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十六章 再会
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◆◆◆◆◆
「ハント卿、先程は十分な挨拶もしないまま取り乱してしまい、大変失礼しました」
と──ついさっきまでとは全く違う、きちんとした王子みてぇな様子で改めてヘイデンに挨拶したのは、言わずもがなレイジスだった。
あれから── 一刻程もリアへの熱い想いを俺やミーシャに語りまくっていたレイジスだったが……さすがにようやく気持ちが落ち着いたらしい。
そのタイミングを見計らって(……だろう、きっと)ヘイデンが再びやってきて、レイジスとジュードを昼食の席に招待し、その招待を受けたレイジスがこうしてその席についてそして──ようやく今に至る。
まぁ、実際のところ『昼食の席への招待』はヘイデン自身の案てぇ訳じゃなく、執事のじーさんの案だったんだろうと俺は推測するが……どっちにしたって同じ事か。
ちなみに言えばその食事の席はさっきと同じダイニングルームだったりする。
食事の用意が出来るまで、と一旦隣のティールームらしい部屋に案内されて茶を頂きながら待つ事しばし。
じーさんの案内に従ってまたダイニングに戻ってくると、そこにはもう完璧な昼食がバッチリ用意されていた。
清潔感たっぷりの白いテーブルクロスが敷かれたテーブルの上には、いつも通りにお洒落な感じの白い皿に乗ったグリルチキンやサラダ。
テーブルの中央二ヶ所には大皿でたくさんのサンドイッチが並べられている。
食事の邪魔にならねぇ位置に置かれた花瓶にはキレイな花が活けられていて、いかにも貴族の食事テーブルって雰囲気だ。
ちなみにチラッと足元の犬カバの皿を見ると、何気に俺らと同じ食事が──食べやすく切られたグリルチキンとサラダが乗ってやがる。
犬カバが目をキラキラさせて自分の皿を見つめ、うれしそうに尻尾をパタパタさせて早速グリルチキンにがっつくのを横目にしながら──俺は思わず首を捻った。
……やっぱり、どーも犬カバの食事、ちょっと豪華すぎやしねぇか?
前までは、まぁ言ったってドッグフードやらミルクやら んなとこだったと思うんだが、この頃ちょっとグレードが上がっちまってるよーな気がする。
それも、俺がゴルドーんとこで泊まり込みで働いて、戻ってきたらそうなってたって感じだ。
頑張ってきたのはこの俺だってのに。
な~んかおかしいよな……と俺が半眼で犬カバの様子を見てる中、レイジスがヘイデンに挨拶の続きを口にする。
「──妹とリッシュくんから、今二人……と、一匹の置かれている状況は聞きました。
ハント卿には妹が大変お世話になったとの事。
改めて、礼を言わせて頂きます。
本当に、ありがとうございました」
そう言って──レイジスがヘイデンへきちんと頭を下げて礼をする。
俺はそいつに──思わず軽く瞬きしてレイジスを見つめた。
あのレイジスが んなにきちんとした挨拶を出来るってのも驚きだったんだが……。
それより何より、俺は王族ってぇのは簡単にはこーやって人に頭を下げたり礼を言ったりしねぇもんだと思っていた。
考えてみりゃあミーシャもよく人に礼を言ったりすんのを見るし、俺の勝手な偏見だったのかもしれねぇが……。
意外っちゃ意外だ。
レイジスの丁寧な礼に、ヘイデンは「……いや、」とつい先刻までのレイジスの乱心ぶりを一切見なかったみてぇな平静な調子で、大人な対応を見せる。
「気にされる必要はない。
私は私の思う行動をさせて頂いただけだ」
(俺からしたら)いつも通りの淡々とした口調でヘイデンが言うのに、レイジスがそっと頭を上げて微笑する。
「──ありがとうございます」
言った声音も、横顔も、一刻前までとはまるっきり違う。
どっちが本当のレイジスなのか──いや、まぁどっちもそうなんだろうが──本当に不思議なやつ……いや、兄貴だよな。
ミーシャもジュードも特に驚いたり意外がってる様子もねぇから、普段からこんな感じではあるんだろう。
俺がなんとなくレイジスに見入る中、ヘイデンが「それで、」と続きを口にした。
「レイジス殿は何故この街に?
