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九章 告白
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どれくらいの間が経ったんだろう。
俺は半分寝ている様な、寝ていない様な朦朧とした状態でベッドの上に横になっていた。
体中、頭やおでこまで、燃える様に熱い。
まだ熱が結構あるらしい。
たま~に枕元に犬カバが来たり、シエナやミーシャ、それにジュードらしき人物の気配を感じる事はあったが、目を開けようと思ったって、まぶたがやたらに重くてとても開ける事が出来なかった。
夢なのか現実なのか、それとも記憶の中の事なのか、色んな情景が俺の頭の中でうつらうつらと再生される。
けどそいつは水の中の泡みてぇに次から次へと生まれてはパチンと弾けて消えちまうもんだから、俺にも何を見てたのかは分からなかった。
だけど──不意にずっと昔……ガキの頃に見上げた『ダルク』の顔が思い浮かぶ。
短い黒髪に、いつもは輝いてる青い目。
だけど──俺の脳ミソが映し出すダルクの目は伏せられていて──その姿が、すぅっと入れ替わる様に、ミーシャの姿になっていった。
何かを思い悩む様に伏せられたすみれ色の目。
何かを言おうとしてるんだが、小さく口を開きかけて、嘆息して、やめちまう。
~俺ってそんなに頼りにならねぇかな?
いつもいつも助けられてばっかりだからよ、本当に何か困って、迷って、悩んでんだったら、俺だってちゃんとミーシャの力になりてぇのに。
それに俺は───
『──お前の事が、好きだ。
お前がどこの誰でも、誰が何を言っても……。
俺は──お前と一緒にいたい』
突然頭に、俺の言った言葉が蘇って……俺は思わずバッと目を開けた。
白い天井が目の前に映る。
俺は──つい今しがた頭ん中に流れた自分の言葉に軽く打ちのめされそうになりながら、またきつくまぶたを閉じた。
~俺は本当に……何言ってんだよ……。
こんなボロンボロンの、ベッドから動けもしねぇ男が んなこと言ったって……。
しかもミーシャはもう俺とは離れてぇって、言ってまでいたってのによ。
つーかあれこそ本当は夢の中の出来事じゃねぇよな?
なんて儚く思う……が。
どーやって考えたって、夢じゃねぇ事は明白だった。
ミーシャのやつ……どう思ったろう。
たまにこの部屋に出入りする気配はあったから──まだこの街から立ち去っちゃあいないと思うんだが。
次にミーシャと顔を付き合わせた時、俺はどんな顔すりゃあいいんだ?
ぐるぐるとんな事を考えつつ、浅くはぁーっと息をつく──ところで。
コンコン、と軽いノックの音が聞こえた。
俺が蚊の鳴く様な声で「どうぞ~」と返事する……と。
カチャリと戸の開く音がする。
俺はあんまり体に振動が響かない様に頭だけでそちら側を向いた。
そこには──
「~リッシュ。
目が覚めたの?」
──ミーシャの姿があった。
手にはたくさんの花束を抱えている。
窓から差した柔らかな太陽の光と相まって──こう言うのも難だが、すごく、きれいだった。
「………お、おう……」
それしか言葉が出ずに言うと、ミーシャの足元から犬カバが、その後ろからは体格のいいジュードの姿が、出てきた。
ジュードが、俺の目線に気づいてんのかどうなのか、やっぱり不審な者を見るよーな目で俺を睨む。
犬カバがてこてこと俺のベッド脇に来て、びょーんと飛び上がって枕のすぐ横に乗ってくるんと丸くなる。
俺はそいつを横目に見ながら──思わず鼻がムズッとするのを感じた。
ふとミーシャが向かった窓辺の花瓶の方を見ると、窓を埋め尽くさんばかりの花束がわさっと大量に置かれている。
俺の目線に気がついたのか、ミーシャが俺を見て苦笑した。
「──リアのお見舞いにって。
ギルドの冒険者たちとか、ラビーンやクアンたちからお花が毎日の様に届いてるのよ」
その様子はごく普通通りで、そっと微笑んで言ってるハズなんだが、言葉に全然力がねぇ。
何だか元気がねぇみてぇに見える。
俺は──そんなミーシャに、何を言っていいかも分からねぇまま「あ、ああ……」とだけ口にする。
パタン、パタンと俺の顔の横で犬カバが尻尾を左右に振る。
俺は──ミーシャの方を見つめたまま「あのさ、」と思いきって口を開く。
「……俺……。
この間の、話なんだけど……」
言いかける……と、俺の真横に来たジュードがやたらに怖ぇ目で俺を見下ろしている。
『この間の話って何だコラ』って言わんばかりの目だ。
いや、まあこいつ、んな言葉遣いしねぇかもしんねぇが。
とにかく射るよーな目で俺を睨んでくるもんだから、俺は仕方なくそいつから目を逸らして一度口を閉じる。
どのみちこいつがいたんじゃ、聞けねぇし。
俺は静かに一つ嘆息してまったく別な事を口にすることにした。
「──俺、どれくらい寝てたんだ……?」
問うと、ミーシャの答えより先にジュードが答えてくる。
「ここに着いて医師の診療を終えてから三日だ」
「みっ……!」
三日だぁ?
