126 / 254
十六章 再会
1
しおりを挟む
目の前に広がるのは、ただただ赤ばかりだった。
まるで凶暴な化け物の様に城を飲み込む炎の赤。
海の様に廊下に満ちていく血の赤。
叫び声、怒号、喧騒、剣同士が激しくかち合い鳴らす金属音。
その城の中は──まさに地獄の様相だった。
ジュードはその中で一人、血にまみれた剣を片手に城内を駆けていた。
向かいかかってくる敵を一閃の内に打ちやって、決して止まらず先を急ぐ。
向かう先は、玉座の間だ。
そこにサランディール王と、ジュードの主人でありサランディール第一王子でもあるアルフォンソがいるはずだ。
ジュードは玉座の間へ続く階段を駆け上がり、廊下を走り抜けて、ようやくその部屋の扉を開く。
だがそこは──すでに『血の赤』に、支配されていた。
艶やかな大理石の床に、大量の血を流し倒れる豊かな栗毛の女性。
──王妃だ。
ジュードの目が、そこから更に玉座の方へ向く。
赤く長い絨毯が敷かれた数段の階段を上がった先。
大きく立派な二つの玉座が並ぶ、その壇上で。
一人の男が──この国で唯一の国王が、弑逆者に体を剣で貫かれていた。
ジュードが身動ぎする間もない。
弑逆者がゆっくりと、王から剣を引き抜く。
支えを失った王が、ドゥッと音を立ててその場に崩れた。
弑逆者が血の滴る剣を右手に下げたまま、ジュードの方を見た。
一辺の光すら見えない程深く暗い虚ろな瞳。
「──ジュードか」
弑逆者が淡々とした声で、言う。
ジュードは凍りついてしまって、動けない。
弑逆者がゆっくりと壇上からジュードの方へ向けて降りてくる。
そうして──。
◆◆◆◆◆
ジュードはバッと無理やり目を開けた。
辺りは夕暮れ、旧市街の裏路地での事で、人通りは相変わらずない。
壁に背を預け、ほんの少し休憩するつもりが、どうやらそのまま軽く眠ってしまっていたらしい。
思わず額に片手をやって頭を振る。
こんな所で眠っている場合ではない。
ミーシャ姫やリッシュ・カルトを、一刻も早く探し出さなければ。
ジュードはグッと片手を握り締め、もう一度足を踏み出した。
市街地、旧市街は調べ尽くした。
ギルドのマスター、シエナの反応を見る限り、さほど遠くまで行ってしまったような感じはしない。
あと他に調べるべき場所は──……。
◆◆◆◆◆
雲を切り、風を切って俺は飛行船に乗って空を進む。
後ろには犬カバとミーシャを乗せて。
俺の横にはダルが──……ダルク・カルトが乗っていて、小さく四角に折り畳んだ地図と前方とを確認しながら俺の左肩にポンと手を置く。
何か、口を開いて言ってくる。
あ・い・つ・を……?
『あいつを、助けてやってくんねぇか』
人のいい、お調子者のダルクの声。
あいつ──?
あいつって誰の事だよ?
シエナ、ゴルドー、ヘイデン……。
俺の頭の中に三人の顔が次々に浮かぶ。
けど、しっくりこねぇ。
三人共、何にも困ってる事なんかねぇだろ?
俺は思わず眉を寄せてダルクの方を見る。
だが──……ダルクの姿はそこにはなかった。
「えっ……?ダル……?」
思わず、呼びかける。
気がつけばミーシャも犬カバもいねぇ。
飛行船の上に、ただ一人きりになっちまってた。
いや──……一人って訳じゃなかった。
甲板の右端に、手すりを両手で掴み空を睨む一人の男の姿がある。
金茶色の髪に黒い目。
体格のいい、イケメン顔の男。
──ジュードだ。
いやいや、ちょっと待てよ。
何でジュードのヤローがこの飛行船に乗ってんだよ!?
あいつを助けてやってくれって、まさかダルクが言ったのはこいつの事か?!
んなの絶対ぇ無理だ!!
あいつは俺らの事を裏切って──この飛行船の事も、どこぞの紺色髪の男に密告してやがったんだぞ!?
助けるなんて、死んでも嫌だ!!
