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十六章 再会

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ジュードのやつ、頭に血が上ってんじゃねぇのか?

んなやつにミーシャの居場所をむざむざ教えたりなんかしねぇが、これじゃもし俺が何かをジュードに話したくったって、何も喋れやしねぇじゃねぇか……。

俺を殺す気か。

俺は息も途切れ途切れに、とにかく声を上げる。

「く……。
だ……れが、てめぇなんかに……教えるか……!
てめぇがあの紺色の髪の男に俺らの情報漏らしてんのは、知ってんだぞ……。
俺や……ミーシャの事、裏切って……てめぇ、一体何が目的で……」

言いかけてる間にも、首に込められた力が強まっていく。

目の前がチカチカする。

気が遠くなる。

やべ……。

このまま行くとマジで殺されそうだ。

体から、力が抜けかける──ところで。

「──……ジュード、そこまでにしてやれ」

ある一つの声が届いた。

ジュードがこっちにかける力を一ミリも緩めず「しかし……」と言うのが聞こえる。

だが相手の声は穏やかだった。

「そのまま行くと大事な情報源がこの世から消えてしまうぞ。
彼が死んだら、それこそミーシャを見つける事が出来なくなるかもしれない。
──ほら、」

言って……どうやら俺の首を掴むジュードの腕をそいつがやんわりと押し留めたらしい。

ジュードがゆっくりと……未練を残す様に俺の首から手を引く。

膝で押さえつけられていた背からも、スッと圧迫が消えた。

力も出ずにグッタリとうなだれる中──ジュードを止めた人物が、俺の腕を持ってゆっくり起こしてくれる。

「悪かったなぁ。
連れが手荒な事をした。
喋れるか?」

ゆったりと──その男が声をかけてくる。

俺はそいつの顔を見た。

紺色の髪に、薄紫色の目。

穏やかな表情に、何だか洗練されたもんを感じさせる笑み……。

そいつを見た時、俺の頭の中でまた『誰か』の姿とこいつの姿が重なって見えた。

けど、違う。

何つーか……そいつに『似てる』けど、『全く似てねぇ』。

すげぇ矛盾だと自分でも思うが、そんな感じだった。

俺はジュードに掴まれてた後ろ首の辺りに手をやりながら──ぼんやりとその男の姿を見る。

確か──レイって言ってたっけかな。

こないだ見た時は街の往来で涙して、ラビーンやクアンなんかにまで同情されちまってたが……。

今こーして見る限り、ごくごく普通の(いや、まぁちょっとイケメンだってのは認めるが……)ただの男だ。

上半身だけ起き上がり、地面に座り込んだまま──俺はゴホッと一つ咳をする。

そうして軽くうなだれる様にしながら横に首を振って、声を絞り出す。

「~あんた……一体何なんだ……?
ミーシャの事もそうだけど……飛行船の事まで知って……。
ジュードにスパイみたいなマネまでさせて……一体、何を……」

何をしようってんだ?

何を企んでる?

そう問いかけたかったが、喉が未だに圧迫されてるみてぇになっていて、声が出ねぇ。

代わりに出たのはまたゴホッゲホッという咳だった。

と、男──レイが、それ見ろってばかりにジュードを見る。

ジュードの方は未だに射殺す様な勢いで黙って俺を睨んでいたが。

レイは仕方なさそうにジュードから俺へ視線を移し、思いの外優しい、やんわりとした口調で俺の言葉に答えた。

「──俺は君達の敵ではない。
ジュードに君達の事を報告させていたのは、ミーシャが心配だったからだよ。
城で姫君として大切に育てられたあの子が、この街で、それも男装して暮らしていると聞いたから。
だが、ジュードから色々な事を聞いて安心した。
──リッシュ・カルトくん。
君がミーシャや……それにリアさんの大きな助けになってくれていたそうだね。
ミーシャに代わって礼を言おう」

言われて……俺は、一瞬何の事だか分からずに、ゆっくり瞬きして男の事を──レイの事を見た。

そうして、ジュードの方を見る。

ジュードが、黙したまま一つ頷いた。

俺はそいつに、もう一度目の前のレイの顔をまじまじと見つめた。

紺色の髪。

薄い紫色の目。

やんわりとした、語り口調──。

全く同じじゃねぇ。

同じじゃねぇが、よく見たら顔立ちも少し、似てる……か?