声に上げかけて、俺は思わずあばらの辺りを押さえて「いてててて……」と元の体制に戻る。
ミーシャが花を飾った窓辺から心配そうにこっちを見てるのが分かる。
俺、あの後三日も寝込んじまってたってのか?
つーか……
「~山賊共は、どうなったんだ?」
ジュードが倒した頭を初めとした一党と、シエナとゴルドーが倒した輩。
あれで本当に全員だったのか……?
まだ残りの山賊がいて、それこそ報復とか狙ってやがったら困るんだが。
思いながら問いかけた先で──ジュードとミーシャが顔を見合わせる。
嘆息して、口を開いたのはジュードだった。
「──捕まえた山賊共は皆牢に入れられた。
残っていた残党もあらかたギルドの冒険者達が捕らえている。
ただ──」
途切れたジュードの言葉を継ぐように、続けたのはミーシャだ。
「──山賊達が捕まった次の日の朝にね、頭が、牢の中で殺されてしまっていたの」
ミーシャの言葉に思わず面食らって、ミーシャと、それにジュードを見た。
───?
頭が──殺された?
何で?
一体誰に……
「頭を殺した犯人は捕まっていない。
詳しい事は今冒険者達が調べているが、事件解決には時間がかかりそうだ」
ジュードが淡々と言ってくるのに──俺は心臓がきゅうと下に下がる様な嫌な物を覚えた。
頭に蹴られたあばらがズキズキと痛む。
……何だか分からねぇが、嫌な予感しかしねぇ。
あの頭を殺す様な人物が──それも見張りがいるはずの牢獄で堂々と殺してみせたやつが──今もまだ野放しになってる、なんて考えただけでもゾッとする。
それに──
あの頭が、死んだのか──。
どうにも嫌なモンを感じながら、思う。
別に頭がどーなろーと知ったこっちゃねぇんだが……。
ついこの間まで生きてた人間が急に死んだなんて言われるとどうにも嫌な心地がする。
そいつが例え俺にこんなに大怪我させた張本人でも、だ。
「ここに続く階段前と、下のギルドにも常に何人かが常駐して見張りをしている。
頭を殺した犯人がここにまで押し入る事はないはずだ」
その点は安心しろって意味だろう、ジュードが言ってくる。
俺はそんなジュードに問う。
「──頭が殺されたって……理由は何かの口封じ……ってとこか?」
冷静になって問いかけると「なぜそう思う」と詰問する様にジュードが返してくる。
俺はついいつものクセで肩をすくめそうになって、あばらに負担がかかることに気づいてやめた。
かわりに浅く息をついて、言う。
「……山賊共が捕まって、わりとすぐに消されたんだろ?
