リッシュ・カルト〜一億ハーツの借金を踏み倒した俺は女装で追手をやり過ごす!って、あれ?俺超絶美人じゃねぇ?〜

羽都みく

文字の大きさ
上 下
94 / 265
十三章 鍵の行方

4

しおりを挟む
「前にも話したけれど──。
ダルクさんは、サランディールと関わった事で命を落としてしまった。
ジュードは今はもうサランディールの騎士ではないけれど……でも、ヘイデンさんが私に仰ったのと同じ様に、ジュードが飛行船を利用しようと考えないとは限らない。
私はそれが心配なの」

言ってくるのに……俺は目線を思わず横へやった。

そうして頬をカリカリと掻きながら「あ~、ええっと……」と口にする。

「俺、ジュードのやつに言っちゃったぜ、前に」

言うと、

「えっ?」

とミーシャがほんの少し不安そうに返してきた。

「ああ、いや……。
なんか話の流れでさ……」

「話の流れって……」

ミーシャが戸惑った様な不安そうな表情で俺を見つめながら言ってくる。

「どうしてそんな話に?
ジュードが飛行船に興味を持っていたということ?」

ひどく不安そうな顔のミーシャに、俺は「いや、」と慌てて両手を振った。

「あいつは別に飛行船に興味があるって訳じゃなかったんだ。
あいつ、昔ダルクに世話になった事があるって言ってて……それで……」

取り繕う様に俺が言う中、どんどんミーシャの顔に疑念の色が浮かんでいく。

「~ジュードが、ダルクさんにお世話になった……?
ジュードは生まれも育ちもサランディールで、トルスには行った事もないはずよ。
ダルクさんはトルスに住んでいらっしゃったのに……どうして二人が知り合うの?」

眉を寄せて、ミーシャが強い目線で俺を見つめる。

ヤベェ……。

何か、勘づき始めてる……。

そわそわと、思わず目線を横へ逸らす。

こいつは絶対ぇ良くねぇ流れだ。

ダルクがサランディール城に勤めてた事や、ダルクとそのじーさんが反逆罪にかけられちまった事。

じーさんが処刑され、ダルクがトルスに亡命した事。

そして──その『反逆罪』が正当なもんじゃなかったかもしれねぇ事。

全部他ならねぇこの俺が、『ミーシャが気にしちまうといけねぇからこいつは話さない方向で』ってジュードに口止めした事だ。

だってのに、このままじゃ金のメッキを剥がされるみてぇにボロボロ崩れて皆勘づかれちまう。

かと言って嘘八百で誤魔化そうとしてもミーシャには通じない気がするし……。

俺はただひたすら目線を横に逸らしたまま──頭をフル回転させる。

……こーなったらいっそ、逆にある程度までの事を話しちまう方が……ヘタに色々隠して探られるよりは、まだいいって気がする。

反逆罪云々の話がなけりゃ、ミーシャが気に病むよーな事は何にもねぇハズだし……。

それにミーシャだってある程度納得するだろ。

そう考えて俺は慎重に言葉を選びながら、ミーシャの問いに答える。

「ああ、いや……。
俺も知らなかったんだけど……どーやらダルクは昔、サランディールの刀鍛治職人として城で働いてた時期があったらしいんだよな。
代々続く鍛治職人で……ダルクは、自分のじーさんと一緒に働いてたらしい。
ジュードはその時分にダルクに世話になったんだって聞いた。
そん時の話も、色々聞いたぜ。
聞いてた感じ、俺の知るダルクに間違いないと思うし、それに……ジュードの話はウソじゃねぇと思う。
ジュードに昔のダルクの話を聞いたりする代わりって訳じゃねぇんだけど……。
俺も、俺の知るダルクの話をしてやったりしたんだよ。
飛行船の話も、その時に」

言うとミーシャが眉を品良く寄せてみせた。

「……飛行船の話をしてしまった理由は分かったけれど……。
ダルクさんのそんな話、ジュードからは聞いた事がないわ。
カルトという名の刀鍛治職人がいたという話も……私は聞いたことがない」

「──ああ。
ミーシャはまだほんの赤ん坊だったし、ダルクの事は知らなかったはずだって言ってたぜ」

確かにそう言っていた。

ここまでに、ウソもねぇ。

たぶんだが、ここまで俺史上最高に上手い事話の流れを作ったんじゃねぇか?

