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九章 告白

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つーか……あんな へらっへらしたやつが城勤めなんて、似合わなすぎにも程があるぜ。

俺は──思わず眉を寄せて、問いかける。

「~それ、本当に俺の知る『ダルク』か……?
確かにあいつ、お人好しだったけどよ……。
でも鍛冶屋ってのも似合わねぇし、そもそも城勤めってぇのが一層似合わねぇし……」

いいかけて……俺は「あっ!」と一つ思い至った。

「~あいつ、貴族か誰かに喧嘩でも吹っ掛けて鍛冶屋をクビになったんだろ。
それでじーさんのメーワクにならねぇようにわざわざ隣国まで一人で越してきたんじゃねぇか?」

ふと思い至って言ってやる。

うん、その方がいかにもあいつらしいって感じがする。

俺の言葉に……けど、ジュードは いや、と答えにくそうに口にした。

「──ダルクさんが城を出たのは……ダルクさんと祖父殿が、反逆罪にかけられてしまった為だ。
ダルクさんは城の地下道から逃れたが、祖父殿はその日の内に処刑された。
俺は──てっきり、ダルクさんは今もどこかで無事に過ごしていると思っていた。
この辺りに偶然寄った折り、『ダルク』という黒髪の男がギルドの冒険者として活躍していると聞いて……俺の知る、あのダルクさんではないかと思ったんだが……」

犬カバがむっくりと頭を上げ、俺を見上げ……そしてジュードへ目をやる。

俺は口の中がカラカラに乾くのを感じた。

頭が、ついていかねぇ。

ジュードは何を言ってんだ……?

「反逆罪……って……。
ダルクと、そのじーさんが……?
何で……一体何を根拠に……」

ただの鍛冶屋のじーさんと孫が、何の不満があって国に反逆なんかするってんだよ?

つーか、どんな反逆を?

ジュードがうなだれる様に頭を振る。

分からねぇ、と言外に告げていた。

「──話によれば、王の暗殺を目論んでいた、とか。
だが、根拠等という程のものがあったのかどうかも分からない。
俺も当時はまだほんの子供だったし、詳しい事情は知らないんだ。
当時の事は、城の記録にも書かれていなかった。
祖父殿の処刑も内々に行われたし──城から逃げたダルクさんを大々的に追うという事も、されなかったらしい。
俺には、疑問だった」

ジュードが目線を斜め下へやりながら、言う。

こんな話……ミーシャが聞いたら、どう思うだろう?

不意にミーシャの沈んだこの頃の顔が浮かぶ。

俺は──ちらっとリビングに続く戸の方を見やる。

向こうからは相変わらず賑やかな音が鳴っている。

俺は、向こうには決して聞こえる事がねぇ様、細心の注意を払いながら、少し声を落として口を開く。

「……この話、ミーシャは知ってんのか?」

問うと、ジュードが いや、と短く答えてきた。

「ミーシャ様がほんの赤子だった頃の話だ。
ダルクさんの事も、聞いた事はなかっただろう」

言ってくる。

俺は「そっか、」とそいつに頷いた。

「そんなら、いいんだ。
あいつ、真面目だからさ。
んな話聞いたら自分の家のせいでダルクが辛い目に遭ったとか落ち込んじまうんじゃねぇかと思ってよ。
暗殺されそーになった王って、要はあいつの親父…………」

言いかけて。

俺は思わず口に手をやって言葉を止めた。

ジュードが目を瞬く。

隣にいた犬カバが、やれやれとでも言う様に「ブッフ」と鼻で鳴いた。

俺は………つい、女装の時の調子で思わず上目遣いにジュードを見やる。

女装の時は、こいつで話を誤魔化せる時もあるんだが……今はこの通り、これっぽっちも効果はねぇ。

まぁ、効果なんかあられても困るけどよ。

ジュードがまじまじと俺を見てくる。

そうしてたった一言、

「──知っているのか」

断定的に、問いかけてくる。

俺は思わず口をへの字に曲げてみせた。

そうして目をぐるっと回して、言う。

「──ああ。
あんたとミーシャの会話で……何となく、そーだろーなって。
あんたは、あいつの騎士ってトコだろ?
……あいつ、俺には んな話してねぇし……言いたくねぇってんなら、俺もあいつが言うまでは気づいてねぇフリをしよーかと……思ってよ……」

