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十五章 大空へ!

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俺もかなりドン引きだが、今の今まで周りでリア&ダル不在を散々嘆きまくってた連中も、ソートードン引いてんぞ。

こーんなゴツイ、いかにもワルって感じの黒グラサン黒スーツ男二人が、揃いも揃ってベソベソ泣いてんだからな……。

当然紺の髪の男もドン引いて……と、チラッと男の方へ視線をやる……と。

男が──はらりと一雫の涙を溢した。

……は?

「……かる……。
分かるぞ、お前達の気持ち……。
あんなに美しい人が突然目の前から立ち去ってしまって……。
この行き場のない悲しみ、俺にはお前達の気持ちがよく分かる!」

最後にはグッと拳一つ握って、男が言う。

って、お前もラビーンやクアンと同類かよ!

思わず一人心の中でツッコんでいると、近くにいた女の子達も、

「………。
やっぱり、ダルク様のようなイケメンっていうのは見間違いだったわ」

「……そーね。
ダルク様がいないショックで一瞬気が迷っただけだったわね」

あっさりと手の平を返す。

俺は一つ静かに嘆息して再びラビーン達の方へ視線を戻した。

男の熱い言葉に(だろう、たぶん)地面に伏せって泣いていたラビーンが、ゆっくりと顔を上げる。

そーして男の顔をまじまじと見て「お前、」と半泣き混じりに声を上げた。

「もしかしてカフェでリアちゃんに派手にフられちまったとかいう、よそ者じゃねぇか……?」

何だかその声音には同情が詰まっている。

男がうん、と静かに頷いた。

「リアさんが嫌いだという無精ひげも剃って、今度こそ再アタックだ!……という時に、こんな事に……」

男がしょんぼりしながら言うと、ラビーンが「そーか……」と未だに地に伏したまま同情たっぷりの声で呟く。

そうしてようやく起き上がって涙を拭い、ズビリと鼻を啜った。

「……お前も、最愛のリアちゃんに嫌われちまうなんて気の毒になぁ。
俺ならきっと一生立ち直れねぇよ。
けどよ、一度ハッキリフラれちまったってのに再アタックしよーとしてたなんざ、中々骨があるじゃねぇか。
お前、名は?」

「──レイ、という。
君達は?」

男がそう答えた──瞬間。

俺はふいに何かに引っかかりを感じて、思わず目を瞬いた。

けどそいつが何なのか答えに出す間もなくラビーンが口を開いたんで、そのまま分からなくなっちまった。

「俺はラビーン。
こっちは弟分のクアンだ。
俺ら三人、リアちゃんを愛する者同士、仲良くやっていこうや」

ポン、と男の肩に手を置き、ラビーンがやたらに兄貴面して言う。

この、男に対する妙に同情的な対応……。

たぶんラビーンもクアンも、男が『リアの手の甲にキスして』告白した、なんてトコまでは知らねぇんだろう。

そうじゃなきゃ、いくらフラれたからってこんなに男に同情なんかしねぇだろうしな。

男のもう一方の肩に、クアンも うんうんと男泣きに頷いて手を置く。

男がラビーンとクアン、二人を交互に見上げてじわわと再び涙を滲ませた。

「……ありがとう!
ラビーン、クアン……!」

男が感動しきりの声で言って、滲んだ涙を拭う様に目元に腕をやる。

俺は──……それ以上の茶番を、どーにも見てられずにその場をそっと離れる事にした。

……ったく……。

ラビーンとクアンはよ、いつもあんな感じだからしょうがねぇが……。

あの男は一体なんなんだよ?

あの様子じゃああいつ、リアとリッシュが同一人物だって事はどーやら知らねぇみてぇだ。

ジュードが言ってねぇのか……?

まぁ、こんだけリアに夢中なこの男に真実を話すのは、言いにくいし酷だとは思うが……。

けど、俺やミーシャの事を『密告する立場』の人間なら、そこは言いにくくても伝えとかなきゃなんねぇトコだろ。

それにあの男──レイ、だっけ?

一体どこの、どーゆう人間なんだ?

ジュードはあいつに敬語を使ってた。

年齢的にはジュードもレイもさほど変わりなさそうだし、普通に考えりゃあジュードがあの男に敬語を使ったりしなけりゃならねぇ道理はねぇ。

じゃあ、あの男は一体……?