ちゃんとある程度の事は話したし、俺なら『ふ~ん、そうかぁ……』ってそこそこ納得して話が終わる。

けど、ミーシャはそうじゃなかった。

どうにも納得が行かなそうに「でも、」とミーシャが疑問を口にする。

「その話がもし本当の事だったとしても……何故ダルクさんやそのおじいさまはサランディール城の鍛治職人を辞められたの?
代々続く鍛治職人だったんでしょう?
そんなお家の方が、簡単に家業をお辞めになれるはずはないわ。
それに代々続く鍛治職人だったのなら、いくら私がまだ小さい頃にお二人が職を辞されたのだとしても、お名前くらい聞いた事があったはずよ。
その後サランディールに留まらず、ダルクさんがトルスで暮すことになったのは一体何故?
おじいさまの事も──さっきは言わなかったけれど、サランディールを出られた後はダルクさんとトルスに移り住んだの?
それならヘイデンさん達がおじいさまの事を知ってらっしゃるはずだけれど」

相変わらず鋭い所を次々と突いてくる。

俺は思わず視線を横へ彷徨わせた。

そいつが、どーやらいけなかったらしい。

ミーシャがはっきりとした疑念を込めて俺を見る。

そうして「~リッシュ、」と訴えかける様に声を上げた。

「お願いだからきちんと訳を話して。
ダルクさん達の事で、まだ何か隠している事があるんでしょう?
……それとも私じゃ、あなたの頼りにはなれない?」

最後には悲しそうな目で、声で、ミーシャが言う。

俺は──そいつに、どーにも抗う事が出来なかった。

んな目で、んな事言われたら……これ以上黙ってる事なんか出来ねぇじゃねぇか。

俺は自分の顔に片手をやって、がっくりとうな垂れた。

俺の足元にいた犬カバも、『あ~あ』とばかりに鼻で静かに息をつく。

まったく俺ってやつは、本っ当に口先ばっかりの男だよな。

ジュードならきっと、んな時でも秘密を厳守するんだろうにさ。

半ば自分にがっくりしながらも、結局──俺の知る全ての事をミーシャに話すことになったのだった──……。

◆◆◆◆◆

「そんな事が……」

と、どこかショックを受けた様にミーシャが口にする。

ダルクとじーさんが反逆罪をかけられた事。

ダルクはどうにか亡命したらしいが、じーさんはサランディールで処刑されちまったらしい事。

そんなに長い話じゃなかったが立ち話ってのもなんだったから、道端にあった程いい大きさの岩に二人腰掛けて話す事にしたんだが……。

結局全てを知る事になったミーシャの横顔は、俺が前に予想したみてぇに沈んで見える。

……やっぱり、言うべきじゃなかったかな。

気にしちまうかもしれねぇから、言わねぇ方がいいってのは分かってたのによ。

ミーシャが目を下に下げ……そうして俺を見つめる。

「……ジュードにも、何故ダルクさん達が反逆罪のレッテルを貼られることになったのかは分からないまま……なのよね?」

「~ああ、そうらしい。
……ってーかそもそも、レッテルだったかどうかは分からないぜ。
じーさんやダルクがなんかやらかしちまって、実は本当に王の暗殺を目論んだのかも……」

「──本当にそう思うの?」

言いかけた俺に、ミーシャがまっすぐに俺の目を見て問いかけてくる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。

蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。 此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。 召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。 だって俺、一応女だもの。 勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので… ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの? って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!! ついでに、恋愛フラグも要りません!!! 性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。 ────────── 突発的に書きたくなって書いた産物。 会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。 他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。 4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。 4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。 4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました! 4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。 21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!

婚約者が私のことをゴリラと言っていたので、距離を置くことにしました

相馬香子
恋愛
ある日、クローネは婚約者であるレアルと彼の友人たちの会話を盗み聞きしてしまう。 ――男らしい? ゴリラ? クローネに対するレアルの言葉にショックを受けた彼女は、レアルに絶交を突きつけるのだった。 デリカシーゼロ男と男装女子の織り成す、勘違い系ラブコメディです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

処理中です...