思わず言葉尻を小さくしながら言う。

はぁーっ、ったく、何で んな話ジュードにしなけりゃなんねぇんだよ。

言ってて恥ずかしいったらありゃしねぇぜ。

俺は思わずごほんとごまかしの咳をしそうになって──あまりの激痛に、そのすんでの所で止めた。

……咳すらまともに出来やしねぇ。

どっからどこまでも情けなく思いながらも、俺は とにかく、と語気を強めて言う。

「そーいう訳だから、俺がミーシャの素性を知ってるって事はあいつには内緒にしとけよ。
あと──ダルクやそのじーさんの話もな。
かなり昔の話だし、ミーシャにゃ全く関係ねぇんだから。
無駄に落ち込ます事もねぇだろ?」

言ってやると、ほんの少しの間の後、ジュードが「分かった」と返事する。

その口の端がほんの僅かに笑ったよーな気もしたが、俺の気のせいかもしれねぇ。

俺は ともかく、と気を取り直す様に言葉を続けた。

「そーゆー事だからよろしく頼むぜ。
それにしても………」

言いつつ、隣のリビングに続く戸の方を半ば呆れた眼差しで見やる。

「晩飯、きっとまだまだ時間かかるぜ。
……暇潰しにさ、ダルクが城にいた頃の話でも聞かせてくれよ。
晩飯が出来るまでの間さ」

言うと──ジュードが同じ様にリビングに続く戸を見やる。

そうして、ふんわり匂ってきた焦げ臭い香りに、一瞬ほんのわずかに片眉がピクリと上がる。

苦笑こそしなかったが……まぁ、心境はそうだろう、軽く頷いて「ああ」と返してきた。

そうして俺は──城勤めをしていた頃のダルクの話を、色々と聞かせてもらったのだった──。

◆◆◆◆◆

「~~~っ!」

歯を食い縛って、ベッドに後ろ手をつき、上半身だけで起き上がる。

わなわなする腕に力を込めてその体勢で耐える──と、サッと犬カバが口でくわえたクッションを俺の背とベッドとの隙間に差し込んだ。

俺はそいつを見もせずにへなへなっと腕の力を抜いてゆっくりとそのクッションに背を預けた。

そうやって、ようやく ふぅーっと息をつく。

あれから──ジュードと話をしてから、幾日かが過ぎていた。

山賊の件は相変わらずあれ以上の進展もなく、冒険者達が方々頭を殺した犯人の足取りを負っている。

ミーシャはなるべくの外出を避けて、シエナと一緒に冒険者達の集めた情報の整理や手伝いをしているらしい。

そのお付きのジュードも然りだ。

さて、俺の方は……といえば、こっちはもっとパッとしねぇ。

ヘイデンのとこの執事のじーさんが見舞いに来たり、リュートが遊びに来たくらいが関の山で、自力で動けるわけでもなし、相当なヒマを持て余していた。

この頃じゃよーやくこうして一人で起き上がれるくらいにはなったが、未だに犬カバの世話になってるよーな感じだ。

俺はやれやれ──と自分で自分に思いながら──この頃毎日の日課の様に眺めているダルクの赤い手帳を手に取る。

あれから──。

ジュードにダルクの昔話を聞いてから、こーして一人になった時にこの手帳をぱらぱらと眺めているが、そのどのページにもその当時の事は欠片も書かれちゃいねぇ。

まるでそんな事実は全くこれっぽっちもなかったみてぇだ。

けど──ジュードの話の中のダルクは、聞けば聞く程俺の知るダルクそのものだった。

いつも輝く青い目。

快活なお人好しで、バカじゃねぇのかな?ってくらいの正直者。

貴族連中だろーが何だろーが気に入らないことがありゃあこれっぽっちの遠慮もせずに言いやって、ケンカも幾らかしていたらしい。

逆にその腕の確かさと快活な性格にか、先代の王(ミーシャから見た実の祖父さんだ)にはわりと気に入られて多少の交流もあったなんていうから、驚いた部分もあったが……。

俺の知る“ギルドの冒険者”をやってたダルクも、よくよく思い出してみりゃあ、そーゆー所があった。
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