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八章 ジュード
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◆◆◆◆◆
「う~ん、こりゃ あばらが数本折れとるな。
額の怪我は大したことないが、こいつは治るまでに時間かかるぞ~」
と何故か呑気に──むしろ楽しそうに口を開いたのは、ヘイデンのとこの主治医だっていうじーさん医師だった。
場所はギルドの医務室、昨日俺が泊まった部屋だ。
部屋の中にはシエナだけがいる。
俺をここまで運び込んでくれたジュードや、ミーシャと犬カバは昨日の夜食を食べた部屋で待っている。
じーさん医師が『こんなに小さな部屋に人が大勢いたらうざったい』と追い払った為だ。
ちなみに言えばありがてぇ事に、ゴルドーのやつはこの俺──街一番の美人の怪我の具合は特に気にならなかったらしい。
シエナの代わりにって訳でもないんだろーが、ギルドのカウンター前に座ったままでいるんだろう。
それともバカコンビのラビーンとクアンがのこのこ現れんのを下で待ってんのか。
ま、この俺の正体がバレなきゃどっちでもいい。
俺が男だって事にもまるで動じず……むしろ初めから知ってたよーな感じでさっさと診察してさっさと結果を下したじーさん医師に、問いかけたのはシエナだ。
「どれくらいで治りそうなんだい?」
聞いたシエナにじーさん医師は、「う~ん、そうさなぁ」と包帯をあばらの辺りに巻いていきながら返す。
「ま、少なくとも一ヶ月は安静に。
こういうでかい骨折すると熱も出る事があるが、まぁ心配せんようにな」
その口調が、楽しそうだ。
俺は……どーにも頭が朦朧とする中、腹に力が入らねぇ様注意しながら言う。
「つーか……何で んなに楽しそうなんだよ……?」
問いかけると、じーさん医師は笑ってみせた。
「そらぁ、人の不幸は蜜の味っていうだろ?」
あっさりと、言ってくる。
おいおい……。
医者のクセに そーゆー事言うのかよ……。
こっちは動くどころか息すんのも痛くてしょうがねぇってのに……。
思ってると、処置を全部終えたらしいじーさん医師がさっさと処置道具を黒のいつものカバンに入れてそのまま帰ろうとする。
「今日はわざわざこちらまですまなかったね」
シエナが声をかけると、じーさん医師が楽しげに笑ってみせた。
「ま、坊主の事は昔っからよく診てやってたからな。
昨日もヘイデンさんの所でぶっ倒れたとかで呼び出されたし、ま~こんなのは仕事の一部だから、な~んも気にすんな」
へらへらと笑いながらじーさん医師が言う。
それに。
俺はよーやくじーさんの顔を思い出して「ああっ!あんたガキの頃にも……!」と声を上げかけて。
思わず いてててて、とそのままあばらの辺りを両手で抱えてベッドに沈み込んだ。
そんな俺の姿に。
じーさん医師がいかにも楽しそうな笑い声を上げる。
けど、何にも言わずにそのまま医務室を出て行く。
あのじーさん医師……ガキの頃にも何度か診てもらった覚えがあるぞ。
それに『昨日もヘイデンのとこで……』って言ったって事は、そん時に俺の女装の事も知ったんだろう。
だからシエナが俺の事情をちゃんと分かってる人だって言ってたのか。
じーさん医師が部屋を出るのと入れ替わる様に、ミーシャが戸の所から小さく顔を覗かせる。
それに、シエナも気づいたんだろう。
穏やかに微笑みながら声をかけた。
「入っておいで。
もう大丈夫だから」
言うと、ミーシャの足元を抜ける様に犬カバがさっさと中へ入ってきて、ビョーンと俺のベッドの上に乗ってくる。
そうしてまた鼻で笑ってくるんだろうと思ったんだが。
