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二十一章 協力者達

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中での会話をどっかで盗み聞かれる心配もねぇ上に、話をしながら執事のじーさんの淹れてくれた温かい茶を飲む事だって出来るだろ。

ま、ヘイデンにゃあ「うちは会議室ではないのだがな」とか何とか小言くらいは言われんだろーが、んなの俺は気にしやしねぇ。

どっちみちレイジスはヘイデンに用があったんだ。

マリーの前でその話をするにしてもしないにしても、色んな意味で手間も省けて丁度いい。

思いながら歩く中──マリーは特にこれといって俺やミーシャに話しかけるでもなく う~ん、う~んと首を捻りながら、前をのんびり歩くレイジスの背を見つめている。

俺やミーシャ、それに前を行くレイジスとジュードの方でも──特にこれといって口を開く事もねぇ。

そのまま街を出てみんな連れ立って街道を行く事しばらく──。

人通りも少なく、辺りにすれ違う人間がいなくなった頃合いを見計らって、マリーが「リッシュ様、リッシュ様、」と俺にだけ聞こえる様な小さな声で俺を呼んだ。

もちろん少し前を行くレイジスやジュードにゃ聞こえやしなかっただろうが、俺の左隣を歩いてたミーシャはそいつに気がついたみてぇだった。

俺が「ん?」と右隣へ──マリーの方へ目をやると、マリーはいかにも真剣な表情でこんな事を言ってくる。

「あちらの──レイ様は、ちゃんと生きておられるのですよね?
幽霊とか幻とか……私にだけ見えてる、という訳でもなくて?」

一切の冗談もなく、ごくごく真面目に聞いてくるマリーに。

俺と犬カバは揃って一瞬の間を置いて、互いの顔を見合った。

そーして、

「~ぶっ、」

「~キュッ、」

と思わず二人揃って吹き出しちまった。

俺は犬カバを抱えてねぇ方の手を額にやって当てクククッと小さく笑いを堪えよーとしたが、完全には収まらねぇ。

犬カバもすっかり丸々した体をぷるぷる震わせながら「クヒヒヒヒ」と妙な笑いを忍ばせた。

マリーが目を大きく丸くしてそんな俺と、腕の中の犬カバを交互に見る。

前を行くレイジス本人が「?」の表情で俺をちらっと振り返ったが、俺にゃあそいつを見返す余裕がねぇ。

幽霊とか幻とか。

んな言葉が飛び出すっつぅ事は、マリーはちゃんとレイジスの事を知ってんだ。

レイジスが『サランディールの王子』で、『一年前の内乱で死んだ』とされてる事を。

まーそりゃ「何で生きてんだ?」とか「ほんとーに生きてんのか?」とかくらいなら疑う気持ちも分からねぇ訳じゃねぇけどよ。

まさかユーレイとか幻とかってぇ話が出てくるとは思わなかった。

しかもマリーの様子を見る限りわりかし本気マジな感じだ。

俺と犬カバがあんまり笑ってっからか、マリーがすっかりきょと~んとしちまってる。

いつまでも笑いが収まらねぇ俺と犬カバにだろう、ミーシャがそいつに息をついてきちんとマリーにフォローを入れた。

「──いや、幽霊でも幻でもない。
レイはちゃんと生きている」

至って平静にミーシャが『冒険者ダルク』の口調でそう言うと、マリーが明らかにホッとした様に「そっ、そうですわよね」とミーシャへ笑顔を向けた。

そうしてから──

「あら?でもそうすると……」

と首を傾げてみせる。

きっと、自分が聞き知ってる『世間の事実』と、実際に目の前に起こってる『レイジスがちゃんと生きていて、しかも何故かこのトルスの街でレイと名乗ってフツーに生活してるってぇ事実』に疑問を浮かべているんだろう。

だが、とりあえずこの場でそれ以上言及するつもりはないらしい。

言いかけたまま口を閉じて、首を傾げながらもそのまま俺らについていく。

そーして歩き続ける事しばらく──俺らの目の前にようやく見知ったヘイデンの屋敷が姿を現したのだった──。

◆◆◆◆◆

ヘイデンの屋敷に着いてすぐ──「おかえりなさいませ」といつもどーり快く俺らを出迎えてくれたのは、執事のじーさんだった。

俺、ミーシャ、犬カバの三人はいつもの事だとして。

レイジスやジュード、更にはじーさんにとっちゃ知らねぇ顔のマリーとその侍女の姿までをも見た時は、一瞬驚いた様だったが、さすがはじーさん、

「リッシュくんのご友人の方々ですね。
ようこそいらっしゃいまいました」

と何の失礼もねぇ様に丁寧に皆に挨拶し、俺ら全員を快く家に招き入れ、客間へと通してくれた。

「今、お茶をお淹れしますね」

言って一旦客間を離れようとしたじーさんに。

俺は何気なく「ヘイデンは今どっか出てんのか?」と疑問を口にする。

家ん中にいる気配や様子がなかった為だが、じーさんはそれに「ええ、」と微笑みを返しながら答えた。

「今は散歩へ出られております。
ですのでどうぞごゆっくりお寛ぎください」

言ってくる。

その言葉に、俺は思わずこっちも笑っちまった。

主人ヘイデンが散歩でいねぇからどうぞごゆっくりってぇのは本来おかしな話だが、そーやって言ってくれるんならありがてぇ。

遠慮なく、ごゆっくりさせて頂くことにするぜ。

思いつつ……俺はちらっと、俺の左隣の席に掛けたマリーへ目線を移す。

そーしながらもしかしたら──とじんわり、ある一つの事を思った。

俺がサランディール奪還に協力するとレイジスに告げた、丁度この日。

しかもレイジスと一緒の時ってぇ限られた時間にこーしてマリーと出会えた事には、大きな意味があるかもしれねぇ。

運命とか何とか、んなモン俺は信じねぇ主義だがそれでも……この偶然は、神様かなんかがレイジスの助けにしてやろうと引き起こした事なんじゃねぇかと、疑うほどだった。

じーさんが、湯気の立った暖かい茶を持ってきて、それぞれの席の前に置く。

マリーの侍女はじーさんを手伝い……そーして全員に茶が行き渡ると、「では私はお部屋の外に控えさせて頂きます」とじーさんと同じタイミングで退室していった。

後に残ったのは俺と、その足元に置いた犬カバ、右隣に掛けたミーシャ。

俺の正面に座るレイジスと、レイジスに席を勧められ、その隣に座ったジュード。

そして俺の左横に座ったマリーだけだった。

じーさんと侍女が退室し、パタンと静かに戸が閉まってしばらく──。

辺りの沈黙を破る様にちょこんと手を上げ「あの、」と口を開いたのはマリーだった。

その視線は、伺うようにレイジスを見つめている。

「……先ほどはきちんと聞けなかったのですけど……。
レイ様はあの・・レイジス様、なのですよね?
以前サランディール国の使節として父の……グラノスの元にいらしていた、あの、サランディールの王子様の」

問いかけると、レイジスがやんわりとそれに微笑んで──そうしてこくりと一つ、頷いた。

マリーが「やっぱり!」と顔を明るくする。

「風の噂で、王族の方々は先の内乱で皆亡くなられたと聞いておりましたが、ご無事でいらしたのですね。
本当に何よりですわ」

言いながら──最後は実際に死んじまったとされてる他のサランディール王家の人々の事を想ったんだろーか。

マリーがちょっとだけしんみりとしながら言う。

そうしてちょこっと顔を傾けて「でも、」と俺とミーシャの方へ顔を向ける。
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