そう、空へ向かって言いかけたんだが──……。
飛行船の船体が、急にガクンと大きく右に傾く。
「なっ……!?」
立て直そうと、梶を切る間もねぇ。
飛行船はそのままぐるんと半回転して、そして──……
俺は梶から手を離しちまった。
とんでもねぇスピードで空を落ちていく。
下から吹き上げる風に、声すら潰される。
地面がグングン近づいてきた。
そして──……。
まるで凶暴な化け物の様に城を飲み込む炎の赤。
海の様に廊下に満ちていく血の赤。
叫び声、怒号、喧騒、剣同士が激しくかち合い鳴らす金属音。
その城の中は──まさに地獄の様相だった。
ジュードはその中で一人、血にまみれた剣を片手に城内を駆けていた。
向かいかかってくる敵を一閃の内に打ちやって、決して止まらず先を急ぐ。
向かう先は、玉座の間だ。
そこにサランディール王と、ジュードの主人でありサランディール第一王子でもあるアルフォンソがいるはずだ。
ジュードは玉座の間へ続く階段を駆け上がり、廊下を走り抜けて、ようやくその部屋の扉を開く。
だがそこは──すでに『血の赤』に、支配されていた。
艶やかな大理石の床に、大量の血を流し倒れる豊かな栗毛の女性。
──王妃だ。
ジュードの目が、そこから更に玉座の方へ向く。
赤く長い絨毯が敷かれた数段の階段を上がった先。
大きく立派な二つの玉座が並ぶ、その壇上で。
一人の男が──この国で唯一の国王が、弑逆者に体を剣で貫かれていた。
ジュードが身動ぎする間もない。
弑逆者がゆっくりと、王から剣を引き抜く。
支えを失った王が、ドゥッと音を立ててその場に崩れた。
弑逆者が血の滴る剣を右手に下げたまま、ジュードの方を見た。
一辺の光すら見えない程深く暗い虚ろな瞳。
「──ジュードか」
弑逆者が淡々とした声で、言う。
ジュードは凍りついてしまって、動けない。
弑逆者がゆっくりと壇上からジュードの方へ向けて降りてくる。
そうして──。
◆◆◆◆◆
ジュードはバッと無理やり目を開けた。
辺りは夕暮れ、旧市街の裏路地での事で、人通りは相変わらずない。
壁に背を預け、ほんの少し休憩するつもりが、どうやらそのまま軽く眠ってしまっていたらしい。
思わず額に片手をやって頭を振る。
こんな所で眠っている場合ではない。
ミーシャ姫やリッシュ・カルトを、一刻も早く探し出さなければ。
ジュードはグッと片手を握り締め、もう一度足を踏み出した。
市街地、旧市街は調べ尽くした。
ギルドのマスター、シエナの反応を見る限り、さほど遠くまで行ってしまったような感じはしない。
あと他に調べるべき場所は──……。
◆◆◆◆◆
雲を切り、風を切って俺は飛行船に乗って空を進む。
後ろには犬カバとミーシャを乗せて。
俺の横にはダルが──……ダルク・カルトが乗っていて、小さく四角に折り畳んだ地図と前方とを確認しながら俺の左肩にポンと手を置く。
何か、口を開いて言ってくる。
あ・い・つ・を……?
『あいつを、助けてやってくんねぇか』
人のいい、お調子者のダルクの声。
あいつ──?
あいつって誰の事だよ?
シエナ、ゴルドー、ヘイデン……。
俺の頭の中に三人の顔が次々に浮かぶ。
けど、しっくりこねぇ。
三人共、何にも困ってる事なんかねぇだろ?
俺は思わず眉を寄せてダルクの方を見る。
だが──……ダルクの姿はそこにはなかった。
「えっ……?ダル……?」
思わず、呼びかける。
気がつけばミーシャも犬カバもいねぇ。
飛行船の上に、ただ一人きりになっちまってた。
いや──……一人って訳じゃなかった。
甲板の右端に、手すりを両手で掴み空を睨む一人の男の姿がある。
金茶色の髪に黒い目。
体格のいい、イケメン顔の男。
──ジュードだ。
いやいや、ちょっと待てよ。
何でジュードのヤローがこの飛行船に乗ってんだよ!?
あいつを助けてやってくれって、まさかダルクが言ったのはこいつの事か?!
んなの絶対ぇ無理だ!!
あいつは俺らの事を裏切って──この飛行船の事も、どこぞの紺色髪の男に密告してやがったんだぞ!?
助けるなんて、死んでも嫌だ!!
そう、空へ向かって言いかけたんだが──……。
飛行船の船体が、急にガクンと大きく右に傾く。
「なっ……!?」
立て直そうと、梶を切る間もねぇ。
飛行船はそのままぐるんと半回転して、そして──……
俺は梶から手を離しちまった。
とんでもねぇスピードで空を落ちていく。
下から吹き上げる風に、声すら潰される。
地面がグングン近づいてきた。
そして──……。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
D○ZNとY○UTUBEとウ○イレでしかサッカーを知らない俺が女子エルフ代表の監督に就任した訳だが
米俵猫太朗
ファンタジー
ただのサッカーマニアである青年ショーキチはひょんな事から異世界へ転移してしまう。
その世界では女性だけが行うサッカーに似た球技「サッカードウ」が普及しており、折りしもエルフ女子がミノタウロス女子に蹂躙されようとしているところであった。
更衣室に乱入してしまった縁からエルフ女子代表を率いる事になった青年は、秘策「Tバック」と「トップレス」戦術を授け戦いに挑む。
果たしてエルフチームはミノタウロスチームに打ち勝ち、敗者に課される謎の儀式「センシャ」を回避できるのか!?
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる