リッシュ・カルト〜一億ハーツの借金を踏み倒した俺は女装で追手をやり過ごす!って、あれ?俺超絶美人じゃねぇ?〜

羽都みく

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十八章 ゴルドーからの依頼

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いつも通りの『てめぇ』でもなけりゃあ『おい』ってだけ呼ばれる訳でもねぇ、ちゃんと『リッシュ』って名前呼びされたからだ。

ゴルドーは、俺の顔を見た。

何かを言おうとして口を開きかけ……そうして何故か、そのまま止まっちまう。

何かを言おうと思って呼び止めたが、その先の言葉が出てこねぇ。

そんな感じだ。

俺はますます訝しんでゴルドーを見た。

ゴルドーが言葉に詰まるなんてトコ、初めて見る。

「……なんだよ?」

沈黙に耐えかねて、そう返してみる。

ゴルドーは、それでも何も言わねぇ。

……いや、何かを言おうとは思ってるみてぇだが、そいつが声に乗らねぇみてぇだ。

と──その何とも言えねぇ沈黙に。

ミーシャもちょっと小首を傾げていたんだが……ややあって何かに気がついたみてぇにそっと小さく微笑んだ。

そうして「それじゃあ」とどことなく明るい調子で声を発した。

「私と犬カバは先に外に出ています。
二人共、どうぞごゆっくり」

にこっと笑ってミーシャは言って、ついでに俺の足元後ろにいた犬カバに「行きましょう」と声をかける。

そーしてそのまま部屋を出ていこうとする。

「あっ……」

「おい……」

俺とゴルドー、双方から出された声にもミーシャは答えねぇ。

犬カバは俺の顔をちらっと見上げて──……そーして一瞬で、俺を見放しミーシャについていく道を選んだらしい。

置いてかれねぇ様にとてとてとてと足早にミーシャの歩に追いついて、そのままこっちを振り返りもせずミーシャと共に退出しちまう。

パタン……と静かに、部屋の戸が閉まった。

部屋に残されたのは俺とゴルドー。

たった二人だ。

気まずい静寂が部屋中に広がって、俺は何だかいたたまれなくなった。

俺はしばらくその場に佇んで……ポリ、と一つ頭を掻いた。

……どーやら。

ゴルドーの方から何かを口にするって事はねぇらしい。

俺は内心で息を吐きつつ「じゃあ、」と仕方なく口にする。

「……何も話がねぇんなら、俺もう行くぜ?
報酬と鍵、サンキューな」

言って……今度こそ踵を返しかけた……ところで。

「──あの家と飛行船は、」

重てぇ口を開く様にしてゴルドーが言う。

俺はそいつに──ふいと返しかけた足を止めた。

ゴルドーは俺を見ていた。

それもわりに、真剣な表情で。

ゴルドーは続ける。

「……もう全部、てめぇのモンだ。
てめぇの自由に使えばいい。
だがなぁ、リッシュ。
一つだけ……てめぇに守ってもらいてぇ事がある」

その声は──まるで、ゴルドーのモンであって、ゴルドーのモンじゃねぇみてぇだった。

いつものがなる様なギャンギャンワーワーした所が一つもねぇ。

ゴルドーなんかに んな言葉使うのは絶対ぇに嫌なんだが……そんでもその声音は、表情は『真摯』っていうのが一番しっくりくる。

「……俺に、守ってもらいてぇ事?」

返すとゴルドーが視線だけでそうだと肯定する。

「……あの家に詰められた知識や飛行船は、てめぇが正しいと思う事の為に使え。
他の誰の意見も、ダルクの遺志も関係ねぇ。
てめぇの頭で考えて、てめぇがちゃんと決断しろ。
周りがどう言うか知らんが、そーやって決めた事だって言うんなら、俺はてめぇを支持してやる。
──正しいと思う事の為に使え。
……いいな?」

