上 下
187 / 254
二十一章 協力者達

11

しおりを挟む
ゴルドーがいつになく鋭い眼差しでレイジスを見下ろし睨みつけるが、一つも効いた様子がねぇ。

口を開いたのはゴルドーだった。

「……おい、てめぇ。
てめぇがサランディールの第二王子か」

質問ってぇよりは、どうやら確固たる確信を持って出された言葉、みてぇだった。

どーゆーつもりかしんねぇが、ドスもかなり効いている。

今はビミョーな立場とはいえ、レイジスみてぇな王子サマに一介の商人ごときがかけていい言い様じゃあねぇ。

フツーの王子なら怒り狂うなり何なりする所、なんだろーが……。

レイジスは違っていた。

至って平静に──むしろやんわりとした穏やかな声で返す。

「ええ。
サランディールのレイジスといいます。
あなたは?」

どっちが身分が上でどっちが年上だよって思わず突っ込みたくなっちまう程、しっかりと礼儀正しい大人の対応だ。

にも関わらずゴルドーはレイジスの問いかけを無視してレイジスからミーシャ、そして俺までをも見渡し、まったく別な事を口にする。

「~てめーら揃って飛行船使ってサランディールに殴り込みかけに行くつもりらしいじゃねぇか。
ヘイデンの野郎から聞いたぞ」

言ってくるのに──……俺は思わず怪訝な顔でゴルドーと、呆れ顔のままそのゴルドーを少し離れた所から“見て“いるヘイデンの顔を見た。

『殴り込み』ってぇ言葉の選び方にもツッコミどころはあるんだけどよ、それより何より。

何でヘイデンがその事知ってんだよ?

そもそも俺がレイジスのサランディール奪還を手伝うって決めたのは昨日の事だし、ヘイデンにゃあその事も伝えてねぇ。

いずれそーいう事になるだろうって予測くらいは立つにしても、このゴルドーの言い方じゃ、どーやらそーゆーアバウトな見立てで告げた訳でもなさそうだ。

と、訝しみながら隣のミーシャを見ると、ミーシャが俺の視線に気がついて──そーしてちょっと訳知り顔で、俺を見た。

そいつに俺はミーシャから、チラリとヘイデンの方へ視線を転じてみた。

そーして確信する。

ミーシャがヘイデンに話を通してたのか。

俺がレイジスに協力しようと決めた事や、それに飛行船を使うと決めた事を。

そーして訳を知ったヘイデンが、ゴルドーに話しちまった、と。

……まぁ、意外ではあるが。

考えてみりゃあヘイデンとゴルドー、それにシエナは、なんだかんだ言っていつもちゃんと情報共有してんだよな。

俺がゴルドーから一奥ハーツの借金をしてそいつを何に使い込んだか、とか、そーゆーどーでもいい話とかまでさ。

とにもかくにも、だ。

レイジスが──ゴルドーからヘイデンへ視線を転じる。

どーやら説明を求めたらしい。

ヘイデンは深く息をついて口を開いた。

「──この男は、この街のカフェやカジノの経営をしているゴルドー商会のゴルドーだ。
今リッリュが所有する飛行船造りには、この男も携わっていた。
飛行船についての知識と技術は一流だ」

