リッシュ・カルト〜一億ハーツの借金を踏み倒した俺は女装で追手をやり過ごす!って、あれ?俺超絶美人じゃねぇ?〜

羽都みく

文字の大きさ
上 下
19 / 263
四章 夢の記憶

3

しおりを挟む
ダルが苦笑して言う。

「申し出はありがたいが、またゴルドーに見つかっては大変だろう。
それに、自分の仕事くらい自分で見つけて決めなければ、ギルドの冒険者としては情けない」

ダルが言うと、ラビーンとクアンが感心したようにほ~っと唸る。

俺は半分はそんな3人の会話をてきとーに聞き流しながら、黙々と運ばれてきた料理を食べ始めた。

そうしながら──ふと、頭に今朝の夢での風景が浮かぶ。

暗くて長い廊下──

たった一人で道を進んでいく恐怖と不安──

それに──

「──アさん………リアさん」

穏やかに話しかけられた言葉に、俺はハッとして顔を上げる。

目の前のカウンターの向こうには、いつの間にかある見知った姿があった。

このカフェの店長である、じーさんだ。

「───……え?」

突然の事に、驚いてじーさんを見る……と、じーさんが少し心配になったように俺を見る。

そーして俺とちゃんと目があったのを確認して、穏やかに笑ってみせた。

「昨日はありがとうございました。
もう報酬は受け取られたようですね」

言ってくるのに、俺はぽかんとしたままダルへ顔を向けた。

ダルがこっちも心配そうに俺を見て言う。

「今、報酬をきちんと頂いた事を話していたんだ。
カフェのチケットもありがたく使わせていただくと。
……大丈夫か?また顔色が悪いぞ」

言ってくる。

俺は、ぼんやりしたまま「あっ、ああ……」と言いかけて、「ええ、大丈夫よ」と言い直した。

ラビーンとクアンまで俺の方を見て心配そうに声をかけてくる。

「まだこないだまでの体調不良が残ってるんじゃねぇか?
やっぱりもうしばらく休んだ方が……」

「そうだよ、リアちゃん。
リアちゃんには頼れる弟がいるわけだしさぁ」

言ってくる。

じーさんもやっぱりどこか心配そうにこっちを見ていた。

……そんなに顔色悪ぃのか?

自分でも良くわかんねぇまま思う。

まぁ、確かについこないだまで犬カバの屁にやられて寝込んじゃいたが、そいつが影響してるとは思えねぇ。

俺は静かに頭を振って今朝の夢の記憶を頭から追い出した。

「リア、たいちょー悪いのか?」

いつの間に来たのか、さっきまで犬カバの方へ行っていたリュートが横にやって来て言う。

その、手のひらと服の正面が、黒く汚れている。

まるで墨か絵の具をくっつけてきたような………と、考えかけて。

俺はあることに思い至ってゲッと顔をひきつらせてその場で立ち上がった。

さっきまで汚れの一つもなかったリュートが んなに黒い色まみれになってる、理由は一つしかねぇ。

犬カバを抱くかなんかして、奴につけてた色が落ちちまったんだ。

「~リュート、その手と服は一体どうした?」

調理場からちょっとだけ顔を出そうとしたロイがギョッとした様に言う中、リュートが何の事かとばかり頭を斜めにこてんと傾ける。

だがそいつに構ってるヒマはねぇ。

俺は慌てて待合室にいるはずの犬カバの元へ駆けつけることにした。

──と、

「~なにあれ?へんな毛並み………」

どっかのねーちゃんが彼氏と共に犬カバを離れた所から指差して眉をひそめている。

見りゃあ犬カバの毛並みは、色を塗った黒い部分があちこち取れちまって、ヘンな風に元のピンクが出ている。

俺はバッと素早く犬カバを抱え込むと、ねーちゃんと彼氏に見えねぇようにしながらニコッと笑ってごまかした。

いや、たぶん全くごまかせてねぇけど。

「あっ、はは……。
どこでペンキを被っちゃったのかしら。ヘンなピンクがついてるわ~。
じゃあ私たちこれで失礼しまぁ~す!」

犬カバを抱え込んだままカフェを出ていこうとすると、後ろからダルが「リア!」と呼びかけてくる。

俺はそいつを振り返りもせずに声をあげた。

「やっぱり私、体調悪いみたいだから一旦家に帰るわ!
犬カバちゃんは連れて帰るから!」

言いながらカフェを出る中、ダルが「リア!」と再び呼ぶ。

が、俺は全く耳を傾けず、そのまま走って家に帰ったのだった──。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

原産地が同じでも結果が違ったお話

よもぎ
ファンタジー
とある国の貴族が通うための学園で、女生徒一人と男子生徒十数人がとある罪により捕縛されることとなった。女生徒は何の罪かも分からず牢で悶々と過ごしていたが、そこにさる貴族家の夫人が訪ねてきて……。 視点が途中で切り替わります。基本的に一人称視点で話が進みます。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...