俺の顔の横まで来るとそこでくるんと丸まって、半分こっちに背を向ける形でその場に座した。
こいつの事だから絶対ぇ俺のげっそり顔見て笑うと思ったのに──何だか拍子抜けだぜ。
んな事を思ってると、シエナが中に入ってきたミーシャに俺の怪我の具合を説明する。
「ひと月は安静に、だってさ。
額の怪我はもう血も止まったから何ともないんだけどね、やっぱりあばら骨が何本か折れちまってるらしい。
熱が出るかもとは言われたけど、まぁ、命に別状はないよ」
シエナがごく簡単に言ってる間に──ミーシャを護衛でもするみてぇに、ジュードがミーシャの後ろにつく。
と、何故か不意にそのジュードと目が合った。
まるで睨みやる様な、不審な者を見る様な目。
ミーシャが俺に近づいても大丈夫か、見張ってるよーな感じだ。
と、そいつには全く気づいていないらしいミーシャがシエナとの話を終えて俺のベッドの脇に来る。
そうして半身を少し屈めて俺の顔を心配そうに見た。
「~大丈夫?リッシュ」
問いかけた声はいつにもまして心配そうだ。
俺はそいつに「おう……」とやっとの事で返事した。
けど、後が続かねぇ。
本当は『だいじょーぶだって。こんなケガ、どってことないんだぜ?』くらい余裕で付け足して言ってやりたかったんだが、ほんの小さく呼吸するだけ、動くだけでも痛みが激しい。
とてもじゃねぇがその二言目が出せそうになかった。
そんな俺の様子に気づいたんだろう、ミーシャが心配そうに眉を潜める。
俺は んなミーシャを見てられなくって、顔だけでへらっと笑って、言外にそれを伝えようとした。
笑いきれなくって苦笑い、みてぇになっちまったが、それでも気持ちは通じたらしい。
ミーシャもつられて、ほんの少し口元を緩める──ところで。
「リアちゃーーーん!!」
「無事かぁーーーっ!!」
下の階から度肝を抜く様な二人の声が響き渡る。
とたん。
「うるっせー!!」
ゴンッ!ガンッ!と激しい音が聞こえてくる。
俺は思わずミーシャと顔を見合わせた。
そーして二人揃って思わず吹き出しそーになる。
「ラビーン!クアン!
てめぇら仕事ほったらかして何やってやがる!?」
「ひ~ん、ボス、ごめんなさ~い」
「いってぇ~……いや、んな場合じゃねぇ!
ボス、ここにリアちゃんが戻ってきたって本当ですか!?
しかも血まみれだって言うじゃないですか!!」
ラビーンの声が聞こえてくる。
「わっ、何、あんたたち。
っていうかここ何があったの?
この伸びてる奴らって……。
それに、リアさんは?」
「先程こちらに入るのをお見かけしましたが……」
この辺は、冒険者のおねーさん達だ。
バカでかい声のラビーン達よりは声が届いてこねぇが、それでもここまで聞こえてくる。
と、やれやれとシエナが首を振った。
「どうやらあんたの容態を皆にちゃんと説明した方が良さそうだね。
このままじゃここまで押しかけて来るだろうから。
ちょいとあんた──ジュードって言ったっけ?
冒険者達と事件の顛末も聞きたいし、一緒に来てくれるかい?
ミーシャもリアも、疲れきってるだろ。
少し休ませてやりたいんだよ」
シエナが言うと、ジュードが「しかし──…」と、ミーシャの方を見る。
ミーシャがジュードに弱々しく微笑んだ。
「お願い出来る?」
言ったのはただそれだけ。
それだけだが──
「───分かりました」
ジュードが、渋々といった調子ながらも了解する。
シエナが「犬カバ、」と呼びかけると、俺の顔の横で丸まった犬カバがピクリとうごめいた。
「あんたも方々走り回って疲れただろう。
ドッグフードと、ミルクで良ければ出してあげるよ」
シエナが声を言うと、
「クッヒー!」
犬カバがパッと起き上がってベッドを降り、シエナの方へ てこてこてこと向かう。
何だよ、お前。
俺の心配してた訳じゃねぇのかぁ?