なんて事を考えながら歩き進めてたら、いつの間にやら裏道伝いにギルドの辺りにまで来ちまっていた。

俺は、建物と建物の隙間から、斜向かいにあるギルドの正面口を、何の気なしに見る。

と──……丁度、その瞬間。

バンッと勢いよく、ギルドの入り口の戸が開かれる。

開けたのは、ジュードだ。

「ちょいと、ジュー……」

ギルドの奥からシエナの声が響くが、ジュードはきいちゃいねぇ。

開けた時と同様に──戸がそのまま壊れるんじゃねぇかってくらいの勢いでジュードがバンッと戸を閉める。

その形相と、他を寄せつけねぇ怒りのオーラがまるで鬼人だ。

ジュードが……怒りを抑えきれねぇのか、ダンッと力任せにギルドの外壁に拳を一つ打ちつける。

そうしてそのまま怖ぇ顔のまま、足早に街中を進んで行った。

……どーやら、あんまりここに長居しない方が良さそうだ。

考え、半歩後ろへ足を動かす──と、

『ドンッ』

と後ろにいた“誰か”にぶつかった。

俺は一瞬ギクリとして慌てて後ろを振り返る。

そこには──……よく見知った、ついでに言やぁ出来る事ならあまり会いたくねぇ、ある一人の男の姿があった。

相変わらずの仏頂面に、やたらと悪趣味なアロハシャツを着たその男──……ゴルドーだ。

『オーナー、いつもリッシュくんの事をすごい目で睨んでいたでしょう?
笑わない様にと、必死だった様ですよ』

『もちろんお気づきですよ。
あなたがリッシュ君だという事は、最初からね』

カフェの店長が言ってた言葉が、俺の頭ん中にまざまざと蘇る。

何でかだらだらと冷や汗が出た。

まさか……もう店長のじーさんから、リアがカフェを辞めた事を聞いて、怒りに来たのか……?!

『てめぇ、ウェイトレスの仕事を辞めたそうだな!?
まだ幾日と仕事もしねぇ内に辞めやがって!
その腐った根性、叩き直してやる!!』

ゴルドーのバカでかい怒鳴り声が、俺の頭ん中で勝手に作られ 流れてくる。

俺は──……思わず条件反射でだらだらと冷や汗を流しながら後ろへ──街の大通りの方へ、一歩後ずさろうとした。

その左腕を。

ガッシとゴルドーが片手で掴んでくる。

「~逃げんじゃねぇ。
てめぇ、お忍びでここに来てんだろーが。
大通りに出てどーする」

思いの外 小声で、低く唸る様にゴルドーが言ってくる。

「~あっ、ああ……いや……へっ……?」

戸惑度MAXで俺が返事にもならねぇ声を出す中、ゴルドーは俺の左腕をガッシリ引っ掴んだまま、小声で言葉を続けた。

「いいから来い。
話は後でする」

言うが早いか、俺の返事すら聞かずにゴルドーがものすげぇ力で俺の腕を引っ張って裏路地を奥へ奥へと進んでいく。

いやっ、待っ……。

いででででで……!

俺は──ゴルドーの豪腕に勝てる訳もなく、そのままずるずると引きずられていったのだった──……。

◆◆◆◆◆

数分後──。

裏道から裏道を抜け、連れて来られたのは──……あの、ゴルドーのカジノだった。

もっとも開店は昼過ぎからだから、閉店中の店内には人はいねぇ。

いや──……裏口から入ってすぐ、どことなく見覚えがあるようなないような顔の、黒スーツをビシリと着こなした体格のいい男一人とはすれ違ったか。

けどそいつは別にゴルドーや俺を見て何かを言ってくる訳でもなく、ほんのわずかにゴルドーに向けて目礼しただけだった。

まぁ、ゴルドーに腕を引っ張られ引きずられてきた俺を見た時にゃあほんのわずかに眉が一つ動いた様な気もしたが……気のせいかもしれねぇ。

何にしろ、俺がそーしてゴルドーに引っ張られるまま連れて来られたのは、そのカジノの二階の一番奥にある、ゴルドーの執務室らしき部屋だ。

何で『ゴルドーの』って分かったかってぇと……まぁ、部屋ん中をチラッと見りゃ、誰にでも見当がつくだろうぜ。
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