リッシュ・カルト〜一億ハーツの借金を踏み倒した俺は女装で追手をやり過ごす!って、あれ?俺超絶美人じゃねぇ?〜

羽都みく

文字の大きさ
上 下
99 / 265
十四章 犬カバ

1

しおりを挟む
ヘイデン・ハントは、ゆったりとした歩調で街を歩いていた。

深夜遅くの事で、辺りには人の気配はない。

こんな時間にこんな場所まで出たのは、かなり久しぶりの事だった。

街路に沿って真っすぐに並ぶ幾灯もの電灯の明かりが、ぼんわりと暗闇に光をもたらして、ヘイデンの歩く影を作り出している。

無論ヘイデンには何一つ見えはしないのだが……。

この光景が出来上がったのはほんの十二年前だという事だけは、ヘイデンも知っていた。

以前はずっと、ガス灯が使われていた。

ギルド関係者の中でも特別に知らされた人間だけが知っている秘密の地下道。

シエナやヘイデンの屋敷、ゴルドーの家。

そしてゴルドーが所有する数多くの店……。

全て昔はガス灯やロウソク、燭台の火を明かりに使っていたのだが、今ではすっかり全て電灯の明かりに切り替わっている。

当時は──いや、今でも他の地域ではまだそうなのだが──珍しかった電灯だが、この街では今では至る所で扱われるまでになった。

──時の流れは速いものだな。

思いながら歩き続け──ヘイデンはとうとうある店の前に辿り着いた。

とはいえ店の看板の明かりはすでに落ちている。

閉店時間はとうに過ぎていた。

それを知っていながらヘイデンは、店の前に立ちコンコン、とゆっくりと二度その正面口の閉ざされた戸をノックする。

一度のノックでは意味がないと知っていたヘイデンは、さらに続けて二度戸を叩く。

──とたん。

「おい、店は閉店してんだよ!
見て分かんねぇ……」

のか!とまで言おうとしたのだろう、戸を乱暴に開けながら怒鳴り声を上げかけ──ゴルドーが眉を寄せてヘイデンを見る。

「~ヘイデンか、」

ヘイデンは軽く肩をすくめた。

「まだ中で深酒をしてるだろうと思ってな。
少しいいか?
話がある」

◆◆◆◆◆

「なぁなぁ、」

と俺はうきうきするように口にする。

ガキの頃の声だ。

俺はめいいっぱい顔を上に上げて、両手を大きく広げて言う。

「俺も飛行船の整備手伝ってんだぞ!
すっごいだろ!
そのうちさ、あいつを買い取ったら空に飛ばすんだ!
ダルも一緒に乗せてやってもいいぞ!」

一生懸命上を見上げながら言った先で、あいつが──ダルクが穏やかに微笑んで俺を見下ろす。

けど、決していつもみてぇに頭をクシャクシャと撫で回したりはしなかった。

ただちょっと離れた真正面から俺を見下ろして、微笑んでいる。

「なぁ、何でしゃべんねぇの?
いつもさ、俺がこういうこと言うと『ぶっ』て笑ったりすんじゃねーか。
なぁ……」

言い募るようにダルクに話しかけながら──俺は胸の内にじんわりと嫌な記憶が流れてくるのを感じていた。

本当は、分かってんだ。

こいつはただの夢で、ダルクは今はもう死んじまってて、口を開くことも出来ない。

だけど俺はその声が聞きたくて、ダルクと話がしたくて、しゃべり続ける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

処理中です...