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十一章 会議

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言ってやると、さっきまで怒り爆発って感じだったおっさんが意外な事を耳にしたとばかりに目を瞬く。

「それから、国境警備。
あいつらちゃんと仕事やれてんのか?
頭《かしら》殺しの仲買人は、何度もトルスとノワールを往復してたんだろ?
どーいう理由で通行してたか知らねぇが、怪しいと思った事は一度もなかったのか?
この仲買人だけの話じゃねぇ。
もし仮に、あんたらが挙げたこの行方不明者達が──もちろん全員そうとは言い切れねぇが、国外へ捌かれたんだとしたら、国境警備の連中はそれを見逃したって事になるだろ。
ワザとなら買収されてる可能性もあるし、ワザとじゃねぇってんなら、ただの無能だ。
俺ならちゃんと信頼出来る奴をやって国境警備兵達を見張らせるね」

言うと、外交官の一人とおっさんマスターが片眉を上げて目を見合わす。

「あと、行方不明者のリストも作った方がいいんじゃねぇの?
出来れば顔写真がありゃいいけど、なけりゃあその子の特徴を書いたもんでもいい。
そいつを全国に配布して、ギルドの連中だけじゃなく、一般人にも情報を募るんだよ。
目撃者の情報で女の子達の足取りが掴めるかもしれねぇし、国境警備と一般人の目、両方気にしなきゃいけなくなったら……賊もその仲買人も、かなり動きが制限されるんじゃねぇかな?
拐ったはずの女の子達がピタリと自分の元に来ないとなりゃ、黒幕も少しは焦るだろ。
今まで簡単に通過できてたノワールとの国境の警備の目が、厳しくなったって事だし。
もし黒幕がノワールやその宰相だったとして、俺なら──自分から、トルスに連絡を取るね。
トルスがどういうつもりで警備を堅くしてんのか、その理由が自分達が関わってる人拐いの件に関係があるのかどうかを探る為に」

言いながら──我知らず、悪い笑みが浮かぶ。

顔写真付きで街に張り出された場合の一般人の情報リーク力は、一億ハーツの賞金首として追われ続けてるこの俺が一番よく分かってる。

ありゃ、マジでギルドの冒険者達も顔負けの情報力だぜ。

あの顔写真付き手配書のおかげで俺がどんだけ追い詰められたか──。

「そんなどこぞの賞金首じゃあるまいし、顔写真付きのリストを一般人に公開するだと?
被害者のご家族が嫌がるに決まって……」

じいさんが言いかけるのに「いや、」とその横にいたクール系のお姉さんが腕を組んだまま返す。

「それでも本人が戻るなら、と協力してくれる可能性の方が高い。
それにもし全員のリストが出来なくとも、承諾をもらった数人のリストを元に目撃情報を募ればいい。
上手くすれば、捜査を前へ進める取っ掛かりになるかもしれない」

「~もし仮にそうだとしても、だ。
それはギルドの冒険者達の様に正確な情報という訳にはいかぬだろう。
情報提供者の思い違いや勘違い……それに悪戯ででっち上げた情報を垂れ込んでくる輩もいるやもしれん」

「だが、その中に正しい情報が流れ込んでくる可能性は、あるな……」

じいさんの言葉に冷静な声でそう言い加えたのは……さっきまで怒りも心頭で感情を爆発させてた、あのおっさんだった。

それに賛同する様に口を開いたのは、上品そうなおばさんだ。

「……それに、どこから来たどのような情報でも、ギルド側での精査は必要なはず。
もし仮に誤った情報が紛れ込んだとしても、必ずそれに気がつけるはずですわ。
それこそ我々の得意とする所でもあるのですから」

言った先で、マスター達は皆『もちろんだ』とばかりに頷いた。

……まあ、じいさんだけは例外だけど。

大統領が左に座った外交官へ目を向けた。

「国境警備の件はどうか?」

「~すぐに手配します」

大統領の一言に、外交官がサッと席を立ち、すぐさま部屋を出て行く。

と、メガネの壮年の男がクイッと指でメガネを上げ、周りのマスター達の顔を見渡す。

「……我が管轄の賊などの情報、今の所の動きは大体頭に入っている。
皆さんもそうではありませんか?
時間が許す限り、今からでも情報交換出来る所までしておきたいが」

そいつに満場一致で、皆が頷いた。

ただし。

たぶんいい感じにまとめた所を邪魔されたからだろう、じいさんだけはいつまでも俺に鋭い睨みを効かせている。

俺はそそくさと視線をそっから外し、後は何にも突っ込まずに話の流れを聞くに徹した。

さて そっから先は話が早い。

ギルド側として今早急にしておかなきゃならねぇ情報の交換や対策についての話、官僚側との連携の細部に至るまで徹底的に話がなされ、そいつが終わるととうとう解散って流れになった。

