上 下
146 / 254
十八章 ゴルドーからの依頼

1

しおりを挟む
『冒険者ダルク、それにリッシュ・カルト。
てめぇらに依頼してぇ事がある。
至急ゴルドー商会に来られたし』

……そんな、果たし状みてぇな謎の手紙が俺らの元に届いたのは、リュートの事件から二日が経った頃の事だった。

横からその手紙を見ていたミーシャが小さく首を傾げる。

「……依頼?
ゴルドーさんから?」

問いかけてくるミーシャと同様に俺の足元からも、

「クヒ?クヒヒ?」

犬カバがこっちを見上げてかわいらしく問いかけてくる。

俺は──ゴルドーの事を考える時のクセでどーにも嫌~な顔をして、そんな二人に、

「よく分からねぇけどそーらしい」

とだけ答えてみせる。

と──茶を飲みながら近くで椅子に座っていたヘイデンがフン、と鼻で息をついた。

「どうせ大した依頼ではあるまい。
行って話くらい聞いてきてやれ」

投げやりに、言ってくる。

どうせ行かなきゃうるせぇだけだ、ってぇ本音がしっかり滲んでいる。

……まぁ、そりゃ俺も同感だけど。

あれから二日──俺らは相変わらずヘイデン家に居着いていた。

犬カバを狙うノワール貴族の男ももういねぇし、そろそろ旧市街の自分の家に戻ったって別に構わねぇんだけどよ。

ヘイデンも執事のじーさんもそこに関しちゃ何も言わねぇし、俺らの方でも何とも言わねぇから、今の所そのまま ずるずるとここにいる。

まぁヘイデンだって、レイジスにミーシャの事を頼まれてたしな。

早急に出て行かなきゃならねぇ理由もねぇし……。

もうしばらくはここに住んでたって構わねぇだろ。

執事のじーさんのおかげで居心地もいいし、もれなくうまい飯とふっかふかのベッドも用意されてる事だしさ。

……と、まぁそれはそれとして。

俺は──げんなりしながら再び手紙に目を戻す。

っていうかだぜ?

ここにこの手紙が届くって事は、ゴルドーのやつ 俺らがまだヘイデン家にいるって知ってたって事だろ?

『至急』っつーんなら電話でもかけて依頼すりゃ話が早ぇだろうに。

たぶん、電話するほど超緊急じゃねぇが、なるべく早めに来い……ってくらいの依頼内容なんだろう。

そもそもこれ、依頼ってなってっけどちゃんと報酬払ってくれる気はあるんだろうなぁ?

思わず口を曲げて手紙を見下ろす俺になのか、それともヘイデンの言い様になのか──ミーシャが小さく苦笑してみせた。

「──リッシュ、」

窘め、答えを促す様に言う。

俺は──……はぁぁ、と息をついて肩をすくめた。

「~分かったよ。
仕方ねぇからゴルドー商会まで出向いてやるかぁ」

「クヒクヒ」

犬カバも仕方ねぇとばかりに首を縦に振って言ってくる。

ミーシャがそれに──何故か少しおかしそうに小さく笑ったのだった──。

◆◆◆◆◆

ゴルドーの手紙にあった『ゴルドー商会』は、市街地の中心部から北西へ三十分程も歩いて行った坂の上にで~んと大きく建っていた。

三階建ての赤レンガ仕立ての建物だけはわりと洒落てるが、その一階と二階の間辺りに掲げられてる黒い看板だけはいただけねぇ。

大きく太く書かれた『ゴルドー商会』の文字は何故かトラ柄。

そのトラ柄を強調する様に、周りを蛍光色の黄色とどぎつい色の赤で囲っている。

俺はそれだけで胸焼けを起こしちまいそーになった。

きっとこの、唯一まともな赤レンガ仕立ての建物は──これだけは、ゴルドー以外のもっとマトモな人間が設計・デザインしてくれたんだろう。

俺の記憶が正しけりゃ、この建物はゴルドー商会の会社の建物でもありながら、ゴルドー自身の住まいでもあったはずだ。

もし──運命が違って、ガキの頃の俺がこの家に世話になるよーな事になってたら……。

考えただけでも胸焼けしちまう。

それに、だぜ?

この場所は一年前、ゴルドーのやつと一億ハーツの借金の契約をした、丁度その場所でもある。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

変身シートマスク

廣瀬純一
ファンタジー
変身するシートマスクで女性に変身する男の話

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...