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二十一章 協力者達

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◆◆◆◆◆

そこから馬車に揺られていく事数十分──。

馬車はトルスの首都にある大統領官邸から少し離れた地区に建つ、ある一軒の宿の前で止まった。

そこは大通りから道一本奥に引っ込んだ密やかな場所なんだが、宿も道も寂れた様な感じはこれっぽっちもねぇ。

宿の外観も、それに内側も、目立ち過ぎず、なのにどっか高級感もあるいい宿だった。

残念ながら部屋は三室しか取れなかったらしいから自然な流れでレイジスが一室、ミーシャが一室、俺とジュード、犬カバで一室ってなカンジになった。

俺と『ダルク』をセットみてぇに考えてたらしいマリーは不思議そうっちゃ不思議そうだったが、一応はあんま気にしねぇ事にしてくれたらしい。

「宿の方には長期滞在予定、とだけ伝えてありますの。
何かお困りの事がありましたら宿の者か、お電話して下されば私が対応致しますわ」

にこにこっとしながらマリーが言うのに、レイジスがいかにもちゃんとした王子みてぇに「ありがとう」と礼を言う。

マリーはにこっとしてそれに応えた。

「ごゆっくりおくつろぎ下さい。
私は一度父の所に戻ってみます。
もし早いお時間でリッシュ様との会談が出来そうでしたらすぐにお知らせ致しますわ」

そう言って、侍女を引き連れ再び馬車に乗り込んだマリーを見送って……俺らは目立たねぇ様大人しく、それぞれに与えられた自分の部屋に引っ込んでその知らせを待ったのだった。


◆◆◆◆◆


マリーからの連絡があったのは、それから小一時間もした頃の事だった。

フロントにかかってきた俺宛ての電話を取ると、電話の向こうから『ああ、リッシュ様』とほんの少ししょんぼりしたマリーの声が聞こえた。

『せっかく今日お早いお時間にこちらまでお越しいただいたのに、どうやら急に父の予定が空かなくなってしまったらしいんですの。
何でも急な案件が入ってしまったとかで。
もしリッシュ様がよろしければ、明日の夕食時にはもう少しゆっくりお話出来る時間が持てそうなのでどうかと父が申しているのですが、いかがでしょうか?』

問われて俺は二つ返事で「おう、」と答える。

「俺の方はそれで全然構わねぇぜ。
突然押しかけてんのはこっちだしよ。
忙しいのも分かってるから。
大統領にも無理はしねぇ様伝えてくれ」

言うとマリーがパァッと明るく「はい!」と返事する。

そーしてその後二言三言話して、電話が切れたのを確認してから──俺はふーっと息をついて受話器を置く。

途端、

「クヒ?」

足元から犬カバが尋ねてくる。

俺はそいつに軽く肩をすくめてゆっくりとフロントを離れ、自室に向かって歩き出しながら言う。

「どーも大統領の予定がつかなくなっちまったらしいぜ。
代わりに明日の夕食の時になら時間が取れるかもってさ。
まぁ今日はこのままのんびりしてるしかねぇな」

……と言いかけてる側から犬カバが じゅるり、と涎を垂らす。

どーやら今の話だけで自分も大統領邸の夕食のご相伴に預かれるって想像したらしい。

まぁ確かにマリーは『ペット同伴厳禁!』なぁんて一言だって言っちゃいねぇが、『わんちゃんのご夕食もご用意してお待ちしてます』とも言っちゃいねぇ。

あんま期待し過ぎてその期待が外れたりしなけりゃいいが。

なぁんて思いつつ自室の戸を開こうとした……ところで。

カチャン、と隣の部屋の戸が少し開く。

俺がそっちに目線を向ける中、その戸の隙間からひょこんとミーシャが顔を出した。

俺の姿を認めると『冒険者ダルク』の声音で──ただしほんの僅かにふんわりと微笑みながら口を開く。

「マリーからか?」

言った言葉に……俺は何でか少し戸惑いながらも「お、おう」と硬く返事する。

本能で、まぁた じと目で見られるんじゃねぇかと思ったせいだが……。

とにもかくにも俺は言う。

大統領向こうの予定が合わなくなっちまったんだってさ。
代わりに明日の夕食ん時ならどーかって聞かれたんで、一応OKしといたぜ。
まぁ、今日のところは明日の大統領との話の持っていき方でも考えつつのんびりする事にするよ」

言うと「そうか」とミーシャが頷いて答える。

その声が……不思議と弾んでいる。

いや、弾んでるって言やぁいいのかどーか分からねぇんだが、何だか妙に機嫌がいいっつぅのか……。

俺は思わず首を捻りつつ、ミーシャ……と呼びかけそうになるのをすんでのところで口を止め、改めて問う。

「ダル……お前、何かやたら機嫌良くねぇか?」

宿に着いて、それぞれ部屋に引っ込むまでは、別にミーシャの機嫌は良くも悪くもなくごくフツーだったはずだ。

そっからほんの小一時間の間に何かミーシャの気に入る事が……?と考えかけて。

俺はふとある一つの心当たりを見つけた。

「そーいやシエナからの餞別。
あれ一体何だったんだ?
開けてみたか?」

問いかける。

シエナの話によりゃあ『今回は使わねぇかもしんねぇけど、そん時はまた機会のある時に使ってもらえりゃいい』ってな話だったが、もしかしてその“餞別“のおかげでこんなにも機嫌がいいんじゃねぇのか。

そう見当をつけて聞いてみたんだが、どーやらそいつは当たりだったらしい。

ミーシャは ふふ、と柔らかに微笑んで「ああ、」と答える。

「そのうちリッシュにもお披露目するから。
もしかしたら今回、とはならないかもしれないが、その時は帰ってからでも、きっと」

秘密めいた声で言って、ふんわり微笑む。

その笑顔が、めちゃくちゃ可愛い。

……これ、事情を知らねぇ誰かが見たって、一発で女の子だって分かっちまうんじゃねぇのか?

んな事を思いつつ照れ隠しに頬をポリ、と一つ掻いてみせる。

そーしてちょっとしてから ふと、ある事に気がついた。

「~って、“お披露目”って?
なんだよ?何が入ってたんだ?」

問いかける。

まさかマジックとかトランプの道具でも入ってたんじゃあるまいし。

けど他に“お披露目“するような類のプレゼントなんて、俺には全然思い浮かばねぇ。

ミーシャは ふふ、と上機嫌のまま笑って「内緒だ」とだけ返し、そーしてそのまま「それじゃあ、」と言葉を続けた。

「また後で」

にっこり笑ってそうとだけ告げ、ミーシャは上機嫌のままパタンと戸を閉め、自室に引っ込む。

俺はしばらくその場に立ち尽くし……。

足元の犬カバと共に首を捻ったまま、そのミーシャの部屋の戸を眺めたのだった──。
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