俺の身の心配より食いもんの方が大事かよ。
思いはしたものの、まぁそのいつもらしさが安心するっちゃ安心するか。
ジュードと、それに犬カバを先に戸の外へ追いやりながら、シエナは言う。
「皆下にいるから、安心してゆっくりしてな。
ラビーン達や冒険者には今日はここに来るの、遠慮してもらうから」
シエナが言ってウインク一つ寄越して手をひらひらっとさせて部屋を出ていく。
ぱたん、と静かに戸が閉まった。
俺は──静かに浅く息をついて、ミーシャを見やる。
ぽつり、途切れ途切れに言葉が溢れた。
「………わりー。
心配、かけて。
ジュードがいたから良かったが……そうじゃなきゃ、ミーシャまで、危ない目に合ってたかもしんねぇよな……」
本当にそう思う。
俺一人じゃ、何にも出来なかった。
山賊共から逃げる事も、ミーシャが山賊共の前に現れるのを止める事も、何にも。
もし本当にジュードがいなかったら、今頃俺はリッシュってバレて殺されちまってただろーし、ミーシャだって……ただじゃ済んでなかっただろう。
俺が非力なばっかりによ。
浅い溜息をつく様に言った俺に──ミーシャが小さく目をしばたく。
そうして─……ほんの少し、微笑んでみせる。
確かにシエナの言った通り、どこかいつもより疲れた笑みだったが──まるで、花が咲いたみてぇだった。
「そんなこと、気にする必要はないわ」
きっぱりと、ミーシャが言う。
そうして続けた。
「今回の事は、私を誘き寄せる為に山賊が仕組んだ事でしょう?
初めから、狙われていたのは私だったんだから──どちらかと言うと、『リア』は私のせいで巻き込まれた様なものよ。
だから、気にする必要は何もない」
言ってくれる。
俺は──返事も出来ずにそいつから目を離して、軽く目をつぶった。
本当なら合わせる顔すらねぇくらいだ。
それからしばらく──俺は目をつぶったまま、何にも言わずに浅い呼吸だけを繰り返す。
全身痛くて眠れやしねぇんだが、ミーシャには寝た様に見えるだろう。
ミーシャが、そっと息をついてベッド脇の椅子に腰かけるのが気配で分かる。
下の階から、ギルドの冒険者達と他の連中の話す声がぼんやりと聞こえる。
何を言ってるかまでは分からねぇが、きっとシエナとジュードで山賊共や事件の話、俺のこの状況なんかを話しているんだろう。
それにしたって──……どーにも頭が熱い。
なんだか意識が朦朧としてきた。
熱が上がってきたんじゃねぇか……?
気づけば体中が燃える様に熱くて、痛む。
「う~ん、こりゃ あばらが数本折れとるな。
額の怪我は大したことないが、こいつは治るまでに時間かかるぞ~」
と何故か呑気に──むしろ楽しそうに口を開いたのは、ヘイデンのとこの主治医だっていうじーさん医師だった。
場所はギルドの医務室、昨日俺が泊まった部屋だ。
部屋の中にはシエナだけがいる。
俺をここまで運び込んでくれたジュードや、ミーシャと犬カバは昨日の夜食を食べた部屋で待っている。
じーさん医師が『こんなに小さな部屋に人が大勢いたらうざったい』と追い払った為だ。
ちなみに言えばありがてぇ事に、ゴルドーのやつはこの俺──街一番の美人の怪我の具合は特に気にならなかったらしい。
シエナの代わりにって訳でもないんだろーが、ギルドのカウンター前に座ったままでいるんだろう。
それともバカコンビのラビーンとクアンがのこのこ現れんのを下で待ってんのか。
ま、この俺の正体がバレなきゃどっちでもいい。
俺が男だって事にもまるで動じず……むしろ初めから知ってたよーな感じでさっさと診察してさっさと結果を下したじーさん医師に、問いかけたのはシエナだ。
「どれくらいで治りそうなんだい?」
聞いたシエナにじーさん医師は、「う~ん、そうさなぁ」と包帯をあばらの辺りに巻いていきながら返す。
「ま、少なくとも一ヶ月は安静に。
こういうでかい骨折すると熱も出る事があるが、まぁ心配せんようにな」
その口調が、楽しそうだ。
俺は……どーにも頭が朦朧とする中、腹に力が入らねぇ様注意しながら言う。
「つーか……何で んなに楽しそうなんだよ……?」
問いかけると、じーさん医師は笑ってみせた。
「そらぁ、人の不幸は蜜の味っていうだろ?」
あっさりと、言ってくる。
おいおい……。
医者のクセに そーゆー事言うのかよ……。
こっちは動くどころか息すんのも痛くてしょうがねぇってのに……。
思ってると、処置を全部終えたらしいじーさん医師がさっさと処置道具を黒のいつものカバンに入れてそのまま帰ろうとする。
「今日はわざわざこちらまですまなかったね」
シエナが声をかけると、じーさん医師が楽しげに笑ってみせた。
「ま、坊主の事は昔っからよく診てやってたからな。
昨日もヘイデンさんの所でぶっ倒れたとかで呼び出されたし、ま~こんなのは仕事の一部だから、な~んも気にすんな」
へらへらと笑いながらじーさん医師が言う。
それに。
俺はよーやくじーさんの顔を思い出して「ああっ!あんたガキの頃にも……!」と声を上げかけて。
思わず いてててて、とそのままあばらの辺りを両手で抱えてベッドに沈み込んだ。
そんな俺の姿に。
じーさん医師がいかにも楽しそうな笑い声を上げる。
けど、何にも言わずにそのまま医務室を出て行く。
あのじーさん医師……ガキの頃にも何度か診てもらった覚えがあるぞ。
それに『昨日もヘイデンのとこで……』って言ったって事は、そん時に俺の女装の事も知ったんだろう。
だからシエナが俺の事情をちゃんと分かってる人だって言ってたのか。
じーさん医師が部屋を出るのと入れ替わる様に、ミーシャが戸の所から小さく顔を覗かせる。
それに、シエナも気づいたんだろう。
穏やかに微笑みながら声をかけた。
「入っておいで。
もう大丈夫だから」
言うと、ミーシャの足元を抜ける様に犬カバがさっさと中へ入ってきて、ビョーンと俺のベッドの上に乗ってくる。
そうしてまた鼻で笑ってくるんだろうと思ったんだが。
俺の顔の横まで来るとそこでくるんと丸まって、半分こっちに背を向ける形でその場に座した。
こいつの事だから絶対ぇ俺のげっそり顔見て笑うと思ったのに──何だか拍子抜けだぜ。
んな事を思ってると、シエナが中に入ってきたミーシャに俺の怪我の具合を説明する。
「ひと月は安静に、だってさ。
額の怪我はもう血も止まったから何ともないんだけどね、やっぱりあばら骨が何本か折れちまってるらしい。
熱が出るかもとは言われたけど、まぁ、命に別状はないよ」
シエナがごく簡単に言ってる間に──ミーシャを護衛でもするみてぇに、ジュードがミーシャの後ろにつく。
と、何故か不意にそのジュードと目が合った。
まるで睨みやる様な、不審な者を見る様な目。
ミーシャが俺に近づいても大丈夫か、見張ってるよーな感じだ。
と、そいつには全く気づいていないらしいミーシャがシエナとの話を終えて俺のベッドの脇に来る。
そうして半身を少し屈めて俺の顔を心配そうに見た。
「~大丈夫?リッシュ」
問いかけた声はいつにもまして心配そうだ。
俺はそいつに「おう……」とやっとの事で返事した。
けど、後が続かねぇ。
本当は『だいじょーぶだって。こんなケガ、どってことないんだぜ?』くらい余裕で付け足して言ってやりたかったんだが、ほんの小さく呼吸するだけ、動くだけでも痛みが激しい。
とてもじゃねぇがその二言目が出せそうになかった。
そんな俺の様子に気づいたんだろう、ミーシャが心配そうに眉を潜める。
俺は んなミーシャを見てられなくって、顔だけでへらっと笑って、言外にそれを伝えようとした。
笑いきれなくって苦笑い、みてぇになっちまったが、それでも気持ちは通じたらしい。
ミーシャもつられて、ほんの少し口元を緩める──ところで。
「リアちゃーーーん!!」
「無事かぁーーーっ!!」
下の階から度肝を抜く様な二人の声が響き渡る。
とたん。
「うるっせー!!」
ゴンッ!ガンッ!と激しい音が聞こえてくる。
俺は思わずミーシャと顔を見合わせた。
そーして二人揃って思わず吹き出しそーになる。
「ラビーン!クアン!
てめぇら仕事ほったらかして何やってやがる!?」
「ひ~ん、ボス、ごめんなさ~い」
「いってぇ~……いや、んな場合じゃねぇ!
ボス、ここにリアちゃんが戻ってきたって本当ですか!?
