94 / 254
十三章 鍵の行方
4
しおりを挟む
「前にも話したけれど──。
ダルクさんは、サランディールと関わった事で命を落としてしまった。
ジュードは今はもうサランディールの騎士ではないけれど……でも、ヘイデンさんが私に仰ったのと同じ様に、ジュードが飛行船を利用しようと考えないとは限らない。
私はそれが心配なの」
言ってくるのに……俺は目線を思わず横へやった。
そうして頬をカリカリと掻きながら「あ~、ええっと……」と口にする。
「俺、ジュードのやつに言っちゃったぜ、前に」
言うと、
「えっ?」
とミーシャがほんの少し不安そうに返してきた。
「ああ、いや……。
なんか話の流れでさ……」
「話の流れって……」
ミーシャが戸惑った様な不安そうな表情で俺を見つめながら言ってくる。
「どうしてそんな話に?
ジュードが飛行船に興味を持っていたということ?」
ひどく不安そうな顔のミーシャに、俺は「いや、」と慌てて両手を振った。
「あいつは別に飛行船に興味があるって訳じゃなかったんだ。
あいつ、昔ダルクに世話になった事があるって言ってて……それで……」
取り繕う様に俺が言う中、どんどんミーシャの顔に疑念の色が浮かんでいく。
「~ジュードが、ダルクさんにお世話になった……?
ジュードは生まれも育ちもサランディールで、トルスには行った事もないはずよ。
ダルクさんはトルスに住んでいらっしゃったのに……どうして二人が知り合うの?」
眉を寄せて、ミーシャが強い目線で俺を見つめる。
ヤベェ……。
何か、勘づき始めてる……。
そわそわと、思わず目線を横へ逸らす。
こいつは絶対ぇ良くねぇ流れだ。
ダルクがサランディール城に勤めてた事や、ダルクとそのじーさんが反逆罪にかけられちまった事。
じーさんが処刑され、ダルクがトルスに亡命した事。
そして──その『反逆罪』が正当なもんじゃなかったかもしれねぇ事。
全部他ならねぇこの俺が、『ミーシャが気にしちまうといけねぇからこいつは話さない方向で』ってジュードに口止めした事だ。
だってのに、このままじゃ金のメッキを剥がされるみてぇにボロボロ崩れて皆勘づかれちまう。
かと言って嘘八百で誤魔化そうとしてもミーシャには通じない気がするし……。
俺はただひたすら目線を横に逸らしたまま──頭をフル回転させる。
……こーなったらいっそ、逆にある程度までの事を話しちまう方が……ヘタに色々隠して探られるよりは、まだいいって気がする。
反逆罪云々の話がなけりゃ、ミーシャが気に病むよーな事は何にもねぇハズだし……。
それにミーシャだってある程度納得するだろ。
そう考えて俺は慎重に言葉を選びながら、ミーシャの問いに答える。
「ああ、いや……。
俺も知らなかったんだけど……どーやらダルクは昔、サランディールの刀鍛治職人として城で働いてた時期があったらしいんだよな。
代々続く鍛治職人で……ダルクは、自分のじーさんと一緒に働いてたらしい。
ジュードはその時分にダルクに世話になったんだって聞いた。
そん時の話も、色々聞いたぜ。
聞いてた感じ、俺の知るダルクに間違いないと思うし、それに……ジュードの話はウソじゃねぇと思う。
ジュードに昔のダルクの話を聞いたりする代わりって訳じゃねぇんだけど……。
俺も、俺の知るダルクの話をしてやったりしたんだよ。
飛行船の話も、その時に」
言うとミーシャが眉を品良く寄せてみせた。
「……飛行船の話をしてしまった理由は分かったけれど……。
ダルクさんのそんな話、ジュードからは聞いた事がないわ。
カルトという名の刀鍛治職人がいたという話も……私は聞いたことがない」
「──ああ。
ミーシャはまだほんの赤ん坊だったし、ダルクの事は知らなかったはずだって言ってたぜ」
確かにそう言っていた。
ここまでに、ウソもねぇ。
たぶんだが、ここまで俺史上最高に上手い事話の流れを作ったんじゃねぇか?
ちゃんとある程度の事は話したし、俺なら『ふ~ん、そうかぁ……』ってそこそこ納得して話が終わる。
けど、ミーシャはそうじゃなかった。
どうにも納得が行かなそうに「でも、」とミーシャが疑問を口にする。
「その話がもし本当の事だったとしても……何故ダルクさんやそのおじいさまはサランディール城の鍛治職人を辞められたの?
代々続く鍛治職人だったんでしょう?
そんなお家の方が、簡単に家業をお辞めになれるはずはないわ。
それに代々続く鍛治職人だったのなら、いくら私がまだ小さい頃にお二人が職を辞されたのだとしても、お名前くらい聞いた事があったはずよ。
その後サランディールに留まらず、ダルクさんがトルスで暮すことになったのは一体何故?
おじいさまの事も──さっきは言わなかったけれど、サランディールを出られた後はダルクさんとトルスに移り住んだの?
それならヘイデンさん達がおじいさまの事を知ってらっしゃるはずだけれど」
相変わらず鋭い所を次々と突いてくる。
俺は思わず視線を横へ彷徨わせた。
そいつが、どーやらいけなかったらしい。
ミーシャがはっきりとした疑念を込めて俺を見る。
そうして「~リッシュ、」と訴えかける様に声を上げた。
「お願いだからきちんと訳を話して。
ダルクさん達の事で、まだ何か隠している事があるんでしょう?
……それとも私じゃ、あなたの頼りにはなれない?」
最後には悲しそうな目で、声で、ミーシャが言う。
俺は──そいつに、どーにも抗う事が出来なかった。
んな目で、んな事言われたら……これ以上黙ってる事なんか出来ねぇじゃねぇか。
俺は自分の顔に片手をやって、がっくりとうな垂れた。
俺の足元にいた犬カバも、『あ~あ』とばかりに鼻で静かに息をつく。
まったく俺ってやつは、本っ当に口先ばっかりの男だよな。
ジュードならきっと、んな時でも秘密を厳守するんだろうにさ。
半ば自分にがっくりしながらも、結局──俺の知る全ての事をミーシャに話すことになったのだった──……。
◆◆◆◆◆
「そんな事が……」
と、どこかショックを受けた様にミーシャが口にする。
ダルクとじーさんが反逆罪をかけられた事。
ダルクはどうにか亡命したらしいが、じーさんはサランディールで処刑されちまったらしい事。
そんなに長い話じゃなかったが立ち話ってのもなんだったから、道端にあった程いい大きさの岩に二人腰掛けて話す事にしたんだが……。
結局全てを知る事になったミーシャの横顔は、俺が前に予想したみてぇに沈んで見える。
……やっぱり、言うべきじゃなかったかな。
気にしちまうかもしれねぇから、言わねぇ方がいいってのは分かってたのによ。
ミーシャが目を下に下げ……そうして俺を見つめる。
「……ジュードにも、何故ダルクさん達が反逆罪のレッテルを貼られることになったのかは分からないまま……なのよね?」
「~ああ、そうらしい。
……ってーかそもそも、レッテルだったかどうかは分からないぜ。
じーさんやダルクがなんかやらかしちまって、実は本当に王の暗殺を目論んだのかも……」
「──本当にそう思うの?」
言いかけた俺に、ミーシャがまっすぐに俺の目を見て問いかけてくる。
ダルクさんは、サランディールと関わった事で命を落としてしまった。
ジュードは今はもうサランディールの騎士ではないけれど……でも、ヘイデンさんが私に仰ったのと同じ様に、ジュードが飛行船を利用しようと考えないとは限らない。
私はそれが心配なの」
言ってくるのに……俺は目線を思わず横へやった。
そうして頬をカリカリと掻きながら「あ~、ええっと……」と口にする。
「俺、ジュードのやつに言っちゃったぜ、前に」
言うと、
「えっ?」
とミーシャがほんの少し不安そうに返してきた。
「ああ、いや……。
なんか話の流れでさ……」
「話の流れって……」
ミーシャが戸惑った様な不安そうな表情で俺を見つめながら言ってくる。
「どうしてそんな話に?
ジュードが飛行船に興味を持っていたということ?」
ひどく不安そうな顔のミーシャに、俺は「いや、」と慌てて両手を振った。
「あいつは別に飛行船に興味があるって訳じゃなかったんだ。
あいつ、昔ダルクに世話になった事があるって言ってて……それで……」
取り繕う様に俺が言う中、どんどんミーシャの顔に疑念の色が浮かんでいく。
「~ジュードが、ダルクさんにお世話になった……?