先程ミーシャ殿に『中々名乗り出る事が出来なかった』と言っておられたが……かなり以前から、すでにこの街にいたのだろうか?」
ヘイデンの問いかけに、レイジスがジュードへ軽く視線をやって──そうしてやんわりと微笑んで首を横へ振る。
「──いえ。
この街に辿り着いたのは、ほんのひと月程前の事です。
一年前の内乱の折、私はトルスへ亡命こそしていたのですが、サランディールと程近い位置にあるこの街にはこれまで一度も立ち寄った事がなかった。
ですが──旅の途中、こんな噂を聞いたのです。
サランディールとも近いこの街で、近頃大統領の娘を始めとした女性たちが山賊に拐われるという誘拐騒ぎがあったらしい。
解決したのは冒険者ダルクと、賞金首リッシュ・カルト。
そしてどこからともなく現れた謎の剣士。
彼らが女性たちを救いだし、誘拐の首謀者だった山賊共を一人残らずお縄にした──と」
言って、レイジスがやんわり笑みながらミーシャを見つめた。
「その時はまさか冒険者ダルクがミーシャで、謎の剣士がジュードだなどとは思いもしませんでしたが……。
事件の影にノワールの影ありと聞き、様子を探りにきたのです。
ノワールはサランディールの内乱以降、特にキナ臭い動きや噂が多い。
これは何かあるのでは、と。
そうしてやってきた子の街でジュードに出会い、ミーシャが『冒険者ダルク』として男装し、無事に生活している事や山賊事件のあらましを聞くに至りました。
本当はもっと早くに名乗り出たかったが……解決したとはいえ、ノワールの絡む事件でしたし、私が下手にミーシャに接触して、万が一にもノワールの手の者に存在を知られるのは危険だと思ったので。
──ジュードからミーシャの行方が突如知れなくなったと聞かされた時は肝を冷やしましたが」
笑いながらレイジスが言うのに──俺は静かに目線を横にずらす。
レイジスはそんな俺にちょっと笑って見せたみてぇだった。
「だが、そのおかげでこうして名乗り出る機会を得る事が出来た」
ありがとう、とレイジスは俺にまで礼を言う。
俺はそいつに思わず頭を下げた。
レイジスの礼になんて答えていいか分からなかった為だが……まぁ、答えを求められてたって訳でもねぇんだろう。
思いながら下げた頭をそっと上げてレイジスを見ると、レイジスが親しみの込もった爽やかスマイルで返してくる。
まぁ何つーか、それこそ街の女の子達が見たら一遍にファンになっちまいそうな笑みだ。
俺はそいつに曖昧に笑って見せた。
たぶん──こんなに親しみを込めて俺を見てくれんのは、『リアの双子の弟』だからって理由も少なからずあるだろう。
でなきゃいくらジュードから前もって聞いてたとはいえ、どこのどんなやつかも分からねぇ自分の妹と親しい元・賞金首に、ここまで打ち解けた笑みは中々見せられねぇよ。
もしこれでリアの正体がこの俺だとバレるよーな事になったら……と考えて、俺はぶるりと密かに震えた。
レイジスの隣に座るミーシャの目が、何とも言えず俺を見ている。
俺はとりあえずそいつに気づかねぇフリをした。
と、レイジスがヘイデンへ話の続きを口にする。
「──私は今しばらく、この街に滞在してノワールの動きやサランディールの情勢について、色々と探ってみるつもりです。
ミーシャやリッシュくん、そしてリアさんの大切な犬カバくんを狙うノワールの手の者についても、出来得る限り調べてみましょう。
今はまだ何も先の事は考えられていませんが……。
一日でも早くミーシャや犬カバくんが安心して外を出歩ける様になる様、全力を尽くさせてもらうつもりです。
──ハント卿……どうかそれまで今しばらく、ミーシャの事をこちらで匿ってやって頂きたい」
レイジスが真っ直ぐヘイデンを見据え、言う。
しっかりとした語り口、真剣な表情でレイジスにこう言われたら……俺だったら二つ返事で「おう、任せとけ!」と請け負っちまうだろう。
なんだかんだ言ったってヘイデンも同じ気持ちだろうと、思ったんだが。
ヘイデンは──無言のままレイジスの顔を“見る”。
