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十八章 ゴルドーからの依頼

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言うとよーやくリュートが、

「……リッシュ?」

不審な中にもほんのちょっとの親しみの込もった目で俺を見つめる。

ロイに至っちゃあ未だにしかめ面のままだが。

俺は戸もしっかり閉まってて他に誰も話を聞いちゃいねぇ事を確認してから……仕方なくいつものリアのノリで、

「こないだぶりね、リュートちゃん。
元気にしてた?」

とに~っこり笑って手を振って見せた。

リュートが目をまあるくして俺を見る。

ぴったりとしがみついたロイの両足からは手は離さねぇが、それでも顔をしっかり俺へ向け、

「……リア?」

と控えめに問いかけてくる。

俺がにっこり微笑んだまま一つ頷くと、

「リア~!」

よーやくリュートがロイの両足から離れる。

タタッと俺の方へ走ってきて、今度はそのままぽふんと俺の足に引っついた。

どーやら俺がリアだって事はちゃんと認識してもらえたみてぇだ。

その、かわり。

ミーシャからはなんとも言えねぇ、若干引いた様な目で。

ロイからは明らかなドン引きを受けるハメになっちまったが、まぁ仕方ねぇ。

そりゃ俺だって、このイケメン・リッシュの姿でリアの真似事すんのは相当抵抗あるんだぜ?

