごった煮や、コーンスープにサラダ、ステーキに、甘いにんじんとポテトが添えられた一皿。
さっぱりとしたイチゴのシャーベット。
どれも最高級に美味いが気取りすぎず、腹いっぱい食っても胃もたれしなさそうな、そんなメニュー構成だった。
(俺が気にしてねぇだけかもしれねぇが)完璧な食事のマナーが入り用な雰囲気でもねぇし、本当に大統領との食事を和やかに楽しむってな雰囲気だ。
もっとお堅い感じのディナーなんかを想像してたんで内心ホッとしたぜ。
犬カバにもミルクとドッグフードが振る舞われてたが、どーやらこいつも最高級に美味かったらしい。
普段なら味ちゃんと分かってんのか?ってくらいに がっつく様に食う犬カバも、今日は一口一口おいしさを噛み締める様にして食っている。
その犬カバの食い方を見て大統領が「賢そうな犬だと思っていたが、食べ方も上品だなぁ」なぁんて褒めちぎったもんだから、いつにも増して上機嫌だった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる