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十三章 鍵の行方

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「前にも話したけれど──。
ダルクさんは、サランディールと関わった事で命を落としてしまった。
ジュードは今はもうサランディールの騎士ではないけれど……でも、ヘイデンさんが私に仰ったのと同じ様に、ジュードが飛行船を利用しようと考えないとは限らない。
私はそれが心配なの」

言ってくるのに……俺は目線を思わず横へやった。

そうして頬をカリカリと掻きながら「あ~、ええっと……」と口にする。

「俺、ジュードのやつに言っちゃったぜ、前に」

言うと、

「えっ?」

とミーシャがほんの少し不安そうに返してきた。

「ああ、いや……。
なんか話の流れでさ……」

「話の流れって……」

ミーシャが戸惑った様な不安そうな表情で俺を見つめながら言ってくる。

「どうしてそんな話に?
ジュードが飛行船に興味を持っていたということ?」

ひどく不安そうな顔のミーシャに、俺は「いや、」と慌てて両手を振った。

「あいつは別に飛行船に興味があるって訳じゃなかったんだ。
あいつ、昔ダルクに世話になった事があるって言ってて……それで……」

取り繕う様に俺が言う中、どんどんミーシャの顔に疑念の色が浮かんでいく。

「~ジュードが、ダルクさんにお世話になった……?
ジュードは生まれも育ちもサランディールで、トルスには行った事もないはずよ。
ダルクさんはトルスに住んでいらっしゃったのに……どうして二人が知り合うの?」

眉を寄せて、ミーシャが強い目線で俺を見つめる。

ヤベェ……。

何か、勘づき始めてる……。

そわそわと、思わず目線を横へ逸らす。

こいつは絶対ぇ良くねぇ流れだ。

ダルクがサランディール城に勤めてた事や、ダルクとそのじーさんが反逆罪にかけられちまった事。

じーさんが処刑され、ダルクがトルスに亡命した事。

そして──その『反逆罪』が正当なもんじゃなかったかもしれねぇ事。

全部他ならねぇこの俺が、『ミーシャが気にしちまうといけねぇからこいつは話さない方向で』ってジュードに口止めした事だ。

だってのに、このままじゃ金のメッキを剥がされるみてぇにボロボロ崩れて皆勘づかれちまう。

かと言って嘘八百で誤魔化そうとしてもミーシャには通じない気がするし……。

俺はただひたすら目線を横に逸らしたまま──頭をフル回転させる。

……こーなったらいっそ、逆にある程度までの事を話しちまう方が……ヘタに色々隠して探られるよりは、まだいいって気がする。

反逆罪云々の話がなけりゃ、ミーシャが気に病むよーな事は何にもねぇハズだし……。

それにミーシャだってある程度納得するだろ。

そう考えて俺は慎重に言葉を選びながら、ミーシャの問いに答える。

「ああ、いや……。
俺も知らなかったんだけど……どーやらダルクは昔、サランディールの刀鍛治職人として城で働いてた時期があったらしいんだよな。
代々続く鍛治職人で……ダルクは、自分のじーさんと一緒に働いてたらしい。
ジュードはその時分にダルクに世話になったんだって聞いた。
そん時の話も、色々聞いたぜ。
聞いてた感じ、俺の知るダルクに間違いないと思うし、それに……ジュードの話はウソじゃねぇと思う。
ジュードに昔のダルクの話を聞いたりする代わりって訳じゃねぇんだけど……。
俺も、俺の知るダルクの話をしてやったりしたんだよ。
飛行船の話も、その時に」

言うとミーシャが眉を品良く寄せてみせた。

「……飛行船の話をしてしまった理由は分かったけれど……。
ダルクさんのそんな話、ジュードからは聞いた事がないわ。
カルトという名の刀鍛治職人がいたという話も……私は聞いたことがない」

「──ああ。
ミーシャはまだほんの赤ん坊だったし、ダルクの事は知らなかったはずだって言ってたぜ」

確かにそう言っていた。

ここまでに、ウソもねぇ。

たぶんだが、ここまで俺史上最高に上手い事話の流れを作ったんじゃねぇか?

ちゃんとある程度の事は話したし、俺なら『ふ~ん、そうかぁ……』ってそこそこ納得して話が終わる。

けど、ミーシャはそうじゃなかった。

どうにも納得が行かなそうに「でも、」とミーシャが疑問を口にする。

「その話がもし本当の事だったとしても……何故ダルクさんやそのおじいさまはサランディール城の鍛治職人を辞められたの?
代々続く鍛治職人だったんでしょう?
そんなお家の方が、簡単に家業をお辞めになれるはずはないわ。
それに代々続く鍛治職人だったのなら、いくら私がまだ小さい頃にお二人が職を辞されたのだとしても、お名前くらい聞いた事があったはずよ。
その後サランディールに留まらず、ダルクさんがトルスで暮すことになったのは一体何故?
おじいさまの事も──さっきは言わなかったけれど、サランディールを出られた後はダルクさんとトルスに移り住んだの?
それならヘイデンさん達がおじいさまの事を知ってらっしゃるはずだけれど」

相変わらず鋭い所を次々と突いてくる。

俺は思わず視線を横へ彷徨わせた。

そいつが、どーやらいけなかったらしい。

ミーシャがはっきりとした疑念を込めて俺を見る。

そうして「~リッシュ、」と訴えかける様に声を上げた。

「お願いだからきちんと訳を話して。
ダルクさん達の事で、まだ何か隠している事があるんでしょう?
……それとも私じゃ、あなたの頼りにはなれない?」

最後には悲しそうな目で、声で、ミーシャが言う。

俺は──そいつに、どーにも抗う事が出来なかった。

んな目で、んな事言われたら……これ以上黙ってる事なんか出来ねぇじゃねぇか。

俺は自分の顔に片手をやって、がっくりとうな垂れた。

俺の足元にいた犬カバも、『あ~あ』とばかりに鼻で静かに息をつく。

まったく俺ってやつは、本っ当に口先ばっかりの男だよな。

ジュードならきっと、んな時でも秘密を厳守するんだろうにさ。

半ば自分にがっくりしながらも、結局──俺の知る全ての事をミーシャに話すことになったのだった──……。

◆◆◆◆◆

「そんな事が……」

と、どこかショックを受けた様にミーシャが口にする。

ダルクとじーさんが反逆罪をかけられた事。

ダルクはどうにか亡命したらしいが、じーさんはサランディールで処刑されちまったらしい事。

そんなに長い話じゃなかったが立ち話ってのもなんだったから、道端にあった程いい大きさの岩に二人腰掛けて話す事にしたんだが……。

結局全てを知る事になったミーシャの横顔は、俺が前に予想したみてぇに沈んで見える。

……やっぱり、言うべきじゃなかったかな。

気にしちまうかもしれねぇから、言わねぇ方がいいってのは分かってたのによ。

ミーシャが目を下に下げ……そうして俺を見つめる。

「……ジュードにも、何故ダルクさん達が反逆罪のレッテルを貼られることになったのかは分からないまま……なのよね?」

「~ああ、そうらしい。
……ってーかそもそも、レッテルだったかどうかは分からないぜ。
じーさんやダルクがなんかやらかしちまって、実は本当に王の暗殺を目論んだのかも……」

「──本当にそう思うの?」

言いかけた俺に、ミーシャがまっすぐに俺の目を見て問いかけてくる。
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