レイジスは微笑みでそいつに返していたが──俺は一瞬、何故かひやりとしてその光景を見つめた。
「ハント卿、先程は十分な挨拶もしないまま取り乱してしまい、大変失礼しました」
と──ついさっきまでとは全く違う、きちんとした王子みてぇな様子で改めてヘイデンに挨拶したのは、言わずもがなレイジスだった。
あれから── 一刻程もリアへの熱い想いを俺やミーシャに語りまくっていたレイジスだったが……さすがにようやく気持ちが落ち着いたらしい。
そのタイミングを見計らって(……だろう、きっと)ヘイデンが再びやってきて、レイジスとジュードを昼食の席に招待し、その招待を受けたレイジスがこうしてその席についてそして──ようやく今に至る。
まぁ、実際のところ『昼食の席への招待』はヘイデン自身の案てぇ訳じゃなく、執事のじーさんの案だったんだろうと俺は推測するが……どっちにしたって同じ事か。
ちなみに言えばその食事の席はさっきと同じダイニングルームだったりする。
食事の用意が出来るまで、と一旦隣のティールームらしい部屋に案内されて茶を頂きながら待つ事しばし。
じーさんの案内に従ってまたダイニングに戻ってくると、そこにはもう完璧な昼食がバッチリ用意されていた。
清潔感たっぷりの白いテーブルクロスが敷かれたテーブルの上には、いつも通りにお洒落な感じの白い皿に乗ったグリルチキンやサラダ。
テーブルの中央二ヶ所には大皿でたくさんのサンドイッチが並べられている。
食事の邪魔にならねぇ位置に置かれた花瓶にはキレイな花が活けられていて、いかにも貴族の食事テーブルって雰囲気だ。
ちなみにチラッと足元の犬カバの皿を見ると、何気に俺らと同じ食事が──食べやすく切られたグリルチキンとサラダが乗ってやがる。
犬カバが目をキラキラさせて自分の皿を見つめ、うれしそうに尻尾をパタパタさせて早速グリルチキンにがっつくのを横目にしながら──俺は思わず首を捻った。
……やっぱり、どーも犬カバの食事、ちょっと豪華すぎやしねぇか?
前までは、まぁ言ったってドッグフードやらミルクやら んなとこだったと思うんだが、この頃ちょっとグレードが上がっちまってるよーな気がする。
それも、俺がゴルドーんとこで泊まり込みで働いて、戻ってきたらそうなってたって感じだ。
頑張ってきたのはこの俺だってのに。
な~んかおかしいよな……と俺が半眼で犬カバの様子を見てる中、レイジスがヘイデンに挨拶の続きを口にする。
「──妹とリッシュくんから、今二人……と、一匹の置かれている状況は聞きました。
ハント卿には妹が大変お世話になったとの事。
改めて、礼を言わせて頂きます。
本当に、ありがとうございました」
そう言って──レイジスがヘイデンへきちんと頭を下げて礼をする。
俺はそいつに──思わず軽く瞬きしてレイジスを見つめた。
あのレイジスが んなにきちんとした挨拶を出来るってのも驚きだったんだが……。
それより何より、俺は王族ってぇのは簡単にはこーやって人に頭を下げたり礼を言ったりしねぇもんだと思っていた。
考えてみりゃあミーシャもよく人に礼を言ったりすんのを見るし、俺の勝手な偏見だったのかもしれねぇが……。
意外っちゃ意外だ。
レイジスの丁寧な礼に、ヘイデンは「……いや、」とつい先刻までのレイジスの乱心ぶりを一切見なかったみてぇな平静な調子で、大人な対応を見せる。
「気にされる必要はない。
私は私の思う行動をさせて頂いただけだ」
(俺からしたら)いつも通りの淡々とした口調でヘイデンが言うのに、レイジスがそっと頭を上げて微笑する。
「──ありがとうございます」
言った声音も、横顔も、一刻前までとはまるっきり違う。
どっちが本当のレイジスなのか──いや、まぁどっちもそうなんだろうが──本当に不思議なやつ……いや、兄貴だよな。
ミーシャもジュードも特に驚いたり意外がってる様子もねぇから、普段からこんな感じではあるんだろう。
俺がなんとなくレイジスに見入る中、ヘイデンが「それで、」と続きを口にした。
「レイジス殿は何故この街に?
