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二十章 レイジス

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ポン、と俺の頭に、大きな温かい手が乗る。

視点が低い。

どーやら俺はまぁた夢ん中でガキの姿になっちまってるらしい。

俺が自分の頭に乗せられた手を目だけで見上げると、目の前で“そいつ“がニッと口元を上げて笑っている。

『──ジュードあいつを、助けてやってくれ』

顔に影がかかっていて、そいつの顔をはっきりと拝む事は出来ねぇ。

だが例によって、その口元だけは俺にも見て取る事が出来た。

──ダルク、だった。

と──俺の斜め前に、もう一人男が現れる。

紺色の髪をした、ダルクと同じくれぇ背丈のある男。

──レイジスだ。

レイジスはこっちに気がついて、さらりとした真面目な顔で俺に言う。

『──ジュードの事を、あまり信用しすぎない方がいい──』

~えっ?

待ってくれよ。

助けてやれとか信用しすぎるなとか、俺はどっちの言う事を聞けばいいんだよ??

「~ダ……っ、」

ダル、と目の前に目を戻すが、ダルクはもうそこにいなかった。

「……レイジス?」

戸惑いながら再びレイジスのいた方を見ると、今度はレイジスの姿までそこから消えちまっている。

辺りは真っ暗で、人っ子一人いねぇ。

……いや。

遠く……俺のずっと遠く前方にたった一人、見知った男の姿があった。

こっちに背を向け立ち尽くしているだけ。

後ろ姿しか見えねぇが、そいつは明らかにジュードの背だった。

俺はその後ろ姿を見て、声を上げる。

「~ジュード!!」

そう、呼びかけた──……ところで。

◆◆◆◆◆

グガッと俺は自分で出した大きないびきで、思わず目を覚ます。

パチ、パチ、と二度ゆっくりと瞬きをする。

と──

「クヒ?」

俺の顔の横にやってきた犬カバが『何だよ、起きたのか?』ってばかりに問いかけてくる。

俺はその犬カバの顔を見て、ゆっくりと真上の天井を見る。

そーしてぼんやりとジュードの顔を思い浮かべた。

『──ジュードあいつを、助けてやってくれ』

『──ジュードの事を、あまり信用しすぎない方がいい──』

夢ん中で語られた(……まぁ、後者は現実でも言われた訳だが)言葉に、俺はぽり、と一つ頭を掻いた──。

◆◆◆◆◆

執事のじーさんが用意してくれた朝食は、今日もいつもと変わらず最高にうまかった。

朝食の席にはミーシャ、犬カバの他にヘイデンの姿もあったんで、飛行船をサランディール奪還に使う事になりそうな事を伝えとこーかとも思ったんだが……。

ヘイデンのこれまたいつも通りの平静な顔を見て まぁまだいいか、と簡単に思い直した。

ヘイデンに話すのは、レイジスと会って事が本決まりしてからだって遅くはないだろう。

前にヘイデン自身だって『サランディールの事で何かあったらミーシャを助けてやれ』って言ってたしよ。

レイジスが俺らの前に現れた時点で、こーなるかもしれねぇ事くらい予想してただろう。

そんなこんなで表面的にはいつもと何の変わりもない時を過ごして朝食を食い終えて……。

少しのんびりしてから、俺、ミーシャ、犬カバの二人と一匹は街の方へと繰り出した。

目的はもちろん、レイジスの兄貴に会う事だ。

つっても俺らはレイジスの居場所はもちろん、あのジュードの居所も全く知りやしねぇ。

ただ闇雲に街中を歩き回って二人を探すのもバカらしいから、俺らの行く先は自ずと決まっていた。

「──おや、リッシュとダルクじゃないか。
今日は仕事でも探しにきたのかい?」

中に入るなりそう明るい声をかけてきたのは、シエナ。

シエナの声に──っつぅよりまぁ、俺とダルク(ミーシャ)が中に入ってきた時からってぇのが正しいか──ギルドの中にいた冒険者たちの目がさり気なくこっちに注目する。

──そう、俺らがやってきたのは、冒険者ギルドだった。

シエナの呼びかけに、俺は「いや、」と声を返しながら、ちらっと辺りの顔ぶれを見る。

ギルドん中にはもちろん見知った顔がちらほらいたが、肝心のジュードやレイジスの姿はねぇ。

俺はそいつを確認しつつもシエナに向けて言う。

「──今ちょっとジュードとレイ……まぁ、どっちか片方でもいいんだけど、とにかく二人の居所を探しててよ。
ほら、ジュードのやつはよくここに来てただろ?
行く先とか居場所にどっか心当たりねぇかな?と思ってさ」

言うと、

「ジュードと、レイ……?」

シエナがちょっと訝しげに問い返す。

レイってのは、この辺りでレイジスが名乗ってる名だ。

シエナもその辺の事情は聞き知ってるんだろう、ちょっと首を傾げながらも、フツーに答えを返してくれる。

「さぁ……。
まぁ、ジュードがよくここに来る事は確かだけど。
心当たりと言われてもねぇ。
──誰か、何か知ってるかい?」
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