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二十一章 協力者達

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「リッシュ様達がレイジス様とお知り合いだっただなんてびっくりしました。
お二人共、レイ様の正体をご存知だったのでしょう?
古くからのお知り合いなのですか?」

聞く。

俺は──その何気ない問いかけに一瞬止まって……マリーには気づかれねぇ程度にだけミーシャの方へ視線をやった。

ミーシャはレイジスと同じ様に自分の出自を──正体をマリーに告げるつもりなのかどーか気になったからだが……。

ミーシャは「──いや、」とマリーの問いかけを、『冒険者ダルク』のまま否定した。

「彼と出会ったのはここ最近だ」

ほんのわずかに質問された内容をすり替えて、ミーシャは言う。

だがまぁ、嘘はついちゃいねぇ。

『知り合ったのはここ最近だ』っつぅとミーシャにとっては嘘になるが、『(レイジスと再び)出会ったのはここ最近だ』と言えば別に嘘にゃあならねぇからな。

『レイ』の正体を知ったマリーだ、別にミーシャだって「実は私は、」と正体を明かしてやっても構わねぇんじゃねぇかとも思うが……。

ま、でも俺だって「実はたま~に『リア』って名前で女装して街を歩いてま~す」なんてあえては言いたくねぇし、ミーシャにもそーゆー何かがあるんだろ。

そう、一人勝手に納得してると、マリーが「まぁ、そうでしたの」と案外あっさりと納得する。

そうしてちょっと真面目な顔をして──つっても元がほわほわっとした雰囲気だからさほどでもねぇが──レイジスへ顔を戻した。

「ところでレイジス様。
私はここで今日こうしてお会いした事は、なかったものとして考えた方がよろしいのでしょうか。
つまり、父の耳などには入れない方が?」

問いかけるのに──レイジスはほんの一、二秒程も何かを考える様にしてから……ゆっくりと「そうですね」と口にした。

「そうしてもらえると、ありがたい」

言う。

マリーがそいつに得心したように頷いた。

「分かりました。
私が今日この街で出会ったのは、リッシュ様とダルク様のお友達のレイ様。
そのレイ様とのお約束ですもの、秘密はちゃんと厳守致します。
どうぞご安心してお過ごしください」

にこにこっと人懐っこく笑んでマリーが言う。

もちろんレイジスもその笑顔に笑顔で「ありがとう」と返し、場の雰囲気も一気に和んだんだが……。

俺はふと、ある一つの事を考えていた。

以前大統領と会った時、他ならねぇ大統領自身が言ってくれたこの言葉。

『こうさせてはくれないか。
もし今後──何か困った事が出てきたら、迷わず私を訪ねてほしい。
立場柄何にでも応えられるとは言い切れないが、出来る限りの力になろう』

もし何か困った事が出てきたら。

正確に言えば今は『困った』って程困った状況にある訳でもねぇんだが……。

もしこの件に関して大統領の助力をもらえるんなら、きっとそいつは大きな助けになるだろう。

表立ってとはいかなくても、影ながら、ほんのちょっと手助けしてくれるだけでもいい。

もし仮にそいつはトルスの大統領として協力する事は出来ねぇとなっても、レイジス自身の事やサランディール奪還を狙ってる事を、他へ漏らすなんて事はしねぇんじゃねぇかな?

