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二十一章 協力者達

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こっちもこっちで、どーやらそいつに言及しようって気はねぇみてぇだ。

どーやら俺が思う以上にレイジスとジュードとの間の溝は深いらしい。

ジュードの様子に気づいてねぇハズはねぇんだが……レイジスは俺に向けてふんわりと微笑んで続ける。

「君がサランディールまで飛行船を飛ばしてくれる事で、俺が越えなければならなかった壁がすでにいくつも消え失せる事になった。
本当に、君には感謝している」

言ってくるのに、俺は半ば照れながらも「い、いやぁ……」と頭を掻きながら返す。

……どーもよく分かんねぇが、レイジスにそう言われると悪い気がしねぇんだよな。

今は微妙な立場だが、仮にも一国の王子様がよ、俺みてぇな何の身分も持たねぇ……しかも年下の男に、こーしてちゃんと礼を持って感謝してくれるなんて、滅多にある事じゃねぇしよ。

それより何より……。

何かこう、『もっとこいつの為になってやりてぇなぁ』と思わせる“何か”を、レイジスは持ってんだよな。

そいつは、まるで……。

ふいにぼんやりと考え込みそうになった俺の隣で。

ミーシャがそういえば、とレイジスに向けて口を開く。

「以前ヘイデンさんが、サランディールには知り合いがいると言っていたわ。
時が時なら、その方もサランディールの為に力になってくれるはずだ、と。
一度、きちんとお話を伺ってみる方がいいかもしれない」

言うのに、

「ヘイデンが?」

思わず意外に思いながら、俺は横のミーシャに問う。

と、ミーシャが俺を見てこくりと頷く。

……ヘイデンのやつ、サランディールに知り合いなんていたのか。

それも、わざわざミーシャにそう言ったってことは、きっとかなりの力を持つ、信頼出来るやつなのに違いねぇ。

ま、すでにレイジスが仲間に引き入れてるかもしんねぇが、そうじゃなけりゃもう一つ有力な助っ人を得られる事になる。

レイジスも同じ考えなんだろう、明るく微笑んで「そうか」と口にする。

何だか分からねぇが、一気に舞台が整ってきたな。

こーなりゃもう、やってやるしかないぜ。

思わず一人、気合いを入れる……と。

ぐぎゅるるる……と俺の足元で犬カバが腹の虫を鳴らす。

俺は思わず半眼で足元の犬カバを見下ろした。

「犬カバ、お前なぁ……。
もうちょっと緊張感ってモンを持てよ、緊張感を」

呆れ半分に言ってやると、犬カバが「キュヒン」と言い訳する様に一つ鳴いてそっぽを向く。

……そーゆー俺も、気づきゃあ腹が減ってきた。

もう昼時はとうに過ぎちまってるか。

と、隣のミーシャがくすっと優しく笑った。

「確かに、私も少しお腹が空いてきたわ。
お昼でも食べに行かない?」

「んじゃまたヘイデン家にでも帰るか」

どーせヘイデンにゃあ『サランディールの知り合い』とやらについても話を聞きてぇんだ、丁度いいだろと思って言うと、

「いや、食事は街で済ませてから行こう。
君たち二人はまだしも、俺やジュードまで突然押しかけて食事をと言われても執事殿も困るだろう。
俺が皆にリアさんのカフェでご馳走するよ。
しっかり腹を満たしてからヘイデン殿にご挨拶に伺う事にしよう」

ちゃんとした大人らしく、レイジスが言う。

けど。

あそこは別にリアの・・・カフェって訳じゃ、ねぇんだけどなぁ。

今は特に、リアもあの店で働いてすらいねぇ。

そんでもわざわざ一言話題に乗せてくるなんて、レイジスの兄貴、どんだけリアのことが好きなんだよ。

思わず呆れ半分に思う……と、俺と同じ事を思ったんだろうミーシャが、俺の隣でレイジスを冷ややか~な目で見つめている。

足元の犬カバは「クヒヒヒヒ」とまぁた妙な笑いを漏らしてやがるし、ジュードは……。

こいつだけは未だに深刻そうな苦しげな面持ちでテーブルをただ見つめているだけだった。

俺はそいつに気がついて……思わず口をへの字に曲げる。

……ったく。

どーせこんなの、俺ん時と同じ単なる何かの行き違いだろ?

