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四章 夢の記憶
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「ダル!リア!」
と、カフェに着いて早々元気に俺の足にバフンと引っ付いたのはリュートだった。
つっても、ボサボサだった茶髪はちゃんと洗われたのか清潔になってるし、服も(多少でかそうだが)フツーの街の子供が着るようなきれいな物になっている。
一瞬見違えたぜ。
カフェの中にいた男客たちが羨ましそーに俺の足に引っ付いたリュートを見つめるのを感じながら──俺はにっこり笑って言う。
「おはよう、リュートちゃん。
昨日はよく眠れた?」
聞くとリュートが大きくこっくり頷く。
「寝れた!ロイのベッド、フカフカだった!
それに朝ごはんつくってもらった!」
「良かったな。
ロイに預けたのは、どうやら正解だったようだ」
ダルが珍しく、顔に微笑を浮かべて言う。
まぁ、初めに世話するって名乗り出た俺が言うのもなんだが、確かにリュートも楽しそうだし、正解だったかもしれねぇ。
ちょっと悔しい気もするが。
なーんて思ってると、調理場からこちらへ顔を出したロイと目が合った。
ロイが改めて俺の女姿を見てだろう、フクザツそーに顔をしかめる。
俺はそいつにニヤッとしてロイに向かった。
「おはよう、ロイさん。
今日は朝食を頂きに来たのよ。
スクランブルエッグとパンと、お紅茶お願いできる?」
「私にはコーヒーを」
俺に続いてダルが言う。
ロイは渋々と言った様子で奥へ引っ込んでいった。
と、リュートが くいくい、と俺のスカートを引く。
「今日は犬カバいないのか?」
「そこの待合室の隅っこに来てるわよ~。
営業中にカフェに入れるのはあんまり良くないから。
ところでリュート、店長さんはどこかしら。
私達、報酬をもらいに来たんだけど……」
言いかけた、ところで。
「リアちゃ~ん!!」
俺とダルの後ろから、バカでけぇ声が上がる。
この声。
俺は……半ばうんざりしながら、極上の笑みでパッと後ろを振り返った。
……本とは振り返って見てみるまでもねぇ。
ラビーンとクアンの二人(いつも二人一組だしな)に決まってらぁ。
案の定振り向いた先には、ラビーンとクアンの二人が心底うれしそうに俺に手を振ってやがる。
俺はにこにこっと笑いながらこちらも手を振り返してやった。
と、ラビーンの右手にある物を見つけて、俺はじっとそいつを眺めた。
分厚い茶色の封筒だ。
ダルも同じモンが気になったんだろう、目をそいつに向けている。
と、へへへ とラビーンが笑った。
「ボスから話は聞いたぜ。
さっすがリアちゃんとダルくんだ。
口じゃ誉めちゃいなかったが、ボスも二人の事認めてるみてぇだったぜ。
こいつはその報酬って訳よ。
あの財布のヒモの固ぇボスにこんだけの報酬を出させるたぁ、なんか分からんがよっぽどいい仕事したんだなぁ、ダルくん」
感慨深げに言って、ラビーンがダルの方へ封筒を渡す……が。
ダルはそいつをやんわりと手だけで断った。
「今回の報酬は全て、リアの物だ。
私はほとんど何もしていないから」
ダルが言う。
~マジか!
この分厚い報酬、全部俺のモンだって?
確か俺の記憶じゃ今回の報酬は六万二千ハーツだったハズだ。
が、ラビーンのこの封筒の厚み……とてもそれだけじゃねぇぞ。
実際、じゃあ とラビーンから手渡された封筒を手にしてみると、六万二千ハーツどころじゃねぇ厚みと身の入りを感じる。
下からまあるい目で見上げるリュートを脇目に、俺はダルに目を向ける。
「~本当にいいの?
あとでやっぱり分け前、とか言われてもあげないわよ?」
半分はすでにもらった気になっている報酬の重みに浮かれながら、一応釘を刺しておく。
ダルは肩をすくめて見せた。
「構わない。リアの目的の為に使えばいい」
ダルが言ってくる。
俺の目的。
“俺の”飛行船を買い戻すこと。
まぁ、ダルに言わせりゃその前にまず借金返済にあてろとか言われそーだけど。
どっちにしたってこれっぽっちじゃどーとも出来ねぇが、大きな事も小さな一歩からとか言うしな。
ありがたく、全額貰っておくぜ。
うきうきしながらラビーンから受け取った茶封筒の中身を確認する──と。
「───…ありゃ?」
思わず声を上げ、片手で封筒の口を開いて片目で覗き込む。
ダルが不思議そうに俺を見てくる中──俺はもう片方の手で受けを作って封筒の中身をトントンと少し出してみる。
六万二千ハーツ分の札束。
それに──
「──カフェの、チケット……?」
さっと中身を取り出してみると、何の事はねぇ、分厚かったのは札束の方じゃなく、おんなじ大きさのカフェチケットの束だった。
思わず呆気に取られながらダルを見ると、ダルも少しの間ぽかんとしてから、クスクスと笑う。
俺の前で、ラビーンとクアンが「あれ?」とか「うっそだぁ~」とか言う声が聞こえた。
どーやら二人にとってもこいつは予想外だったらしい。
ゴルドーの財布のヒモの固さは筋金入りって訳だ。
いや……まぁそれでも元々の報酬額に偽りはなかったんだし、単純に考えりゃむしろオマケつけてくれてラッキー!とか思わなけりゃならねぇのかもしれねぇが……。
期待が高かっただけに、オマケがついてもなんかむなしいぜ。
思わず大きく溜息つきそうになるのを堪えて封筒に中身を戻し、肩掛けポーチ(こいつも若奥様の部屋の中から拝借したモンだ)にしまうと、リュートがこっちに興味をなくしたように待合室にいる犬カバの方へ行っちまった。
と、絶妙のタイミングでウェイターが両手に料理を持って出てくる。
「おっはよう♪リアちゃんとダルくん。
注文の品を持ってきたよん♪」
俺(リア)に会えたからだろう、朝から上機嫌なウェイターにギロリとクアンとラビーンが『リアちゃんに親しげに話しかけんじゃねぇ』とばかり鋭い一睨みを効かせる。
だが俺はそれらには全く気づかぬフリをして、ちょっとふてくされたよーな気持ちでなんにも言わずカウンター席の真ん中に座った。
俺のガッカリ度にだろうか、ダルがいつまでもクスクスとおかしそうに笑っている。
俺はなおさらふてくされた。
俺の目の前に、ダルの料理(?)とは全く比べ物にならねぇほど上手そうな料理が並ぶ中、俺の横にはラビーンが、そのまた向こうにはクアンが当然のように座りながらウェイターへ「俺らにもいつものを」とかなんとかとカッコつけて言う。
どーやらこの二人まで一緒に朝食を取るつもりらしい。
ウェイターがビクビクしながら「はい」と返事して再び奥に向かっていく。
ダルもラビーンがいる方とは逆の席に座り、俺は左にラビーン、右にダルと挟まれる形になった。
と、ラビーンが俺を越してダルの方へ口を開く。
「それでダルくん、次の依頼はどんなのを請けるつもりなんだ?」
「リアちゃんもいるんだし、あんまし危ないのはやめときなよ~」
ラビーンの横からクアンも言う。
ダルはそれに多少苦笑しながら口を開いた。
「まだ特に決めてはいない。
これからまたギルドに足を運んでみようと思ってはいるんだが」
「また俺らが何か依頼でも持ってこようか?」
ラビーンが渋い声音でダルに言う……が、ちらっと一瞬俺の方に視線を向けてアピールしてきたのに俺は気づいていた。
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