真剣に真面目に──俺の目を真っ直ぐに見ながらゴルドーは言う。

自分てめぇが正しいと思う事の為に』

もしかして……ゴルドーは薄々気がついてんじゃねぇんだろうか。

俺がレイジスに力を貸して、ダルクの飛行船をサランディール国奪還の為に使おうとしているって事を。

そしてその事に──俺が気遅れを感じてるって事に。

ゴルドーが、実際に俺らに関する話をどこまで知ってんのかは分からねぇ。

俺やミーシャの前にサランディールの第二王子レイジスが現れた事だって、もしかしたらまだゴルドーは知らねぇのかも。

だけど、それでもこんな事を言ってくるって事は。

ある程度の事を知ってるか、予測を立ててはいるんだろう。

『俺はてめぇを支持してやる』

その、たった一つの言葉が何故だか俺の心ん中にじんわりと温かなものを残した。

俺は──俺も、真面目にゴルドーへ向かって

「分かった」

とただ一言で返す。

「約束するよ。
飛行船も、ダルクが遺したもんも全部──。
俺が正しいと思う事の為に使うって」

言うと、ゴルドーが小さく重く、一つ頷いた。

そしてどーやら……ゴルドーの話はそれで終いらしい。

ゴルドーはそのままどこか息を抜いた様に小さく肩を下ろして、そのまま片手でしっしと俺を追いやる。

いつも通りの、ぞんざいな──犬でもあしらう様なそんな動作だ。

いつもだったら俺だって『なんだよ』ってムカッ腹立てて出てってやるトコだが……。

『二人とももう少し素直になればいいのに』

ふいにミーシャが言った一言を思い出して、俺はフッと小さく笑う。

そーして今度こそその場を後にする事にした。

挨拶がわりに、最後に背中越しにひらっとゴルドーへ手を振ってやる。

部屋を出て、後ろ手に戸を閉めて、そうして俺は真面目な顔で考えた。

てめぇが正しいと思う事の為に使え。

他の誰の意見も、ダルクあいつの遺志も関係ねぇ……か。

◆◆◆◆◆

ゴルドーの部屋を出て、真面目な顔つきで廊下を歩き階段を下る……と、その階段の一番下──階段の手すりに、軽く背をもたれる様にしてミーシャが『冒険者ダルク』の体《てい》でそこに立っていた。

これまでにも何度も思ってきたが……こーゆー時のミーシャはほんとどっからどー見ても隙のねぇイケメンに見えんだよな。

白い肌にさらりとした黒髪。

涼やかでクールな雰囲気もそう。

女の子たちがキャーキャー騒ぐのも無理はねぇ。

思いつつもゆっくりと階段を下ると、ミーシャがふいと俺を見上げ、

「──ちゃんと話は出来たのか?」

『冒険者ダルク』の口調で柔らかに問いかけてくる。

ミーシャの足元には犬カバが鎮座して……こいつも俺の答えを聞く様にこてりと首を傾げて俺を見上げてくる。

俺はなんでもねぇ事の様に軽~く肩をすくめて見せた。

「ああ、まぁな」

ただ一言で返す。

ミーシャはそいつにそっと微笑んで「それならよかった」と柔らかに返してきた。

俺はポリポリと頬を掻いて階段を降りきり──そーしてフイと辺りを見渡す。

「ところで……ラビーンとクアンのヤロー、今回は来てねぇんだな」

いつもこーゆートコじゃ当たり前の様にやって来てるだろ?

昼間だってそーだったし。

そう思いながら言うと、ミーシャがふふっと笑う。

「もう夜も遅い。
彼らも仕事を終えて家に帰ったのだろう。
私たちも帰ろうか?
ヘイデンさんや執事さんが心配しているだろう」

言ってくる。

いやいや。

執事のじーさんはともかくヘイデンはどー考えたって心配なんかしてねぇだろ。

そう思うが──俺はそっと肩をすくめて「ああ」と口にした。

そーして大きく伸びをしながら

「んじゃまぁ帰りますかね」

言うと──ミーシャが微笑みながら一つ頷いて、犬カバが「クッヒー!」と元気に返事したのだった──。
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