大統領と会ったのはたった一度だし、話した時間も んなに長かった訳じゃねぇが、そんな風に思う。

それに、だ。

こんな言葉は何か縛られるよーであんまり好きじゃねぇが、何だかちょっと運命的、じゃねぇか。

宰相に乗っ取られた国を取り戻そうとする王子と、そいつに協力すると決めた俺。

あの広い街中で──しかも人影に隠れてさほど見えなかっただろう俺を見つけた、大統領の娘。

その大統領は、以前俺の力になると言ってくれていた。

運命とか神を一切信じねぇ俺でも、ついこんな事を考えちまう。

つまりさ。

神かなんかが、レイジスがサランディールを取り戻す事を望んでいて──“そういう采配”をしてるんじゃねぇのかって。

そんな風にさ。

んなのは俺の勝手な妄想だが、とにもかくにも俺はふんわり和んだ空気に「なぁ、」とレイジスへ向けて、口を開く。

そいつにレイジスが「ん?」と俺の方を見る。

俺は──ガラにもなく真剣な顔で、言葉を続けた。

「──例の事。
いっそグラノスこの国の大統領に話してみるってのはどうなんだ?」

問いかける。

そーやって口に出して言ってみると不思議な事に、そいつが至極正しい事の様に感じた。

大統領に全てを打ち明けて、助力を求める。

何も他の国を侵略する為に戦争するから力を貸してくれって言ってる訳じゃねぇ。

正統な王位継承者が、自分の国を取り戻す為に力を貸してくれってんだ、別におかしな事でもなけりゃああり得ねぇ話でもねぇ。

レイジスが──俺の“真面目”に“真面目”な顔で返す。

その脳ミソん中ではきっと──俺なんかにゃあ想像もつかねぇ程たくさんの考えが巡ってるんだろう。

マリーがきょとんとしながら

「例の事?」

と問い返してくる。

俺は構わずレイジスの次の言葉を待ったが……答えはまだ返ってこねぇ。

レイジスにとって、こいつはこの先を大きく左右する選択、になる。

慎重になんのも当然っちゃ当然だ。

だが俺は、俺の直感を信じるぜ。

「あの人は信頼出来る。
俺はきっとレイジスの力になってくれると思うぜ?」

マリーが『?』でいっぱいの顔で俺とレイジスを交互に見る。

俺とレイジスはけどそいつには目もくれずに互いの目を見合った。

俺はもちろん真剣そのものだったんだが。

レイジスが──途中からじんわり涙を滲ませ俺から目を離し、くっ、と片手で目頭を押さえ苦悩に満ちた様子で顔を俯かせる。

マリーは元より俺も『えっ?』と思わずレイジスを見たんだが……隣のミーシャは冷静だった。

またひんやりとどこか冷てぇ眼差しでレイジスを見つめ、簡単に一言、

「……またリッシュの顔に『リア』を見たんだろう」

言ってくる。

もちろんマリーにゃ何の事だか分からねぇだろーから戸惑うばかりだが。

俺は……俺も、半ば戸惑い半ば引きつつ、俯いたレイジスの頭に

「お~い、レイジス?」

声をかける。

レイジスはしばらくの間(おそらく涙を引っ込める為に)そのまま動けずにいたが、そのうちに

「──いや、大丈夫だ、すまない」

と一言言い置いて、どうにか復活してきた。

そーしてキュッと顔を引き締めて、改めて俺を見る。

……どーでもいいけどまた俺の顔見て泣いてくれんなよ?

思いつつレイジスを見ると、レイジスが今度は元通り落ち着いて、ちゃんと真面目路線に切り替えて話を始めた。

「……俺も何度かグラノス大統領とお会いして……リッシュくん同様、信頼に足る、公明正大な御仁だという事は承知している。
だが……」

言いながら、そのまま止まっちまう。

と──それまで訳も分からず話を聞いていたマリーが「あの~」と一つ、声を上げた。

レイジスや俺、ミーシャの視線が集まる中、マリーは言う。

「よく分からないのですけど。
でも、レイジス様は何かにお困りで、リッシュ様はうちの父がそのお力になれると思って下さってるんですよね?
だけどレイジス様は、うちの父にそれを相談すべきかどうか迷っていらっしゃる?」

語尾に「?」マークをつけて首を傾げつつの問いかけだったが、バッチリ要点を掴んでくれている。

俺は「おっ、おう、」とひとまず返事した。

すると──

「だったら、」

とマリーが明るくこんな提案をしてきた。

「直接父にお会いになって、さりげな~くその“レイジス様の困り事“を父が助けてくれそうかどうか、探ってみたらいいんですわ」

「~へっ?」

思わず目を瞬いて俺がマリーを見ると、マリーも俺を見てにっこり笑う。
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