リッシュ・カルト〜一億ハーツの借金を踏み倒した俺は女装で追手をやり過ごす!って、あれ?俺超絶美人じゃねぇ?〜

羽都みく

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九章 告白

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“あいつ”が、今の俺を見たら何て言うだろう。

『ひっでぇケガだなぁ』

『お前なぁ、ケガすんのはいいけど、もうちょっと痛くならねぇで済むようにうまくケガしろよ』

呆れたような声が頭に響いてきた気がして、俺は思わず口の端を無意識で曲げる。

こっちは大怪我人だぜ?

んな無茶苦茶な要求するやつがあるかよ。

勝手に想像しただけの言葉ながら、文句を垂れてやる。

でも何か、あいつなら言いそうなんだよなぁ……。

なんて、夢半分に思っていると。

コン、コン、と静かなノックの音がして──俺は思わずパッと目を開けた。

気づけば部屋には夕陽の赤が射し込んでいる。

うとうとやってる間に もうそんな時間になっちまってたのか。

俺の返事も待たず、カチャッと音がして戸が開く。

瞬間、戸の向こうから何かが焦げてるよーな臭いが微かに漂ってくる。

……部屋に入ってきたのはジュードだった。

「──起きているか?」

聞かれ、俺は「お~う」ととりあえず返事をする。

パタン、と部屋の戸が閉じる。

俺はそこにあったジュードの顔を見て──思わずいぶかしんで眉を寄せた。

「……何だよ?
何かやたら疲れてねーか?」

いぶかしみながら、問いかける。

ジュードの顔は、まるで恐ろしいモンを見続けて疲れたみてぇな顔だった。

まさか昼間ほんのちょっとここに留まってたせいで冒険者共にそーとーしごかれたのか?

疑問に思いつつ問いかけたん……だが。

その本当の原因はすぐに分かった。

ジュードの答えが返ってくる前に、

『ガシャーンッ!!』

閉まった戸の向こうから、鍋が床に落ちた様な音がする。

「あ~あ~、大丈夫かい?
気をつけなきゃダメだろう?
あっ、ほらっ、そっち火にかけっぱなしじゃないか!」

こいつはシエナの声だ。

「ごっ、ごめんなさい」

ミーシャの声。

………なるほど、疲れの原因は大体分かったぜ。

隣で相変わらず丸まってる犬カバも、何となく毛を逆立ててブルルッと一つ震えた。

ジュードが、溜息をつくのはそれでも憚られるとばかりそいつを押し殺し、言ってくる。

「……今、ミーシャ様とマスターで夕食をお作りになられている所だ。
時間がかかりそうだからな。
話をするなら今のうちだろう」

言ってくる。

まぁ、確かに。

隣の部屋じゃミーシャとシエナで わあきゃあやってるし、逆にその外で見張りしてる冒険者共にはジュードはミーシャ達といるんであって、まさか俺の部屋に避難しに来てるとは思わねぇだろ。

「……掛けてもいいか?」

ベッド脇の椅子を見やりながら、ジュードが問う。

俺は「ああ」と頷いてそいつに答えてやった。

ジュードが疲れた表情のままそこに腰を下ろすのを見て──そのまま、昼間の答えを待つ。

犬カバが のそりと丸めた体を動かして、ジュードの方を見た。

ジュードは──どっから話したらいいか逡巡した様に視線を遠く彼方にやる。

部屋の外からしっちゃかめっちゃかな音と声が聞こえてくる。

ジュードは少しの間そのまま黙り込んでいたが──やがてこっちに目を戻し、息をつく様に口を開いた。

「──ダルクさんは、本当に亡くなったのか?」

問いかけてくる。

俺は「ああ、」とそいつに答えてやった。

どうしてなのかは分からねぇが……どういう訳か、こいつにはダルクの事を話してやってもいい様な気がしていた。

「──十二年前に、息を引き取った後の姿を、見た。
遺体はまだ、サランディールの地下道だと思うぜ。
ミーシャが一年前、そいつを見たらしいからな。
……持ち物に名前があったっつってたから、間違いねぇ」

「──ミーシャ様が……」

どことなくショックを受けた様に、溜息をつく様にジュードが言う。

俺は静かに先を続けた。

「──ミーシャは、そこにあった名から『ダルク』の名を借りたっつってたよ。
まぁ、俺も似た様なモンだ。
ガキの頃、偶然出会ったあいつん家に居候させてもらってて……。
俺、自分の親も家の名も知らなくってさ。
勝手にカルトの名をもらったんだと思う。
あんま覚えてる訳じゃねぇんだけどな」

言うと、ジュードが痛々しい程静かに俺の顔を見る。

そいつが俺への同情の気持ちだったのか、それともダルクが死んでいた事への哀惜の念だったのかは分からねぇ。

どちらにしろ、俺はこの沈黙に耐えられず、先を続けた。

「──話が逸れちまったな。
俺もミーシャも、それぞれ時期は違うが、あいつの遺体を見てる。
あいつが死んだってぇのは、間違いねぇよ」

言ってやる……と、ジュードが重く口を開いた。

「……そうか。
随分世話になったのに……。
恩も返せず、残念だ」

ジュードが言う。

そいつは短い言葉だったが、心からの言葉だって事は充分に伝わってきた。

再び、部屋の中がしん、と静まり返る。

……まぁ、隣のリビングからはまだ食器を落とした様なガシャンとかいう音やら声やらが賑やかに聞こえてきたりもしてはいたが。

俺は──浅く呼吸をしながら、その(一応は)静かな場を取り持つ様に、口を開く。

「──……。
あんたはよ、ダルクとはどーゆう知り合いだったんだ?
世話になったっつってたけど……あんた、サランディールの人だろ?
遠い隣国に住んでたダルクに世話になるって……何か用事でこの辺に来た事でもあったのか?」

疑問に思い、問う。

俺が「サランディールの人間だろ?」って言った瞬間、ジュードの眉がピクリと動くのが見て取れた。

どーやら俺がそいつを知ってた事に若干驚いたらしい。

俺だってまぁ、確信を持って言った言葉じゃなかったが、この反応だ。

どーやらジュードがサランディールの人間って事は間違いなさそうだな。

ジュードは──俺が何でそう思ったのか問いかける事はせず、少しの間を開けて、言う。

「──いや。
この辺りに来たのは、今回が初めてだ。
それに……ダルクさんは元々サランディールの出身だ。
俺は子供の頃……見習い騎士として城に上がった時分に、世話になった」

ジュードが言ってくる。

俺は──思わずそいつに目をしばたいてジュードを見返す。

あいつが、サランディールの出身?

城に上がった時分って……まさか城の中でって訳じゃねぇよなぁ?

つーかそもそも、ダルクがサランディールの出身だなんて話自体、聞いたこともねぇ。

考えかけて──俺は いや、と胸の内で考え直す。

そもそも俺、俺と会う前のダルクの事は何にも知らねぇんだよな。

当たり前にずっと昔からあの場所にいて、あの家にいて、ヘイデンやシエナといて、飛行船を作ってて。

俺が知る前から、きっとずっとそうだったんだろうって、勝手にそう思っていた。

けど……

「ああ~っ!
ほらっ、ちゃんと手元をよく見て!
そんなとこに手を置いてたら包丁で切っちまうだろう?」

「ご、ごめんなさい……」

隣のリビングから、シエナのハラハラしたような声とミーシャのへどもど謝る声が届く。

シエナは……ダルクがサランディールの出身だなんて話、知ってたのか?

ヘイデンは?

思わず口をへの字に曲げ、考えているとジュードが先を続ける。

「ダルクさんはご両親を早くに亡くされて、サランディール城のお抱え刀鍛冶職人として働いていた祖父殿の元で育ったと聞いた。
元々手先が器用で飲み込みの早かったダルクさんはその祖父殿の手伝いとして城に勤めていたんだ。
……あの人は世話好きで人の良い所があったからな。
俺達の様な見習い騎士にも親切で……たくさんの人から好かれていた」

言う。

俺は──そいつをただただ黙ったまま聞いて胸の中で飲み下していた。

何だか──思っても見なかった様な事ばっかり、次から次にジュードの口から出てくる。

その話についていくだけで、精一杯だった。

あのダルクがサランディールの出身で、城の刀鍛冶をして──城勤めをしてた?

本当に、あいつが?

ジュードの話の中のダルクと、俺の知ってるダルクが、どーも全然結び付かねぇ。

そりゃ、確かに飛行船造りの時に鉄より軽い丈夫な素材を作る方法を考え出したりしてたのは知ってるし、そいつには鍛冶の技術や知識が入り用だったのかもしれねぇ。

けど……俺が覚えてる限り、あいつが自分でそいつを鋳造したり打ったりした事はねぇハズだ。
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