先程ミーシャ殿に『中々名乗り出る事が出来なかった』と言っておられたが……かなり以前から、すでにこの街にいたのだろうか?」
ヘイデンの問いかけに、レイジスがジュードへ軽く視線をやって──そうしてやんわりと微笑んで首を横へ振る。
「──いえ。
この街に辿り着いたのは、ほんのひと月程前の事です。
一年前の内乱の折、私はトルスへ亡命こそしていたのですが、サランディールと程近い位置にあるこの街にはこれまで一度も立ち寄った事がなかった。
ですが──旅の途中、こんな噂を聞いたのです。
サランディールとも近いこの街で、近頃大統領の娘を始めとした女性たちが山賊に拐われるという誘拐騒ぎがあったらしい。
解決したのは冒険者ダルクと、賞金首リッシュ・カルト。
そしてどこからともなく現れた謎の剣士。
彼らが女性たちを救いだし、誘拐の首謀者だった山賊共を一人残らずお縄にした──と」
言って、レイジスがやんわり笑みながらミーシャを見つめた。
「その時はまさか冒険者ダルクがミーシャで、謎の剣士がジュードだなどとは思いもしませんでしたが……。
事件の影にノワールの影ありと聞き、様子を探りにきたのです。
ノワールはサランディールの内乱以降、特にキナ臭い動きや噂が多い。
これは何かあるのでは、と。
そうしてやってきた子の街でジュードに出会い、ミーシャが『冒険者ダルク』として男装し、無事に生活している事や山賊事件のあらましを聞くに至りました。
本当はもっと早くに名乗り出たかったが……解決したとはいえ、ノワールの絡む事件でしたし、私が下手にミーシャに接触して、万が一にもノワールの手の者に存在を知られるのは危険だと思ったので。
──ジュードからミーシャの行方が突如知れなくなったと聞かされた時は肝を冷やしましたが」
笑いながらレイジスが言うのに──俺は静かに目線を横にずらす。
レイジスはそんな俺にちょっと笑って見せたみてぇだった。
「だが、そのおかげでこうして名乗り出る機会を得る事が出来た」
ありがとう、とレイジスは俺にまで礼を言う。
俺はそいつに思わず頭を下げた。
レイジスの礼になんて答えていいか分からなかった為だが……まぁ、答えを求められてたって訳でもねぇんだろう。
思いながら下げた頭をそっと上げてレイジスを見ると、レイジスが親しみの込もった爽やかスマイルで返してくる。
まぁ何つーか、それこそ街の女の子達が見たら一遍にファンになっちまいそうな笑みだ。
俺はそいつに曖昧に笑って見せた。
たぶん──こんなに親しみを込めて俺を見てくれんのは、『リアの双子の弟』だからって理由も少なからずあるだろう。
でなきゃいくらジュードから前もって聞いてたとはいえ、どこのどんなやつかも分からねぇ自分の妹と親しい元・賞金首に、ここまで打ち解けた笑みは中々見せられねぇよ。
もしこれでリアの正体がこの俺だとバレるよーな事になったら……と考えて、俺はぶるりと密かに震えた。
レイジスの隣に座るミーシャの目が、何とも言えず俺を見ている。
俺はとりあえずそいつに気づかねぇフリをした。
と、レイジスがヘイデンへ話の続きを口にする。
「──私は今しばらく、この街に滞在してノワールの動きやサランディールの情勢について、色々と探ってみるつもりです。
ミーシャやリッシュくん、そしてリアさんの大切な犬カバくんを狙うノワールの手の者についても、出来得る限り調べてみましょう。
今はまだ何も先の事は考えられていませんが……。
一日でも早くミーシャや犬カバくんが安心して外を出歩ける様になる様、全力を尽くさせてもらうつもりです。
──ハント卿……どうかそれまで今しばらく、ミーシャの事をこちらで匿ってやって頂きたい」
レイジスが真っ直ぐヘイデンを見据え、言う。
しっかりとした語り口、真剣な表情でレイジスにこう言われたら……俺だったら二つ返事で「おう、任せとけ!」と請け負っちまうだろう。
なんだかんだ言ったってヘイデンも同じ気持ちだろうと、思ったんだが。
ヘイデンは──無言のままレイジスの顔を“見る”。
レイジスは微笑みでそいつに返していたが──俺は一瞬、何故かひやりとしてその光景を見つめた。
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