警備も厳重だったはずだ。
そんな中で早急に頭を消さなきゃならねぇ理由っつったら口封じくらいしか思い浮かばねぇ。
取り調べられて何かを吐かれる前に消したかった。
きっと、今回の人攫いの件で……頭と取引してたやつがいる。
そいつの、差し金ってトコじゃねぇのか……?」
段々声を出すのが苦しくなってくるながらも考えた理由を言う。
と、ジュードが俺をじっと見つめる。
さっきまでの怖ぇ睨みとは少し違う、何か考えながら俺の言う事を聞いてる様な感じだ。
「……確かに、冒険者達もその線での調査をしている。
念の為何者かによる報復、という線も考えているがな」
俺は「そっか」と静かに答えて息をついた。
ジュードから視線を外し、天井を見上げる。
考えてぇ事はいくつもあるはずなのに、まだ頭が働ききらねぇ。
俺は半分寝ている様な、寝ていない様な朦朧とした状態でベッドの上に横になっていた。
体中、頭やおでこまで、燃える様に熱い。
まだ熱が結構あるらしい。
たま~に枕元に犬カバが来たり、シエナやミーシャ、それにジュードらしき人物の気配を感じる事はあったが、目を開けようと思ったって、まぶたがやたらに重くてとても開ける事が出来なかった。
夢なのか現実なのか、それとも記憶の中の事なのか、色んな情景が俺の頭の中でうつらうつらと再生される。
けどそいつは水の中の泡みてぇに次から次へと生まれてはパチンと弾けて消えちまうもんだから、俺にも何を見てたのかは分からなかった。
だけど──不意にずっと昔……ガキの頃に見上げた『ダルク』の顔が思い浮かぶ。
短い黒髪に、いつもは輝いてる青い目。
だけど──俺の脳ミソが映し出すダルクの目は伏せられていて──その姿が、すぅっと入れ替わる様に、ミーシャの姿になっていった。
何かを思い悩む様に伏せられたすみれ色の目。
何かを言おうとしてるんだが、小さく口を開きかけて、嘆息して、やめちまう。
~俺ってそんなに頼りにならねぇかな?
いつもいつも助けられてばっかりだからよ、本当に何か困って、迷って、悩んでんだったら、俺だってちゃんとミーシャの力になりてぇのに。
それに俺は───
『──お前の事が、好きだ。
お前がどこの誰でも、誰が何を言っても……。
俺は──お前と一緒にいたい』
突然頭に、俺の言った言葉が蘇って……俺は思わずバッと目を開けた。
白い天井が目の前に映る。
俺は──つい今しがた頭ん中に流れた自分の言葉に軽く打ちのめされそうになりながら、またきつくまぶたを閉じた。
~俺は本当に……何言ってんだよ……。
こんなボロンボロンの、ベッドから動けもしねぇ男が んなこと言ったって……。
しかもミーシャはもう俺とは離れてぇって、言ってまでいたってのによ。
つーかあれこそ本当は夢の中の出来事じゃねぇよな?
なんて儚く思う……が。
どーやって考えたって、夢じゃねぇ事は明白だった。
ミーシャのやつ……どう思ったろう。
たまにこの部屋に出入りする気配はあったから──まだこの街から立ち去っちゃあいないと思うんだが。
次にミーシャと顔を付き合わせた時、俺はどんな顔すりゃあいいんだ?
ぐるぐるとんな事を考えつつ、浅くはぁーっと息をつく──ところで。
コンコン、と軽いノックの音が聞こえた。
俺が蚊の鳴く様な声で「どうぞ~」と返事する……と。
カチャリと戸の開く音がする。
俺はあんまり体に振動が響かない様に頭だけでそちら側を向いた。
そこには──
「~リッシュ。
目が覚めたの?」
──ミーシャの姿があった。
手にはたくさんの花束を抱えている。
窓から差した柔らかな太陽の光と相まって──こう言うのも難だが、すごく、きれいだった。
「………お、おう……」
それしか言葉が出ずに言うと、ミーシャの足元から犬カバが、その後ろからは体格のいいジュードの姿が、出てきた。
ジュードが、俺の目線に気づいてんのかどうなのか、やっぱり不審な者を見るよーな目で俺を睨む。
犬カバがてこてこと俺のベッド脇に来て、びょーんと飛び上がって枕のすぐ横に乗ってくるんと丸くなる。
俺はそいつを横目に見ながら──思わず鼻がムズッとするのを感じた。
ふとミーシャが向かった窓辺の花瓶の方を見ると、窓を埋め尽くさんばかりの花束がわさっと大量に置かれている。
俺の目線に気がついたのか、ミーシャが俺を見て苦笑した。
「──リアのお見舞いにって。
ギルドの冒険者たちとか、ラビーンやクアンたちからお花が毎日の様に届いてるのよ」
その様子はごく普通通りで、そっと微笑んで言ってるハズなんだが、言葉に全然力がねぇ。
何だか元気がねぇみてぇに見える。
俺は──そんなミーシャに、何を言っていいかも分からねぇまま「あ、ああ……」とだけ口にする。
パタン、パタンと俺の顔の横で犬カバが尻尾を左右に振る。
俺は──ミーシャの方を見つめたまま「あのさ、」と思いきって口を開く。
「……俺……。
この間の、話なんだけど……」
言いかける……と、俺の真横に来たジュードがやたらに怖ぇ目で俺を見下ろしている。
『この間の話って何だコラ』って言わんばかりの目だ。
いや、まあこいつ、んな言葉遣いしねぇかもしんねぇが。
とにかく射るよーな目で俺を睨んでくるもんだから、俺は仕方なくそいつから目を逸らして一度口を閉じる。
どのみちこいつがいたんじゃ、聞けねぇし。
俺は静かに一つ嘆息してまったく別な事を口にすることにした。
「──俺、どれくらい寝てたんだ……?」
問うと、ミーシャの答えより先にジュードが答えてくる。
「ここに着いて医師の診療を終えてから三日だ」
「みっ……!」
三日だぁ?