ジュードは生まれも育ちもサランディールで、トルスには行った事もないはずよ。
ダルクさんはトルスに住んでいらっしゃったのに……どうして二人が知り合うの?」
眉を寄せて、ミーシャが強い目線で俺を見つめる。
ヤベェ……。
何か、勘づき始めてる……。
そわそわと、思わず目線を横へ逸らす。
こいつは絶対ぇ良くねぇ流れだ。
ダルクがサランディール城に勤めてた事や、ダルクとそのじーさんが反逆罪にかけられちまった事。
じーさんが処刑され、ダルクがトルスに亡命した事。
そして──その『反逆罪』が正当なもんじゃなかったかもしれねぇ事。
全部他ならねぇこの俺が、『ミーシャが気にしちまうといけねぇからこいつは話さない方向で』ってジュードに口止めした事だ。
だってのに、このままじゃ金のメッキを剥がされるみてぇにボロボロ崩れて皆勘づかれちまう。
かと言って嘘八百で誤魔化そうとしてもミーシャには通じない気がするし……。
俺はただひたすら目線を横に逸らしたまま──頭をフル回転させる。
……こーなったらいっそ、逆にある程度までの事を話しちまう方が……ヘタに色々隠して探られるよりは、まだいいって気がする。
反逆罪云々の話がなけりゃ、ミーシャが気に病むよーな事は何にもねぇハズだし……。
それにミーシャだってある程度納得するだろ。
そう考えて俺は慎重に言葉を選びながら、ミーシャの問いに答える。
「ああ、いや……。
俺も知らなかったんだけど……どーやらダルクは昔、サランディールの刀鍛治職人として城で働いてた時期があったらしいんだよな。
代々続く鍛治職人で……ダルクは、自分のじーさんと一緒に働いてたらしい。
ジュードはその時分にダルクに世話になったんだって聞いた。
そん時の話も、色々聞いたぜ。
聞いてた感じ、俺の知るダルクに間違いないと思うし、それに……ジュードの話はウソじゃねぇと思う。
ジュードに昔のダルクの話を聞いたりする代わりって訳じゃねぇんだけど……。
俺も、俺の知るダルクの話をしてやったりしたんだよ。
飛行船の話も、その時に」
言うとミーシャが眉を品良く寄せてみせた。
「……飛行船の話をしてしまった理由は分かったけれど……。
ダルクさんのそんな話、ジュードからは聞いた事がないわ。
カルトという名の刀鍛治職人がいたという話も……私は聞いたことがない」
「──ああ。
ミーシャはまだほんの赤ん坊だったし、ダルクの事は知らなかったはずだって言ってたぜ」
確かにそう言っていた。
ここまでに、ウソもねぇ。
たぶんだが、ここまで俺史上最高に上手い事話の流れを作ったんじゃねぇか?
ちゃんとある程度の事は話したし、俺なら『ふ~ん、そうかぁ……』ってそこそこ納得して話が終わる。
けど、ミーシャはそうじゃなかった。
どうにも納得が行かなそうに「でも、」とミーシャが疑問を口にする。
「その話がもし本当の事だったとしても……何故ダルクさんやそのおじいさまはサランディール城の鍛治職人を辞められたの?
代々続く鍛治職人だったんでしょう?
そんなお家の方が、簡単に家業をお辞めになれるはずはないわ。
それに代々続く鍛治職人だったのなら、いくら私がまだ小さい頃にお二人が職を辞されたのだとしても、お名前くらい聞いた事があったはずよ。
その後サランディールに留まらず、ダルクさんがトルスで暮すことになったのは一体何故?
おじいさまの事も──さっきは言わなかったけれど、サランディールを出られた後はダルクさんとトルスに移り住んだの?
それならヘイデンさん達がおじいさまの事を知ってらっしゃるはずだけれど」
相変わらず鋭い所を次々と突いてくる。
俺は思わず視線を横へ彷徨わせた。
そいつが、どーやらいけなかったらしい。
ミーシャがはっきりとした疑念を込めて俺を見る。
そうして「~リッシュ、」と訴えかける様に声を上げた。
「お願いだからきちんと訳を話して。
ダルクさん達の事で、まだ何か隠している事があるんでしょう?
……それとも私じゃ、あなたの頼りにはなれない?」
最後には悲しそうな目で、声で、ミーシャが言う。
俺は──そいつに、どーにも抗う事が出来なかった。
んな目で、んな事言われたら……これ以上黙ってる事なんか出来ねぇじゃねぇか。
俺は自分の顔に片手をやって、がっくりとうな垂れた。
俺の足元にいた犬カバも、『あ~あ』とばかりに鼻で静かに息をつく。
まったく俺ってやつは、本っ当に口先ばっかりの男だよな。
ジュードならきっと、んな時でも秘密を厳守するんだろうにさ。
半ば自分にがっくりしながらも、結局──俺の知る全ての事をミーシャに話すことになったのだった──……。
◆◆◆◆◆
「そんな事が……」
と、どこかショックを受けた様にミーシャが口にする。
ダルクとじーさんが反逆罪をかけられた事。
ダルクはどうにか亡命したらしいが、じーさんはサランディールで処刑されちまったらしい事。
そんなに長い話じゃなかったが立ち話ってのもなんだったから、道端にあった程いい大きさの岩に二人腰掛けて話す事にしたんだが……。
結局全てを知る事になったミーシャの横顔は、俺が前に予想したみてぇに沈んで見える。
……やっぱり、言うべきじゃなかったかな。
気にしちまうかもしれねぇから、言わねぇ方がいいってのは分かってたのによ。
ミーシャが目を下に下げ……そうして俺を見つめる。
「……ジュードにも、何故ダルクさん達が反逆罪のレッテルを貼られることになったのかは分からないまま……なのよね?」
「~ああ、そうらしい。
……ってーかそもそも、レッテルだったかどうかは分からないぜ。
じーさんやダルクがなんかやらかしちまって、実は本当に王の暗殺を目論んだのかも……」
「──本当にそう思うの?」
言いかけた俺に、ミーシャがまっすぐに俺の目を見て問いかけてくる。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる