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八章 ジュード
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うちの幾人かがそいつに頷いて、てきぱきと指示を出す。
他の連中もそれに倣って倒れた山賊共を捕らえて縛り上げにかかる。
俺はここでようやくホッと一息つくことが出来た。
ジュードみてぇな腕の立つ奴が来てくれて、ミーシャにも助けられた。
冒険者達もこんだけ集まって、山賊共を縛り上げてくれてる。
助けられてばっかりだし、俺自身はまあまあ怪我を負ったが、これでとりあえず一件落着だ。
「~山賊達は、冒険者の皆が請け合ってくれるらしい。
それより早くお前を病院に連れていけと言ってくれたんだが、少し動けるか?」
ミーシャが、いつもの『ダルク』の口調で──けど、優しく聞いてくる。
俺はただ一つ、頷いてみせた。
ほんとはほんのちょっと体を動かすだけでも激痛なんだが、んな事言ったって始まらねぇしな。
よ~く考えてみりゃあ、医者にここまで来てもらったって、どっかの時点では街に帰る為に動かなきゃならねぇ。
まさか冒険者達に担がれる訳にもいかねぇしな。
ミーシャがそっと手を差し伸べてくる。
俺はそいつに、大人しくミーシャの手を借り……ようとしたんだが。
それを遮る様に、ジュードが俺の伸ばした手を取り、立たせる。
そいつは傍目で見るより多少雑な力の入れ方で……俺は思わず呻きながら脇腹の辺りを押さえた。
その呻き声や、女の子とはどうしても違う手のゴツさ、様子で勘づいたんだろう。
ジュードが厳しい目で俺を見るのが、見てもいねぇのによく分かった。
「~貴様、やはりリッシュ・カ………」
語気を強めてジュードが言いかけるのに。
ミーシャがその腕に触れてジュードを見上げ、そっと首を横に振る。
「──お願い。
大切な“姉”なの。
怪我も負っているし……今は……」
言ってくれる。
ジュードは……それにかなり納得いかなげに俺を見、それでも支える手はそのままに、大人しく口を閉じた。
俺の足元で、犬カバがふひゅう、とヘンな息を漏らした。
俺も同じ気分だぜ。
「おい、どーかしたか?」
「リアちゃん、立てんのかい?」
少し離れた所から、冒険者の二人が声をかけてくる。
俺はそいつににっこり笑って見せた。
「大丈夫。
どうにか、歩けるわ」
すっかり慣れた俺の女言葉に、ジュードがしかめ面で俺を見る。
俺はチラッとそいつを横目に確認して小声で返す。
「悪いけどよ、そーゆーこった。
……とりあえず馬車をこっちまで回してくんねぇかな?
あれに乗せてもらえでもしなけりゃ、ちょっと街までは歩いて行けそーにねぇんだ。
つーかあんた、御者くらい務まるよな?」
ヘッと小さく笑い、軽く挑戦する様にジュードへ問う。
言ってるそばから、額に脂汗が浮かぶ。
ジュードが何にも言わず俺をただ見下ろしてくる。
俺なんかの言う事を聞くべきかどうか逡巡しているんだろう。
俺はほんのわずかに足がガクッと力を無くしかけるのを感じた。
だが、表面にはなるたけ出さねぇ。
どーゆー訳か、そういう弱味をこいつに見せるのは俺のプライドに関わるって気がした。
表面上には自信たっぷり笑ってジュードを見る……と。
ジュードが短く息をつく。
まるで深い溜息だ。
そいつを取りなす様に、ミーシャは言う。
「ジュード、馬車をお願い。
ここは代わるわ」
ミーシャが俺の手を取り、ジュードの代わりに俺を支えてくれようとする。
ジュードが──そいつになんと思ったかは分からねぇ。
ただ頭を垂れて「かしこまりました」と馬車の方へ向かう。
俺はそいつに小さく心の中で息をついた。
「~サンキュー。助かったよ」
俺が言うと、何て事はないとばかりにミーシャがすました顔をする。
俺はそいつにほんのちょっと笑って──それ以上笑うとあばらが痛むせいだ──ミーシャに小さく声をかける。
「──なぁ、昨日のあの話、なんだけどさ……」
言いかけた、丁度そのタイミングで。
ガッと力強く、左の足首を何者かに掴まれる。
俺は思わず驚いてその手の先の人物を見やる。
~頭だった。
ヤベェと思う間もねぇ。
時が凍りついたみてぇだ。
息を詰めて頭の顔を穴が開くほど見る──が。
それ以上何を出来る訳でもねぇみてぇだ。
頭が、口からだらっと血を流し、半ば気を失いかけながらも、口を開く。
「……リ……ア……。
……い気に、なるなよ……。
俺は、俺の邪魔をしたやつを……絶対、許さねぇ……。
全員……後悔させてやる……。
こんなにした……あの男も……ダルクも……リッシュも……てめぇも……ギルドのマスターもだ……」
ほとんど気を失いかけたまま、目さらまともに開けずに俺に向けて言ってくる。
その口元が、皮肉げに嘲笑った。
「……見てな、今頃ギルドじゃ……」
言いかけた、ところで。
「~てめぇ!」
近くにいた冒険者の一人がこの状況に気づいたらしい。
頭の手を俺から離させ、そのまま後ろ手に縄をかける。
俺はそいつを、呆気に取られたまま見つめていた。
──今頃ギルドじゃ……?
頭の言葉が、頭の中に渦を巻く。
ギルドのマスター……?
シエナ……?
俺はパッとミーシャの方を振り返る。
ミーシャが目を大きく開けて俺を見返した。
俺はそのまま冒険者の面々を見渡す。
二、三人って人数じゃねぇ。
普段ギルドに来るほとんどの冒険者がここに集まっちまってるんじゃねぇのか……?
「~シエナは?
ギルドには人がいるのか!?」
思わず、我も忘れて皆に問いかける。
それに、いや、と、一つ返したのは、頭の両手首を縛り上げていた冒険者だ。
「残った奴らも、いたにはいたと思うが………」
自信はないらしい。
俺はあばらが痛むのも忘れて、ミーシャに言う。
「シエナが、危ねぇかもしれねぇ!
すぐにギルドに戻ろう」
言うと、ミーシャが 「えっ?」と困った様に問い返す。
だが、答えてる間はねぇ。
俺はミーシャの手を借りながら、さっきジュードが向かっていった山賊共の馬車の所まで出来る限りの早さで到達する。
ジュードが何事かとこちらとミーシャを見てきた。
俺はミーシャの手を離れ、馬車馬の真横まで行って荷台と馬にかけられた縄を外そうとする。
だが、上手くいかねぇ。
体中の痛みもそうだが、そもそも んなに馬やら馬車を扱ったこともねぇからだ。
それでも、俺の足でちんたら歩いてたんじゃ時間がかかりすぎる。
さっきの話通り馬車の荷台に乗っけてってもらえりゃ体はラクだが、それより馬単体で走らせた方が絶対速い。
俺が焦りながら四苦八苦している……と。
不意にサッと、荷台に繋がれていた縄が外れる。
驚いて後ろを見やると、そこにはジュードの姿があった。
「──その怪我で、馬に乗れるのか?」
他の何の事情も聞かず、ただそれだけを問いかけてくる。
俺が迷わず「乗れる」と答える。
と、ジュードがさっと俺を馬の上に上げてくれる。
続いて、自分もその後ろに跨がった。
俺一人じゃ馬からすぐ落っこちると気づいたに違いねぇ。
まぁ、実際その通りなのかもしれなかった。
そうしてミーシャの方を見下ろす。
「──先にギルドへ戻ります。
あなたは、ここで他の冒険者たちと──」
言いかけるが。
ミーシャが犬カバを抱えてサッともう一頭の馬に跨がり、手綱を引く。
その姿は、なんつーか、すげぇサマになってた。
「~私も行く。
皆、ここを任せてもいいか?」
先半分は俺とジュードに、後の言葉は回りにいた冒険者達に向けて問う。
それに答えたのは、一番近く──頭をしっかり縄で締め上げた冒険者だった。
「何か知らんが、任された。
リアちゃんとマスターの事、よろしく頼むぜ」
言ってくれる。
その言葉を合図に、「ハッ」と一声上げて、ジュードが馬の手綱を引いた。
続いて、疾走。
後をすぐ、ミーシャが馬でついてくるのがちらっと見えた。
馬が地面を蹴る度に、身体中が激しく痛む。
だが、痛いの何のと言ってる場合じゃねぇ。
もしシエナに何かあったら──そう思うと頭から血がざーっと引く様な感じがした。
俺は歯を食い縛って馬から転げ落ちねぇように馬にしっかりしがみついて何にも言わずに耐える。
気持ちばかりが焦って、嫌な予測を頭が勝手に思い描いちまうのを、懸命に抑えながら──。
他の連中もそれに倣って倒れた山賊共を捕らえて縛り上げにかかる。
俺はここでようやくホッと一息つくことが出来た。
ジュードみてぇな腕の立つ奴が来てくれて、ミーシャにも助けられた。
冒険者達もこんだけ集まって、山賊共を縛り上げてくれてる。
助けられてばっかりだし、俺自身はまあまあ怪我を負ったが、これでとりあえず一件落着だ。
「~山賊達は、冒険者の皆が請け合ってくれるらしい。
それより早くお前を病院に連れていけと言ってくれたんだが、少し動けるか?」
ミーシャが、いつもの『ダルク』の口調で──けど、優しく聞いてくる。
俺はただ一つ、頷いてみせた。
ほんとはほんのちょっと体を動かすだけでも激痛なんだが、んな事言ったって始まらねぇしな。
よ~く考えてみりゃあ、医者にここまで来てもらったって、どっかの時点では街に帰る為に動かなきゃならねぇ。
まさか冒険者達に担がれる訳にもいかねぇしな。
ミーシャがそっと手を差し伸べてくる。
俺はそいつに、大人しくミーシャの手を借り……ようとしたんだが。
それを遮る様に、ジュードが俺の伸ばした手を取り、立たせる。
そいつは傍目で見るより多少雑な力の入れ方で……俺は思わず呻きながら脇腹の辺りを押さえた。
その呻き声や、女の子とはどうしても違う手のゴツさ、様子で勘づいたんだろう。
ジュードが厳しい目で俺を見るのが、見てもいねぇのによく分かった。
「~貴様、やはりリッシュ・カ………」
語気を強めてジュードが言いかけるのに。
ミーシャがその腕に触れてジュードを見上げ、そっと首を横に振る。
「──お願い。
大切な“姉”なの。
怪我も負っているし……今は……」
言ってくれる。
ジュードは……それにかなり納得いかなげに俺を見、それでも支える手はそのままに、大人しく口を閉じた。
俺の足元で、犬カバがふひゅう、とヘンな息を漏らした。
俺も同じ気分だぜ。
「おい、どーかしたか?」
「リアちゃん、立てんのかい?」
少し離れた所から、冒険者の二人が声をかけてくる。
俺はそいつににっこり笑って見せた。
「大丈夫。
どうにか、歩けるわ」
すっかり慣れた俺の女言葉に、ジュードがしかめ面で俺を見る。
俺はチラッとそいつを横目に確認して小声で返す。
「悪いけどよ、そーゆーこった。
……とりあえず馬車をこっちまで回してくんねぇかな?
あれに乗せてもらえでもしなけりゃ、ちょっと街までは歩いて行けそーにねぇんだ。
つーかあんた、御者くらい務まるよな?」
ヘッと小さく笑い、軽く挑戦する様にジュードへ問う。
言ってるそばから、額に脂汗が浮かぶ。
ジュードが何にも言わず俺をただ見下ろしてくる。
俺なんかの言う事を聞くべきかどうか逡巡しているんだろう。
俺はほんのわずかに足がガクッと力を無くしかけるのを感じた。
だが、表面にはなるたけ出さねぇ。
どーゆー訳か、そういう弱味をこいつに見せるのは俺のプライドに関わるって気がした。
表面上には自信たっぷり笑ってジュードを見る……と。
ジュードが短く息をつく。
まるで深い溜息だ。
そいつを取りなす様に、ミーシャは言う。
「ジュード、馬車をお願い。
ここは代わるわ」
ミーシャが俺の手を取り、ジュードの代わりに俺を支えてくれようとする。
ジュードが──そいつになんと思ったかは分からねぇ。
ただ頭を垂れて「かしこまりました」と馬車の方へ向かう。
俺はそいつに小さく心の中で息をついた。
「~サンキュー。助かったよ」
俺が言うと、何て事はないとばかりにミーシャがすました顔をする。
俺はそいつにほんのちょっと笑って──それ以上笑うとあばらが痛むせいだ──ミーシャに小さく声をかける。
「──なぁ、昨日のあの話、なんだけどさ……」
言いかけた、丁度そのタイミングで。
ガッと力強く、左の足首を何者かに掴まれる。
俺は思わず驚いてその手の先の人物を見やる。
~頭だった。
ヤベェと思う間もねぇ。
時が凍りついたみてぇだ。
息を詰めて頭の顔を穴が開くほど見る──が。
それ以上何を出来る訳でもねぇみてぇだ。
頭が、口からだらっと血を流し、半ば気を失いかけながらも、口を開く。
「……リ……ア……。
……い気に、なるなよ……。
俺は、俺の邪魔をしたやつを……絶対、許さねぇ……。
全員……後悔させてやる……。
こんなにした……あの男も……ダルクも……リッシュも……てめぇも……ギルドのマスターもだ……」
ほとんど気を失いかけたまま、目さらまともに開けずに俺に向けて言ってくる。
その口元が、皮肉げに嘲笑った。
「……見てな、今頃ギルドじゃ……」
言いかけた、ところで。
「~てめぇ!」
近くにいた冒険者の一人がこの状況に気づいたらしい。
頭の手を俺から離させ、そのまま後ろ手に縄をかける。
俺はそいつを、呆気に取られたまま見つめていた。
──今頃ギルドじゃ……?
頭の言葉が、頭の中に渦を巻く。
ギルドのマスター……?
シエナ……?
俺はパッとミーシャの方を振り返る。
ミーシャが目を大きく開けて俺を見返した。
俺はそのまま冒険者の面々を見渡す。
二、三人って人数じゃねぇ。
普段ギルドに来るほとんどの冒険者がここに集まっちまってるんじゃねぇのか……?
「~シエナは?
ギルドには人がいるのか!?」
思わず、我も忘れて皆に問いかける。
それに、いや、と、一つ返したのは、頭の両手首を縛り上げていた冒険者だ。
「残った奴らも、いたにはいたと思うが………」
自信はないらしい。
俺はあばらが痛むのも忘れて、ミーシャに言う。
「シエナが、危ねぇかもしれねぇ!
すぐにギルドに戻ろう」
言うと、ミーシャが 「えっ?」と困った様に問い返す。
だが、答えてる間はねぇ。
俺はミーシャの手を借りながら、さっきジュードが向かっていった山賊共の馬車の所まで出来る限りの早さで到達する。
ジュードが何事かとこちらとミーシャを見てきた。
俺はミーシャの手を離れ、馬車馬の真横まで行って荷台と馬にかけられた縄を外そうとする。
だが、上手くいかねぇ。
体中の痛みもそうだが、そもそも んなに馬やら馬車を扱ったこともねぇからだ。
それでも、俺の足でちんたら歩いてたんじゃ時間がかかりすぎる。
さっきの話通り馬車の荷台に乗っけてってもらえりゃ体はラクだが、それより馬単体で走らせた方が絶対速い。
俺が焦りながら四苦八苦している……と。
不意にサッと、荷台に繋がれていた縄が外れる。
驚いて後ろを見やると、そこにはジュードの姿があった。
「──その怪我で、馬に乗れるのか?」
他の何の事情も聞かず、ただそれだけを問いかけてくる。
俺が迷わず「乗れる」と答える。
と、ジュードがさっと俺を馬の上に上げてくれる。
続いて、自分もその後ろに跨がった。
俺一人じゃ馬からすぐ落っこちると気づいたに違いねぇ。
まぁ、実際その通りなのかもしれなかった。
そうしてミーシャの方を見下ろす。
「──先にギルドへ戻ります。
あなたは、ここで他の冒険者たちと──」
言いかけるが。
ミーシャが犬カバを抱えてサッともう一頭の馬に跨がり、手綱を引く。
その姿は、なんつーか、すげぇサマになってた。
「~私も行く。
皆、ここを任せてもいいか?」
先半分は俺とジュードに、後の言葉は回りにいた冒険者達に向けて問う。
それに答えたのは、一番近く──頭をしっかり縄で締め上げた冒険者だった。
「何か知らんが、任された。
リアちゃんとマスターの事、よろしく頼むぜ」
言ってくれる。
その言葉を合図に、「ハッ」と一声上げて、ジュードが馬の手綱を引いた。
続いて、疾走。
後をすぐ、ミーシャが馬でついてくるのがちらっと見えた。
馬が地面を蹴る度に、身体中が激しく痛む。
だが、痛いの何のと言ってる場合じゃねぇ。
もしシエナに何かあったら──そう思うと頭から血がざーっと引く様な感じがした。
俺は歯を食い縛って馬から転げ落ちねぇように馬にしっかりしがみついて何にも言わずに耐える。
気持ちばかりが焦って、嫌な予測を頭が勝手に思い描いちまうのを、懸命に抑えながら──。
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