声に上げかけて、俺は思わずあばらの辺りを押さえて「いてててて……」と元の体制に戻る。
ミーシャが花を飾った窓辺から心配そうにこっちを見てるのが分かる。
俺、あの後三日も寝込んじまってたってのか?
つーか……
「~山賊共は、どうなったんだ?」
ジュードが倒した頭を初めとした一党と、シエナとゴルドーが倒した輩。
あれで本当に全員だったのか……?
まだ残りの山賊がいて、それこそ報復とか狙ってやがったら困るんだが。
思いながら問いかけた先で──ジュードとミーシャが顔を見合わせる。
嘆息して、口を開いたのはジュードだった。
「──捕まえた山賊共は皆牢に入れられた。
残っていた残党もあらかたギルドの冒険者達が捕らえている。
ただ──」
途切れたジュードの言葉を継ぐように、続けたのはミーシャだ。
「──山賊達が捕まった次の日の朝にね、頭が、牢の中で殺されてしまっていたの」
ミーシャの言葉に思わず面食らって、ミーシャと、それにジュードを見た。
───?
頭が──殺された?
何で?
一体誰に……
「頭を殺した犯人は捕まっていない。
詳しい事は今冒険者達が調べているが、事件解決には時間がかかりそうだ」
ジュードが淡々と言ってくるのに──俺は心臓がきゅうと下に下がる様な嫌な物を覚えた。
頭に蹴られたあばらがズキズキと痛む。
……何だか分からねぇが、嫌な予感しかしねぇ。
あの頭を殺す様な人物が──それも見張りがいるはずの牢獄で堂々と殺してみせたやつが──今もまだ野放しになってる、なんて考えただけでもゾッとする。
それに──
あの頭が、死んだのか──。
どうにも嫌なモンを感じながら、思う。
別に頭がどーなろーと知ったこっちゃねぇんだが……。
ついこの間まで生きてた人間が急に死んだなんて言われるとどうにも嫌な心地がする。
そいつが例え俺にこんなに大怪我させた張本人でも、だ。
「ここに続く階段前と、下のギルドにも常に何人かが常駐して見張りをしている。
頭を殺した犯人がここにまで押し入る事はないはずだ」
その点は安心しろって意味だろう、ジュードが言ってくる。
俺はそんなジュードに問う。
「──頭が殺されたって……理由は何かの口封じ……ってとこか?」
冷静になって問いかけると「なぜそう思う」と詰問する様にジュードが返してくる。
俺はついいつものクセで肩をすくめそうになって、あばらに負担がかかることに気づいてやめた。
かわりに浅く息をついて、言う。
「……山賊共が捕まって、わりとすぐに消されたんだろ?
警備も厳重だったはずだ。
そんな中で早急に頭を消さなきゃならねぇ理由っつったら口封じくらいしか思い浮かばねぇ。
取り調べられて何かを吐かれる前に消したかった。
きっと、今回の人攫いの件で……頭と取引してたやつがいる。
そいつの、差し金ってトコじゃねぇのか……?」
段々声を出すのが苦しくなってくるながらも考えた理由を言う。
と、ジュードが俺をじっと見つめる。
さっきまでの怖ぇ睨みとは少し違う、何か考えながら俺の言う事を聞いてる様な感じだ。
「……確かに、冒険者達もその線での調査をしている。
念の為何者かによる報復、という線も考えているがな」
俺は「そっか」と静かに答えて息をついた。
ジュードから視線を外し、天井を見上げる。
考えてぇ事はいくつもあるはずなのに、まだ頭が働ききらねぇ。
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