皆それぞれ、一刻も早く帰ってしなけりゃならねぇ事がたくさん出てきたからだろう、早々に席を立ち、足早に部屋を出て行く。

上品なおばさんやクール系のお姉さん、残っていた外交官達、そして──じいさんが最後の最後にもう一度俺をギロッとした目で睨みやりながら退出する。

自分の名誉を傷つけられたと思って、相当怒ってるらしい。

けどまぁ、よーやく気の重たかった会議ともおさらばだ。

これで俺やミーシャの役割は終わったって言っていいだろ。

後の事は優秀なギルドの面々や外交官達、それに大統領に任せときゃ、きっと大丈夫だ。

俺が胸をなで下ろしてそっと息をついてる──と。

「……リッシュ・カルトとか言ったな」

おっさんが声をかけてくる。

俺が無言のままおっさんを見上げると、おっさんが「あ~、その、なんだ、」と顔と声に似合わず煮え切らない調子で言葉を続けた。

「──今日は、いい会議になった。
お前が余計な口を挟まなかったら……この会議の内容も、もっと薄っぺらで終わっていたかもしれん。
何も知らん部外者だなどと怒鳴って悪かった」

口調がぶっきらぼうだが……どーやら、本気で謝ってるらしい。

俺は少し意外に思いながらも軽く肩をすくめた。

「……別にいーよ。
この場にいた連中に比べりゃ、俺は本当に何にも知らねぇ部外者だった訳だし。
俺が口を挟まなくたって、きっとこの会議に出てたメンツなら誰かがどこかで指摘しただろーぜ。
それに俺、おっさんみてぇな怒鳴り声には慣れてっから」

言いながら……

慣れてる?

自分の言葉に疑問符を打つ。

俺の記憶ん中じゃ、おっさんみてぇな怒鳴り声するよーな奴なんかゴルドーくらいしか思い当たらねぇんだが。

あいつとは“怒鳴り声に慣れる”ほど関わっちゃいねぇ。

じゃあ一体誰だったっけ……?

なんて事を考えてると、おっさんが小さく笑う。

人相がごっつい為にそいつは完全に子供が見たら泣き出しそうな怖ぇ顔になってたが。

「──借金を踏み倒したかなんか知らんが、さっさとカタをつけて賞金首から脱却しろ。
お前くらい頭が回るなら、賞金首として逃げ回ってる間にもっと違う事が出来るだろう。
仕事がなけりゃあ、俺んとこの支部から仕事を回してやるよ。
まぁ、他の冒険者に討ち取られねぇ様に気をつける必要はあるがな」

言ってくる。

そいつに足元から「クヒッ」と犬カバがヘンな笑い声を漏らす。

俺はそいつにつられる様にほんの少し口の端を上げて「考えとくよ」とだけ返した。

おっさんが顔だけで笑って、そのまま今度こそ部屋を出て行く。

俺は思わずシエナと顔を見合わせた。

シエナも俺と同じ様な顔で笑っている。

なんだかなぁ。

おっさん、俺の事初めはあんなに邪険にしてたってぇのに……なんだか不思議な感じだ。

俺は隣で席を立ったシエナに合わせて席を立つ。

と──、

「リッシュ・カルトくん、」

遠い向こうの席から、グラノス大統領が俺の名を呼んだ。

見ればグラノス大統領はもう席から立ち上がり、ゆったり構えて俺の方へ顔を向けている。

「マリーを助けてくれた礼がしたい。
少し話をしたいのだが、いいだろうか」

言った大統領に、横に付いた男が小声で大統領に進言する。

「大統領、そろそろお時間が……」

「っと、俺は別に……」

その礼、断るつもりで来たから時間なんか割く必要ないぜ、と言いかけたんだが。

「──すぐに行く。
先に手配を頼めるか」

その先を言い切るより早く、大統領が男に言う。

そいつに対する男の返答も早かった。

何の文句も、それ以上の進言もする事なく「分かりました」とだけ返して、そのまま大統領と、俺やシエナに礼をし、部屋を出て行く。

俺がちょっと待ったと止める間もねぇ。

それに続けて、

「それじゃ私は表玄関で待ってるよ。
馬車の手配をしなけりゃならないからね」

シエナが言ってくる。

俺はそいつに仕方なく「……おう」と一つ返事してみせた。

ただ一言、返礼を断るだけだってのに……なんかビミョーに時間使わす様な感じになっちまった。

シエナが大統領に簡単に一礼して、そうしてそのまま部屋を後にする。

部屋の扉がパタンと閉じる。
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