自分に非がねぇんなら、もっと堂々としてろってんだ。

思いつつ、俺はちょっと嘆息して、気分を変えて「よっこらせ」と椅子から立ち上がった。

まぁ、とにもかくにもまずは腹ごしらえだ。

「じゃ、ありがたく奢ってもらおうかな。
そーと決まりゃあすぐカフェに行こーぜ。
俺も腹減ってきちまったしよ」

言うと、レイジスが王族らしい高貴な感じの笑みを浮かべて「ああ」と俺に続けて席を立つ。

その様子が……何だかわりにうれしそうだ。

カフェにリアがいねぇ事はもちろん分かってるはずだが……。

きっと、たぶん、リアとの思い出(?)のあるカフェに行くってだけで、何か心躍るもんがあるんだろう。

そのまま「では行こう」と先頭切って歩き出すレイジスの後に、ミーシャが憚る事なく深く一つ嘆息して、それでもついて行く。

その脇をさりげなくとてとてと抜けて、犬カバが可愛らしくレイジスの横に並んで「きゅん」と一つあいさつし、忠犬らしい様子を見せて大人しくついて行く。

まぁ、こっちは飯を奢ってくれるってぇのが分かるからだろう。

そして最後に──……ジュードがのろのろと立ち上がり、レイジス達の後について、重たそうな足を踏み出した。

レイジス、犬カバ、そしてミーシャが一足先に洞窟の外に出る。

ミーシャは俺とジュードの為に最後にちょっと戸を押さえて開けて待っててくれてたんだが……。

ジュードはそれにも気づいてねぇみてぇだ。

何かを深く考えたまま、視線を下げたままでのろのろ行く。

結果、俺の方が一足先にミーシャの元に辿り着いたんで、目顔だけでミーシャに示し、戸を開けとく役割を代わった。

ミーシャはちら、とジュードの方へ気にする様な視線を向けたが……。

俺が『まぁあとは任せとけ』って気持ちを込めて一つ肩をすくめて見せると、ちょっとだけ頷いて、そのままレイジスと犬カバの後を追って行った。

俺は洞窟内の明かりを消す為のスイッチに片手を置き、もう片手で洞窟と外を繋ぐ戸を押さえながら、やっとここまで来たジュードの顔を見上げた。

まったく……。

俺はともかくとしてだぜ?

姫さまに戸を開けて待っててもらえる従者がどこの世界にいるってんだよ。

しかもそうしてくれてた事にすら気づいてねぇとかさ。

思いながらも、俺は口をへの字に曲げたまま「なぁ、おい」とそのジュードへ声をかけた。

ジュードがそれに──ようやくといった感じで俺の存在に気づく。

俺は──軽く肩をすくめて、言う。

「……お前、自分でも分かってんだろ?
レイジスの兄貴に怪しまれてるぞ。
何かあるってんなら、今のうちに正直に話しちまう方がいいんじゃねぇのか?
お前が本当に裏切り者で、レイジスのサランディール奪還を阻止してやろーと思ってるってんなら話は別だけど」

たぶんこいつは んな事はしねぇ。

そんな気がする。

つーかそもそも本当に裏切り者だってんなら、疑われてるかもと思った時点で何がしかの対策くらいすんだろ。

俺にはそんな意思はねぇ、レイジスを裏切ったりなんか絶対ぇにしねぇ、と信じてもらう為の対策をさ。

そうじゃねぇと『裏切り』の計画に絶対的な支障が出ちまう。

だがジュードは疑われてる事に関して何の対策もしてる雰囲気がねぇし、弁明もしてなさそーだ。

ジュードは──俺を睨む様な強い目で見返す。

そして、それだけだった。

スッと視線を俺から外し、そのまま俺の横を通り過ぎてミーシャやレイジス達の後を追う。

その後ろ姿を見やって──俺は大きく一つ、嘆息したのだった──。
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