ヘイデンの簡潔な説明に、レイジスがなるほど、とばかりに頷く。

……いや、待てよ。

そいつが確かなのは俺にも分かるが、まさか──。

嫌~な予感が頭をよぎる中──……ゴルドーがドンッと自分を自分の親指で指し、言ってくる。

「サランディール奪還時の飛行船には、この俺サマが同乗してやる。
副操縦士・・・・としてな」

言ってくるのに……俺は思わず一瞬、呆気に取られちまった。

「クヒッ!?」

っと犬カバが俺の足元でビビった様にビョンッと小さく一つ跳ね上がる。

そいつに俺は思わずハッとした。

ヤベ……今一瞬頭が真っ白になっちまってた。

俺は正気を取り戻す為にぶるぶると頭を振ってゴルドーへ向かって立ち上がりながら抗議する。

「~はっ……はぁ?!
副操縦士だぁ?!
いらねーよ、んなもん!」

本気の本気でそう言うと、ゴルドーの野郎が『バァンッ!!』とテーブルに片手をつき「なんだと、コラァッ!!」とすんげぇ剣幕で怒ってくる。

目の前でテーブルを叩かれ、大声で怒鳴るゴルドーに、レイジスが目をまあるくしてゴルドーと俺を見る。

が、俺もゴルドーも気にしやしねぇ。

「この俺サマがわざわざやってやるっつってんだ!
断る理由がねぇだろーが!!」

「あるに決まってんだろ!!
空の上でも横で んなにギャーギャー言われたらまともに操縦なんか出来ねぇってーの!!」

「ギャーギャーなんか言ってねぇだろーが!!」

「言ってんだろ!!」

文字通りギャーギャーやり合ってると──ヘイデンが大きく一つ咳払いしてみせた。

そうして珍しく一喝する様に「二人共やめないか!」と声を上げる。

そいつに……俺もゴルドーも、思わずそのままピタッと止まっちまう。

ただし、すぐに睨み合う事だけは再開したが。

ヘイデンが大きく深く息をつく。

やれやれとでも言いたげだが、これって明らかに俺のせいじゃねぇだろ。

大体 副操縦士なんて発想、一体どっから生まれたんだっての。

ぶうたれながら思ったそいつを読まれたのか──……ヘイデンがもう一つ息をついた。

そーしてレイジスとミーシャには「見苦しい所をお見せし、申し訳ない」と軽く詫びつつ、だが、と言葉を続ける。

「ゴルドーの話……ゴルドーが手前勝手に言っているだけの話ではない」

はっきりと、そう告げてくる。

俺は反論しようと口を開きかけたがヘイデンはそれをさせなかった。

レイジスの方から視線をはっきりと俺に移し、言う。

「現実的に──少し考えれば分かる事だ。
おそらくサランディールまで何のトラブルもなくあの飛行船を飛ばしたとしても、丸一日はかかるまい。
だがその一日、気象や方角、地理地形、そして飛行船自体のコンディションなどにも気を配りながら、一分の見落としなくトラブルにも対処し、到着地まで確実に安全に一人で運行する事が出来ると絶対に言い切れるか?」

問われる。

俺はそいつに、思わず嫌~な顔で返しちまった。

ヘイデンが言った事……自信がねぇ訳じゃねぇ。

もちろん んな話が出るまでは、ヘイデンが今言った通りの事をフツーに一人でこなす気でもいた。

やれるか?と問われればやってやるさ!とタンカを切ってやる所でもある。

けど……。

“一分の見落としなく“

“確実に安全に“

“絶対に言い切れるか“

ヘイデンの、いつも通りの嫌味な問いかけを聞いちまうと、どーにも「出来る!」と突っぱね切れねぇ自分がいた。

決して不可能じゃねぇ。

パイロットの端くれとして、もちろん自信もある。

だが、“絶対に確実に“とは言い切れねぇ。

このずば抜けた頭の回転力と行動力、それに観察眼も勘も鋭い俺だが、それでも言っちまえばただの人間だ。

どんなに神経注いで気をつけていても、間違いや勘違いもすりゃあ時には失敗しちまう事だって十二分にあり得る。

人間、一人で出来る事には限界がある……ってこった。

だからうざったくってもうるさくても、俺が万一見逃しちまったもしも・・・の穴を見つけたり埋めたりする副操縦士をつけろ、と。

そーゆーこった。

そーしてそいつにゃあ飛行船の構造から操縦までしっかり全てを知り尽くしてるゴルドーのヤローをつけるべきだ……と。

思わず歯噛みしてヘイデンを睨む中──口を開いたのはゴルドーだった。

「……おい、ガキ。
俺はまだ“あの日の約束“を違えたつもりはねぇ」

ただその一言、言ってくる。

レイジスが「?」の表情でゴルドーと俺を見る。

「……あの日の、約束……?」

ミーシャも不思議そうに問いかけたが……俺もゴルドーもそいつには答えなかった。

俺には、ゴルドーの言った『あの日の約束』が一体何なのか──息をするくらい簡単に分かっちまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが

米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。 その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。 更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。 果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!? この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...