しかも血まみれだって言うじゃないですか!!」
ラビーンの声が聞こえてくる。
「わっ、何、あんたたち。
っていうかここ何があったの?
この伸びてる奴らって……。
それに、リアさんは?」
「先程こちらに入るのをお見かけしましたが……」
この辺は、冒険者のおねーさん達だ。
バカでかい声のラビーン達よりは声が届いてこねぇが、それでもここまで聞こえてくる。
と、やれやれとシエナが首を振った。
「どうやらあんたの容態を皆にちゃんと説明した方が良さそうだね。
このままじゃここまで押しかけて来るだろうから。
ちょいとあんた──ジュードって言ったっけ?
冒険者達と事件の顛末も聞きたいし、一緒に来てくれるかい?
ミーシャもリアも、疲れきってるだろ。
少し休ませてやりたいんだよ」
シエナが言うと、ジュードが「しかし──…」と、ミーシャの方を見る。
ミーシャがジュードに弱々しく微笑んだ。
「お願い出来る?」
言ったのはただそれだけ。
それだけだが──
「───分かりました」
ジュードが、渋々といった調子ながらも了解する。
シエナが「犬カバ、」と呼びかけると、俺の顔の横で丸まった犬カバがピクリとうごめいた。
「あんたも方々走り回って疲れただろう。
ドッグフードと、ミルクで良ければ出してあげるよ」
シエナが声を言うと、
「クッヒー!」
犬カバがパッと起き上がってベッドを降り、シエナの方へ てこてこてこと向かう。
何だよ、お前。
俺の心配してた訳じゃねぇのかぁ?
俺の身の心配より食いもんの方が大事かよ。
思いはしたものの、まぁそのいつもらしさが安心するっちゃ安心するか。
ジュードと、それに犬カバを先に戸の外へ追いやりながら、シエナは言う。
「皆下にいるから、安心してゆっくりしてな。
ラビーン達や冒険者には今日はここに来るの、遠慮してもらうから」
シエナが言ってウインク一つ寄越して手をひらひらっとさせて部屋を出ていく。
ぱたん、と静かに戸が閉まった。
俺は──静かに浅く息をついて、ミーシャを見やる。
ぽつり、途切れ途切れに言葉が溢れた。
「………わりー。
心配、かけて。
ジュードがいたから良かったが……そうじゃなきゃ、ミーシャまで、危ない目に合ってたかもしんねぇよな……」
本当にそう思う。
俺一人じゃ、何にも出来なかった。
山賊共から逃げる事も、ミーシャが山賊共の前に現れるのを止める事も、何にも。
もし本当にジュードがいなかったら、今頃俺はリッシュってバレて殺されちまってただろーし、ミーシャだって……ただじゃ済んでなかっただろう。
俺が非力なばっかりによ。
浅い溜息をつく様に言った俺に──ミーシャが小さく目をしばたく。
そうして─……ほんの少し、微笑んでみせる。
確かにシエナの言った通り、どこかいつもより疲れた笑みだったが──まるで、花が咲いたみてぇだった。
「そんなこと、気にする必要はないわ」
きっぱりと、ミーシャが言う。
そうして続けた。
「今回の事は、私を誘き寄せる為に山賊が仕組んだ事でしょう?
初めから、狙われていたのは私だったんだから──どちらかと言うと、『リア』は私のせいで巻き込まれた様なものよ。
だから、気にする必要は何もない」
言ってくれる。
俺は──返事も出来ずにそいつから目を離して、軽く目をつぶった。
本当なら合わせる顔すらねぇくらいだ。
それからしばらく──俺は目をつぶったまま、何にも言わずに浅い呼吸だけを繰り返す。
全身痛くて眠れやしねぇんだが、ミーシャには寝た様に見えるだろう。
ミーシャが、そっと息をついてベッド脇の椅子に腰かけるのが気配で分かる。
下の階から、ギルドの冒険者達と他の連中の話す声がぼんやりと聞こえる。
何を言ってるかまでは分からねぇが、きっとシエナとジュードで山賊共や事件の話、俺のこの状況なんかを話しているんだろう。
それにしたって──……どーにも頭が熱い。
なんだか意識が朦朧としてきた。
熱が上がってきたんじゃねぇか……?
気づけば体中が燃える様に熱くて、痛む。
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