けどここはリュートとの為にだなぁ……。

なんて事を考えながら……。

それでも俺は気を取り直してこほんと一つ咳払いをして、二人の視線を受け流す道を選んだ。

そーして引っついたリュートの頭をぽんぽんと撫でてやりながら「で?」とロイへ問いかける。

「一体どうしちまったんだよ、これ。
……つーかお前、こんなんでまともに働けてんのか?」

……まぁ、まともに働けてねぇから俺とミーシャはゴルドーの野郎からあんな依頼請けるハメになっちまった訳だが……。

見事に俺に引っついたリュートは、さっきのロイん時と同様に今度は俺にぎゅっと引っついて離れそうにねぇ。

これじゃ仕事どころかトイレに行くのにも難儀しそうだ。

思いつつ問いかけた先で、予想通りロイが無言のまま視線を俺から横へ逸らした。

言葉以上に……その行動が、答えを正確に語っている。

と──不意に何の遠慮もなく(まぁそこは当然っちゃ当然だが)俺らの後ろの戸が開く。

さっきパンケーキを運んでったウェイターだ。

「フレンチトースト一つにサンドイッチセット一つ、オーダー入ったけどロイ……」

行けるか?と問うつもりだったんだろう、ウェイターが声をかけかけて……。

そーしてロイと俺と、引っつき先を俺に変えたリュートを見てピタッと一瞬止まる。

「~って、ありゃ?
リュート、引っつき先、変えたんだ?」

リュートは何にも言わずに俺の足に引っついたまま俺の裏に隠れた。

ウェイターがそいつに笑ってみせる。

一方のロイはどうにもフクザツな表情で んなリュートを見つめていた。

そいつに……ミーシャがそっと微笑む。

「──こういうのはどうだろうか。
ロイが仕事の間、リュートの事は私達で預かろう。
幸いリュートはリッシュに懐いている様だし」

言ったミーシャにウェイターが「おっ!」とそいつに乗っかった。

「そりゃいいや。
そこの……リッシュ?ってやつだけじゃ不安だけど、ダルくんが一緒についててくれるってんなら安心だし。
ダルくんナイス!」

至って明るくウェイターが言って、ミーシャにグッ!と親指一つ立ててみせる。

ロイはそれでもまだ迷ってたみてぇだが、当のリュートが

「……俺、リッシュと一緒にいる」

そう答えた。

きっと、リュートなりにロイの仕事の邪魔になってるって自覚はあるんだろう。

しっかりとした口調では答えたが、どことなく『寂しいけど仕方ねぇ』って気持ちが見える。

そいつはもちろんロイの目にも見えたはずだ。

ロイが──たぶんリュートに同情して口を開きかけるより先に、俺はポン、とリュートの頭に手を置いて至って明るく声を上げる。

「んじゃ決まりだな。
今日はダルと俺とで遊ぼうぜ。
あっ、待合室にゃあ犬カバも来てるからな」

へらっとしながらリュートに言う。

リュートは犬カバと結構仲いいからよ。

そう言ったらパッと気持ちも切り替わるんじゃねーかと思ったが、どーやらそいつは外しちまったらしい。

リュートの表情は“しょんぼり”から全然変わっちゃいねぇ。

俺は……気まずくリュートからロイへ視線を移して、こほんと一つ咳払いをする。

「まっ、まぁそーゆー訳だからよ。
お前も今日はバリバリ働けよ?
カフェが閉店する頃にゃリュートを連れて戻ってくるからよ。
リュートが気になって仕事が手につかなかった、ってぇのはナシだぜ?」

前もって、そう釘を刺しておく。

でねぇとゴルドーのヤローに何言われるか分からねぇしな。

……まぁ、今日中に解決すんならさ、ゴルドーからあんな依頼があった事を本人に言う必要もねぇだろ。

ヘンに思いつめちまってもよくねぇしさ。

ここまでその話題を振らなかった所を見ると、ミーシャも同じ考えなんだろう。

とにもかくにも俺は言う。

「じゃ、リュート、そろそろ行くかぁ」

リュートとロイのどんよりを一掃させる様に俺が明るくそう言うと──リュートが俺に引っついたまま、それでもしっかりと一つ、頷いてみせた──。

◆◆◆◆◆

それから一時間後──

俺はへろへろに疲れながら「お~い、リュートくん?」と足にひっついたままのリュートに声をかける。

そう──あれから一時間、ミーシャ、それにカフェの待合んトコで合流した犬カバと共にの~んびり街を散歩して回ったが……リュートのひっつき虫病はこれっぽっちも改善されちゃいねぇ。

逆に悪くなるって事もねぇが……これじゃあ歩きづれぇし、このままカフェの閉店まで変わりなけりゃ、明日もまた同じ事の繰り返しだ。

「見て~、かわいい」

通りすがりのかわいい女の子二人組が俺と(たぶんこっちがメインだが)俺の足にひっついたリュートを見てふふっと笑って通り過ぎていく。

そりゃ端から見りゃ“かわいい“で済むけどよ、これで一時間も散歩してたらわりに疲れるぜ。

途中犬カバが広場とかで『遊ぼうぜ!』とばかりにリュートにじゃれついてやったりもしてたがそれもダメ。

さすがにそろそろひっつき虫やめねぇか?って想いを込めてリュートに呼びかけたが……。

リュートは俺の呼びかけにサッと俺の後ろ側に隠れて答えなかった。

横にいたミーシャと、地面を歩く犬カバが困った様に顔を見合わせる。

ミーシャはちょっと考えるよーに視線を軽く空へ向け……そーしてほんのちょっと微笑んで後ろに隠れたリュートと、俺に向けて言う。

「そういえばさっき露店でアイスクリームを売っていた。
たくさん歩いて少し疲れたし、アイスでも食べて休憩しないか?」

ミーシャの『アイスクリーム』も一言にリュートがパッと顔を上げ、目をきらめかせる。

ミーシャがそいつにくすっと笑って「それじゃあ買ってくる」と言い置いてさっき見た露店の方へ向かった。

もちろん自分にも買ってもらうつもりだからだろう、犬カバが当然の様に鼻を上げ、気取った様子でミーシャに並んでついていく。

俺は──近くに手頃なベンチを見つけて、そいつに座る事にした。

さぁてと。

そーやってひっついたままじゃ座れねぇし、アイスも食べれねぇぞ?

俺はなぁんも考えてねぇフリをしてそのままゆ~っくりとベンチに掛ける動きをする。
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