俺の頭の中で、ゆっくりと思考の歯車が動き出す。

レイが爽やかに微笑む。

レイ──

──レイ、ジス……?

急に思い出されたサランディールの第二王子の名に──俺は思わず目を見張ったのだった──。

◆◆◆◆◆

両手を口元にやって、目を大きくして──ミーシャがレイの姿を見る。

ヘイデンの屋敷の中──ちょうど今朝朝食を取るのに使っていた、あのダイニングルームでの事だ。

部屋の中には俺、ミーシャ、レイの他に、当たり前の様に一緒についてきたジュードと、屋敷の主であるヘイデン、そして犬カバに、執事のじーさんまでいる。

そう──俺は、ジュードとレイの二人をヘイデンの屋敷に連れて来る事にした。

死んだって噂のレイジスが本当にこの『レイ』なのか……。

絶対の証明はミーシャに実際に会わせてみなけりゃ出来ねぇが、十中八九間違いねぇ、と踏んでの事だ。

そして──どうやらそいつは正解だったらしい。

レイがふんわり爽やかに微笑んで目の前のミーシャの顔を優しい目で見つめた。

「~久しぶりだな、ミーシャ。
元気に暮らしていたか?
少し痩せたんじゃないか」

レイが温かみのある声で言うのに──ミーシャは両手を口元にやったまま、胸をいっぱいにした様子で言う。

「~レイジス……兄上……。
本当に……生きて……」

言いかけたが、それ以上に言葉が出ねぇみてぇだ。

目元が赤い。

声も手も震えていた。

レイは──……いや、レイジスは、そんなミーシャの言葉に温かみと力強さのある声で応えた。

「──ああ。
どうにか無事にな。
長い間……苦労をかけたな、ミーシャ」

その言葉に我慢出来なくなった様に、ミーシャがレイジスの胸に飛び込んだ。

そのままギュッと両手でレイジスの服を握って、震える声で言う。

「~良かった……。
本当にご無事で良かった……兄上……」

ミーシャがレイジスの胸に顔を埋《うず》める。

頬にポロポロと涙の粒が溢れる。

レイジスがそっと優しく微笑んで、そんなミーシャの頭を撫でた。

感動の兄妹の再会だ。

俺はそんな二人の再会に半分もらい感動しながらも──ふいに、横に立つジュードの横顔を見る。

ジュードだってこの二人の再会にゃあホッと胸を撫で下ろしたろ、とそう思ったんだが。

ジュードの野郎、こんな時まで真面目くさった辛気臭ぇ顔してやがる。

まったくよぉ、せっかくのもらい感動が台無しじゃねぇか。

思いながら、俺はジュードの脇をちょっと小突いた。

そうして二人の邪魔をしねぇ様、小声で文句を垂れてやる。

「……何辛気臭ぇ顔してんだよ?
つーか、ミーシャの兄貴の事、もっと早くに言ってくれてても良かったんじゃねぇの?
そうって知ってりゃ、俺だって『お前が俺らを裏切ってる』なんて妙な勘違いしなくて済んだのによ」

それならミーシャの居場所をジュードに隠す必要もなかったし、俺がジュードに首根っこ掴まれて張っ倒された挙句殺されそうになる、なんて事もなかったハズだ。

俺の不平にジュードは当たり前の様に無視を決め込んでくる。

……まぁ、いいけどよ。

な~んか釈然としねぇんだよな。

けどまぁ──。

ミーシャがレイジスの顔を見上げて、泣きながらもすげぇいい笑顔を見せる。

ミーシャがこんだけ喜んでんだから、ジュードのヤローの事なんかどーでもいいか。

そう、簡単に結論づけて俺がミーシャとレイジスの再会を心から祝っている──と、ふいにレイジスの目と俺の目が合った。

そーして急にレイジスがそわそわし出す。

「?」

「兄上?」

ミーシャも若干不審に思ったんだろう、レイジスの顔を見上げて、問いかける。
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